最終更新: sen_no_risho 2009年05月24日(日) 23:55:08履歴
ピボット指数は、J. W. ワイルダー(J. W. Wilder Jr.)氏により考案された、合計7つの値の組合せをさすテクニカル指標だ。
ピボットとは、英語でpivot(回転軸)のことだが、一体何が“回転”する軸なのかは、その値の算出方法で明らかにしていこう。
なお、英語のpivotが元なので「ピ“ボ”ット」と書くのだが、時々「ピ“ポ”ット」といった表記も見受けられるから注意しよう。綴りに忠実に言えば「ピヴォット」なのだろうが、通常は「ピボット指数」と書く。また、略して「ピボ」と書くこともある。
ピボット指数は、別名「リアクション・トレンド・システム」で呼ばれることもある。
ピボット指数は、
● ピボット (P) (ピボット・ポイント、ベーシック・インデックスとも)
● レジスタンス1 (R1)
● レジスタンス2 (R2)
● サポート1 (S1)
● サポート2 (S2)
● ハイ・ブレークアウト・ポイント (HBOP)
● ロー・ブレークアウト・ポイント (LBOP)
の7つの値である。
また、計算に使う基礎データは、
● 前日の高値 (H)
● 前日の安値 (L)
● 前日の終値 (C)
の3つの値である。
なお、ここでは、レジスタンス・サポートとして R、Sの記号を用いるが、説明によっては、
レジスタンス → 売り(sell)ポイント (S)
サポート → 買い(buy)ポイント (B)
として、R1,R2,S1,S2 のかわりに S1,S2,B1,B2 という記号を使う場合があるから注意して欲しい。特に、S1,S2は、どちらの用語を使うかで、サポートなのか、売りポイントなのかで逆になってしまうからかなり要注意だ。
まず、ピボットの算出である。
ピボット=(前日高値+前日安値+前日終値)÷3
である。先程の記号を使えば、
P=(H+L+C)÷3
となる。要は、前日高値・安値・終値の「平均値」を当日のピボットとする。
このピボットが、後の計算における回転軸(pivot)となる。
教科書的な定義で言えば、
レジスタンス1=ピボット×2−前日安値
サポート1=ピボット×2−前日高値
だ。先程の記号を使えば、
R1=(2×P)−L
S1=(2×P)−H
となる。
ただ、このように式だけ書いてしまうと、これの表す意味が良く分からない。
ピボットの2倍から高値や安値を引き算する、とは、一体どういうことだろうか?
ここで、ピボット指数の各ポイントを算出する図解を参照しながら書いてみよう。
下の絵は、(株)日本先物情報ネットワークのHPのピボット指数の概念図だ。
※別ウインドウ表示はこちら
ピボット指数の図解で、こうした多数の円が描かれたものを見たことがある人も多いだろう。ただ、せっかくのこの「円」の意味をあまりきちんと書いていないものが多いので、そのあたりをちゃんと書いてみたい。
是非、この絵を、別ウインドウに表示しながら以下の説明を読んでみて欲しい。
先程の、
R1=(2×P)−L
S1=(2×P)−H
というのは、次のようにして得られるものである。
まず、サポート1(図では「買い1」)は次のようだ。
ピボットポイントと描かれたところの小さい黒丸(●)を「回転軸」として、高値のポイントを、くるりと半回転させて下に持ってこよう。
(コンパスの針をピボットの●に置き、前日高値のオレンジ色の横点線と、黒の縦線とが交わる点までの距離を半径にして、半円を描く。図では、ピボットを中心とした、最も小さい水色の円)
すると、ピボットの下方で、黒の縦線と交わるところがある。
ここが、サポート1(S1、図では「買い1」)の点ということだ。
このような操作をする上で、図の円は、出来れば全円ではなく「矢印付きの半円」だったほうが良いように思う。
高値ポイントを、ピボットを回転軸にして下に半回転させた点がサポート1、という意味になる。
(だからこそ、ピボット(=回転軸)と呼ぶのだ)
同じように、レジスタンス1(図では「売り1」)も求められる。
ピボットポイントと描かれたところの小さい黒丸(●)を「回転軸」として、安値のポイントを、くるりと半回転させて今度は上に持ってくる。
(コンパスの針をピボットの●に置き、前日安値のオレンジ色の横点線と、黒の縦線とが交わる点までの距離を半径にして、半円を描く。図では、ピボットを中心とした、2番目の水色の円)
すると、ピボットの上方で、黒の縦線と交わるところがある。
ここが、レジスタンス1(R1、図では「売り1」)の点ということだ。
安値ポイントを、ピボットを回転軸にして上に半回転させた点がレジスタンス1、という意味になる。
このように、ピボットを回転軸として、元の何かの値を半回転させるのが、ピボット指数ということだ。
(ただし、どうして相場がそのような傾向を示しうるのかの物理的な意味は特に無いだろう)
レジスタンス2とサポート2は、同時に求めることができる。
図のピボットポイントと描かれたところの小さい黒丸(●)を「回転軸」として、今度は、「半径が、前日高値と前日安値の差」に等しい円を描く。
前日高値と前日安値の差は、図でいえば、2本のオレンジ色の横点線の「距離」である。
この距離を半径とする円を描くと、縦の黒線の上下に交点ができる。
(この円は、図では、ピボットを中心とした最も大きい水色の円だ)
・上に出来た交点が、レジスタンス2(R2、図では「売り2」)
・下に出来た交点が、サポート2(S2、図では「買い2」)
ということだ。
これを、式で表すと、
R2=P+(H−L)
S2=P−(H−L)=P−H+L
となる。
なお、半径は、前日高値と前日安値の差であるが、実はこの値は、先程求めていたR1とS1の差と等しい。
(H−L=R1−S1)
ピボット指数では、さらに2つのポイントを算出する。それは、HBOPと、LBOPだ。
HBOP(ハイ・ブレークアウト・ポイント)は、レジスタンス2から求める。
レジスタンス2(図では「売り2」)を「回転軸」として、高値のポイントを、くるりと半回転させて上方に持ってくる。
(コンパスの針を「売り2」に置き、前日高値のオレンジ色の横点線と、黒の縦線とが交わる点までの距離を半径にして、半円を描く。図では、上側にある中くらいの大きさの水色の円)
すると、上方で、黒の縦線と交わるところがある。
ここが、HBOP(図では「上抜け」)となる。
同様に、LBOP(ロー・ブレークアウト・ポイント)は、サポート2から求める。
今度は、サポート2(図では「売り2」)を「回転軸」として、安値のポイントを、くるりと半回転させて下方に持ってくる。
(コンパスの針を「買い2」に置き、前日安値のオレンジ色の横点線と、黒の縦線とが交わる点までの距離を半径にして、半円を描く。図では、一番下にある小さい水色の円)
すると、下方で、黒の縦線と交わるところがある。
ここが、LBOP(図では「下抜け」)となる。
これを式で表せば、
HBOP=(2×R2)−H
LBOP=(2×S2)−L
となる。なお、これは式変形すると、別の表記をすることもできる。
HBOP=R1+(H−L) ・・・レジスタンス1に、前日高値−安値の差を足す
LBOP=S1−(H−L) ・・・サポート1から、前日高値−安値の差を引く
どちらの式でも値は同じだ。
こうして、高いほうから、HBOP、R2、R1、P、S1、S2、LBOPという7つの値が導かれる。これらの間隔は必ずしも同じではない。
とりあえず、教科書的な式よりも、せっかく「回転軸(ピボット)」という名前がついているのだから、どこがどのように回転軸で何を反対側に写しているのか、知っておこう。
ものによっては、上記7点に加えて、
レジスタンス2 レジスタンス1 ピボット サポート1 サポート2
の5つの点のそれぞれの中間点にも補助ポイント(M1〜M4)を加える場合があるようだが、よほど値幅が広がっていない限りあまり意味がないだろう。
逆に、値幅が広がっているとM1〜M4の中間ポイントは意味があるが、そのようなときは前日が非常に大きな値動きだった場合であり、かえってピボット指数そのものが「使い物にならない」状態の可能性がある。
最初に「日々のFXニュースで」と書いたように、ピボット指数は1日の動きを重視する。基本的に前日高値・安値・終値を用いて、当日1日のポイントを割り出すので、いわば賞味期限は1日。中長期のトレンドを測る指標というよりは、短期売買のデイトレード向けの指標だ。
基本スタンスは、相場がピボットポイントより上にあるとき売り圧力が、下にあるとき買い圧力がかかる、と見る。
これはレンジを想定した逆張り用法であるが、時に相場はレンジを突破してトレンドが発生する。そこで、
・HBOPをストップロスとして、R1〜R2で売り、あるいは
・LBOPをストップロスとして、S1〜S2で買い、となる。
このトレンド発生を示すHBOP、LBOPまで来たら、逆張りポジは損切りして順張りに切り替える(ドテン)。
ピボット指数は、日々、前日の高値・安値・終値から計算するのであるが、その値を当日丸一日その値を使い続けなければならない。
とすると、当日の最初のころはよいが、終わりに近づいてくると鮮度が落ちてくるだろう。
NY時間が始まることになってからになると、そこまでの値動きが加味されないままピボット指数を使い続けるのは、いささか抵抗がある。
それで、例えば「今」なら過去24時間で出したピボット指数はどうなっているだろか? という要求に応えるのが、で独自に考案された「移動ピボット指数」だ。
相場の動きと計算の容易さを考えて、ここでは「時間足24本移動ピボット指数」を考えよう。
通常のピボット指数が、前日、つまり前日朝6時から当日朝6時までの24時間分の高値・安値・終値を使ったので、移動ピボットなら「今」から過去24時間分の高値・安値・終値を使う。
例えば、夕方8時になった時点での移動ピボットを求めるには、時間足を見て過去24本分(つまり前日夕方8時から当日夕方8時)の高値・安値・終値を用いてピボット指数を計算すればよい。
このようにすると、移動ピボット指数は1時間ごとに更新される。
(場合によっては、チャート上に移動ピボット指数そのものの推移をラインで入れることも出来るだろう)
相場が動きながら移動ピボット指数も変化していくので、ちょうど相場とMA(移動平均)の関係のように、
「上昇するピボット(P)の上を、相場も動き続ける」
などの状況から、相場がしばらく上昇を続けそうだという傾向を見ることもできる。
この見方の場合、時々刻々かわるピボット“ライン”(P)は、移動平均線のような役割を果たす。このような用法は従来のピボット指数では得られない、移動ピボット指数ならではの特徴といえる。
ピボット指数は、全て前日高値・安値・終値から計算されるため、トレンドが発生した場合の「HBOP(上抜け)」「LBOP(下抜け)」が用意されているとはいえ、「当日の値動きは完全に前日の値動きに支配される」というスタンスに立っている。
もし、前日の値動きが非常に大きいと、高値と安値の差が大きくなり、当日のピボット指数も大変に広がってしまう。が、前日の値動きが大きいと次の日の値動きも大きいとは必ずしも言えない。また、極端な上ヒゲ、下ヒゲの影響を受けやすい。
ピボット指数が広がりすぎると、そのレジスタンスやサポートは、ほとんど意味をなさないから使わないほうが良い。
この点は、ボリンジャーバンドにも似ている。
前日の値動きが大きいと、当日のピボット指数が広がりすぎて使い物にならないと述べたが、ボリンジャーバンドも相場が急激に動き出すとボリンジャーバンドの幅が広がりすぎて使い物にならなくなる。
これは、ボリンジャーバンドの回(第十九夜)でも述べた。
実は、そうなってしまう点も含めて、ピボット指数とボリンジャーバンドは似かよった部分がある。
ピボット指数は、前日高値・安値・終値の3つの平均値を基準とした。
ボリンジャーバンドは、過去の一定期間のレートの平均値(MA)が基準だから、似ている。
むしろ、ボリンジャーバンドの基準になるMAの方が平均化するレートの数は多く、また、上ヒゲや下ヒゲの影響を受けにくい。
また、ピボット指数は、レジスタンス1やサポート1などを計算する際に、前日高値と安値の差が度々登場する。よって、前日の値動きが大きければレジスタンスとサポートの差が広がる。
ボリンジャーバンドも、過去の一定期間の値動きが大きいと、「ばらつき」を表す標準偏差が大きくなり、ボリンジャーバンドの幅は広がる。
そして、ピボット指数のR1、R2(レジスタンス)は、レンジ相場を想定した場合の反落ポイント(売り場)を提示するが、HBOP(上抜け)まで上昇すればブレークアウト、つまり上へトレンド発生と見る点はボリンジャーバンドでも同じだ。
レンジ相場を想定した場合は、ボリンジャーバンドの+2σは反落ポイント(売り場)を提示するが、ボリンジャーバンドの+2σを超えて上抜けた場合(ボリンジャーバンドを押し広げた場合)はトレンド発生と見る。
つまり、あるテクニカルな注目水準の少し下に売りポイントが、少し上に買いポイントがあり、反発して戻ってくる相場をレンジ、向こう側に転がって行ってしまう水準をトレンド(及びストップ蓄積ゾーン)、と見る点では、ピボット指数もボリンジャーバンドも、純粋に「サポート、レジスタンスを使ったレンジ・トレンドの使い分け」という点で使い道が似ている。
というわけで、別途、個々のテクニカルとは別に、総論として「サポート・レジスタンスとレンジ・トレンド」としても、考えてみる機会を設けてみたい。(第二十七夜)
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