再び王土奪還に動き出したランバルト指導下のディリオン軍であったが、その動きは陸上に留まらなかった。海上の覇権さえも獲得しに動き始めたのである。

 海上の戦いは内戦以前も基本的にメガリス優勢であった。王土近海に関してはトラヴォ艦隊やモア・アイセン船団の活躍で押さえていたが、それ以外の海域はメガリス海軍の跋扈するところであった。
ところが、今は状況が大きく変動していた。ディリオン王国はトラヴォやアイセン島の友軍艦隊を頼ることば出来なくなり、その反面、強化された正規の艦隊を保有していた。

 王都の外港たるストラストを拠点とする王国艦隊は軍船百隻を越える規模へと拡大し、それにつれて課せられた任務も従来のトバーク海警備の枠を大きく越えて本格的な海上覇権の奪取へと移り代わっていった。
 無論、海軍の拡張には覇者ランバルトの野心が大きく影響していることは言うまでもない。彼の野望は底無しなのだった。

 艦隊司令官に任命されたザーレディン家のテレックは全く経験の無い艦隊整備という使命にも精力的に従事していた。彼の故郷であるメール地方には海が無く、当然ながら艦隊などというも未知であった。
このメール人の海に対する無知はランバルトも同様であり、積極的な海上進出傾向もこの無知故の部分もあった。つまり彼ら海の危険さを知らず、自身の野望が変わらず通用する世界だと思っていたのだった。
 とは言え、テレックは持ち前の思慮深さを発揮し、ストラスト艦隊の船長や商船の船乗り達と協力して数年掛りではあっても艦隊を編成・整備する事に成功していた。これは先述のメール人の性質を加味すれば十分に偉業と言えた。
 特に前身の警備艦隊から活動していたビボール家のカナアンや熟練の船長マリオスは経験豊富で、知識も技術も備えた有能な人材だった。精力的な彼らをテレックは抜擢し艦隊の副将として自身を補佐させていた。

 ディリオン王国で一般的な軍船は多数の櫂と船首の衝角を備えたガレー船であった。ガレー船は通常150人の漕手と30人の戦闘員を搭乗させ、衝角突撃と切り込み戦術を用いて戦った。
 現在130隻を数えるストラストのディリオン艦隊は同時に総勢2万3千人もの人員を抱える大部隊でもあるのだった。さらに補給を担う帆船も合わせれば人員はさらに増える事となった。
 但し、艦隊の船長らは航海に関しては経験豊富であり、水兵もテレックの下で厳しい訓練を受けていても、肝心の海上での戦いという点に関して未熟で経験不足であった。従来のストラスト艦隊は飽く迄も領土近海の警備部隊で、精々が密輸人の取り締まりや海賊退治程度の戦闘経験しか無かった。
 この事実は海上覇権を握るメガリス海軍との戦いに於ける最大の不安材料であり、ディリオン王国の艦隊運用上に於いても重大な懸念材料だった。そして、この事の最大の問題は、実際に戦わない限り問題が解決されないという事だった。戦闘未経験の状態を脱するには戦闘を経験する他にないのだった。

 ◇ ◇ ◇

 対するメガリス王国とその同盟国であるが、彼らも海上決戦に向けて準備を整えていた。これまで握り続けてきた海上覇権を譲り渡す義理など彼らには無く、海原を死守すべく本格的な戦闘態勢を敷いていた。

 長い伝統と経験を保有するメガリス海軍は大きく分けて四種に分類された。

 第一は湖畔の都ギデオンを拠点とする艦隊で、"王の艦隊"と通称されていた。この"王の艦隊"は王家バルター氏族の私設艦隊を中核に各氏族から軍船を供出させて編成させた艦隊だった。"王の艦隊"はブラウ河やローランディア河などの大河川を主な任地としており、メガリス陸軍と協同して多くの戦を制してきた。

 第二は大小の各氏族達保有の軍船団で、王家からも"王の艦隊"からも独立したそれぞれの指揮系統の元で運用されていた。河川上の無数の港や船着場を拠点としており、流域の川岸を掌握するその活動は河川の警備隊であると同時に通行料を徴収する水賊でもあった。王家にとっては頼れる味方でも有り、また厄介な無法者と言えた。

 第三はエルドン海沿いの大港湾都市ペラールを拠点とする艦隊で、メガリス海軍中最大の集団である。
 ペラールはローランディア河の河口に建設された都市である。エルドン海に沿った天然の良港を持ち、大河の水運とも連結する大陸西岸の一大交易拠点であるペラール市は古来から都市国家として発展してきた。人口は最盛期よりは減少しているが、それでも現在も人口六十万とディリオン王国の王都ユニオンを上回る規模を誇っている。
 また大陸西部レムリアでは最古の都市の一つで、古代ではその船団の力を存分に用いて各地に植民地を築き、ペラールの文化を広めていた。トラヴォ市やアイセン島の諸都市などはペラール人の植民地が前身となっている代表例で、母市の伝統を能く受け継いでこれらの都市は現在でも海運に従事している。また元々はトランクィルス海を支配する大国ラトリアと同じ始祖を持つ都市であると伝えられている。
 百年近く以前にペラール市はメガリス王国がその勢力を拡大していく中で、致命的な戦争を避けるべく名目上の独立を放棄してメガリスの傘下へ降った。海上・水上交易を糧としているペラール商人達には建前上の独立よりも支配下での繁栄こそが重要であった。とはいえメガリス王国の側も強大な艦隊と交易による膨大な財力を持つペラールに対しては大幅な自治権を認め、その安全と権益を守る事で彼らの協力を得る姿勢を保っていた。

 第四は同盟者達の艦隊である。メガロ湖以南の蛮族集団やエルドニアの独立氏族、そして新たに加わったトラヴォ市の艦隊が該当する。厳密に言えばペラール艦隊もこの同盟艦隊に含まれるのだが、その実力と歴史から別格扱いされている。
 レグニット地方の独立都市であるトラヴォ市はペラール人の植民都市をその起源としている。先述の通り、母市の伝統を受け継いで海運都市として発展してきたトラヴォも同様に独自の艦隊を保有している。味方を求めたトラヴォ市がメガリスを選択したのも、自らと同質のペラールを手厚く扱うメガリスの政策を評価した事も少なからず影響しているだろう。
 同盟者達の艦隊は編成も規模もまちまちで、立派なガレー軍船もあれば手漕ぎの艀もあると差が激しかった。

 "王の艦隊"や首長達の艦隊もまたガレー軍船を主力としているが、主任地である河川向けに造られており、より細く喫水が浅く、その分搭載人数も少なめである。
 一方、ペラール・トラヴォ艦隊は海上での活動を主とする為、ディリオン艦隊とほぼ同様の造りをしている。というよりペラール軍船こそが大陸西部の軍船の起源であるため、寧ろディリオン艦隊がペラール艦隊に準じていると言うべきだった。

 ◇ ◇ ◇

 新暦663年5月、外港ストラストから130隻のガレー軍船からなるディリオン艦隊が出港した。艦隊はテレックを司令官とし、ビボール家のカナアンや熟練の船長マリオスらが補佐する体制をとっている。陸路からの再度のライトリム攻撃に平行して行われた出港は言うまでもなく、海上の支配権の奪取を目的としたものである。その第一歩として要衝トライブス諸島攻略をディリオン軍は計画していた。
 レグニット地方の西に浮かぶトライブス諸島は三つの島から構成され、大西海の交易中継拠点として繁栄していた。同時にその位置から大西海を睨む地政学上の要衝で、内戦以後は価値を知るトラヴォ市の支配下に置かれていた。

 ストラストを出港したディリオン艦隊は一旦西隣のアイセン島を経由して物資を補給し、そこから南へ下った。アイセン島の南にはレグニット地方の一部であるバントス半島が突き出しており、この半島沿いに更に北西へ向かうこととなった。バントス半島はフォン市のガムローの勢力圏で、来るレグニット平定に向けての示威行動としての側面もあった。
 迂遠な進路であるが、これにもディリオン艦隊の経験不足が関わっていた。ディリオン艦隊の船長達は豊富な航海経験を積んでおり、単艦ならば長距離航海を行えるだけの知識や技術が十分に備わっていた。しかし大規模な軍船団による航海の経験が無かったため、今回の様に慎重で遠回りな航路を選択していたのだった。

 遠回りな航路を選択すると言う事は当然ながらそれだけ敵手に時間を与えることにも繋がる。メガリス側は迎撃に十分な時間を得ることが出来た。
 ペラールからドラコニオ・イスタ率いる軍船八十隻が援軍として来援し、スコージ家のユースティス指揮下のトラヴォ艦隊七十隻と合流した。総数百五十隻のメガリス艦隊は練達の提督ドラコニオが総指揮を執り、十分な準備と協議を行った上でディリオン艦隊の迎撃に向った。
 加えて戦場となる海域はレグニット近海、つまりはトラヴォ人にとっては勝手知ったる自分達の庭にも等しい場所だった。自身に有利な海域を選んで戦いを挑むことも可能だったのだ。

 メガリス艦隊の接近を知ったテレックは陸上での戦いと同じく敵軍の撃破を優先して決戦を挑み、バントス半島先端近くの小街ロロス沖で両艦隊は衝突の時を迎えた。
 
 ディリオン軍は130隻からなる艦隊を三つの船団に分割し、縦列に配置した。突破力と統制の容易さを主軸に置いた陣形で、海上に於ける戦闘経験の無さを補う為に縦列陣形をテレックは採用した。
 前衛は50隻のガレー船から編成され、艦隊の中でも特に船足の速い船が集中して配備されていた。突撃の穂先を担う快速船団達の指揮は艦隊の副将ビボール家のカナアンが執った。
 中央には50隻の軍船が配され、艦隊中から選抜した精鋭船達を配備した。重装で練度の高い精鋭部隊を快速部隊の後に置くことで突破した穴を広げようとの策であった。中央船団には旗艦が共にあり、司令官テレックと熟練の船長マリオスが搭乗していた。
 残る30隻は後衛へ配備された。この後衛の船団は他の船団に比べて鈍足で訓練が行き届いていなかった。この事は未熟な軍を率いる上での苦肉の策だったが、縦列突破陣形と組み合わせれば質の低い部隊でも十分に戦力として役立たせる事が出来るという目算の上での配置でもあった。

 対するメガリス軍は150隻の軍船の内、120隻を本隊としてディリオン軍の面前に待ち構える形で展開させた。無論ディリオン艦隊よりも数を少なくしているのは作戦の一部であり、敵軍の攻撃を誘う罠を仕掛けていたのであった。
 本隊はそれぞれ40隻ずつの右翼隊・中央隊・左翼隊の三隊に分かれた。右翼隊と中央隊はペラール船団で構成され、左翼隊はトラヴォ船で構成されていた。地域別で部隊を構成することで混成軍でも統制を取りやすくしたのだ。
 司令官であるペラールのドラコニオは旗艦に乗じて中央に位置し全体を指揮していた。
 そしてトラヴォのユースティスは別働隊30隻を指揮して岬の反対側に待機し、"機"を伺い潜んでいた。





 戦いの幕が降りると直ぐ様ディリオン艦隊は突撃を掛けた。快速船団を筆頭に全艦一丸となっての突撃はさながらメール式重装歩兵のそれであった。
 しかし、メガリス軍中央は突撃に対応する事無く後退していった。ディリオン艦隊は後退する敵艦を追撃し、どんどんと前身していった。もし、陸上での戦いであればテレックは慎重を期して足をゆるめていたかもしれない。しかし、初めての海上での戦いという緊張、後退していく敵艦隊に追いつかねば勝機は無いという思い込みが彼や船長達の目を曇らせた。
 また後退するメガリス軍中央とは対照的にメガリス軍両翼船団は前進し、反対側に進むディリオン艦隊の側面を擦れ違う形で前へと進んでいた。



 慎重さを忘れて前進するディリオン艦隊はその経験不足が露呈し、あっという間に船足が乱れてしまっていた。船速により船団を分けたことがここで災いし、船団ごとでも大きく間隙が開き陣形が崩れてしまった。特に練度の低い後衛船団は戦ってもいないのに崩壊寸前の有り様で、味方艦同士で接触して被害を被る事さえも発生していた。
 そして無闇に突撃を掛けていたディリオン軍の軍船は漕手が疲れ、徐々にその船足さえ鈍り始めていた。

 その時、これまで後退を続けていたメガリス海軍は反転し、逆に突撃を掛けてきた。その攻撃は流石は海上の覇者だけあって一糸乱れぬ見事な突撃だった。
 ディリオン軍にとっても待ちに待ったぶつかり合いでは在ったが、この状況においては致命的な出来事だった。



 海には海の掟がある。その事を身に沁みて知るにはやはり流血と痛みが必要だった―――



 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

【六百六十三年五月 ロロス沖 司令官テレック】



 普段は穏やかな大西海もこの場だけは荒れ狂っていた。両陣共に百隻を超える軍船から生えた無数の櫂が海の水を掻き回し、巨大な船体が白波を立たせているからだ。そして海をかき回す櫂と軍船は先程までは味方のディリオン艦隊の物だけであったのが、今は敵のメガリス軍の物も合わさっていた。後退し続けていたメガリス艦隊が急に反転し、反撃に打って出てきたのだ。
 ディリオンの軍船とメガリスの軍船が互いに角を向けてどんどんとその距離を縮めていく。軍船は戦いに臨んで事前の帆を畳んでいる為に幾ら風が強くなっても白帆がたなびくことはなく、視界が遮られる事は無かった。
 海原を掛ける木製の怪物達。戦意に満ちた水上の獣達。ガレー軍船の戦いの時は目前にまで迫っていた。
 テレックはこの壮観とも言える光景を見て冷や汗が流れ出るのを止めることが出来なかった。

 ――いざ見てみると陸の戦いとはまるで違う。こんな事なら旗艦くらい特別製の大型艦にしておくべきだったかもしれない――

 アフーーーーーー! アフーーーーーーー!

 戦闘開始を告げる角笛が波を音をかき消して鳴り響いた。味方の船からも敵の船からも放たれる角笛の音色は甲高い叫び声となって戦場を包んだ。
 吹奏手が角笛に息を吹き込んでいる一方で甲板の上にずらりと並んだ弓兵は矢を番え、槍兵は今か今かと乗り移っての切込みの時を待っている。
 甲板の下では戦場に辿り着いてからずっと漕手が懸命に櫂を漕いでいる。流石の彼らもそろそろ疲労し始める頃だろうか。

「テレック殿。前衛が戦闘に入ります」

 振り向くと赤ら顔の禿げた初老の男が立っていた。
 不意に声を掛けてきたのは旗艦の船長マリオスだった。平民出身の経験豊富な船乗りで、その技術と知識を買ってテレックは腹心の部下として抜擢していた。

「数は此方が上回っていますが、練度や経験では敵方の方が一枚上手です。油断は出来ません」
「ああ、分かっている」

 普段船長として沈着さを旨としているこの男も海戦の経験は初めてだった。さしものマリオスも緊張からか額に一筋の汗をかいている。
 テレックは視線を再び前へ向けた。

 ディリオン艦隊の前衛とメガリス艦隊が丁度衝突する所だった。
 互いに衝角を船腹に突き立てようと目一杯に櫂を漕ぎ、甲板の兵士を殺そうと弓を射掛けあっている。
 
 ――前衛を指揮しているのは守備艦隊経験者のカナアンだし、足の速い船を集めている。敵に遅れは取らない筈だ――

 テレックは希望を胸に抱きながら戦況を注視していた。
 二隻のディリオン船が一隻のメガリス船に狙いを定め、両脇から衝角を叩き突けに掛かったのが見えた。無数の櫂が海水を掻き分け、水しぶきを上げた。
 しかし、衝角が突き刺さるかと思われたその瞬間。メガリス船は突如速度を上げて二隻の間を擦り抜けた。思わず見事と思ってしまうほどに華麗に抜けていった。
 突撃速度を緩めることの出来ない二隻のディリオン船は轟音を立てて正面からぶつかり、弾けた船体の破片や振り落とされた兵たちが海に投げ出されるのが見えた。
 そして、至る所で同様の光景が展開されていた。
 メガリス船の動きに翻弄されて同士討ちさせられるディリオン船、衝角を突き立てられてあっという間に沈められてしまったディリオン船、擦れ違いざまに櫂を全てへし折られて身動きの取れなくなったディリオン船、切り込むどころか切り込まれて旗印を海へ放り捨てられたディリオン船……
 やられているのはどれもこれも味方の船ばかりだった。

 ――なんて事だ……圧倒されている。まるで歯がたってない――

 テレックの冷や汗は滝のように体中から溢れだした。思わず振り返った先にいたマリオスも表情を固くしていた。流れる汗は二筋に増えている。
 そうこうしている間にも前衛の船団の戦況はみるみる内に悪化していった。数でも上回っていたはずなのにこの苦境である。これ程力量に差があるとはテレックも思いもしていなかった。

 ――不味い。これは不味すぎる。兎に角、我々も参戦して兵力差を押し戻さなくては。敵陣の中央さえ突破出来ればまだ逆転出来る!――

「全艦最大船速!」
「最大船速! 櫂を漕げ! 急ぐんだ!」

 テレックの命令をマリオスが繰り返す。怒号が甲板に響き渡り、櫂が力を振り絞って船を前へと進めさせる。
 テレックはじっと戦場を見据えながらも刻一刻と悪化する戦況に不安を隠せずにいた。


 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 ディリオン艦隊前衛とメガリス艦隊中央隊との衝突は数の差を物ともせずメガリス軍が優勢であった。戦いの場にディリオン艦隊中央船団が到着し、衝角を突き立てに掛かっても事態は変転しなかった。疲れきった未熟なディリオン艦隊に対し、熟練のペラール船団は機動力と操船技術を十全に活かして圧倒し続けていた。
 更にそこへ駄目押しの如くメガリス軍の両翼隊がディリオン艦隊の側面から攻撃を仕掛けた。既に前面の敵にすら苦戦していたディリオン艦隊にとっては回避する事も対応する事も出来ず、その攻撃をまともに受けてしまった。
 そして、戦いの隙に岬の影から出て大きく迂回進撃したメガリス艦隊の別働隊がディリオン軍の後衛に襲いかかった。破壊的な一撃の前にディリオン軍後衛船団は打つ手無く、散々に打ち破られた。



 四方を囲まれたディリオン艦隊は最早統制が執れず、個々の船で応戦する他無かった。とは言え殆どの船は応戦虚しく沈められ、みるみる内にディリオン艦隊は撃ち減らされていった。
 テレックは旗艦を中心に幾らかの軍船を何とか集め、包囲陣の一点突破を図った。強引な突撃が功を奏し、更に数隻を失ったものの旗艦以下10隻が脱出に成功した。



 包囲網に取り残されたディリオン艦隊の残党は降伏を余儀なくされ、その多くが拿捕されてしまった。だが包囲網の内側にディリオン船がいた事で脱出したテレックの旗艦へは追撃の手が然程伸びず、テレックは戦場から離脱することが出来た。



 ロロス沖の海戦はディリオン軍の大敗に終わった。
 ディリオン艦隊は130隻の艦船の内、残ったのは離脱に成功したテレックの旗艦以下10隻のみで、残りは全て撃沈或いは拿捕されて失われた。一方のメガリス艦隊の損害は20隻程度であり、拿捕したディリオン船を考慮すれば寧ろ増加したとさえ言えた。

 ディリオン王国はこの戦いの敗北により事実上その海軍を失ってしまった。海上覇権の奪取という野望は遠退き、艦隊の再建には今まで以上に長い時間と労力が必要となるだろうことは疑い無かった。生き残ったテレックには多くの課題が残される事となった。

 しかし、海上での戦いはディリオン王国のとっては所詮副戦場に過ぎなかった。
 そして主戦場たる陸上に於いても戦いは始まっていた。セファロス不在という千載一遇の好機を逃す訳にはいかなかったのだ。


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