王都アジナバール。宮殿の一画、玉座の置かれた謁見の間。
 そこには|大王《シャー》ハリード、王太子マルドゥーン、第二王子ハサン、第三王子ダリウス、そして末の王子クルジュがいた。
 ハリード王は親族だけを集めた御前会議を度々行っていた。重要事を事前に決めておこうという目的もあったが、何よりも身内同士の協調を重視してのことだった。

【ハリード】「よし、皆集まったな」
 
 傷だらけの無骨な風体。白髪交じりの髪。威厳に満ちた態度。
 |大王《シャー》ハリードは見た目通りに正しく歴戦の老王である。
 
【マルドゥーン】「父上、今日の議題は如何なものになりましょうや」

 王太子マルドゥーン。父王ハリードに良く似た壮年の男だが、何処か悲観さが漂っている。

【ハサン】「今話さねばならないことといえば、|北の奴ら《ナグハ族》の件ですか?」

 鋭い目付きのこの細身の男は第二王子のハサンである。一目で頭の切れ味の良さと、同じ位に冷酷さが伺える。

【ダリウス】「おお、ならば戦か! 戦争の話ですな、父上!」

 第三王子のダリウスが期待に満ちた大声を上げる。隆々とした肉体の巨漢で、如何にも戦いを好む猛者らしい。

【クルジュ】「い、戦ですか。も、もしかして、僕も……」

 王子たちはダリウスとクルジュを除いてあまり似ていなかった。それもその筈でマルドゥーン、ハサン、ダリウスとクルジュはそれぞれ母が違うのだった。
 ハリードには三人の妃がおり、身分も家格も違うその三人ともが王子を産んでいた。

【ハリード】「急くな。その件もあるが、別の重要事もあるのだ」
【マルドゥーン】「は、失礼致しました、父上」
【ダリウス】「戦より重要な事は何ですか、父上!」
【ハリード】「急くなと言っておろうが。では本題に入るが、クルジュ。お前も成人の儀を終えて国政に携わる歳になった。そこでお前には太守を務めて貰う。トゥラノ州のだ」
【クルジュ】「えっ、僕、あ、いや、私がですか!?」

 バラバ王国はその広大な領土を幾つかの州に分けて統治していた。長い歴史と戦乱の中で統廃合を繰り返してきた州であったが、この時代になっても統治制度の基盤となっていた。そして太守とは州の長官の事である。

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【ハリード】「そうだ。無論お前一人ではない。ダティス将軍を補佐に付ける。それとイサウロ家のアイーシャもお前に同行し統治を手助けする。彼女らならば十分にお前を導けるだろう」
【ハリード】(イサウロ家の人間をこれ以上王族に近付けさせたくないが仕方ない。アイーシャは確かに天才だ。今回の太守の件も既に彼女が整えているし、万事準備済みだからと進言して来たのも彼女だ。それにアイーシャには色々と役立つ情報も貰っている。尋常ならざるあの女を敵に回すのは得策ではない。願いを却下するのは難しい)

 イサウロ家は大貴族であり、金銭・兵・婚姻も含めたあらゆる形で王家への影響力を維持している。
 大勢力の協力を必要としているが王家の力を高めたい|大王《シャー》ハリードには何とも扱いに困る存在だった。

【ハリード】(とはいえ、そろそろクルジュに経験を積ませるには調度良い機会でもある。辺境で戦や政治を確りと学んで貰わなくてはならない。クルジュが成長したらより重要な州を任せよう)

 重要州の太守は王族が務めるのが常だった。
 王太子マルドゥーンは強兵の地バクトラ州の太守を。
 第二王子ハサンが最も富めるシラエア州の太守を。
 第三王子ダリウスは西の前線ゴンディノ州の太守をそれぞれ任されている。
 そして王都アジナバールのあるペルシス州はハリード自らが担当していた。

【クルジュ】「た、太守。僕が太守、に」
【ダリウス】「ガッハッハ! やっとお前も表舞台に出て来たな! 初陣は何時になるかな、楽しみだ!」
【クルジュ】「う、初陣。そ、そうですよね。やっぱり戦いはありますよね」
【ダリウス】「当たり前だ! 戦場だからな、あっちの方の"初陣"もきっと近いぞ! 女は良く選べよ!」
【クルジュ】「ダ、ダリウス兄さん!」
【ダリウス】「ガッハッハ!」

 顔を赤くさせたり青くさせたり忙しないクルジュと豪快に笑うダリウス。
 クルジュとダリウスは母が同じという事で兄弟仲は悪くなかった。色々な意味で裏表の無い者同士だからということもあった。

【ハサン】「……」
【ハサン】(彼女ら、か……|あの女《アイーシャ》の差金だな。イサウロ家め、どこまで食い込むつもりだ? だがトゥラノ州といえば辺境ではないか。|象牙の国《オドニア》との交易拠点ではあるが、統治も面倒で気候だって|王都《アジナバール》の様に快適ではない。もっと中央に近い州か実入りの良い州に影響したがると思ったがな)
【マルドゥーン】「いきなりトゥラノか……父上も人が悪いですな。あそこは平定なってからまだ日が浅い。叛徒や蛮族どももまだ多い。クルジュには辛いのでは?」
【ハリード】「だからこそだ。困難な地でなくては意味があるまい。それに儂の息子だ。責務は果たせる。そうであろう」
【クルジュ】「はい、父上の御期待に沿って見せます! アイーシャもいてくれますし、必ずや!」

 意気込むクルジュを各々の想いと共に見つめる王と王子たち。その姿は団結した家族そのものであった。
 この時はまだ。

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