| |
| [女子寮] |
| 芳乃が書き置きを残して旅に出た、その日の夜…… |
| 芳乃 「ただいま戻りましてー。」 |
| 肇 「芳乃さんっ……! 戻ってきてくれたんですね。 ……どちらへいらしてたんですか……?」 |
| 芳乃 「少々、探し物をしていたのですー。 そちらは無事に、見つかりましたので。」 |
| 肇 「あ……そ、そうなんですか。 良かったです……。 でも、探し物って、いったい何を……?」 |
| 芳乃 「そちらは、明日わかるのでありましてー。 肇さんには、ともに出かける準備をしておいていただきたくー。」 |
| 肇 「えっ? 出かける準備……?」 |
| 芳乃 「よろしくお願いします。 あと、それとー……。」 |
| 肇 「それと……?」 |
| 芳乃 「なにか……なにか、食べるものはございませぬかー。 わたくしは、お腹が空っぽになっておりー。 ぐーぎゅるるる、なのでしてー。」 |
| [翌朝……] |
| [山中] |
| 肇 「あの……芳乃さん。 だいぶ、事務所から遠くまで来ましたけど…… どちらまで行くんでしょうか?」 |
| 芳乃 「まだ、目的地ではないのでしてー。 いま少し歩くことにはなりますがー、 肇さんの足腰なら、問題はないかとー。」 |
| 芳乃 「ふぅ…… たどり着きましてー。 こちらが、わたくしの探していた場所ですー。」 |
| 肇 「昨日の芳乃さんの探し物って、場所そのものだったんですか……。 ……ここは……なんだか、不思議な雰囲気のところですね。 この空気……、……落ち着きます……。」 |
| 芳乃 「こちらはわたくしにとって、好ましき気の集まる地でしてー。 つまり肇さんにもー、相性の良き地なのですよー。」 |
| 芳乃 「覚えていますか、肇さんー。以前そなたと、 プロデューサーさんの3人で行った、 自然あふれる島の、心安らぐ善き地……ぱわーすぽっとをー。」 |
| 芳乃 「わたくしと肇さんの持つ気を重ね合わせればー、ともに立つ すてーじを、あの島や、ここのようなぱわーすぽっとの如く、 みなさまに幸せと喜びを伝える事が出来ると思うのですー。」 |
| 肇 「気を……重ねる……。 ……でも……芳乃さん。 私はまだ、どうやってそれをすればいいのか、わからなくて……。」 |
| 芳乃 「難しく考えることはありませぬー。 さ、手をー。」 |
| 肇 「手……? ……あ……。」 |
| 芳乃 「感じますかー。肇さんー。 わたくしたちの手が重なり、つくられた器をー。」 |
| 肇 「器……。 私と、芳乃さんの……。」 |
| 肇 「小さくて……、でもあたたかい…… 私たちがつくる、器。 これが……。」 |
| 芳乃 「ただ己が手のみに意識を寄せたならー、 水はたちまち、隙間からこぼれてしまいますー。 ですが互いを感じ、想い、ぴたりと重ねればー。」 |
| 肇 「他の誰とも創ることの出来ない、ふたつとない器になる……。 ……ああ、そうなんですね。心に湧き上がる、このイメージを…… アイドルとして……ステージで表現できれば……。」 |
| 芳乃 「……ふふー。 やはり、この地の持つ良き気は、肇さんにも合うようでしてー。 百の言の葉でも足りぬ、ただひとつの閃きを、届けられましたー。」 |
| 肇 「あっ……?もしかして……芳乃さん、 昨日この場所をさがしていたのって…… 私の、ために……?」 |
| 芳乃 「……わたくしも、まだまだ未熟者でありますがゆえー。 肇さんに伝えたいこの気持ちを、 言の葉に乗せきれなかったのでありましてー。」 |
| 芳乃 「ですがー。このように良き気に満ちた地でー、 互いの心を重ねればー、 必ずや、通じ合えると信じていたのですよー。」 |
| 肇 「芳乃さん……っ。 芳乃さんが、そんなにもしてくれたのに…… 私……私は、何も出来ないで……。」 |
| 芳乃 「肇さん……何をおっしゃるのでしてー? これまで、何もしてこなかったのは、 わたくしの方でしてー。」 |
| 肇 「えっ……?」 |
| 芳乃 「たとえばですねー。のーといっぱいを案で埋め、 『山紫水明』という良き名を見つけてくださったのは、 肇さんでしてー。」 |
| 芳乃 「それにまた、 紗枝さんに、里奈さんに、夏樹さんに、 ゆにっとの心得を進んでお尋ねになられたのも、肇さんですー。」 |
| 肇 「で、でもそれは、私がしたくて、したことですよ。 私がユニットというものに迷って、答えを見つけたくて…… だからとにかく、何かをしなくちゃって思ったから……。」 |
| 芳乃 「……肇さんは、やはり、何かを創りだす方なのですねー。 手を動かし、手ごたえを求める態はまさしく職人のそれでー。 そう……手隙のときには、おうどんをこねてしまうほどにー。」 |
| 肇 「えっ、……ええっ? あ、あれはたまたまで……。」 |
| 芳乃 「ふふ。そして……あの美味しいおうどんを共にした朝にー。 歌うことで、お互いを知ろうと 提案してくださったのも、肇さんなのでしてー。」 |
| 芳乃 「あのとき、肇さんが、わたくしと一緒に歌ってみたいと 言ってくださらなければー。プロデューサーに声が届かずー、 ゆにっとというご縁も出来ることは、ありませんでしたー。」 |
| 肇 「ユニットという、縁……。」 |
| 芳乃 「そして……わたくしとご縁をつくる肇さんが、 わたくしを深く理解しようとしてくださっていること。 とても、とてもうれしいのですよー。」 |
| 肇 「芳乃さん…… 私も、芳乃さんがこうして、私を導いてくれたこと…… とても、とてもうれしいです……。」 |
| 芳乃 「ふふふー。 きっとこれが、里奈さんのおっしゃっていた 喜びを二倍にするということなのでありましょうねー。」 |
| 肇 「ふふふっ……そうですね……。 きっと、そうです。」 |
| 芳乃 「ならば、肇さんー。」 |
| 肇 「はい、芳乃さん。 私たちがするべきは…… この胸にあふれる喜びと、あたたかさを……」 |
| 芳乃 「癒しと、幸せをー。」 |
| 肇 「私たちの手で作る、『山紫水明』という器に乗せて……」 |
| 芳乃 「ふぁんのみなみなさまへと、お届けいたしましょうー。」 |
| 肇・芳乃 「ステージの上で……アイドルとして。 すてーじの上で……あいどるとして。」 |
コメントをかく