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| リョウ 「アーッハッハッハ、くだらない……あぁ、くだらないわ。 バレバレの工作はもう終わり? 我が身可愛さに、よくやったものね。」 |
| リョウ 「……あぁ、まどろっこしいな。 ご令嬢のフリももう終わり。 茶番はもうやめようぜ。お互いにさ。」 |
| リョウ 「破滅すんのはアタシか、アンタか。 一世一代の勝負といこうじゃないか。」 |
| 涼 「今回は集中してドラマを撮ってるわけじゃないから、 テンションをどう保っていいのか、困るよな。」 |
| 美優 「特に今回は、切ない恋愛ものですしね。 引きずってしまうと困るお仕事もありますし。 ……あ、ちょっと待ってください。」 |
| あきら 「ここは……こう読んだほうがいいかな。 それとも、アドリブを挟んで……。」 |
| 涼 「……もう少し時間をおいてから戻るか。 邪魔しちゃ悪い。」 |
| 美優 「私たちのドラマにも出てくれてますしね。 そう考えると、慣れないドラマ撮影なのに、 結構ハードなんでしょうか。」 |
| 涼 「労いのコーヒーでも買ってくるか。」 |
| [涼のドラマ・撮影中] |
| リョウ 「その日も、変わらない日常の一コマのはずだった。 ギターかき鳴らして、声を張り上げて、 最近ハマった本の話なんかもしながら、仲間と夢を語り合って。」 |
| リョウ 「スタジオからの帰り、赤信号に飛び出す子どもがいたんだ。 せまりくる巨大な車体、焼きつくようなライト。 考えるより先に、アタシの体は動いてた。」 |
| リョウ 「……うっ。 アタシ……?」 |
| リョウ 「…………どこだ、ここ。 たしか、車に……夢、か? いや、夢にしては異様にリアルだな……。」 |
| 知らない女性 「あぁ!起きたのね! よかった……急に倒れるから、心配したのですよ! どこももう悪くはない?」 |
| リョウ 「うあっ!?だ、誰だよアンタ!」 |
| 知らない女性 「まぁ!?あ、アンタですって!? 母に向かってそのような、侯爵家の娘にあるまじき言葉遣い! 頭を打っていたからね!お医者様を呼ばないと……!」 |
| リョウ 「…………は?」 |
| リョウ 「その後……バタバタといろんな人がきていろんな話をして…… あわせて考えると、どうやらアタシは侯爵家のご令嬢らしい。 冗談やドッキリにしちゃ性質が悪い。」 |
| リョウ 「っていうか 出てくる名前全部に、聞き覚えがある。 つい最近勧められて読んでた、ファンタジー恋愛モノ。 その中の登場人物に、なっちまってるらしい。」 |
| リョウ 「つまり……だ。しちまったのか? 最近話題の、アレ。異世界転移……転生だっけか? おいおいおい、マジかよ。」 |
| リョウ 「しかも。アタシが成り代わってるこのご令嬢は……悪役だ。 主人公に散々裏で悪事を働いて苦しめた後、 最後にそれを全て暴かれて、旧い貴族体制もろとも破滅する……。」 |
| リョウ 「……ま、こうなっちまったものはしょうがねぇ。 セオリー通りってのが癪だけど、やってやろうじゃん。 没落回避ってやつをさ。」 |
| 婚約者 「あれ、ピリピリしてる?」 |
| リョウ 「そんなことありませんけど。 急にどうなさったんですの?」 |
| 婚約者 「いいよ、いつもので。 私たち以外、誰もいないから。」 |
| リョウ 「……してるよ。 前に話しただろ、物語が動くならそろそろだって。 もうすぐ城の見習いに、ヒロインが入ってくる。」 |
| 婚約者 「まぁそんなことも言ってたね。 それで私に出会って、恋に落ちるんだっけ?」 |
| リョウ 「なんだよ、信じるって言ったくせに、 やっぱり嘘だと思ってたのか?」 |
| 婚約者 「いや、リョウのことは信じてるよ。これ以上なく。 ただ、出会ったばかりの、しかも下級貴族の見習い令嬢に、 そんなに心動かされるものかは、疑問だね。」 |
| リョウ 「アタシの没落回避に協力してくれるのはいいけど、 アンタがヒロインに惚れないと、 アタシと結婚することになるんだぜ……それは、いいのか?」 |
| 婚約者 「そういう相手というのを加味しての、 信頼をおいているつもりだったんだけどな。 伝わっていないんだね。」 |
| リョウ 「……フン。 口では簡単に言えるよな、そういうことはさ。」 |
| ヒロイン 「す、すみません……! まだ不慣れで……すぐに下がりま……。」 |
| 婚約者 「君、は……。」 |
| リョウ 「敷かれた運命からは……簡単には逃れられない。 そうだよな……ああ、知ってたよ。」 |
| 貴族令嬢 「よろしいんですか、あんな子、いつまでものさばらせて。 貴方様の不利益になる子ですよ。」 |
| リョウ 「どういう意味かしら。 あの子から何かされた覚えは、ございませんけれど。」 |
| 貴族令嬢 「ご存じありませんの? 貴方様に殿下とのことでひどくなじられ、 陰湿な嫌がらせを受けていると喧伝しているのですよ!」 |
| リョウ 「……ふぅん。それは初耳ですわ。 ご忠告ありがとうございます。」 |
| 貴族令嬢 「どうして、そんな冷静なんです? ……ここで怒って、わめきたてるはずなのに。」 |
| リョウ 「信じていますから。殿下のことを。 それだけですわ。」 |
| 貴族令嬢 「……っ、そうですか。 とにかく、お伝えはしましたからね。 貴方様が賢明なご判断をされること、信じていますわ。」 |
| リョウ 「……賢明な判断、ねぇ。」 |
| リョウ 「……それで? そういうことらしいですけれど、噂の出どころは貴方なの?」 |
| ヒロイン 「いえ、私じゃ……。 そもそも殿下も、私がそそっかしいから 気にかけてくださっているだけでしょうし……。」 |
| リョウ 「別に殿下とあなたとの仲を どうこういうつもりはありませんわ。 ……そういう関係じゃないですもの、わたくしたち。」 |
| ヒロイン 「婚約者じゃ……?」 |
| リョウ 「……形だけ、家柄だけよ。 信頼し合った協力者では、たしかにあるけれど。 だから別の幸せがあるなら、わたくしは止めないわ。」 |
| ヒロイン 「……嘘です。 私にはわかります。貴方は本当は……。」 |
| リョウ 「……お人好しね。 まったく……貴方がわたくしの敵だったら、 どんなによかったことか。」 |
| リョウ 「展開の細部が、アタシの知ってるものと違う。 アタシ以外の誰かが、ストーリーをいじっている。 ……アタシと同じ、転生少 者がいる。少し前から、疑ってたんだ。」 |
| リョウ 「アタシは耳は良いんだ。聞き逃さないぜ。 本来ならアタシとともに破滅する、旧い貴族派のひとり…… アタシに全てを背負わせて、自分は逃げようって算段か。」 |
| リョウ 「……一芝居打つ必要がありそうだな。 盛大なやつをさ。」 |
| 婚約者 「皆の者!聴いてくれ! 今宵、私は大きな決断をくだそうと思う! 私と、私の大事な人の身の安全がおびやかされているんだ!」 |
| 貴族令嬢 「……私も見ました! リョウ様が嫉妬に任せて、殿下のご寵愛の方を 排除しようと画策しているところを……!」 |
| リョウ 「フッ、フフフッ……! わたくしが、殿下たちに危害を?」 |
| 貴族令嬢 「往生際が悪いですわよ! 殿下が嘘をおっしゃっていると思うのですか!?」 |
| リョウ 「ああ、こうも簡単にひっかかってくれるなんて……! ……茶番は終わりだぜ。」 |
| リョウ 「ふぅ……終わったか。 これで、没落は無事に回避。 ……で、なんでアンタもここにいるんだよ。」 |
| 婚約者 「それは、私は君の協力者であり婚約者で……。」 |
| リョウ 「あーあーそういうのいいから。 ハッピーエンドを迎えたところで、協力関係は終わり。 行けよ、さっさと。そういう筋書きなんだ。」 |
| 婚約者 「……すまない。」 |
| リョウ 「ミイラ取りがミイラになる……って、このことか。 似合わないことしちまったな、ったく。」 |
| リョウ 「それでもさ。 アンタの幸せを……願ってるよ。」 |
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