タグ検索で【なん恋】18件見つかりました。

(82-692)なん恋 ヘキサグラム

ヘキサグラム 兎 春一番が吹いた。 こうやって、日々なんてことのない時間をうしろに送り続けていると、ときどき自分が何かの小説の中に閉じ込められた人間のように思えてくる。 本を開けば、そこにはいつもと同じ文章が書かれてあって、登場人物は決められた会話を繰り広げる。 同じ暗示に、同じ伏線。同じ衣装に、同じ笑顔。 最初に読んだ時のあの胸を締めつける感じはもうないけれど、少しずつ麻痺していく感覚が今度は感傷性を纏って私の中に降り積もっていく。 造花の桜吹雪みたいに、それは決して朽ち果てることはない。 「道…

https://seesaawiki.jp/w/e6esr/d/%2882%2d692%29%a4%... - 2020年05月18日更新

(66.2-295)なん恋 Last Scene

シーン17 手紙 卒業式が終わり、ぜんぜんそんな準備なんてできてないのに、来年になれば私たちは受験生になってしまう。 れーなと同じクラスになれればいいな、なんてことを今のうちから考えているけれど、 正直なところ、残り一年の私の高校生活に対して私自身がもはや希望や感動なんてものをほとんど期待していないのがわかっていた。 劇的な離別を体験した少女がそれをバネに素晴らしい未来に向かって突き進んでいくなんて話はきっとまやかしに過ぎないのだろう。 私の前には、どうしようもない無力感と触れれば一瞬で蝕まれてしまう…

https://seesaawiki.jp/w/e6esr/d/%2866%2e2%2d295%29... - 2014年03月16日更新

(66.2-282)なん恋 Scene16

シーン16  年が明け、親戚に挨拶をしたり、餅を食べたりして、バタバタとした正月が過ぎて行った。 日を追うごとに世界は冷え込んでいき、そして昨日の夜中から関東を寒波が襲っていた。 今朝も起きた瞬間に最初に感じたことは「寒い」という痛みで、 毛布に包まりながら氷のようなフローリングの上を爪先立ちで駆けて行って、リビングの暖房機の前で丸まったくらいだった。 両親はそんな凶悪な寒さにも負けず、仕事へ出かけて行く。 大人ってすごいなぁ、と私は感心せずにはいられなかった。 私は凍死しそうになりながらも、朝食を…

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(66.2-270)なん恋 Scene14

シーン14 12月28日 午後3時30分 通りに出て私は駅へと足を向ける。 風を切り裂きながら歩いて行く私をれーなが後ろから追いかけて来る。 「ちょっ、待ちぃって」 れーなが私のコートの腕の部分を掴む。 「離してよ」 「怒っとぉなら、ちゃんと怒りぃよ!  そんな風に、勝手に自己完結したみたいに飛び出して行かれても、れーな訳が分からんし!」 「別にれーなになんか怒ってないよ。  れーながそんなことになったのは全部さゆみのせいだし。  別に絵里のことでれーなに謝ってほしいわけでもないし。  れー…

https://seesaawiki.jp/w/e6esr/d/%2866%2e2%2d270%29... - 2014年03月15日更新

(66.2-276)なん恋 Scene15

シーン15 12月28日 午後4時30分 私とれーなはまだお互いにきちんと謝るところまではいっていなかった。 ただ、私は強引に「絵里と話したい」と言って、れーなにあのホテルに電話をかけてもらった。 本当は私が自分の携帯で電話をしようとしていたのだけれど、 れーなが「多分、さゆと亀井さんはきちんと会ってから色々話した方が良い」と私を止めたのであった。 そして、私たちはその言葉のまま、これから彼と会う約束を取り付けると電車に乗ってあの繁華街へと向かった。 そして駅前についたのが午後4時30分。 私たちは…

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(66.2-260)なん恋 Scene12

シーン12 窓の外の雨と瞼の裏の雪 私はこのお嬢様的かつ優等生的人生において初めてズル休みというものをやってのけた。 ママにもパパにも「頭が痛いの」「お腹も痛いの」で突き通し、 むしろ「まぁ、多感な年ごろだからな」と慮ってもらうことで見事一日中家にいる許可を頂いた。 こんな愚図な私にでも両親は優しく、「何かあったらいつでも電話しなさいね」という言葉に私は不意に涙が出そうになった。 今日は朝から雨が降っていて、空気は身を突き刺すように冷たく、一気に冬が到来した感じだ。 私はカーテンを閉め、部屋の電気を消…

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(66.2-268)なん恋 Scene13

シーン13 12月28日 午後2時30分 私とれーなは地元の商店街のマックで待ち合わせをしていた。 私の方が先に到着し、たった今、年末というのに騒がしい店内の隅の席に腰を落ち着かせたところだ。 クリスマスの日、つまり12月25日、姉のメールに変な形で励まされた私は、意を決してれーなに電話をかけてみたのだ。 「昨日は無視しちゃってごめんなさい」と言うと、れーなも何だか申し訳なさそうに謝罪の言葉を電話の向うで呟いた。 それから、どちらからともなく「電話じゃなんだし」という理屈をつけて、今日、このマックで会…

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(66.2-260)なん恋 Scene11

シーン11 ふたたびあの場所で 日が暮れ、街灯に灯った明りが冷たい路地を照らしている。 駅前からほんの数分歩いてきただけなのに、辺りは随分と静かだった。 とりあえず涙は拭いて足も踏み出してみたものの、行く当てはない。 家に帰る気もしなかった。 電車にも乗りたくはない。 両親には言えないようなことだったし、変な心配もさせたくはない。 けれど、このまま一人でいても気がおかしくなりそうだった。 絵里なら助けてくれるだろうか。 でも、連絡を取るすべもない。 そこまで一通り考えを巡らせてみたところで、私は自分…

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(66.2-236)なん恋 Scene09

シーン9 小さな私の部屋 次の日、私は風邪を引いた。 朝方、寒気と吐き気を両隣りに召し抱えたまま私は目を覚まし、それから熱を測って、学校に「休む」と連絡をいれた。 ママもパパも慌しく私の身を心配しながら、 「安静にしてなさいね。何かあったら連絡するんだよ」と捨て台詞を残して仕事へと駆り出て行った。 私は私の小さい部屋に取り残され、そして、忘れないうちに、れーなにも「風邪を引いた」と連絡した。 不安そうなれーなの表情が頭に思い浮かんで、私も不安になってしまう。 布団に潜り込み、ずきずきと痛む頭の隅の方…

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(66.2-242)なん恋 Scene10

シーン10 白いマフラーと黒いブレスレット 風邪は少し長引き、学校に登校を再開することになったのは12月に入ってからだった。 いよいよ世界は寒くなり、女子高生の魅力的な脚には辛い、冬の風が吹きつけるようになった。 「さゆと駅前に行くのなんて久しぶり」 れーなは子供のように無邪気に言った。 そう言えば、なんだかんだであのホテルでの一件以来こっちに来ていなかったような気がする。 無論、私は毎週末来ていた訳ではあるけれど。 「もうすぐクリスマスやね」 「こういうのってさ、さゆみたちも関係あるのかな?」…

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(66.2-197)なん恋 Scene08

シーン8 冷たい林の中で 「僕は今、両親に勘当されているというか・・・僕の方から縁を切ったというか・・・  とにかく、僕は今、両親とは暮らしていないし、会うつもりもない。  ただ誤解してほしくないのは、僕の家庭に問題があったというわけじゃないんだ。  むしろ、僕がこうしていることだけが、今の僕と両親との間における重大な問題なんだよ。  このことは何も僕を苦しめている事の中核でも何でもない。  ただ事実として、僕が両親とほとんど縁を切っている、というような状態なだけで、それ自体にはそこまで深い意味は無い…

https://seesaawiki.jp/w/e6esr/d/%2866%2e2%2d197%29... - 2014年03月12日更新

(66.2-193)なん恋 Scene06

シーン6 放課後の図書室 私は2つ分の恋の悩みを抱えながら、来る日も来る日も退屈な高校生活を送っていた。 今日は放課後に図書委員の仕事があって、れーなと一緒だ。 日に日に陽が短くなっていき、吹き付ける風の中に鋭い針先を感じるようになってきている今日この頃。 私にもれーなにも冬服やカーディガンが徐々に似合い始めるようになってきていて、 先週から私がタイツを穿き始めるようになったことでれーなはほんの少しだけムスッとして 「せっかくの美脚が台無しやん」などという不平を私に訴えてきた。 一方で、彼の方は会う…

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(66.2-197)なん恋 Scene07

シーン7 何度目かの日曜日 彼と会うのはこれで何回目だろう。 100回目のような気もするし、まだ2,3回目という気もする。 まぁ、現実的に考えてそのどちらでもない。 初めて彼と日曜日デートをしたときは、まだマフラーを捲いていない秋で、今はもう季節は変わりかけている。 かといって、一年も経っていない訳だから週1回のデートで100回にもなるわけがない。 待ち合わせはいつものケンタッキーの所。 ガラス越しに、私はいつもの男子高校生がカウンターで注文を受け付けているのを眺めながら、彼を待っていた。 けれど、…

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(66.2-184)なん恋 Scene05

シーン5 静かな週末 駅前のケンタッキーのカーネル・サンダースの横。 私はこの間買ったばかりの細くて黒いボーダーラインがすっきりと施されたTシャツと、 真っ黒なフレアスカートに身を包まれた私が店のガラスに映っているのを眺めながら、 「やっぱり鎖骨とか見え過ぎじゃないかな」とか、「いっそのことなら制服を着てきた方が良かったのではないか」と早くも後悔し始めていた。 「こんな貧相な身体見せられても、あの人も困るよね、きっと・・・」 そんな風にマイナス思考が働き始めると、ここ数日の間、私を救い続け、 そし…

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(66.2-175)なん恋 Scene04

シーン4 静かな家 れーなと2人 電車に揺られながら、私は駄目になってしまったれーなのワイシャツについてれーなに話しかけてみた。 どうやられーなもそのことで困っていたようで、いくら今日あったことをなかったことにしようと思っても、 物的証拠を覆さない限りは、親への言い分もへったくれもない。 結局思いついたのは、私のワイシャツを一枚れーなにあげる、という手段で、 そのために、私は初めてれーなを自分の家に招待することになった。 幸い家には、小さくなった、れーなの身体にぴったり合いそうな「元・私のワイシャツ」…

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(66.2-156)なん恋 Scene03

シーン3 温かい事務室とホットコーヒー とりあえず私たち2人は「亀井」と名乗った金髪の男の子によって事務室へと連れていかれ、 そこで一向に収まらない泣き止んだ後のしゃくりあげと、乱れた呼吸を押し殺しながら、 彼がコーヒーを淹れてくれるのを黒いソファに座って待っていた。 制服がめちゃくちゃになったれーなはたまたま私が持っていた学校のジャージを着ている。 私が泣き腫らした目を凝らしてれーなの横顔を盗み見ると、どうやられーなも目を真っ赤にして、 しゃくりあげを堪えているようだ、ということがわかってなんだか少…

https://seesaawiki.jp/w/e6esr/d/%2866%2e2%2d156%29... - 2014年03月11日更新

(66.2-132)なん恋 Scene02

シーン2 繁華街の夕暮 私は結局、そのまま家に帰るようなことはしなかった。 何となく胸がざわついていたのだ。 理由は別に、れーなにガツンとやられたというだけではない。 何か、こういう言い方をすると「はいはい。出ました、出ました。鬱陶しい台詞ナンバー1」と呆れ返って言われてしまいそうだけど、 それでも何となく「女の勘」という奴がビビッと働いたのだ。 少しマックの前で足踏みをした後で、私はれーなが口にした「チェリッシュ」というホテルを探すことにした。 まだ太陽が出ているとはいえ、繁華街の密集したビルの合…

https://seesaawiki.jp/w/e6esr/d/%2866%2e2%2d132%29... - 2014年03月10日更新

(66.2-127)なん恋 Scene01

シーン1 放課後のマック 「てか、さゆは色々難しく考えすぎったい」 目の前のやたら威勢のいいチビ女は、なんてこと無さそうにシェイクを啜りながら最近買い換えたばかりのスマホをいじっている。 その方言もさることながら、視界に入った瞬間網膜に突き刺さってくるそのド派手な金髪のせいで、 黒髪だし真面目だし、良い子だし、ついでに言えば美人だし、で通っているこの道 重さゆみのイメージもここ最近は芳しくない。 たまたま図書委員で一緒に仕事することになって以来、何故だかこの金髪ヤンキーにやたらと纏わりつかれている…

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