『どういう事だ!』
とある街の裏通り、その最も暗い一角に存在する小さな店に、怒号が響く。
あなたは迷宮を脱出した後、最低限の休息を取ると、この街を目指した。
勿論、迷宮の産物を換金するためである。
この街にはあなたの馴染みの鑑定士、裏社会の窓口たる男が住むためだ。
あなたは熟練の盗賊であり、更に異形の怪物が跋扈する迷宮で、その感覚は一層研ぎ澄まされた。
衛兵の目を盗み侵入するのは、決して簡単とは言えなかったが、不可能事でもまたなかった。
そうして、男の元に辿りつく事が出来たのだが……。
『どういう事も何もなぁ。
 この魔晶石に出せる金は、ウチじゃあこれだけだ』
男はそう言って、カウンターに転がる硬貨を示す。
そこには、白金貨がたったの二枚。
あなたが思い描いていた額とは程遠い。
貴族が三年遊んで暮らすなど、どう考えても不可能だ。
精々半年が良い所だろう。

『ふ、ふざけるな!
 お前、前に最低でも十五枚からと……!』
あなたは激昂し、更に声を荒げる。
だが、男の反応は飄々としたものだ。
『あぁ、そりゃあ嘘じゃないぜ。
 確かに魔晶石は白金貨十五枚からだ。
 これだけの上物なら……そうだな、八十枚は超えるだろうよ』
その返答にあなたは思わず大口を開ける。
白金貨八十枚。
途方もない大金である。
それだけあれば、人間の想像しうる大半の物事が買えてしまうだろう。
そんな価値の宝物を、この男はたったの白金貨二枚で売れというのだ。

思わずベルトからナイフを抜こうとしたあなたを、男の冷たい声が止める。
『おい、そこから先は良く考えて動けよ』
同時に、店の奥から三人の男女が扉を開いて現れる。
屈強な体躯の戦士らしい男が二人と、長い杖を持つ女が一人。
あなたはこの三人が熟練の用心棒達だと知っていた。
以前に店内で剣を抜いた男を、瞬く間に死体に変えた現場に居合わせた事があるためだ。
特に女は危険すぎる。
魔法を扱えるようになった今のあなたには、
集中する様子すら見せず、いっそ気楽なまでに杖を振っただけで人間の体に五つの風穴を開けたその技量が、
どれだけ規格外の物であるか、ハッキリと理解できていた。

『分かってねぇ馬鹿に優しく説明してやろうか。
 これは商売の基本だよ。
 安く買って、高く売る。
 そしてお前は、間違いなく安く買える相手だ』
男は低くした声のまま説明を始め、あなたの左手を指差した。
『弱味を見せたままこんなとこに来る方が悪いんだよ。
 こいつを売った金で治療を受けたいんだろう?
 幾ら大神殿の誇る神様の奇跡だって限度ってもんがある。
 指を無くしてどれだけ経ったかにもよるが、猶予はそうないはずだ』
あなたはぐっと歯噛みする他ない。
あなたは自身の限界の速度でこの街にたどり着いたが、それでもなお遅かったのだ。

『物だって悪い。
 魔晶石なんて代物をどこで拾ったかは聞かねぇが……お前は本当に馬鹿だな。
 もっと分かりやすい物にしときゃ良かったんだよ。
 黄金の壷だのミスリルの剣だの、そういうどこででも金に換えられる物にな。
 この国で魔晶石を扱えるのはウチぐらいだ。
 他はどこに行ったって相手にしちゃあ貰えんだろうよ。
 何せ持ってるだけで貴族に唾を吐きかけてるようなもんだからな』
そこで一つ哀れみの溜め息を吐いて、男は続ける。
『だがまぁ、俺も悪魔じゃない。
 お前は馴染みでもあるしな、一応。
 本当に一応だが。
 特別に、銅貨を一枚オマケにつけてやる。
 悪い事は言わんから、これで納得しておくのがお前のためだぞ』
爪で弾かれた、銅貨が一枚、あなたを嘲笑するように転がる。
そこがあなたの我慢の限界だった。
カウンターに置かれた魔晶石を奪うように掴むと、大股で店の外に向かう。
頭に血が上ったあなたは、もう指などなくて良いと啖呵を切った。
白金貨八十枚と、左手の指。
考えるまでもない、白金貨を選ぶ、と。
国内に扱える者が居ないならば、国境を破るまでだ。
例え片手しか使えなくともやってやる、と。

それを止めたのは、今度は言葉ではなく、明確な実力行使だった。
あなたの眼前で猛烈な衝撃を伴って、光が弾ける。
魔法だ、と気付いた瞬間には既に体は宙に浮き、店内へと転がり戻される。
カウンターにぶつかり、床に倒れたあなたの首に、二本の剣が突き付けられ、そして言葉が降ってくる。
『まぁ話は最後まで聞けよ。
 ……お前の団、みぃんな狩られたんだってなぁ。
 酒場の笑い種だぜ。
 お上に唾吐いてあっさりおっ死んだ間抜け共、ってよ。
 助けてくれる仲間がいねぇってのは悲惨だなぁ、おい。
 お前、そいつを持って帰るのは良いがよ。
 帰り道で 【強盗】 に遭わないように、気をつけた方がいいぜ?』
……それで、何もかもが終わりだった。

数日後、あなたは初めて訪れる街の酒場で、浴びるように酒を呑んでいた。
両隣には娼婦が一人ずつ。
この酒場は二階が宿になっており、店内で交渉して連れ込む事が出来るようになっている。
その内の二人を、金に物を言わせて同時に買ったのだ。
『おう、酒が足りてねぇぞ!
 もっとじゃんじゃん持ってこいや!』
あなたは店中に響くような大声で、注文を追加する。
右手で女の胸をまさぐりつつ 【左手】 で木製のジョッキを持ち上げながら。
本来、幾ら娼婦と言っても、部屋に入る前に服の中に手を突っ込むような真似はさせない。
だが、あなたが持つ財産に目を眩ませた娼婦達は、嬉しそうな声を上げて受け入れてしまっている。
あなたは結局、魔晶石を白金貨二枚で手放した。
その大半は左手の治療費で吹き飛んでしまったが、残った分でも大金は大金であった。
更に、魔晶石以外の品にもかなりの値がついたのだ。
核の欠片は錬金術師に、異形の脚は魔法使いに、そして、蕾の蜜は貴族に。
最も良い値がついたのは蕾である。
菓子に混ぜても一切の不自然がない甘みに、少量で大の男も長時間昏睡させる毒。
用途はまぁ想像がつくが、一つの蕾を争って金貨を積み上げるなど、男の性とは悲しい物だ。
そうして大量の金を手にしたあなたは、こうして豪遊しているという訳である。

男に対する怒りと憎悪は根強く残っている。
だが、たった一人の盗賊でしかない自分に何が出来るわけでもないと、理解できてもいた。
面白おかしく酒を呑んで女を抱いている方が、ずっとマシである。
無論、いつまでもこんな生活を送る事が出来る程の金ではないと、あなたにも分かっている。
何時かは底をつく日が来るだろう。
"そんときゃその時だ。
 また迷宮に潜れば良い。
 情報だって高く売れるはずだ。
 やりようは幾らだってある"
女の柔肌の感触に頬を緩ませながら、そう脳裏で思い描く。
"次はもっと上手くやる。
 誰にも文句が付けられない宝を見つけてやる。
 ……その時、俺に慌てて謝っても、奴には砂粒一つくれてやるものか!"
次の成功へ、次の次の成功へ、あなたの空想はどこまでも、どこまでも広がっていった。
NORMAL END

※ユニークアイテムの情報が公開されます
■置き去りのマント / マント・オブ・アンチソニック
防御補正 0
不確定名 : ?外套
掠れた緑色の外套
魔力を注ぐ事で音を置き去りにする力を持つ
対【触腕の怪物】メタアイテム
◆特殊能力
【置き去り】
魔力を消費する事で、着用者に五分間の【置き去り】状態を付与する
この状態では着用者の周囲の音速が低下する
聴覚が鋭い魔物や、音をトリガーとする罠を対象とした命中・回避・被害判定に有利な補正を得る
【ボロボロ】
このアイテムに物理・魔法を問わず衝撃が加えられた場合、装備破壊判定が発生する
この判定の難度は判定に成功する度に上昇していく

※売却したアイテムが完全鑑定されました、全ての情報が公開されます
■粘液塊の核の欠片
葉脈の迷宮に棲息する粘液塊を生命たらしめる核、その欠片
◆特殊能力
【脆弱 : 炎】
このアイテムは炎に対して極端な脆弱性を持つ
着火した場合、激しい反応を起こしながら数分間爆発を繰り返した後、崩壊して液化する
【侵食 : 水】
このアイテムは水に対する侵食能力を持つ
水の中に入れておいた場合、数時間をかけて周囲の水を強酸性の粘液に変化させる
この粘液が生命を持つ事はない
欠片一個につき一リットルの水を侵食できる
限界量を侵食すると、この能力は失われる

■マナ・イーターの蕾
緑の葉に覆われた、開きかけの蕾
潤沢な魔力を内包している
◆特殊能力
【魔力回復】
この蕾に含まれる蜜を摂取すると、魔力を回復する事ができる
【昏睡毒】
この蕾に含まれる蜜を摂取すると、毒による昏睡判定が発生する
短時間での連続摂取を行うと、判定難度が上昇していく

■異形の脚槍
攻撃補正 : 4
異形の脚が持つ鋭い刃
槍の穂先のような形状をしており、無加工でも高品質の刃物として扱える
◆特殊能力
【無し】

■異形の脚
七つの間接を持つ異形の脚
◆特殊能力
【魔力遮断】
このアイテムを覆う甲殻は魔力の伝播を完全に防ぐ
魔力ダメージを無効化する
この能力は甲殻がどれだけ小さく砕けても失われない
【脆弱 : 物理】
このアイテムを覆う甲殻は物理的衝撃に対する脆弱性を持つ
耐久値を超えるダメージが加えられた場合、細かく砕けて崩壊する

※あなたが今回の探索で獲得した魔物の情報を表示します(アイテムの完全鑑定で判明した情報を含む)
■不確定名 : 粘液塊
無色透明の粘液で構成された不定形の生命体
粘液は強酸性を持つ
【筋力】 不明
【耐久】 不明
【敏捷】  4
【感覚】 不明
【知識】 不明
【意志】 不明
【魔力】 不明
◆特殊能力
【強酸性】
この生物の体は強力な酸属性を持つ
接触した対象に被害軽減を無視した固定値の酸属性ダメージを与える
このダメージは接触している限り追加発生し続け、その度にダメージ量が増加していく
【不可視の肉体】
この生物は肉眼では容易に捉えられない無色透明の体を持つ
目視判定に常に-2の補正
この補正は【魔力視】によって無効化される
【脆弱 : 炎】
この生物は炎に対する極端な脆弱性を持つ
この能力に関するこれ以上の情報を、あなたは持たない

■不確定名:触腕の怪物
球状の頭部と十数本の触腕を持つ怪物。
触腕の長さは成人男性の身長を超え、太さはあなたの腕とほぼ同等。
触腕と触腕の間には薄い膜がある。
頭部は成人男性の腕で一抱え程で、内部には脳や心臓といった重要な器官が収納されている。
ただし、その柔軟かつ強靭な表皮を超えてダメージを与えるには短剣では難しいとあなたは感じた。
火の中で弾ける粘液塊の核の欠片に対し、極端な攻撃性を発露させていた。
また、その際攻撃に用いた触腕は変色し白濁化していた。
あなたはこの怪物の触腕の一部と体液を摂取したが、少なくとも短時間は深刻な悪影響はなかった。
【筋力】 14
【耐久】  7
【敏捷】  6
【感覚】  9
【知識】 不明
【意志】 不明
【魔力】  3
◆特殊能力
【不可視の肉体】
この生物は肉眼では容易に捉えられない無色透明の体を持つ。
目視判定に常に-2の補正。
この補正は【魔力視】によって無効化される。
【瞬発力】
この生物は極めて高い瞬発力を持つ。
静止状態からの初撃の回避判定に-5、追撃に-3の補正。
この能力の代償としてこの生物は持久力に欠け、長時間の全力行動を行った場合、あらゆる能力が低下する。
【マナ・エクスチェンジ / 粘液】
この生物は魔力を潤滑性の高い液体に変化させて運用する。
トラップとして利用した場合、踏み入った対象を確実に転倒状態にする。
身に纏った場合はあらゆる物理的ダメージを50%軽減する。
この能力は主に、休息・睡眠・逃走において使用する。
【鋭敏な聴覚】
この生物は敏感な聴覚を持つ。
聞き耳判定に常に+1の補正。
また、一定距離内の音を絶対に聞き逃さない。

■マナ・イーター
魔力を持つ生物に寄生し繁殖する蔓植物。
自然界には有り得ない程の甘みを持つ毒蜜によって動物を誘引し、昏睡させた獲物から魔力を吸って育つ。
蜜の摂取や、長時間の接触、または魔力欠乏時の接近等を行わない限り、危険は無いとされる。
【筋力】 1
【耐久】 1
【敏捷】 1
【感覚】 1
【知識】 -
【意志】 -
【魔力】 3
◆特殊能力
【魔力吸収】
この生物は魔法【マナ・ドレイン】と同等の魔力吸収能力を持つ
ただし、非接触状態では吸収量は90%低下する
【有毒】
この生物は毒を生成する事が出来る
毒は主に蕾の蜜に含まれ、一定量以上を摂取した生物に毒による昏睡判定を発生させる
短時間での連続摂取を行うと、判定難度が上昇していく
【蕾生成】
この生物は蕾を生成する事が出来る
蕾の中には非常に強い甘みを持つ蜜が含まれる
あなたはこの能力に関するこれ以上の情報を持たない

■不確定名 : 異形の脚
奇妙な七つの間接の脚を六本持つ、異形の生物
脚の先には槍の穂先のような鋭い爪が生えている
胴体は三日月のような形状で、先端を前方と後方に、それぞれ地面へと向けている
厚みは最も太い部分で拳二つ分ほどで、内部には青い体液と黒い繊維質だけが詰まっている
胴体の前面中央部には単眼があるようだが、魔力視以外で確認する方法は無い
体表は薄い甲殻に覆われ、魔力を遮断する能力を持つようだ
【筋力】 不明
【耐久】  4
【敏捷】  9
【感覚】 不明
【知識】 不明
【意志】 不明
【魔力】  8
◆特殊能力
【魔力遮断】
この生物を覆う甲殻は魔力の伝播を防ぐ
魔力ダメージを無効化する
【闇色の甲殻】
この生物を覆う甲殻は闇に完全に溶け込む奇妙な色彩を持つ
暗闇の中での目視判定に-3の補正
【???】
あなたはこの能力に関して詳細な情報を持たない
【???】
あなたはこの能力に関して詳細な情報を持たない
【脆弱 : 物理】
この生物は物理的ダメージに対する極端な脆弱性を持つ

■???????・????
あなたはこの生物に関して詳細な情報を持たない

今回の探索結果はこんな感じでした。
探索目的【宝物の入手】における最大のトラップが発動した感じです。
なお、魔晶石以外の戦利品の値をABC評価で出すと、以下のようになります。
核の欠片 : C
粘液塊は迷宮において割合ポピュラーな部類であるが、核が残るケースは少ない。
必然、その希少性から高値で取引されている。
今回は欠片であったために多少値が下がった。
蕾の蜜 : A
今回初めて発見された毒。
その性質から超高額の値がついた。
ただし、採取が比較的容易である以上、情報が出回れば値下がりが予想される。
異形の脚 : B
同種の能力を持つ素材の内、形を失っても能力を保ち続けるケースは極めて希少。
魔力に関する研究に利用するため粉状に磨り潰され、研究畑の魔術師達が争って買い求めた。
なお、置き去りのマントは用途不明な上に見た目が酷く、値が付きませんでした。
今回のあなたが大事に抱えていると思われます。

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