最終更新:ID:aQukXWGIag 2024年02月22日(木) 20:19:52履歴
彼女は美しい波のように | |
家族とは、よく旅行に行きました。中でも、海辺に行くことが多かったんです。父も母も、海が好きなので。 | |
弟 | 姉ちゃん!見て!大きい枝見つけた!……姉ちゃん? |
父 | 美波、今日は元気がないな。 |
母 | 夏休み前にもらった通知表のことで、少し……ね? |
父 | いい成績だったじゃないか。 |
美波 | ……でも、少し大人しいって。積極的に前に出ようとしないのが玉に瑕って。……大人しい美波は、駄目なのかな……? |
弟 | えー、真面目に考えすぎ。別にどんな姉ちゃんでもいいじゃん。 |
母 | ……ねぇ、美波。美波という名前は、お父さんがつけたの。時に激しく、時に優しいあの波のようにって。 |
母 | 美波はどんな子でもいいの。優しくても、激しくても。大人しくても、やんちゃでも。 |
母 | ただ、自分が美しいと思えることを成したらいいの。 |
美波 | ……?それって、どんなことをすればいいの? |
父 | 自分の胸が高鳴る道を選ぶんだ。それが、美波の可能性を広げるから。 |
父 | 様々な表情を持つ波のように、美波を心の豊かな子にしてくれるだろう。 |
何かに挑戦する時、私は今でもその時のことを思い出します。 | |
私は、美波という名前に相応しい人間になれているだろうか。胸が高鳴る方へ、進んでいるのだろうか、と。 | |
美波 | うーん……できることなら、全部のお便りに答えたいけど……あれ?このお便り……。 |
美波 | あ、プロデューサーさん、お疲れさまです!ちょうど、次のお仕事のお便りを選んでいたところなんですよ。 |
美波 | ほら、ラジオの番組の。毎回違うアイドルが、ファンの方からお便りや質問をもらってトークをするんですよね。 |
美波 | 私へのお便りは、お悩み相談が多いかな?頼れるお姉さんって思えてもらえてるなら、嬉しいです♪ |
美波 | あの……それで、お悩み相談の中でも気になったのが、このハガキで。家族と喧嘩しちゃったみたいなんですけど、 |
美波 | 他にもいろいろ思い悩んでいるみたいで……。電話とかで、直接この子の相談に乗れないかなって……。 |
美波 | え?プロデューサーさんが、番組と差出人の子にかけあってみてくれるんですか?ありがとうございますっ! |
女の子 | えっと……もしもし。美波ちゃん、聞こえてますか……? |
美波 | はい、聞こえてますよ♪お便り、どうもありがとう。さっそくだけど、相談に入ってもいいかな? |
女の子 | は、はい。実は……高校受験のことで、家族と喧嘩しちゃって。私が悪いし謝らなきゃって思ってるけど、 |
女の子 | 勇気が出なくて……。美波ちゃんに、背中を押してほしいなって…… |
女の子 | 美波ちゃんのお家は仲が良いから、こんな相談、困るかもしれないけど……。 |
美波 | ううん、そんなことない。私も、お父さんによく過保護だって怒っちゃったり、逆に、弟には過保護だって |
美波 | 怒られたりするの。だから、仲が良くても、喧嘩しちゃうことってあると思うんだ。 |
美波 | その上で、まずは私に相談してくれてありがとうって伝えたいな。自分のことを話すのは、勇気がいることだから。 |
女の子 | ……美波ちゃんも、そうなの? |
美波 | うん。私も友だちに、自分のことをあんまり話さないねって言われたことがあるよ。 |
友人A | サークル合宿所の申請と、経費の計算まで!?全部美波がやったの!? |
美波 | うん、みんな、レポートで忙しそうだったから。余計なお世話だったかな? |
友人B | ううん、そんなこと、全然ない。でも……たまに心配になるよ。 |
友人A | 美波は自分が困ったこととか、悩んでることとか、あんまり話さないもん。なのに、誰かが困ってるとすぐ助けるから…… |
友人B | ひとりで頑張りすぎてるんじゃないかなって、心配になるの。私たちにも、少しは頼ってほしいよ……。 |
美波 | それから、私も自分のことを話すようにしてるけど…… |
美波 | …「助けて」とか、「背中を押して」とか、誰かに頼ろうとすることは、すごく勇気がいることだって、わかったの。 |
美波 | だから、言おうとして、胸がぎゅってしちゃった時もあるよ。 |
女の子 | ……そんな時、美波ちゃんはどうしてるの? |
美波 | そうだなぁ。力を抜いて、周りを見てみる、かな。深呼吸してもいいかも。 |
美波 | (深呼吸して……うん、大丈夫っ) |
美波 | あのね、誰かサークル費の徴収、手伝ってくれる?ひとりだと、どうしても授業で会えない子もいて…… |
友人A | もちろん!……美波、頼ってくれて、ありがとね。 |
友人B | 美波、いつも頑張ってるもん!たまには私たちにも手伝わせて! |
美波 | どう?力を抜いて、深呼吸して……何か見えたものはある? |
女の子 | えっと……美波ちゃんの、ポスターとCDが見えます。 |
美波 | ふふっ、そうなんだ?ポスターもCDも、飾ったりしてくれてるのかな? |
女の子 | はい。特にCDは……美波ちゃんに憧れるきっかけになったものだから……。 |
美波 | ありがとう。じゃあ、家族の人に謝りにいく時は、私のCDやポスターを見て、思い出してね。 |
美波 | 美波はいつでも、貴方を応援してるから♪ |
女の子 | あ、ありがとうございます。それで、えっと……もう一個、相談って、大丈夫ですか……?それとも、時間が……。 |
美波 | まだ大丈夫だよ。ハガキに書いてあったことかな?「憧れている美波ちゃんみたいになれない」って。 |
女の子 | はい、それです……。ずっと続けていたスポーツを……受験があるからって、家族と相談して、やめました。 |
女の子 | それで、志望校は決めたんですけど……高校に入ったら何しようって考えても、何も浮かばなくて…… |
女の子 | 勉強にも身が入らなくて、家族とも、喧嘩になりました。それから、ずっとぐるぐる考えちゃってるんです。 |
女の子 | どうせやめちゃうなら、今まで頑張ってきたスポーツは無駄で、最初から始めなければよかったんじゃないかって…… |
女の子 | それとも、今している勉強が無駄で、スポーツを続けた方がよかったのかなって……。 |
女の子 | 美波ちゃんは、勉強も運動もできて、資格もたくさんとってて、憧れだけど…… |
女の子 | 私じゃ、もう、美波ちゃんみたいになれないってわかったら……そんな自分が、嫌いになっちゃって……。 |
美波 | そんなこと言わないで。私は貴方のこと好きだから。 |
女の子 | え……? |
美波 | だって、まだ少し話しただけだけど、貴方がまっすぐで、頑張ってること、私にちゃんと伝わってきてるもん。 |
美波 | 貴方の努力は、無駄なんかじゃないよ。だから、憧れも目標も諦めてほしくない……自分を、嫌いになってほしくない。 |
女の子 | 美波ちゃん……。 |
美波 | 私ね、貴方がスポーツで積み上げてきたのは、未来への可能性だと思うんだ。 |
美波 | 試合で活躍したことや、たくさん練習したこと……嬉しさも悔しさも、きっと未来の貴方の糧になるよ。 |
美波 | だから、それを無駄という言葉で切り捨てたりしないでほしいんだ。 |
美波 | それに、受験勉強は、新しい挑戦だって思う。上手くいかなかったり、空回りをすることだってあるかもしれない。 |
美波 | だからって、全部を諦めて終わらせないでほしいの。 |
美波 | たくさん考えてみて、もし迷った時は……胸が高鳴る方を選んでほしいな。 |
女の子 | じゃあ……欲張って、両方選ぶのもいいの?上手くいかないかもしれないのに……。 |
美波 | うん。どんな挑戦でも、上手くいかない可能性はある。でも、上手くいかなかったことも、無駄じゃないよ。 |
美波 | 学べることだって、たくさんあるから。 |
美波 | それに、貴方には、迷ったり考えたりできるくらい、たくさんの可能性があるの。 |
美波 | だから、全てを諦めて、無駄だったって決めつけるのは、まだ早いと思うんだ。 |
女の子 | そっか……私、両方選んでもよかったんだ……。お父さんにも、お母さんにも……そう言ってよかったんだ……。 |
女の子 | 美波ちゃんは、すごいね!何でもできるし、やっぱり私の憧れだよ。 |
美波 | ふふ、もし貴方からそう見えていたのなら、嬉しいな。でも……私もね、実は何でもできるわけじゃないんだ。 |
美波 | こうありたいって理想があって、それに向かって、頑張ってる……まだ、たくさんのことに挑戦してる途中なの。 |
女の子 | じゃあ、もしかして、アイドルも、挑戦だったの? |
美波 | もちろん。……スカウトされた時も、アイドルになるかどうか迷ってたんだ。 |
美波 | 挑戦ではあると思ったけど、アイドルになった後のこと……アイドルだからこそできる、私のやりたいことを、 |
美波 | 明確に思い描けなかったから。受験勉強で迷ってた貴方と、同じだね。 |
女の子 | 美波ちゃんも、迷って……それで、どうしたの? |
美波 | スカウトの時に名刺をくれたプロデューサーさんとね、少し話したの。それから、考えてみたんだ。 |
美波 | 自分はどんなアイドルになれるんだろうって。いろんな可能性を秘めたアイドルになれたらいいなって。 |
美波 | 時に激しく、時に優しい……様々な表情がある、波のようなアイドルに。 |
美波 | あとは、想像もしてみたかな。たくさんの人と支え合って、ステージに立った時……どんな景色が見えるんだろうって。 |
女の子 | ……実際には、どんな感じだったの? |
美波 | 光と拍手、歓声がいっぱいで、想像した通り……ううん、想像以上に、ドキドキであふれた景色が広がってたよ。 |
女の子 | ……私も、美波ちゃんみたいにドキドキする景色を見てみたいな……。 |
美波 | 見られるよ。きっと。 |
女の子 | ……うんっ!美波ちゃん、私、もう少し考えてみる!やりたいことや、私が見たい景色のこと! |
女の子 | 今日は、相談に乗ってくれてありがとう! |
美波 | こちらこそ、話を聞かせてくれてありがとう。また、自分の進む道を決めたら教えてね♪ |
美波 | (プロデューサーさん……新しいお仕事に触れて、私にはもうひとつ、なりたいアイドル像ができました) |
美波 | (努力する人、頑張ろうとしている人の、背中を押す……寄せては返す波のように、人の心に優しく寄り添う……) |
美波 | (そんなアイドルの可能性に、また挑戦してもいいですか?やってみたいって、私の胸も高鳴り続けているから!) |
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