事務所 | |
――これは、いつも仕事ばかりだった私が、初めて友だちと味わう、ささやかなバレンタインデーのお話。 | |
もぐもぐ。 | |
泰葉 | (……このお店のチョコ、美味しい。ほろ苦くて……カカオの風味のすごくて、濃厚だ……) |
泰葉 | (男性には、やっぱりビター……?ううん、甘いチョコが好きな人だっているよね……) |
モデルの時は、やっぱり女の子のファンが多くて。子役でドラマに出ると、大人の人のファンが増えて……。 | |
アイドルになってからは、男性のファンも増えた。今では、様々な人が、私を応援してくれていた。 | |
泰葉 | (難しくても、ファン全員に喜んでもらえるチョコを渡したい……) |
フレデリカ | あれー?岡崎のヤスデリカちゃんんだ!元気? |
清美 | 何変なあだ名をつけてるんですか……。お疲れさまです、泰葉さん。 |
清美 | この、いろんなお店のチョコの山は……もしかして、次の仕事に向けての勉強ですか? |
泰葉 | はい。恥ずかしいけど……私のバレンタインの経験は、買ってきたチョコを、スタッフのみなさんに配るくらいで。 |
泰葉 | 手作りチョコとはほとんど無縁だったので、形とかトッピングとか、勉強したくて。 |
清美 | 泰葉さんは真面目で頑張り屋なんですね。すごく好感が持てます! |
泰葉 | そんな……私は、別に……。 |
清美・フレデリカ | 別に……? |
泰葉 | いえ……頑張ってました!ファンのみなさんを、笑顔にしたいから! |
フレデリカ | その素直さ、いいねー♪100デリカポイントを追加しとくね! |
清美 | 一体何のポイントなんですかそれ! |
泰葉 | ふふっ……。 |
フレデリカ | おっ?スマイルいただき☆追加で200デリカ〜♪ |
泰葉 | あ、すみません。とても面白くて……優しい言葉をくれるなーって思ったんです……。 |
泰葉 | 以前の私は、周りの子は全員ライバルだと思ってました。大人にも、生意気な子だって思われたくなくて……。 |
泰葉 | もっと、素直に考えていたら、今みたいに、ちゃんと楽しくお話しできたのかなって。 |
清美 | 以前ということは、今の泰葉さんは違いますよね! |
泰葉 | はい。今はみんな……ライバルだけど、仲間だから。 |
泰葉 | プライベートの写真が少ないって言ったら、一緒に撮ってくれたり……。 |
泰葉 | みんなが仲良くしてくれて……私、今すごく楽しいんですっ! |
清美 | ふふっ、プロデューサーもそんな泰葉さんを見て、喜んでましたよ! |
フレデリカ | そーそー☆楽しそうに仕事してくれて、1000デリカ満点だって! |
泰葉 | そっか……最近、よく顔を覗き込まれるなって思ってたんです。そういうことだったんだ……。 |
泰葉 | あの、よかったら、もっとお話ししませんか? |
フレデリカ | じゃあじゃあ、ヤスハちゃんのチョコでおやつタイムにしていい? |
泰葉 | どうぞ。たくさんあるので、好きなだけ食べてくださいね。 |
フレデリカ | ごちそうさまー!人間って、チョコだけで満腹になれるんだねー♪ |
清美 | でも、まだたくさん余ってますね。私たちはこの後レッスンがありますし……。 |
泰葉 | 実は……ラッピング用品も買ってるんです。練習しようと思って。 |
清美 | なるほど。本番でも、チョコ作りからラッピングまですべて自分で行いますもんね! |
フレデリカ | 可愛くラッピングできたら、事務所にいる人に配ればいいと思うよ!メリーバレンタイン!って♪ |
こうして、私はレッスンにいくという二人を見送って、差し入れをしようと、事務所を歩くことにしました。 | |
泰葉 | (とはいえ、誰に渡せばいいのかな。……あ、あそこにいるのは……) |
泰葉 | 白菊ほたる、さん……? |
ほたる | あ、えっと……。 |
泰葉 | 同じ事務所の岡崎泰葉です。よろしくお願いします。 |
ほたる | あ、こちらこそ……よろしくお願い…… |
くぅ〜 | |
泰葉 | もしかして、お腹空いてますか?ちょっと元気がないようにも見えますし……。 |
ほたる | す、すみません……!レッスンに集中してて、気づいたらお昼で……。 |
ほたる | お弁当を食べようとしたら、カバンの底が抜けて……お弁当がひっくり返って落ちちゃって……。 |
ほたる | コンビニに行ったら、お客さんがいっぱい来てて、棚には何もなくて……。他のお店も改装中で……。 |
泰葉 | わぁ、大変でしたね……。あ、それなら……よかったら、これ、どうぞ。 |
ほたる | チョコレート……? |
泰葉 | うん。たくさん買ったら、余っちゃったんです。ご飯にはならないけど……何か食べたほうがいいですよ。 |
ほたる | あ……ありがとうございます。本当に……ありがとうございます……っ! |
泰葉 | どういたしまして。あんまり無理しないでくださいね。 |
ほたる | は、はい……! |
泰葉 | (あ、会議室にも誰かいる……彼女はたしか、関裕美さん) |
裕美 | 次のビーズは……ステージに合わせるならピンク……?でも、緑も綺麗かな……? |
泰葉 | わぁ……!綺麗なアクセサリー……! |
裕美 | きゃっ! |
泰葉 | わっ、すみません……綺麗だったからつい……。集中力、切れちゃいましたよね……? |
裕美 | ううん。気にしないで。ずっと根詰めてたから、そろそろ休憩しようって思ってたところだし。 |
泰葉 | 休憩……なら、よかったらこれ、どうぞ。チョコレートです。 |
裕美 | チョコレート?もらっていいの? |
泰葉 | はい。事務所にいる人たちに差し入れで渡して回ってるんです。 |
裕美 | ありがとう。ラッピングも丁寧で綺麗……。この青いリボンも、可愛いね。 |
泰葉 | 本当?実は、自分であんまりしたことなくて……もっと可愛くできたかもって思ってるんだけど……。 |
裕美 | うーん……今でも十分可愛いと思うけど。それなら、リボンの上にシールを貼るといいかも。 |
泰葉 | なるほど……リボンを買ったお店には、シールは売ってなかったんです。今度、探してみようかな。 |
裕美 | それなら、事務所の近くにある雑貨屋さん、知ってる? |
裕美 | 私、そこによくビーズとか買いにいくんだけど、クラフトシールもたくさん置いてあるんだ。 |
泰葉 | そっか。ありがとう。行ってみます。 |
裕美 | どういたしまして。バレンタインのお仕事だよね?頑張って。 |
泰葉 | はいっ。 |
泰葉 | (白菊ほたるさんに、関裕美さん。……二人とも、ちょっと私に似てるかも) |
泰葉 | (真面目で、頑固で、たまに集中しすぎちゃうところとか……なんて言ったら、失礼かな?) |
泰葉 | (また今度、ゆっくり話したいな……。友だちに、なれたらいいな) |
千鶴 | あ、泰葉さん。お疲れさまです。 |
泰葉 | 千鶴ちゃん、お疲れさまです。あ……連絡先、交換したのになかなか連絡できなくてすみません……。 |
千鶴 | いえ、お互いに仕事がありますし、忙しいのはいいことで…… |
千鶴 | でも……私は……オフを合わせて、遊園地とか、行ってみたいな……。 |
泰葉 | いいですね、遊園地。私も行ってみたいです。 |
千鶴 | ハッ……!言葉、漏れてました……!? |
千鶴 | またやっちゃった……。どうして私はいつもこう……! |
泰葉 | 千鶴ちゃん?えっと、その……。 |
泰葉 | (何かフォローしたい……けど、どうしよう……?) |
泰葉 | あ、そうだ。チョコ。チョコあげますね。さっきラッピングしたやつなんですけど。 |
千鶴 | チョコ……?そっか、バレンタインも近いし、友チョコを……。 |
泰葉 | えっ……? |
千鶴 | あ、違いますよね!?お仕事の相手に配る義理チョコですよね!? |
千鶴 | すみません、私なんかがおこがましいこと言って……! |
泰葉 | ううん、違わない、違わないですっ! |
泰葉 | 私の方こそ、いつも渡すのは義理チョコばかりで、友チョコっていう発想がなくって……! |
泰葉・千鶴 | ふふっ。 あははっ。 |
泰葉 | それじゃあ、改めて……私からの友チョコ、受け取ってくれますか? |
千鶴 | もちろん。ありがとうございます。 |
――これは、いつもお仕事ばかりだった私が、初めて友だちと味わう、ささやかなバレンタインデーのお話。 | |
そして、たくさんの友だちに囲まれる未来を、想像できた瞬間。 | |
泰葉 | みんな、ライバルだけど、仲間で……それから、友だち、かぁ……ふふっ♪ |
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