| 寮の自室 |
| ガサゴソ ガサゴソ…… |
裕美 | う〜ん……何かいいのあったかなぁ……? |
裕美 | (最近の写真を送ってほしいだなんて……お母さんったら、簡単に言ってくれちゃうんだから) |
裕美 | (でも、昔は写真の話なんて全然してこなかったもんね。私が目つきを気にしてたこと、お母さんは知ってたから……) |
裕美 | (こういうちょっとしたことで、お母さんが応援してくれるって伝わってきて……くすぐったいけど、嬉しいな) |
裕美 | ……あ、この写真。初めてのLIVEのときの……ふふっ、懐かしいな。 |
裕美 | (今より笑顔がぎこちなくて……でも、昔の私と比べれば、ずっと笑えてるよね) |
裕美 | (昔は……目つきを気にして、ちっとも笑えなかったから。それどころか、真っ直ぐに前を見ることさえできなくて……) |
同級生 | ……関さんさ、私に何か言いたいことがあるんじゃない? |
裕美 | え、別にないけど……どうして? |
同級生 | だって、怖い顔してるから……不満があるなら、ちゃんと言ってほしいなって思ったの。 |
裕美 | ふ、不満なんてないよ!?本当に、全然……! |
同級生 | そう?なら、いいんだけどさ……。 |
|裕美|(また、誤解されちゃったな……。でも、仕方ないか。だって、ずっとずっと“そう”だったもんね
| 普通の顔をしているのに、怒った顔、怖い顔……と言われるのは、もうすっかり慣れっこで。 |
裕美 | ……だけど、傷つくことにはなかなか慣れないな。 |
| 目は口ほどに物を言うって言葉があるけれど…… |
| 私のこの目は、私の本当の気持ちをこれっぽっちも伝えてくれなくて、悲しい誤解ばかりを生むんだ。 |
| パラ…… |
裕美 | 私も、この雑誌モデルさんみたいに、前髪を作ってみようかなぁ……。 |
裕美 | (目つきを隠したいし……でも、私の場合、少しでも顔を明るく見せないといけないから……うーん……) |
裕美 | (あれ、このモデルの子って、アイドルなんだ。へえ……笑顔が華やかで、すっごく可愛いな) |
裕美 | 私もこんな風に笑えたら、世界が……毎日が、もっと輝いて見えるのかも。 |
裕美 | (誰かの視線に怯えずに、顔を上げて……目を見て、お喋りできるかもしれない) |
裕美 | (そしたら……本当の私を知ってもらえるんじゃないのかな?) |
裕美 | (誤解なんてされずに、ありのままの私を……) |
裕美 | ……って、何考えてるんだろう、私。 |
裕美 | (学校でだって、自分を正しく伝えることができないのに、もっと大勢の人に見られるなんて、耐えられる?) |
裕美 | (私にはきっと……無理だよ) |
| アイドル、笑顔、「可愛い子」。 |
| 私にとって、とても遠くて、眩しい世界の話。 |
| そうわかっているのに……惹かれちゃうのは、やっぱり魅力的に思えるから。 |
| 私も……なんて、届かない夢を見ちゃうんだ。それって、いけないことなのかな? |
友人 | 裕美から話があるなんて、珍しいね。どうしたの? |
裕美 | …………あのね、実は私……オーディション、受けてみようかなって思ってて……。 |
友人 | オーディション?なんの? |
裕美 | ア、ア……アイドルの……。 |
裕美 | (改めて言葉にすると、ちょっと照れるな……) |
友人 | ……アイドル?えっと、本気……? |
裕美 | うん。しばらく一人で考えてて……やっと、決めたの。 |
友人 | え、ちょっと待って。急に言われても考えが追いつかないし……。 |
友人 | そもそも裕美、カメラの前でちゃんと笑えるの?緊張すると、顔こわばっちゃうタイプじゃん。 |
裕美 | それは……。 |
友人 | そ、それにさ、まずはその目つき直してからだよ!アイドルって、もっとニコニコしてるもんだし! |
友人 | 芸能界に興味があるなら、スタイリストとかでもいいんじゃない?ほら、裕美、アクセとか好きでしょ? |
友人 | だから、そんな、厳しそうな道をわざわざ選ばなくても…… |
裕美 | …………。 |
友人 | …………あ、ごめん。怒らせちゃった、かな……。 |
裕美 | 怒……ってないけど、ただ、ちょっと……。 |
友人 | ちょっと? |
裕美 | ……私、見に行ってくる。どんな感じなのか……本当に、私に無理なのか、自分の目で、確かめたいから! |
友人 | えっ、ええっ?裕美!? |
| 怖い顔、って言われるのは慣れっこ。そう、強がってみたけれど…… |
| 本当は、怖がられない子になりたかった。 |
| 笑うことに慣れて……それで、たまにでもいい。笑顔が可愛いねって、言ってもらえる子になりたかったよ。 |
| だから、私は走ったんだ。何かに……誰かに、強く導かれるように。 |
裕美 | あれ、こんな写真、いつの間にか撮ってたんだ。 |
裕美 | ……ふふ、私、こんな風にも笑えるようになったんだね。 |
裕美 | いい写真だけど、これはお母さんには送れないな。 |
裕美 | プロデューサーさん……あなただけに、向けた笑顔だから。 |
コメントをかく