| 松尾千鶴特集記事・取材 |
インタビュアー | ――では次に……松尾さんは、なぜアイドルになろうと思ったのですか? |
千鶴 | ええと、それは……――――。 |
先生 | はーい、じゃあみんな、今度のお遊戯会でやる劇の、お姫様役を決めたいと思います! |
先生 | やってみたい子は手をあげてくれるかなー? |
ちづる(6) | (お姫さま……きっと、可愛くてキラキラしたドレスを着るんだ……) |
ちづる(6) | (やってみたいな……) |
園児 | はいっ!はいっ!わたしやるっ! |
園児 | あたしもやりたいですっ! |
ちづる(6) | あ、わ、わたしも……わたしもやりたいです! |
先生 | ええと、いち、に、さん……6人かー。今回は1人だけだから……オーディションをしましょう! |
ちづる(6) | おーでぃしょん……? |
やえちゃん | つぎはわたしの番ね!がんばりますっ♪ |
ちづる(6) | (あっ、この子、げきだんにはいって子役やってる子だ!わぁ……やっぱりすごい!) |
ちづる(6) | (わ、わたしもこの子みたいにハキハキしゃべって、まっすぐ立って、えがおもだいじだし、セリフも……) |
ちづる(6) | (わたしに……できるのかな……?) |
| パチパチパチパチ…… |
ちづる(6) | (みんなのはくしゅも、いっぱいだぁ……) |
ちづる(6) | (セリフ……なんだっけ、どうしよう、どうしよう……!) |
先生 | 千鶴ちゃん、千鶴ちゃん?大丈夫かな?千鶴ちゃんの番だよ? |
ちづる(6) | えっ?もう!? |
ちづる(6) | あっ、えっと、えっと……! |
ちづる(6) | あの、えっと………………ごめんなさい、セリフ……わかんなくなっちゃいました……。 |
先生 | あら……じゃあ、次の子に先にお願いしようかな?千鶴ちゃんは、また後でね? |
ちづる(6) | は、はい……。 |
ちづる(6) | あーあ……うまくできなかったな……。 |
やえちゃん | ちづるちゃん、げんきだして! |
ちづる(6) | やえちゃん……おひめさま、おめでとう……。すごいね。がんばってね。 |
やえちゃん | あたりまえだよ!だってわたし、ちゃんと劇団でおべんきょうしてるもん! |
やえちゃん | なんにもしてないちづるちゃんとはちがうんだよ?それにそれに、わたし、一番かわいいもん! |
ちづる(6) | やえちゃん……そうだね。……やえちゃんは、おひめさまみたいに可愛くて、きらきらしてた…… |
ちづる(6) | (わたしは……おひめさまみたいに、かわいくないから……) |
千鶴(10才) | ビッ、ビンゴ!! |
おともだち | わぁっ!おめでとう千鶴ちゃん! |
先生 | は〜い、ビンゴ大会特賞のファンシー文具セットは、千鶴ちゃんに当たりました〜♪みんな、拍手〜! |
クラスメイト | ワァァァ……! |
| パチパチパチパチ…… |
千鶴(10才) | ふふ……♪(やった、うれしいな……!この文具セット、とっても可愛いから……!) |
おともだち | すご〜い、可愛いね♪いいなぁ千鶴ちゃん!でも千鶴ちゃんって、そういう可愛いの使うっけ? |
千鶴(10才) | あ……。えっと……。 |
千鶴(10才) | (私がいつも使ってるのって、地味なやつだし……やっぱり、変かな……?) |
おともだち | あたしが当てたこういう大人っぽい方が、千鶴ちゃんに似合うんじゃない? |
千鶴(10才) | あ……うん……。 |
千鶴(10才) | (やっぱり……変なんだ。私が可愛いグッズとか持ってても……似合わないか……) |
千鶴(10才) | あの……よかったら、交換してくれる?そっちの方が、使いやすそうだし……。 |
おともだち | えっ?いいの!?わぁいっ!うれしい!ありがとう千鶴ちゃん♪ |
千鶴(10才) | (すっごく喜んでくれてる……これでよかったんだよね……) |
千鶴(10才) | (私は……間違ってない) |
クラスメイト | ねぇっ、来週のお祭り、みんなで浴衣着ていかない? |
クラスメイト | いいね!賛成!帰ったらお母さんに出してもらおーっと♪ |
千鶴(12才) | ……私は、普段着で行くよ。浴衣持ってないし。 |
クラスメイト | えぇー?せっかくだし、みんなでお揃いコーデしようよーっ!千鶴ちゃん絶対似合うしーっ! |
クラスメイト | うん、似合うと思う!あっ……もしかして、買ってもらえなそう? |
千鶴(12才) | えっと……どうだろ。お母さんに訊いてみるね。 |
千鶴母 | さぁ千鶴、行くわよ♪千鶴はお習字もやってるし、シックな柄が合うかしらね?でも可愛いのもいいわよね〜♪ |
千鶴(12才) | もう……なんでそんなに張り切ってるの……。 |
千鶴母 | だってアナタ普段可愛いお洋服全然着たがらないんだもの!せっかく千鶴が浴衣着たいって言うなら、気合も入るわよ〜♪ |
千鶴母 | あ、お母さんちょっとトイレに行ってくるから、待っててね。 |
千鶴(12才) | はーい……。 |
千鶴(12才) | (そっか……お母さん、嬉しいんだ……。それなら、よかったかな……) |
クラスメイト | あれ、松尾じゃん!キモノ屋の前で何してんの? |
千鶴(12才) | えっ?あ、同じクラスの……なんでここに……! |
クラスメイト | そういや浴衣着て祭り行くって女子たちが騒いでたな。……え!?お前も!? |
クラスメイト | えぇ〜っ?松尾もそういうの着るのか!えぇ〜っ? |
千鶴(12才) | …………………。 |
千鶴(12才) | (そうだよね……私みたいなのが、可愛い浴衣着ても似合わないよね……) |
千鶴母 | 千鶴、お待たせ〜♪じゃ、いきましょうか。 |
千鶴(12才) | やめた。帰ろう。それか、他に買い物あるならそっち行こう。 |
千鶴母 | えっ?なに、どうしたの急に……。浴衣、着るんでしょう? |
千鶴(12才) | 浴衣なんて……着ないよ!私がそんなの着るわけないじゃない!私なんかに……私なんかに |
千鶴(12才) | 似合うわけないんだから!! |
千鶴母 | 千鶴……。 |
| ――それから私は、可愛いものを今まで以上に敬遠して、すすめてくるお母さんにも怒ったりするようになった。 |
| 内心の憧れは、表に出さないように、気をつけながら……。そうしてある日、プロデューサーに出会って―― |
千鶴 | 私がアイドル?冗談はやめてください。芸能界なんて向いてないです。 |
千鶴 | うそうそスカウト?もしかして私でも可愛くなれる!?……ハッ! |
千鶴 | …………。あ、あの……少しくらい、貴方の話を聞いてみようと思うんだけど。 |
千鶴 | アイドルは向いてないけど……でも、前向きになれたらって……思って……! |
千鶴 | 毎日が……すこしだけ楽しくなったっていうか……。ううん、前よりも充実してるかも……! |
インタビュアー | あの〜、千鶴さん? |
千鶴 | ――――あ、えっと、アイドルになった理由でしたよね。それは……、 |
| それは……私を可愛くしてくれる人に、出会えたからです。 |
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