- 朱城徹
- マスター。しかし主人として敬う態度は薄く、「貴様」と呼ぶことが多い。「マスター」と呼ぶのは貴様呼びが不適当な時か、緊急時ぐらい。
印象としては、下手に実戦をかじった素人。といったところ。意欲は十分と感じているが、徹が積み重ねた実戦とサーヴァントの戦いには天と地ほどの開きがある。
そのため、最初に彼の認識の違いを教え込み、以後の戦闘は自分が主導することを約束させたが、教え子のようについて回る徹には若干頭を痛めている。
戦闘のみならず作戦立案に拠点の防備改築や情報収集、必要な資金確保や表世界への根回しなどもワンマンで切り盛りしようとしているが、
流石に何か一つぐらい手伝わせてほしい、と懇願されたことからいくつかの仕事は徹にも渡している。
当初は彼個人に対する関心は皆無であったが、彼が聖杯にかける願い、彼の過去の出来事を知ると態度が極僅かに軟化する。
出生に対するシンパシー、はそこまで感じなかったようだが、「自らを証明するために戦う」という彼の本質を知り、
あえて彼を突き放しながらも感情に任せて戦わず、結果につながる合理的な思考を保つように諭した。
ただ、後になって、それは自分が最期には徹底できなかったことだと内心自嘲もしていた。
「何も稚拙、一からやり直せ。これを拠点などと呼んだところで、蛮族が吹けば飛ぶような荒屋に過ぎん。―――もういい、防御の構築は私がやる」
「もう一つ誓いを立てろ。戦場では自身の身は自身で守れ。しかし、無用に飛び出して私の邪魔もするな。果たせないならば貴様は縛り上げて連れていく」
「……どうした。血相を、変えるな。少し眠っていただけだ……まだ仕事がある。貴様は大人しくしていろ」
「馬鹿馬鹿しい。己を証明する?貴様の言っていることは、証明なくして、他者の評なくして自身を保てないと言っているようなものではないか」
「無力とは、正にそれだ。―――まず最初に、お前はお前で在れ。結果で周囲をねじ伏せるのはその後だ」
「目的に縋るな、感情で動くな、理性を以って結果を獲得することだけを考えろ。魔術師である前に、子である前に、今のお前はマスターなのだから……実力は不服だがな」
「……ああ、馬鹿馬鹿しい。私が、誰かに理想を説ける身であるわけないのに」
- 聖マルガリタ
- 聖人と騎士、竜と魔女。内なる悪を封じて立つ鏡像。
お互いに自身にとって悪性である要素を秘める共通点を持つが、マルガリタが強靭な精神でそれを律して他者に慈悲深くあるのに対して、
アグラヴェインは己ではない規範に縋り、他者には厳しく振る舞う真逆の傾向がある。
マルガリタの宝具が開帳されるまで彼女の正体を知る由はないが、その性質から同族めいた因縁を感じている。
その上で、慈悲を振る舞い施すばかりの彼女の在り方が理由もなく癪に触り、彼女の聖人らしさを否定しようと必要以上の執着を見せる。
とはいえ、拷問を兼ねた攻勢にもマルガリタは簡単に音を上げることはなく、それこそ一層アグラヴェインを苛立たせている。
根底にあるのは、病的なまでの悪性への嫌悪と、自身こそが魔女より生まれた悪性という強烈な自己否定にある。
円卓の騎士としての在り方、騎士王という過ちのないシステムに盲目的に依存することでしか、彼女は己を律せなかった。
故にシステムの崩壊によって心身共に破綻したのがアグラヴェインという卑小な騎士の末路である。
本能的に同類と感じ取ったマルガリタが、あくまで己自身が強く在ろうとすることに、アグラヴェインはどうしようもない劣等感を募らせていた。
マルガリタとの戦いでその想いが爆発した時、アグラヴェインは血塗られた城と共に自身の悪性を曝け出して、
同時に彼女の悪性を引き摺り出し、魂まで穢し尽くそうと襲い掛かる。
しかし、尚もマルガリタが清廉な精神を保ち続けるのであれば、悪の必滅を体現した呪いはアグラヴェイン自身に降り掛かるだろう。