第1種放射線取扱主任者が放射能とは何か、人体に対する影響は、法令はどのようになっているのか、についてわかりやすく解説します。マスコミやネット上の間違ったり、偏った情報に流されまくっている状況に憂慮しています。何か質問がある場合、掲示板を利用してください。気づいたら分かる範囲内でご解答します。

放射線に被ばくし急性障害から回復したあと、その中のある者は数年〜数十年といった長い潜伏期の後に影響が発生することがあります。また症状を発現しないような低線量率で長年にわたって被ばくしたり、あるいは低線量を繰り返し被ばくした後に、ある期間を経て影響が出現する場合があります。
このような影響を晩発障害晩発影響)といいます。
晩発障害としては、発がん、寿命短縮、白内障、再生不良性貧血などがあります。

発がん

放射線によるがんの誘発
放射線によってがん(悪性腫瘍)が発生するといっても、被ばくした者すべてががんになるわけではありません。被ばくした者の群(被ばく群)のほうが非被ばく群(対照群)に比して、がんの発生率が高いということであり、線量が多くなると発生率は増加します。
放射線発がんは確率的影響の1つです。確率的影響はしきい値が存在しないと仮定されているため、どんなに低い線量でも発がんの可能性はあります。また、放射線だけが誘発する特別ながんはなく、自然発生のものや化学物質で誘発されたがんと区別することはできません。

発がんには潜伏期が存在します。白血病被ばく後2〜3年から発生し始め、7〜8年でその発生はピークに達し、以後、次第に発生率は減少します。このように白血病は潜伏期の最も短いがんです。(平均潜伏期としては12年)
これに対して、白血病以外のがんは潜伏期が長く、10年以上を必要とします。
白血病のうち、慢性リンパ球白血病の頻度だけは原爆被爆者で増加していないため、慢性リンパ球白血病のみは放射線で誘発されないとされています。
致死がんの確率と組織荷重係数
a. 致死がんの確率(過剰致死率)
致死がんの確率は、単位線量当量(1 Sv)あたりの致死がんが起こる確率(リスク)で表されます。自然に発生するがんによる致死に対して、放射線の被ばくによって余分に高まる致死という意味で過剰致死率ともいいます。
組織・臓器別の致死がんの確率(名目確率係数)を、全集団(公衆)と作業者についてを以下に示します。
全集団(公衆)は感受性の高い幼児をも含むため、作業者(18歳以上)よりもリスクは高くなっています。

全集団(公衆)及び作業者の組織・臓器別に見た名目確率係数
組織・臓器致死がんの確率(10-2Sv-1
全集団(公衆)作業者
1.100.88
0.850.68
結腸0.850.68
骨髄(赤色骨髄)0.500.40
膀胱0.300.24
食道0.300.24
乳房0.200.16
肝臓0.150.12
卵巣0.100.08
甲状腺0.080.06
骨表面0.050.04
皮膚0.020.02
残りの組織・臓器0.500.40
合計5.004.00

b. 組織荷重係数
この致死がんの確率をもとに計算されたのが、放射線防護の目的で導入された組織荷重係数ωTです。これは実効線量を定義するために導入された荷重係数の1つです。ただし、組織荷重係数ωTは被ばくによる致死がんの確率だけでなく、それぞれのがんの治療できる可能性や重篤度、がんによって潜伏期が異なることなどを考慮して総合的に導き、合計が1となるように規格化し丸めた係数です。
発がん率と致死がんの確率
発がん患者のすべてが死亡するわけではなく、組織・臓器によって治療できる程度が異なるため、放射線による発がん率過剰発生率)と致死がんの確率(過剰致死率)とは区別して使う必要があります
過剰発生率すなわち放射線発がんの起こりやすさから見れば、乳房、甲状腺、赤色骨髄、肺の順となります。しかし、過剰致死率では高い方から肺、赤色骨髄、乳房、甲状腺の順となります。
乳房の発がん率は生殖可能年齢の女性で高く、乳がんの発生にホルモンが関与していることを示しています。男性には乳がんは生じません。
放射線による甲状腺がんの発生率も白血病を上回るわけですが、甲状腺がんは治療によって治る可能性が高く、また症状の進行も遅いので、甲状腺がんによる死亡は少なくなります。
乳房や卵巣の過剰致死率のため、がんによる致死のリスクは情勢のほうが男性よりも約6〜7%高いとされています。
発がんと性別、年齢、生活環境
性別がんによる致死のリスクは女性のほうが男性よりも高い、とされています。
年齢と発生率:甲状腺がんの発生率は幼年と老年との被ばくで大きく異なり、子供の甲状腺は放射線感受性が高く、低い線量でも甲状腺がんが発生します。
白血病も年齢の若い者ほど発生率が高くなります。
一般に、胎児、小児の放射線発がんの発生率は成人よりも高くなります。
年齢と潜伏期:潜伏期と年齢との関係は、白血病とそれ以外のがんとでは異なった関係を示します。
白血病では被ばく年齢が若いほど、発がんまでの潜伏期は短くなります。また、被ばく線量が大きくなるほど、潜伏期が短くなります。
白血病以外のがんでは潜伏期は10年以上とされています。実際には、白血病以外のがんでは、そのがんの自然発生の年齢に達したころから発生の増加が認められるようになります。被ばく年齢にかかわらず、発生開始年齢が定まっていると考えられています。
放射線誘発の肺がんでは、喫煙者のほうが発がん率が高くなっています。これは生活様式が発がん率に影響を及ぼしている例です。
発がんの機構
放射線発がんの機構についてははっきりと改名されているわけではありませんが、現在では、発がんには初発過程と促進過程の2段階が関係するとされています。すなわち、放射線によって突然変異が生ずることが初発イニシエーション)であり、その後何らかの促進因子が働いて、がん発生に発展するのが促進プロモーション)です。このような2段階を経て、がんが発生します。

寿命短縮(加齢促進)

ヒトにおいては、放射線が寿命短縮を起こすという証拠は現時点では何もありません。原爆被爆者には悪性腫瘍(がん)にかかったことによる寿命の短縮は見られますが、がんによる寿命の短縮を除くと、寿命は一般人とは変わりません。このため、ヒトでは放射線による加齢促進(老化促進)による寿命短縮はないとされています。
ただし、動物では放射線による加齢促進つまり寿命短縮はよく知られている現象です。動物では、一般に被ばく線量が大きいほど、また被ばく時の年齢が若いほど、寿命短縮率は大きくなります。ただし寿命短縮率における雌雄の差は認められていません

白内障

白内障は潜伏期が長く、晩発影響の1つであります。確定的影響であり、しきい値が存在します。
眼の水晶体の前面の上皮(水晶体上皮)は細胞再生系で障害を通じて分裂しており、放射線感受性の高い組織の1つであります。水晶体上皮が放射線障害により損傷を受けると、長い潜伏期を経て水晶体の混濁を生じます。混濁の程度がひどくなると視力障害を起こすが、視力障害を伴う水晶体の混濁を白内障といいます。
先天性白内障や老人性白内障と放射線白内障との区別は困難です。
白内障のしきい値は、低LET放射線の1回照射では2〜5Gyです。つまり、1回照射でごくわずかな白内障が生じるのに最低2 Gyが、臨床的に明らかな白内障を起こすのには5 Gyが必要となります。白内障が100%生じるためには10 Gy以上必要となります。
白内障のしきい値は分裂回数や線量率で異なります。たとえば、数カ月にわたる分裂照射ではしきい値は10 Gyと上昇します。白内障のしきい値は年齢依存性でもあります。幼児の被ばくでは成人よりも、かなり低い線量で白内障が起こります。
胎児期の被ばくによって生じる白内障にもしきい値はありますが、放射線感受性が高く、成人と比べてはるかに低いしきい値を示します。
白内障発生の潜伏期はヒトでは平均2〜3年で、その範囲は6カ月〜35年にわたります。潜伏期の長さは線量に依存し、大線量になるほど潜伏期は短くなります。
白内障に対する中性子のRBEは非常に高く(RBE = 10〜20)、0.5 Gyといった小線量でも白内障が発生します。

再生不良性貧血

晩発影響の1つであり、確定的影響でしきい値をもちます。再生不良性貧血は造血系の幹細胞が放射線で損傷を受け、造血機能の低下によって赤血球数の低下が引き起こされます。

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