南のエンプレス

作者:天かすと揚げ玉




南のエンプレス


輝く陽の光に、彼女は溶けて行った

それきり、彼女は戻ってこない

去り際、僕を一瞥した顔を忘れない

透んだ緑色の、あの優しい瞳の色を

「ベッキーさん、ただいまです〜」
酒場の喧騒を、間延びした声が横切った。
 なだらかな曲線を描いて漂う声は、荒くれ者の集まる酒場には場違いに思える。
 ここは、家族連れが食事をする場でも、恋人たちが語らう場でも無い。日々を狩りに生き、狩りで命を閉じる、ハンター達の巣穴なのだ。
「お帰りなさい、ルーファス」
入り口のカウンターで、女性がその声を受け取った。山の洞窟に穿たれた酒場は、常に炎の光に溢れている。踊る炎が、彼女の肌に妖艶な光を落とし、その美しさを際立たせていた。
 多くのハンターがそうである様に、彼もまた、彼女の笑顔を見ると依頼の終わりを実感する。いつもと変わらぬその笑顔に、彼もまたいつもの笑顔で応じた。
 そして、いつものやり取りが交わされるのだ。
「……ベッキーさん、僕ルーファスじゃないですっ。ちゃんとルーファゥスって呼んでくださいよぉ〜っ」
何度この願いをベッキーへ申し出たろうか。その度に、彼女は極上の笑みを返してくれるのだが。
「だって、その響きの方が素敵だと思わない?」
「ううぅ……」
と、その度に笑顔にはぐらかされてしまう。言っても無駄なのだろう。
 そう分かっていても、ルーファゥスはベッキーにすがるような眼を向けてしまうのだ。
 カウンターの上に腰掛け、黙って二人を眺めていた老人が、ため息を投げ掛けた。
「これ、情けない顔をするではない、それでもお主は……」
「ランク20のハンターか?」
これもまた、何回とも言われた台詞である。
 もっとも、今回は老人のお決まりの台詞をベッキーが横取りしていた。
 彼女が可笑しそうに笑い、老人は眉をひそめてタバコをふかすだけだった。

 ハンターの聖地ミナガルデ。
 ここはハンターズギルドに在籍するハンターが依頼を受けるための受付、兼酒場。
 強面のハンターが闊歩する酒場の中に、軟弱な優男や女子供の席は無い。
 ……はずなのだが。

「……マスターの教育が、悪かったんじゃないですかぁ」
などと、口に出せないのがルーファゥスの性格だった。その代わり、彼は老人を恨めしそうに睨んでみせる。それが彼に出来る、精一杯の抵抗だ。
 彼の渾身の抵抗を受けた老人はといえば、我関せずといった様子で、その視線をサラリと受け流した。

ルーファゥス=キルシェ

 その少年の様な顔立ちと、穏やかな性格によって、彼はしばしば誤解を受ける。しかし彼は、ハンターランク20にして、モンスターハンターの称号を持つハンター。望んだとしても、百人に一人も到達できないであろう領域にある、高位のハンターである。
 十七・八歳に見える彼の外見は、実年齢と十八・九歳の開きがあるのだ。そして彼のハンター許可証を見る者は、決まってこう言うのである。
「お父さんのを持ってきたのかい?」
ふわふわした猫毛の髪は、明るい茶色である。同色のくりくりした大きな眼は、好奇心旺盛な少年のそれだった。
 ルーファゥスから受ける印象は、精悍なハンターよりも、捨てられた子犬である。
 だが彼は十四歳から狩りを続けるベテランであり、ベッキーにすら一目置かれる凄腕だった。それは紛れも無い事実である。
「それより……」
「なんですかぁ?」
僕のほうが年上なのに、お兄さんなのに……。
 年上である事を理由に、ベッキーに待遇の改善を要求できるルーファゥスでは無かった。とりあえずのところ、彼女への不満をしまいこむ事にする。視線が拗ねている事だけは、隠し様もなかったが。
 だが、そのせいもあってか、彼女が表情を改めた事には、気付かなかった。
「あの、ね。先週調査隊が南から戻って来て……それでね」
言いにくそうに、ベッキーが言葉を区切った。その声は普段のものよりも低く、これから発される言葉が、歓迎できないものであろう事を示している。
 温かな日差しよりも、焼けるような熱線。潤いの有る風よりは、まとわりつく不安。
 南という言葉は、彼に不吉なものをしかもたらさない。
「……南の女皇帝が、そろそろ寿命……らしいの。貴方が帰ってくるのが、間に合ってよかったわ」
幾度も区切りながら、表情を作り直しながら、ベッキーは難しそうに、それだけを言い終えた。
 だがルーファゥスの表情を見るよりは、それは余程楽であったかもしれない。
 彼女の言葉を聞いた彼の表情は、沈痛と言うには余りにも痛みに沈んでいた。
「そう……ですか」
普段と変わらぬ様子で、ルーファゥスが応える。
 だが、ベッキーには見えたのだ。
 一瞬だけ見せた、彼の表情。
 絶望。
 悲しみ。
 恐怖。
 驚愕。
 彼女が仕事柄手にした観察力。それは、この時ばかりは不幸に働いたかもしれない。
 あんな表情は見たくなかった。
 だが彼だからこそ、そんな表情を見届けてあげるべきだとも思う。
「どうするの?」
「そうですね……どぉしましょぅか?」
ルーファゥスが困った様に笑った。
 失敗をした子犬が、尻尾を振りつつ、小首を傾げた様にも見える。
「あ、えっと、とりあえず今回の報酬はいつものようにしてください。僕はゲストハウスの方で休みますので」
まるで平静に見えるルーファゥスだった。
 だが、カウンターから踵を返す際、彼はブーツで床の木目を傷つけて行った。普段なら床のワックスの剥げ具合にさえ気を使う彼が、平素であればそんな事をしようはずもない。
「もう時間が無いのよ!?」
歩き去った、逃げ去った彼の背中へ、ベッキーが言葉を投げつけた。

「じゃ……これ、いつもの所に届けてね」
ミナガルデの酒場に、裏口がある事は、一般に知られていない。
 そこを利用するのは、一部の特殊なハンターや、ハンターズギルドに縁の有るモンスターのみである。モンスター。それは二足歩行する猫の様なモンスター、アイルーだ。
 人間の膝上程度しか身長の無いアイルーへ、ベッキーがしゃがみこんで応じた。アイルーへ封筒を手渡したのだ。
 ミナガルデの様な辺境域にあっては、公的な物流の手段が確保されていない。荷物や手紙も同様であり、民間人の馬車等によってそれは代行されている。ハンターズギルドは主にアイルーを雇い入れ、荷の運搬を任せていた。
「了解したニャ」
ベッキーから封筒を押し頂いたアイルーは、それを恭しく腰のポーチへ収めた。
「……でも、あんな土地を買うために借金するなんて変なハンターだニャ。なんならアイルーがもっと美味しい土地を教えてやるニャ?」
アイルーはかなり広域に渡って活動をするため、実に様々な情報を持っている。土地で産出される鉱石や、採取される植物など、彼らにとっては基本の情報だった。美味しい土地とは、すなわち投機に適した土地という意味である。
「いいのよ。彼にとっては、あそこは意味のある場所なの」
依頼の報酬全てを借金の返済に充て、それでも手に入れたかった土地。
 ルーファゥスの、南の土地。
 一匹の年老いたリオレイアが、そこにいる。
 南の女皇帝、彼女はそう呼ばれている。
 そして彼女は、ハンターズギルドが定期的に結成する調査隊の、調査対象ともなっていた。その特殊な生態によって、彼女は極めて特殊な飛竜として位置づけられている。

 大きな庭、ベッキーがそう揶揄する広大な土地である。
 南向きの野趣溢れる庭に、ルーファゥスが到着したのは、それから間も無くであった。広大な庭は持ち主のステイタスとなり、この多様な生態系を宿した庭は、例え王都の貴族であろうと持ち得ぬものである。
「でも、庭って言うにはちょっと遠過ぎるかもなぁ……」
この辺境までは、馬を使っても数週間がかかる。途中までは街道を整備する計画があるようだが、ここの遥か手前までの話だろう。地の果てを思わせるこの土地へ、道を敷設する必要などあるまい。
 そんなミナガルデから遥か離れた場所に、ルーファゥスは庭をもっていた。庭というにはあまりに広大で、庭師が百人がかりで生涯を費やしても、余りある。
「ここに来たのなんて……何年振りだっけなぁ」
広大な、緑の楽園。
 視界一面に広がる密林は、足を踏み入れる事さえ難しい。木々が絡み合い、人間が身体をすり抜けさせる場所にさえ、苦労する。
 幹と蔦が絡まりあう、迷宮だった。
 そしてそこには、思い出もまた彷徨っている。
 ここに来ると思い出したくない事まで思い出す。

レイア

思い出すのは君の事

 木々がひしゃげ、枝が折れ、葉が擦れ合う。小さな植物が曲がり、蔦状の植物が音を立てて千切れる。伸ばした手は、芳醇な土を掴み取るだけ。その中に潜むであろう小さな生き物たちは、彼を助けてくれようはずも無かった。
 土煙だけが濛々と立ち上る。
「ぁ……あぁあ……」
斜面を転げ落ちながら、ルーファゥスが悲鳴を上げた。いや、悲鳴と言う方が、まだ気力に満ちている。むしろ放棄の宣言というべきだろうか。生への執着が、感じられなかった。
「か……ぁ……」
ルーファゥスの、投げやりな、悲鳴の様なものが、轟く。
 不意を突かれた。
 不意というには、あまりに長すぎる。放心していたというべきだろう。ここはモンスターのはびこる辺境なのだ。思い出になど、捕まっていて良い土地では無いのに。
 リオレウスの肩が、見事に彼の腹部を突いた。
 気付かなかった。茂みの影に、一匹のリオレウスが潜んでいたのだ。その衝撃で、彼は吹き飛ばされ、なだらかな斜面を転げ落ちた。
 正確には、転げ落ちている、のだが。
 南の土地に足を踏み入れた途端、この有様だった。
 この土地には、やっぱり因縁があるみたいだ。

ドサッ

落ちたや……

 並のハンターであれば、リオレウスの一撃に腹部そのものを抉り取られていた事だろう。恐らく、文字通りの真っ二つである。そうならなかったのは、ルーファゥスが瞬時に身体をよじり、リオレウスの身体に絡まるのを防いだためである。彼の尋常ならざる技量を示していた。

困ったなぁ……怪我してる

ああ……折れた骨が中で刺さってるかもしれない

腹 部をさすり、怪我の具合を確かめる。激痛の中、なんとか顔を起こし、周囲を見渡す。様々な植物が視界を多い尽くし、場所も方向さえも掴めない。目の前は、緑一色の世界である。
 どこへ向かえば良いだろうか。ここにいたのでは先のリオレウスの餌食になるだけだ。血の臭いをかぎつけ、すぐにでもリオレウスがやって来る。早くリオレウスから逃れなければ。リオレウス……。

リオレウス……

あの、リオレウス……?

「遅れて申し訳ありません。今回お供させていただきます、レイア=ラッセルです。よろしくお願いします」
そう微笑まれて、ルーファゥスはただただ硬直した。
 酒場の喧騒は遠くに去り、その微笑に吸い込まれる。
「ケーニヒ=クロイツです」
「レリアス=ブロイです」
その場にいた者が次々に挨拶を交わした。掲示板に張り出された依頼を受けるハンターの、いわば儀式であった。
 相性が良ければ長い付き合いになるし、悪ければその場限りの付き合いとなる。いわば野良パーティと呼ばれる、ハンターの暫時の仲間だった。
「……ルーファゥス?」
ケーニヒが小突いた。小突かれたルーファゥスは、先程から凍り付いた様にレイアを見詰めていたのだ。
「あ……あ、初めまして、ルーファゥス=キルシェ……ですっ」
ようやく、ルーファゥスが声を発した。
 メンバー中、ケーニヒのみが顔なじみである。何度か狩りも供にしており、彼とは酒場でも酌み交わす事があった。レイア、レリアスの女性二人とは初対面で、彼女ら同士も面識は無いようだった。
「よろしくご指導お願いします」
畏まり、レイアが深々と頭を下げた。
 その様子はぎこちなく、酷く緊張している。
 当然といえば、当然だった。
 ハンターランク9の、レイア。
 ハンターランク16の、ルーファゥス。
 そこにあるのは、火山地帯の鉱石より、さらに硬い壁である。ハンターの力量と実績に応じて、昇進が許されるハンターランク。一つ上がるためには、血のにじむ努力が必要である。
 そして、ハンターランク13。そこには巨大な壁があると言われ、この壁を乗り越えるのは、努力だけではおぼつか無いのだ。並みのハンターであれば、十回人生をやり直しても、ハンターランク12から13へは踏み込めないといわれている。
 レイアにとって、ルーファゥスやその同僚のケーニヒは雲の上の存在であった。
「そ……そんな、僕なんかに畏まらないでくださいっ」
だがルーファゥスは頭を振って、必死にそれを否定した。その様子に、レイアが驚いたように彼を見詰める。
 真っ赤になって頭を振る彼は、童顔が更に幼く見えた。

 ハンターズギルドのマスターが、ルーファゥスに依頼、というよりは頼み事をしてきたのは昨日の昼間だった。
「ちと面倒な依頼が入ったのじゃが、今動けるものがおらんでのう……お主行ってみてくれんか?」
「いいですよぉ〜」
ルーファゥスはいつもの調子で依頼を引き受けたのだ。メンバーの中には気心の知れたケーニヒもいるという。そうであれば、どんな依頼であろうともまず問題無くこなせるはずであった。
「二人引率してやってもらいたい者がおってな。ではたのんだぞ」
それが、レイアだった。

美しく気高いレイア

はじめて見た時の、胸の高鳴りを忘れる事はない

ハンターとして生きてきて、彼女と出会えた事が、何よりの喜びだった

「も……いっかぁ……」
鎧の一部を外し、リオレウスに突撃された腹部を見ると、そこは奇妙な色に変わり、そして膨れ上がっていた。
 内出血。
 やはり肋骨辺りの骨が、どこかの臓器に刺さっている様だ。手当てをしたとしても、生きていられるか分からない。ましてこのまま放置していたなら、まず確実に死ぬだろう。
 物陰に隠れて傷で死ぬか、血の臭いを嗅ぎ付けてやって来たリオレウスに食われて死ぬか。
「……は」
改めて思う。

もういいか

 簡単にそう思えてしまうほど、自分にはもう、何も無いのだ。
 あの時、彼女を失った時から、自分には。
 臓器の鳴動を感じるごとに、意識を保つのが困難になっていく。
 なのに何故、こんなにも彼女を思う事が出来るのだろう。
 あれから十年以上経つというのに、こんなにも鮮明に。

未練たらしいよなぁ……

「今回は、リオレウスの討伐なのですが、事情が……」
レリアスがルーファゥスに依頼書を渡した。
 一行は長い移動を終え、辺境域にキャンプを張っていた。流石に手馴れたもので、彼らは木を切り倒し、即席の小屋を作り上げている。長期の狩りも可能と思われるような、見事な小屋だった。
 小屋の外に灯された炎が、漆黒の辺りを照らす。
 文字通り、塗り付けた様な黒が辺りを覆い、炎の周り以外は視界が無い。
 闇に浮かぶ、小さな空間。
 そこにいるのは、たった四人のハンターである。
「……繁殖期……かぁ」
何度も背後を振り返り、しきりに周囲を気にするレイアを他所に、ルーファゥスが間延びした声を発した。
 依頼書の中身を見ると、自然とため息が出てくる。
 討伐するリオレウスは、二頭。
 この時代、最も隆盛を誇っている飛竜種、リオレウスの討伐である。一対の翼に、細長い尾。全身には燃える様な色の鱗と、甲殻を纏っている。火球を吐き出し、素早い動きで獲物を捕らえる様は、空の王者と称される。
「ええ。縄張り争いで近隣に被害が。その両方を討伐という事になります。」
レリアスが、ため息混じりに答えた。
 リオレウスなど、数回狩りで遭遇した事がある程度だった。それも、四人がかりで死ぬ思いをしての事だ。それが二匹同時になど、考えただけで気が重くなる。
「繁殖期のレウスは、特に気が荒いと聞きます。特に自分の縄張りに侵入した者には、容赦なしに攻撃を仕掛けてくとか……」
不安そうに辺りを眺めていたレイアが、ようやくそれだけを言い終えた。
 二匹のレオレウスが危険とはいえ、それを放置しておく方が更に危険である。
 辺境とはいえ、まるで人間がいないかといえば、そうでは無いのだ。遠くへ行けば、シュレイドとは異なる国も存在するし、彼らと交易をするために中継地点を作る場合もある。そういった商人のキャンプや、辺境の民族からもまた、依頼さえあればハンターは狩りに行く。
「新参を先に片付けましょうか。まだ若いですし、隙が多い。一日休みを入れて、古参をやりましょう」
だが、ルーファゥスは相変わらずの調子で答えるだけだった。
 飛竜は縄張り意識が強く、通常であれば二匹の飛竜と同時に遭遇する事は無い。だが、繁殖期という特殊な期間において、この縄張りは意味を持たなくなる。交配の相手を求め、飛竜は縄張りを跨いで移動するのだ。
「あと、回復薬品をかなり多めに。閃光玉・落とし穴・爆薬を利用して出来る限り、手早く済ませましょう。そうでないと、こちらの体力が先に泣くことになっちゃいますから」
ペンを取り出したルーファゥスが、地図の中の要所に書き込む。
 恐らく傾斜があり、歩行が困難であろう地形。
 水場が近く、足元がぬかるんでいそうな土地。
 枯れた川らしいものが広がり、身を隠すのに適さない地域。
 彼には地図を見ただけで、それらが浮かび上がって見える。それは彼の非凡な才能と、長い経験からであった。
「ルーファゥス……さん」
レイアの瞳に、炎に照らされたルーファゥスの姿がある。
 地図を見詰め、そこへ黙々と印をつける彼は、明らかに普段のそれと異なって見えた。その鋭い眼光は、まさにハンターのものだ。
「封竜剣、始めて見ました」
その変貌に戸惑ったのか、その姿が恐くなったのか、不意にレイアがそんな事を言った。彼女の視線は、ルーファゥスが腰にさした剣に逃れている。
 街中の彼には、この威風堂々たる剣は酷く不似合いに見えた。だが、今この場では、剣はこの上なく彼に相応しく見える。
「亡くなった何処かの誰かのお下がりですよ〜。それでも対竜には効果は絶大ですけど。でもそれ以外には、泣くくらい斬れません〜」
それは、いつものあの間延びした話し方だった。
 いつものあの微笑であった。
「では明日の朝。まずは監視からはじめましょ〜」
再び狩人となるべく、ルーファゥスらは眠りについた。

 無言のまま、ケーニヒが空を指差し、それを旋回させた。
 警告。
 一行が足を止め、一斉に空を見上げる。
 良く晴れた青空を、点が横切っている。ケーニヒに遅れ、ルーファゥスもそれを見つけた。良く見れば、空を横切る点は飛竜の姿をしている。
 あざやかな濃緑の甲殻と、鱗。
 リオレウス種の雌に当たるリオレイアだった。
「……ウーン……三匹目ぇ……」
ルーファゥスが、呟いた。
 明け方に小屋を後にした一行は、目標であるリオレウスの捜索をはじめていた。縄張りの主、古参のリオレウスはすぐに発見できた。
 続いて、餌場や水場、巣、可能であればそれら全てを見つけ出し、地図へ書き込んでいく。餌をついばむ時、水場に降りる時、巣で休む時、それら一つ一つを入念に調べ、そこに生じる隙を見つけ出すのだ。
 攻撃を仕掛けるなら、そこにである。
 その古参リオレウスを観察していた時、不意にケーニヒが指で警告を発したのだ。それがリオレイアの飛来であった。
飛び去っていった彼女を見送りながら、ルーファゥスが首をかしげた。
「通過した……だけみたいですねぇ」
頭上を飛び去っていったリオレイアの行き先を、双眼鏡で確認する。深い緑のせいで降り立った地点は確認出来ないが、ここからそう遠くない場所に下りた様だった。
「二匹が三匹に……」
不安に飲み込まれそうになるのを必死に耐えながら、レイアが呟いた。
 その視線はルーファゥスに向けられ、頼るようなものが注がれる。
「いえ……リオレイアは我々を無視しますよ」
ルーファゥスは首を振り、レイアの懸念を否定した。
「もう一頭のリオレウスが現れた事で、彼女の頭の中は自分の身を守る事で一杯なはずです」
ルーファゥスが、再び双眼鏡を覗いている。彼の視線は、リオレイアが降り立った場所にあった。リオレウスの巣から、遠くも近くも無い位置である。
 リオレイアは、リオレウスに一瞥を送って飛び去って行った。
 彼女は元々、この縄張りのリオレウスの番(つがい)だったのだろう。だが、新たにもう一頭のリオレウスが現れた事によって、古参リオレウスは新参リオレウスの挑戦を受けなければならない。恐らく、あのリオレイアは勝者の花嫁となるのだ。
 気が立った古参に気圧され、緊張したリオレイアの様子がここまでも伝わってくる。
「強い方が、無条件に番になる……。雌にとって、どうなんだろうな」
やるせない思いで、レリアスが呟いた。
 だが、むしろそれが自然なのだ。弱い雄の子を成しても、自分の血は残せない。人間の様に、感情で子を成す事こそ、自然界の掟に反するのだ。弱い子ができれば、それは死に繋がる。死は、自らの血が絶える事に他ならない。
 誰も呟きには答えず、誰も言葉を発さなかった。

「来た!」
不意に、レイアが悲鳴に似たものを発した。
 古参リオレウスの元へ、新参のリオレウスが舞い降りたのだ。
 たちまち二頭が咆哮を上げる。大気を震わせた咆哮ですら、すでにぶつかり合い、戦いを始めている。
 血生臭い、そう言うにはあまりにも血みどろの戦いが始まった。
 牙で甲殻を千切り、尾の棘で皮膚を引き裂き合う。肉片が舞い、血が霧となって霧散する。
 数時間に及ぶ戦いは、果てる事のない様に感じられた。双眼鏡越しですら、その戦いは生々しい。ルーファゥスもケーニヒも眉をひそめ、レリアスが何度か双眼鏡を覗くのを止めた。レイアにいたっては、幾度その場にうずくまった事だろうか。
 だが、決着は間も無く迎えられた。
 新参の一撃が古参を怯ませ、古参へ馬乗りになった。古参の背中に開いた傷口へ、新参がブレスを吐きかける。
「リオレイア!!」
その瞬間だった。
 突如飛来したリオレイアが、自らの咆哮を合図に、新参へ突っ込んだのだ。
 勝利を感じ、油断していた新参は、不意を突かれた。
 新参はリオレイアの突撃を受け、無様に地面へ横転した。
 リオレイアは突撃の勢いを緩める事無く、その逞しい両脚で大地を蹴る。上空へ飛び上がり、美しい弧を描いて一転す る。勢いに乗った尾は鞭の様にしなり、新参の顔を直撃した。
 凄まじい衝撃であったのだろう。新参の頭部が背中に向けて大きく反り返った。それでもリオレイアは手を休める事は無い。
 着地とともに、リオレイアが炎の砲弾を吐き出す。
 一発、二発、三発……。
 防ぐ事もよける事も適わず、新参は全ての炎を浴びた。
 立ち込める爆煙。
 ようやく引き始めた煙の中で、新参が悲痛な叫びを上げた。
 眼を凝らすと、新参の首へ、リオレイアが噛み付いている。そのまま食い千切るつもりなのか、そこには一切の容赦を感じない。
 勝負あった。
 誰の目にもそう見えた時、新参は引き剥がすのではなく、逆に己の歯をリオレイアへと突き立てた。
 予想だにしていなかった行動に、リオレイアがバランスを崩す。新参がその隙を逃すはずは無く、リオレイアを蹴り付け、宙へ舞い上がった。
 最早新参に戦う力はなく、リオレイアもまた、逃げる新参を追おうとはしない。

後には、静寂だけが残った

 リオレイアはよろよろと体を起こし、動かなくなった伴侶へ近づいていった。
 その顔を、口先でつつく。
 古参のリオレウスはぴくりとも動かない。
 だが、リオレイアは確かめる様にそれを繰り返した。
 何度も何度も。
 それでも彼は応えない。
 彼女もまた、最早動こうとしない。
 微動だにせず、彼女は連れ添った相手を見つめている。
 ついに、彼女は何かを理解したらしい。
 いや、とうに理解していた事を、認めざるを得なくなったのだ。

彼女は空を見上げた

ァオオァォオオ……アァァア……

 聞いた事も無いような、呻き声だった。その場の誰もが言葉を失い、ただその鳴き声を聞いていた。
 泣き声を、聞いていた。
 口を押さえてポロポロと泣き出したレイアの手を、ルーファゥスが掴んだ。華奢な手は震え、彼女の口からは嗚咽が零れている。
 双眼鏡の向こうで、リオレイアがゆっくりと動き始めた。
 彼女自身、最早限界なのだろう。足を引きずりながら、半ば這う様にしてその場を離れていく。
 一度だけ、彼女は振り返った。
 伴侶を、振り返った。
 伴侶であったものは、最早何も答えない。
 注ぐ陽の中へ、溶け込む様にして彼女は消えていった。

……

 感傷的になるわけじゃない。そんなものに構っていたら、ハンターになどなれやしない。狩りなど出来やしない。狩ったモンスターなど、素材に過ぎないと思う事もある。
 ……だけど。

あの声を忘れることは無いだろう

 まるで全てを押さえ付ける様な、胸詰まる、悲しい……酷く悲しい声。
 種の本能に従えば、雌は勝者のものだ。
 だが、彼女は本能に従おうとはしなかった。たった一頭の雄を愛し、彼以外のものになるのを拒んだのだ。たとえ種としての本能がそれを制しても、たとえ主の本能がそれに警鐘を鳴らしても、彼女は彼を愛する事をやめなかった。
 その孤高とも呼べる気高い姿は、きっと女皇帝の呼び名に相応しいのだろう。

古参のリオレウスは死に、新参のリオレウスはこの土地からいなくなった

依頼は、果たされたのだ

その場の誰も、リオレイアを狩ろうと言う者はいなかった

 それからの数年、それがルーファゥスの人生で最も幸福な季節であったかもしれない。結局、この時のパーティは野良とならず、継続して狩りに出るメンバーとなった。
 そして、成る様に成ったのだろう。
 ケーニヒとレリアスは結婚し、ハンターを廃業した。
 かく言うルーファゥスは、レイアと二人きりで狩りに出る毎日である。
「で、レイアとどうなんだ? 付き合って、もう長いだろ」
 ケーニヒが、グラスを磨きながら尋ねた。
 朝早く、レイアを狩りに見送ったルーファゥスは、久しぶりの休暇をとる事にしていた。簡単な依頼であり、ついでに幾つかの採取を済ませたいからと、彼女は一人で狩りに出たのだ。
 陽の中へ溶ける様にして、レイアは狩りへ向かった。
 本当に、本当にその姿は美しかった。
 帰ってきたら、まずは抱きしめてキスをようかな。
 そしてその後は、今日こそ。
 うん、今日こそ。
 そんな事を考えながら、気がつけばルーファゥスはいつもの酒場へ向かっていた。
 ハンターを廃業したケーニヒとレリアスは、酒場を開いたのだ。今や、その酒場はハンターの溜まり場となっている。ハンターズギルドよりもアダルトな雰囲気だと、彼らには評判が良い。
「ん……うん。うまくやってるよぉ?」
薄暗い店内には幾つかのテーブルが用意され、皆が給されたカクテルに舌鼓を打っている。
 ケーニヒのバーテンダーとしての技量も、相当なものである。酒場のマスターとなった彼の、かつての武勇伝を聞きに来るハンターも少なくない。
「ほぉ〜ん? で、いつだ?」
「ん〜……」
「で、いつにするんだ?」
ホピ酒を濁して逃れようとしたのだが、それも適わないと知ると、ルーファゥスが重い口を開いた。
「今彼女が行ってる狩りから帰ってきたら……プロポーズ……しようと思ってるょ」
大分様になってきた口ひげを歪ませると、ケーニヒがルーファゥスの頭に手を乗せた。
「そいつは奢りにしといてやる」
ルーファゥスが口にしているグラスを一瞥し、ケーニヒがその頭を撫で回した。
「おめでとう」

 その日の事は、良く覚えていない。
 お店のカウンターに、仕入れに出ていたレリアスが駆け込んできたのは覚えていた。
 彼女が何を言ったのか、よく覚えていない。
 その夜は、ケーニヒの家に泊まった。
「いくらハンターだからって、事故にあえば……」
「狩りが終わって帰りの馬車でなんて……」
「なぁ、ルーファゥス……当分、ここにいろよ」
「そうしなよ……抜け殻みたいだもん……ルーファス」

……ルーファゥス?

ルー……ファゥ……ス……

……狩りの帰り道、事故にあって……レイアが死んだ

「こんにちは……」
怯える事も、慌てる事もなかった。
傷の痛みのために意識が朦朧としているせいもあるが、そうでなくとも驚かなかったろう。目の前に現れたのが、彼女であったのだから。
「あれから……どうしてた……かな?」
傷だらけになって巨木の下に倒れている男を、鮮やかな緑の瞳が見つめている。
 鋭い牙は剥かれる事無く、鋭利な爪はそのままであった。
 彼の前に現れた老齢のリオレイアは、静かにルーファゥスを見詰めている。
「君に、逢うのは……実はこれで二度目なんだ……」
まるで、恋人に囁くように、ルーファゥスが優しく話しかけた。
 在りし日の恋人に出会った様に、彼は穏やかに微笑んでいた。
「君は、僕を見るのは始めてかもしれないけど……」
レイアは動かない。
ルーファゥスの言葉を聞き入るように、ただ見詰めているだけだった。
「最後に……君に逢えてよかった」
まぎれもなく、本心だった。
 ずっと会うのが怖かった。同時に酷く会いたくもあった。それが何故なのか分からない。
 レイアが死んで、リオレイアの住む土地を買ったのは、何故だろう。
 守れなかったレイアの代わりに、せめてこのレイアだけでも守ろうとしたのか。
 分からない。
 レイアが死んでから、全ては霧に包まれた様だった。自分のする事、見るもの、聞く事、全て、全てが夢の中の様だった。
 何をしても確たる感触は無く、鈍い幻に触れる様でしかない。瞳さえ覚ませば、レイアが微笑んでくれる様だった。
 今の自分など、泡みたいなものでしかないと思えた。

 不意にリオレイアが空を見上げ、途端、彼女の絶叫が木霊した。
 轟音と供に飛来したのは、リオレウスである。
 先ほどルーファゥスに深手を負わした、そしてあの日、リオレイアに深手を負わされた、あのリオレウスだった。
 両足の爪をリオレイアの翼に突き立て、そのまま彼女を引きずりまわす。彼女が威嚇とも思える唸り声を上げるが、彼はかまう様子は無かった。
 そのまま数十メートルも引きずられたろうか、その頃には彼女の翼はぼろぼろに引き裂かれていた。
「いけない……!」
内出血で腫れあがった腹部を押さえ、ルーファゥスがその場から立ち上がる。
 顔色と呼べるものはすっかり引き、死人の様になった顔で、リオレイアを見詰めた。
「逃げ……るんだ……」
懐から回復薬を取り出し、震える手で薬の入ったビンの口を開いた。
 最後に残った、たった一つの回復薬である。
 ルーファゥスは腕を振りかぶると、それを迷う事無くリオレイアへ向けて投げつけた。
「……逃げ……て……」
回復薬を全身に浴びたリオレイアを認めると、最後の力が尽きたようにルーファゥスがその場に倒れこんだ。
「さぁ……今の……うちに」
リオレウスが、こちらを振り返った。

長年の恨みを果たそうという瞬間、その邪魔をした無粋者は誰か

その瞬間、凄まじい光が、視界を埋め尽くした

グゥゥアアゥゥウウウ

 怨念を吐き出しながら、リオレウスが地面を掻く。
 リオレウスが振り向いた瞬間、ルーファゥスは閃光玉を投げつけたのだった。威力は無いものの、凄まじい閃光で一時的に視界を奪う事ができる。
「ハハ……」
地面に崩れ落ちながら、ルーファゥスが死人の顔に笑みを浮かべた。
 リオレウスが視界を取り戻したとしても、そこにはもうリオレイアの姿は無いのだ。彼女はぼろぼろになった翼を使って、ここを逃れた。
 地の底から溢れるような、リオレウスの憎憎しげな唸り声が聞こえる。
 視界が戻ったら、リオレウスは僕を許してくれないだろうな。
 そんな事を考えながら、ルーファゥスは優しく微笑んだ。

「ったく、ハンター一人助けるのにギルドナイト四人かよ……どんなVIPだ?」
「つべこべ言わずに助けなさい! ルーファス!! ルーファス!?」
「あ〜あ〜も〜……おい、イリアス! さっさと麻痺らせろ!!」
「麻痺が切れ次第、閃光で視界を奪います。後に落とし穴を展開、爆弾で一気に吹き飛ばしますヨ」
「麻痺弾撃ちます!」

瞳を開いても、夢は覚め無いものなんですね

良かった……一週間寝てたのよ?心配したんだから

……助けてくれてありがとうございます

気絶する前、ベッキーさんの声聞こえてました

アハハ

……えと、それでね、ルーファス

はぁい?

あのリオレイア……リオレウスの骨の上で……死んでたの

ルーファス?

「……独りになるのが嫌で、ずっとずっと……思い出を閉じ込めて……どうにもならないのに……」
ルーファゥスの瞳から、大粒の雫がこぼれた。
しかし彼の表情は変わる事無く、涙だけが、静かに零れている。
「彼女になら、僕の気持ちがわかるはずだって……だから生きていて欲しいって……」
止める事も、拭う事もせず、ルーファゥスは涙を溢れさせていた。
「決して自分のものになんてならないのに、莫迦ですよね……」
自嘲する笑み。
唇が、小刻みに震えた。
「それでも……それでも……」
気高く、美しい君を。

 あの時泣けなかったから。
 ずっとずっと、泣けなかった。
 今やっと、あなたに別れを告げられる。
 ごめんね。
 愛していたよ、君を。
 ずっと、守りたかったんだ。
 ずっと、そばにいたかった。 
 でも、僕はこれから、君の安らぎためにだけ、祈り続ける。
 だから。
 おやすみなさい。

僕は、どちらのレイアにこの約束をしたのだろう

「訓練所……? の教官? ですかぁ?」
とりあえず傷も癒え、彼の顔に表情らしいものが戻り始めた頃。
 ゲストハウスのルーファゥスの部屋には、ギルドマスターが訪れていた。
「そなたの腕、そして洞察力は優れたものがある。本当はそなたをギルドナイトの一人にと考えておったのじゃが……」
いつもの煙草に火をつけると、ギルドマスターは小さくむせながら話を続けた。
「そなたは、優しすぎる。罪を犯した者とはいえ、そなたに人間を狩る事は無理じゃろう」
煙の中で瞳を閉ざすと、ギルドマスターは年をとった、しかし力強い声を紡ぐ。
 その経歴は不明ながら、時にこの老人が発する威圧は、他を圧するものが有る。
「じゃが、優れたハンターを育てるのに力を貸してくれんか」
メラルーにつままれたような話である。
予想もしなかった話に、ルーファゥスは呆然としていた。
「ハンターを育てるため、訓練所というものを新設しようと思っておってな。凶悪なモンスターは増え続けておる。人の凶暴さが増すのと同じように……」
ギルドマスターの煙草がちりちりと音を立てて燃え上がった。
 無音の室内に、その音だけが不気味な存在感を持って浮かび上がる。
「幾人か声をかけたが……皆、体育会系ばかりでな」
しわがれた声が笑い、室内に鎮座していた不気味な静けさを吹き飛ばした。
「無論、返事はまだよい。傷が全て癒え、落ち着いてからでな」
よっ。
 そんな掛け声と供に、ギルドマスターが難儀そうに歩き始めた。
ルーファゥスが何とか返事を出来たのは、彼が部屋から出て行く時であった。
「……はい」

 ギルドマスターがルーファゥスの部屋を出ると、そこには一人の女性が立っている。彼女は両の肘を手で掴み、首を少しかしげながら部屋を見詰めていた。
「ベッキー、これでよいのか?」
「ええ、マスター」
ゆっくりと階段を折り始めた老人に手を貸しながら、ベッキーは思慮深く言葉を紡いだ。
「……私は、優しいことは罪だと思います。優しさだけでは何にもならない。それは弱さを誤魔化すものでしかないと、思います」
老人は細い瞳をひそめ、ベッキーの案内の通りに一歩一歩階段を降り始めた。
「でも……彼は、優しいだけじゃなかった」
一度踊り場で足を止めると、彼女はギルドマスターの瞳を見詰め、次の言葉を産んだ。
「強かったと思います。彼」
「そうじゃな」
「……でも、やっぱり残念っ。なかなかいないんですもの、一流の腕と、強さと、そして……誰にも負けない輝きをもってるハンターなんて」
再び歩き始めた二人は、階下を、その先を見詰めながら、屋外から差し込む光に目を細めた。
「どうして私より、あいつの方が良いハンターを見つけるのが上手いのかしら?」
「ほっほ、仕方あるまいて。あやつは奔放に外に出てスカウトしておるが、そなたはハンターズギルドの華、受付嬢なのだからのぅ」
「……受付嬢も罪な仕事よね……」
長い階段を抜けると、ゲストハウスの受付へ辿り着く。
 そこには外からの眩い光が差し込み、そして外には、いつもの明るい空が広がっている。
 彼が長い階段を抜け、外に出て来るのは何時になるだろうか。
 だがきっと、彼が外に出てきた日も、この空は彼を照らしてくれるだろう。
 どんなに階段は長くとも、外に出れば、ミナガルデの陽は彼を照らす事だろう。




↓本編(?)に戻ります。でも比較的短編なので、外伝っぽいです。
MATATABI 第一話
2006年12月19日(火) 13:06:00 Modified by orz26




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