最終更新: fan_arrow_1185 2008年07月18日(金) 20:52:53履歴
[5]
季節は巡り、私は十六歳になった。
あの方が司馬試(サマシ)に合格され、若くして王様の臣下と成られたのと同じ歳だ。それだけでも感慨深かったが、あなたとの関係に大きな変化が訪れた歳でもあり、忘れられない時となった。
あなたも……自分で言うのもなんだけれど、私も、美しい少女に成長していた。
そして相変わらず、毎日のように料理の修業に励んだ。
その頃私は既に、王様の御膳を作っていた。見習い生としては例が無かったから、他の女官たちの羨望(せんぼう)や嫉妬の的となっているのを感じていた。
でも、それはしかたないこと。だって腕が違い過ぎるもの。上手とはいえない内人様たちがのそのそと手伝うよりも、私の方がずっと早くて美しい。
でもそのせいで、同年代の者たちと接する機会はますます少なくなっていた。
―――友達がいないのは慣れっこだったし、今更他の人と親しくなろうとは思わない。
だいたい、まともにお料理のことを相談できる人なんて、チェ尚宮様……
そしてハン尚宮様ぐらい。そうよ、他の子と話すことなんてないわ。
近付いてくるのはヨンノみたいな、自分で努力も工夫もしないで、私たちの
権力と財力のおこぼれに与(あずか)ろうとする者ばかり。そんな人と親しく
なったところで、友達とは思ってくれないだろう。
ところであの方、ミン・ジョンホナウリは、お別れをお告げしてからほどなくして奥方を娶(めと)られることになった。
「ゆくゆくは、うんと偉く成る御方、この機に誼を(よしみ)通じておかねば」
伯父様はそう言われて、いくつもの祝儀をご用意されていた。
ところが初冬のある朝、許嫁の方は急な病にそのまま戻らぬ人となり、以来縁談を断られているのだと、風の便りに聞いた。
心が痛んだけれど、同時にあの方が、私の近くにお帰りになられたようにも思えた。忘れかけていた想いが、再び胸の奥に募っていく。
―――でもナウリは両班(ヤンバン)、私は中人(チュンイン)。深い絆を結ぶなど、
到底叶わない望み。
ナウリとは、実家に帰った時にたまたまお会いして二、三の言葉を交わしたり、宮中でお目にかかればご挨拶をするだけ。ただそれだけ。
それだけだったが、それだけで胸が……高鳴った。
―――でも私は王様の女。この気持ちを誰にも知られるわけにはいかないし、誰に
打ち明けることもできない。
ナウリも私に、遠慮がちな固いお顔しかお向けにならない。
―――どれだけ想っても、あの方にとって私は女官の一人に過ぎず、せいぜい
少しは顔馴染みの、大商団を率いるチェ・パンスル大房の姪でしかない。
[6]
そんなある日、料理人のカン・ドック熟手(スクス)の姿を見かけた。
この男は仕事をしに来たついでに、髪飾りや指輪などを女官たちに売りつけるのだが、私はそんなインチキくさい物を買う気はさらさらない。伯父様からいい品物をいくらでも貰えるのだから。
でも今日は、ハン尚宮様がお話しをされていたから、ちょっと気になった。
「先ほどの本は何ですか?」
「ああ、明国のつまらない料理の本です。尚宮様にお見せするほどの物ではありません。ハハハ」
カン熟手は逃げるように荷車を引いて、その場を立ち去った。
明国の料理の本? だったら見てみたい。
後を追う。
「あの……」
「なんですか?」
「先ほどおっしゃっていた本、見せていただけますか?」
熟手はニタッと笑い、荷車の下の方の引き出しから本を引っ張り出して私に手渡した。
パラパラめくると、そこには……裸の男女が絡み合う絵が、延々と描かれているではないか!
頬や首筋が火照って、耳まで熱くなるのを感じる。震える手で本を閉じ、熟手に返した。
「……あ、あの…これは?」
「もしかして、ご覧になるのは初めてで?」
どぎまぎしている私を見て、察したかのように言う。
「もちろん、話には聞いていましたが……見たことは……」
「ほほう。今からでも遅くありませんよ。しっかり勉強して下さい。お綺麗な顔立ちであられるのですから、いつ殿下のお召しがあるかも分かりませんよ。男と女の愛のむつび合いを知らずして、王様の女とはいえませんからね。
この本は初めての方向けですから、ちょうど、あなた様のような方にピッタリですよ。いかがです?」
「い、いいえ! 結構です!」
―――赤らんだ顔を見られたくない。
差し出された本を振り払うように突き返し、急いでその場を離れる。
「うぶな子だな〜」
つぶやく声が背中越しに聞こえた。
夜になってもドキドキして治まらない。あの絵が頭から離れない。
―――お召し? 男と女の愛のむつび合い?
王様とナウリの顔が思い浮かんでグルグル回る。ああ……もうわけが分からない!
チェ尚宮様が部屋にお戻りになった。
―――どうしよう。尚宮様なら何でもお分かりだろうけど……伺いにくい……。でも
……他にはいないし……どうしても知りたい……。思い切って聞いてみよう!
「……尚宮様……。殿下のお召しを受けるとは、どういうことなのですか?」
「は?」
「いえ……その……あの……男と女がむつび合うとは……」
突然こんなことを言い出したから、驚かれたご様子だ。けれど穏やかにお答えが返ってきた。
「なぜ、急にそんなことを聞くのか分からないけど……。そうか、お前には料理ばかりで、そのことは全然教えていなかったわね」
そう言って立ち上がられ、押し入れを開けて奥の方を探しておられる。そして本を何冊か出して机の上、私の目の前に置かれた。
手に取ると、それは昼間に見たような、むつび合いの手ほどき本だった。
「さ、尚宮様までこのような読み物をっ!」
再び顔が火照りだす。
「だってお前、何も知らずして、どうやって御承恩を受けることができるというの? 女官は一度はこのこと、むつびごとを勉強するのよ」
笑いながらそうおっしゃる。
「はあ……」
そうして本を見せながら、詳しく……そんなに詳しく知りたいわけでは無かったが……丁寧に説明を始められた。私は黙って聞いているだけで精一杯。分からないことも多かったけれど、心の中でもやもやした感情が浮かんで、それを抑えるのに懸命だった。
ようやく一通りの説明が終わった。
「どうだった?」
「どうって……ただ……ただ恥ずかしい限りでございます」
うつむいて、やっと答える。
「そうでしょうね。お前は真面目だから……わたくしも初めは驚いたけどね。これが人の営みというものなの」
「……尚宮様。男と女が愛しく思う時、皆がこのようなことをするのですか?」
「まあ、そうね。でも、愛し合っていなくてもする人もたくさんいるけど」
「でも、普通はそう思う者同士がするのですよね?」
「普通はね。そして余程好いてしまうと、そうせずにはおれぬのか。最近、また女官が不義密通で罰を受けた。相手の男と共々、死罪となって。……哀れなものよ。
ところでお前……まさかと思うけれど、好きな人がいるんじゃないでしょうね?」
―――痛! 図星。
「ま、まさか! いませんよ」
「なら、いいけど」
そうはおっしゃったけれど、尚宮様は私の顔をじっと見つめておられる。
「クミョン……。分かっているとは思うけれど、お前は王の女」
「はい。尚宮様」
「そして、お前はお前だけのものではない。
代々続く一族の系譜を汚してはならぬし、またこの誉れ高い一門のためにも、振舞いには気を付けるように」
―――でも、叔母様。想うだけなら許されますよね? 想うだけなら……。
「……尚宮様。王様以外の方と愛を育むことができないとは……女官とは哀しいものですね」
「それが定めよ」
「……御承恩を受けられなかった女官は……」
「そうね。だからまあ……その相手が男ではないことも……それだと、見つかっても百回叩かれるだけで済む。禁じられていることに変わりはないのだが」
「え? どういうことです、それは」
「だから……女官同士でね、そういう関わりを持つこともあるということ。
惹かれ合い……昼も……夜もずっと……一緒に過ごしたいと思ったり。愛しくなって……そしてまあ、今見せた本のように褥(しとね)を共に……したりとか」
「お、女の方と!!!」
思わず声が裏返る。
けれど尚宮様は淡々と続けられた。
「それでも安らぎを感じられるというから」
「あの、尚宮様には…………そのような方はもちろん……」
「いなかったわ」
そしてふっと俯かれた。
「それに……御寵愛を夢見るわけにもいかなかった。
わたくしには一族のために最高尚宮に成る務めがある。だから、王様のお目に留まらないよう、伯母様……先代の最高尚宮様が気を遣って下さったの」
「そうなのですか……では誰とも共に過ごすことの無い、寂しい人生を送る……」
そう申し上げると、急に不機嫌になられた。
「そのような言い方をするでない。一族が、先代の尚宮様が築いてこられた輝かしい一族に、我らは生を受けた。
何が寂しいものか。我らはそういうことを望む輩(やから)とは違う、そんな付き合いなど必要ない!」
突然の剣幕に驚いて、慌てて謝った。
「も、申し訳ありません……」
―――何か悪いことを申し上げてしまったのだろうか。
尚宮様はそれきり、何も言われなかった。
でも尚宮様には、あの絵に描いてあるようなお相手はいらっしゃらなかったみたい。それが分かって、ちょっとほっとした。
―――けれど私は、これからどうなるのだろう。
女官として生きるのならば……そんなことがあるかもしれないってこと?
でもそれは、惹かれる人がいての話でしょ。私にいるとすれば……。
あの方のお顔を思い出し、急いで打ち消した。
それからというもの、ナウリとご挨拶をするどころかお姿を見ることさえもできない。思うだけで、あの絵の有り様が浮かんでくるようになって、そのたびに罪の意識にさいなまれた。
―――私って、なんてふしだらな女……。あの方のことを考えるのは、しばらく
やめよう……。
季節は巡り、私は十六歳になった。
あの方が司馬試(サマシ)に合格され、若くして王様の臣下と成られたのと同じ歳だ。それだけでも感慨深かったが、あなたとの関係に大きな変化が訪れた歳でもあり、忘れられない時となった。
あなたも……自分で言うのもなんだけれど、私も、美しい少女に成長していた。
そして相変わらず、毎日のように料理の修業に励んだ。
その頃私は既に、王様の御膳を作っていた。見習い生としては例が無かったから、他の女官たちの羨望(せんぼう)や嫉妬の的となっているのを感じていた。
でも、それはしかたないこと。だって腕が違い過ぎるもの。上手とはいえない内人様たちがのそのそと手伝うよりも、私の方がずっと早くて美しい。
でもそのせいで、同年代の者たちと接する機会はますます少なくなっていた。
―――友達がいないのは慣れっこだったし、今更他の人と親しくなろうとは思わない。
だいたい、まともにお料理のことを相談できる人なんて、チェ尚宮様……
そしてハン尚宮様ぐらい。そうよ、他の子と話すことなんてないわ。
近付いてくるのはヨンノみたいな、自分で努力も工夫もしないで、私たちの
権力と財力のおこぼれに与(あずか)ろうとする者ばかり。そんな人と親しく
なったところで、友達とは思ってくれないだろう。
ところであの方、ミン・ジョンホナウリは、お別れをお告げしてからほどなくして奥方を娶(めと)られることになった。
「ゆくゆくは、うんと偉く成る御方、この機に誼を(よしみ)通じておかねば」
伯父様はそう言われて、いくつもの祝儀をご用意されていた。
ところが初冬のある朝、許嫁の方は急な病にそのまま戻らぬ人となり、以来縁談を断られているのだと、風の便りに聞いた。
心が痛んだけれど、同時にあの方が、私の近くにお帰りになられたようにも思えた。忘れかけていた想いが、再び胸の奥に募っていく。
―――でもナウリは両班(ヤンバン)、私は中人(チュンイン)。深い絆を結ぶなど、
到底叶わない望み。
ナウリとは、実家に帰った時にたまたまお会いして二、三の言葉を交わしたり、宮中でお目にかかればご挨拶をするだけ。ただそれだけ。
それだけだったが、それだけで胸が……高鳴った。
―――でも私は王様の女。この気持ちを誰にも知られるわけにはいかないし、誰に
打ち明けることもできない。
ナウリも私に、遠慮がちな固いお顔しかお向けにならない。
―――どれだけ想っても、あの方にとって私は女官の一人に過ぎず、せいぜい
少しは顔馴染みの、大商団を率いるチェ・パンスル大房の姪でしかない。
[6]
そんなある日、料理人のカン・ドック熟手(スクス)の姿を見かけた。
この男は仕事をしに来たついでに、髪飾りや指輪などを女官たちに売りつけるのだが、私はそんなインチキくさい物を買う気はさらさらない。伯父様からいい品物をいくらでも貰えるのだから。
でも今日は、ハン尚宮様がお話しをされていたから、ちょっと気になった。
「先ほどの本は何ですか?」
「ああ、明国のつまらない料理の本です。尚宮様にお見せするほどの物ではありません。ハハハ」
カン熟手は逃げるように荷車を引いて、その場を立ち去った。
明国の料理の本? だったら見てみたい。
後を追う。
「あの……」
「なんですか?」
「先ほどおっしゃっていた本、見せていただけますか?」
熟手はニタッと笑い、荷車の下の方の引き出しから本を引っ張り出して私に手渡した。
パラパラめくると、そこには……裸の男女が絡み合う絵が、延々と描かれているではないか!
頬や首筋が火照って、耳まで熱くなるのを感じる。震える手で本を閉じ、熟手に返した。
「……あ、あの…これは?」
「もしかして、ご覧になるのは初めてで?」
どぎまぎしている私を見て、察したかのように言う。
「もちろん、話には聞いていましたが……見たことは……」
「ほほう。今からでも遅くありませんよ。しっかり勉強して下さい。お綺麗な顔立ちであられるのですから、いつ殿下のお召しがあるかも分かりませんよ。男と女の愛のむつび合いを知らずして、王様の女とはいえませんからね。
この本は初めての方向けですから、ちょうど、あなた様のような方にピッタリですよ。いかがです?」
「い、いいえ! 結構です!」
―――赤らんだ顔を見られたくない。
差し出された本を振り払うように突き返し、急いでその場を離れる。
「うぶな子だな〜」
つぶやく声が背中越しに聞こえた。
夜になってもドキドキして治まらない。あの絵が頭から離れない。
―――お召し? 男と女の愛のむつび合い?
王様とナウリの顔が思い浮かんでグルグル回る。ああ……もうわけが分からない!
チェ尚宮様が部屋にお戻りになった。
―――どうしよう。尚宮様なら何でもお分かりだろうけど……伺いにくい……。でも
……他にはいないし……どうしても知りたい……。思い切って聞いてみよう!
「……尚宮様……。殿下のお召しを受けるとは、どういうことなのですか?」
「は?」
「いえ……その……あの……男と女がむつび合うとは……」
突然こんなことを言い出したから、驚かれたご様子だ。けれど穏やかにお答えが返ってきた。
「なぜ、急にそんなことを聞くのか分からないけど……。そうか、お前には料理ばかりで、そのことは全然教えていなかったわね」
そう言って立ち上がられ、押し入れを開けて奥の方を探しておられる。そして本を何冊か出して机の上、私の目の前に置かれた。
手に取ると、それは昼間に見たような、むつび合いの手ほどき本だった。
「さ、尚宮様までこのような読み物をっ!」
再び顔が火照りだす。
「だってお前、何も知らずして、どうやって御承恩を受けることができるというの? 女官は一度はこのこと、むつびごとを勉強するのよ」
笑いながらそうおっしゃる。
「はあ……」
そうして本を見せながら、詳しく……そんなに詳しく知りたいわけでは無かったが……丁寧に説明を始められた。私は黙って聞いているだけで精一杯。分からないことも多かったけれど、心の中でもやもやした感情が浮かんで、それを抑えるのに懸命だった。
ようやく一通りの説明が終わった。
「どうだった?」
「どうって……ただ……ただ恥ずかしい限りでございます」
うつむいて、やっと答える。
「そうでしょうね。お前は真面目だから……わたくしも初めは驚いたけどね。これが人の営みというものなの」
「……尚宮様。男と女が愛しく思う時、皆がこのようなことをするのですか?」
「まあ、そうね。でも、愛し合っていなくてもする人もたくさんいるけど」
「でも、普通はそう思う者同士がするのですよね?」
「普通はね。そして余程好いてしまうと、そうせずにはおれぬのか。最近、また女官が不義密通で罰を受けた。相手の男と共々、死罪となって。……哀れなものよ。
ところでお前……まさかと思うけれど、好きな人がいるんじゃないでしょうね?」
―――痛! 図星。
「ま、まさか! いませんよ」
「なら、いいけど」
そうはおっしゃったけれど、尚宮様は私の顔をじっと見つめておられる。
「クミョン……。分かっているとは思うけれど、お前は王の女」
「はい。尚宮様」
「そして、お前はお前だけのものではない。
代々続く一族の系譜を汚してはならぬし、またこの誉れ高い一門のためにも、振舞いには気を付けるように」
―――でも、叔母様。想うだけなら許されますよね? 想うだけなら……。
「……尚宮様。王様以外の方と愛を育むことができないとは……女官とは哀しいものですね」
「それが定めよ」
「……御承恩を受けられなかった女官は……」
「そうね。だからまあ……その相手が男ではないことも……それだと、見つかっても百回叩かれるだけで済む。禁じられていることに変わりはないのだが」
「え? どういうことです、それは」
「だから……女官同士でね、そういう関わりを持つこともあるということ。
惹かれ合い……昼も……夜もずっと……一緒に過ごしたいと思ったり。愛しくなって……そしてまあ、今見せた本のように褥(しとね)を共に……したりとか」
「お、女の方と!!!」
思わず声が裏返る。
けれど尚宮様は淡々と続けられた。
「それでも安らぎを感じられるというから」
「あの、尚宮様には…………そのような方はもちろん……」
「いなかったわ」
そしてふっと俯かれた。
「それに……御寵愛を夢見るわけにもいかなかった。
わたくしには一族のために最高尚宮に成る務めがある。だから、王様のお目に留まらないよう、伯母様……先代の最高尚宮様が気を遣って下さったの」
「そうなのですか……では誰とも共に過ごすことの無い、寂しい人生を送る……」
そう申し上げると、急に不機嫌になられた。
「そのような言い方をするでない。一族が、先代の尚宮様が築いてこられた輝かしい一族に、我らは生を受けた。
何が寂しいものか。我らはそういうことを望む輩(やから)とは違う、そんな付き合いなど必要ない!」
突然の剣幕に驚いて、慌てて謝った。
「も、申し訳ありません……」
―――何か悪いことを申し上げてしまったのだろうか。
尚宮様はそれきり、何も言われなかった。
でも尚宮様には、あの絵に描いてあるようなお相手はいらっしゃらなかったみたい。それが分かって、ちょっとほっとした。
―――けれど私は、これからどうなるのだろう。
女官として生きるのならば……そんなことがあるかもしれないってこと?
でもそれは、惹かれる人がいての話でしょ。私にいるとすれば……。
あの方のお顔を思い出し、急いで打ち消した。
それからというもの、ナウリとご挨拶をするどころかお姿を見ることさえもできない。思うだけで、あの絵の有り様が浮かんでくるようになって、そのたびに罪の意識にさいなまれた。
―――私って、なんてふしだらな女……。あの方のことを考えるのは、しばらく
やめよう……。
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