韓国ドラマ「宮廷女官 チャングムの誓い」の関連記事・二次小説置き場です。特別寄稿『今英嘆 水天の月編 終章 霽月』は7/6にUPされました。

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 季節は巡り、私は十六歳になった。
 あの方が司馬試(サマシ)に合格され、若くして王様の臣下と成られたのと同じ歳だ。それだけでも感慨深かったが、あなたとの関係に大きな変化が訪れた歳でもあり、忘れられない時となった。

 あなたも……自分で言うのもなんだけれど、私も、美しい少女に成長していた。
 そして相変わらず、毎日のように料理の修業に励んだ。

 その頃私は既に、王様の御膳を作っていた。見習い生としては例が無かったから、他の女官たちの羨望(せんぼう)や嫉妬の的となっているのを感じていた。
 でも、それはしかたないこと。だって腕が違い過ぎるもの。上手とはいえない内人様たちがのそのそと手伝うよりも、私の方がずっと早くて美しい。
 でもそのせいで、同年代の者たちと接する機会はますます少なくなっていた。
  ―――友達がいないのは慣れっこだったし、今更他の人と親しくなろうとは思わない。
     だいたい、まともにお料理のことを相談できる人なんて、チェ尚宮様……
     そしてハン尚宮様ぐらい。そうよ、他の子と話すことなんてないわ。
      近付いてくるのはヨンノみたいな、自分で努力も工夫もしないで、私たちの
     権力と財力のおこぼれに与(あずか)ろうとする者ばかり。そんな人と親しく
     なったところで、友達とは思ってくれないだろう。

 ところであの方、ミン・ジョンホナウリは、お別れをお告げしてからほどなくして奥方を娶(めと)られることになった。
「ゆくゆくは、うんと偉く成る御方、この機に誼を(よしみ)通じておかねば」
 伯父様はそう言われて、いくつもの祝儀をご用意されていた。
 ところが初冬のある朝、許嫁の方は急な病にそのまま戻らぬ人となり、以来縁談を断られているのだと、風の便りに聞いた。
 心が痛んだけれど、同時にあの方が、私の近くにお帰りになられたようにも思えた。忘れかけていた想いが、再び胸の奥に募っていく。
  ―――でもナウリは両班(ヤンバン)、私は中人(チュンイン)。深い絆を結ぶなど、
     到底叶わない望み。

 ナウリとは、実家に帰った時にたまたまお会いして二、三の言葉を交わしたり、宮中でお目にかかればご挨拶をするだけ。ただそれだけ。
 それだけだったが、それだけで胸が……高鳴った。
  ―――でも私は王様の女。この気持ちを誰にも知られるわけにはいかないし、誰に
     打ち明けることもできない。

 ナウリも私に、遠慮がちな固いお顔しかお向けにならない。
  ―――どれだけ想っても、あの方にとって私は女官の一人に過ぎず、せいぜい
     少しは顔馴染みの、大商団を率いるチェ・パンスル大房の姪でしかない。

[6]
 そんなある日、料理人のカン・ドック熟手(スクス)の姿を見かけた。
 この男は仕事をしに来たついでに、髪飾りや指輪などを女官たちに売りつけるのだが、私はそんなインチキくさい物を買う気はさらさらない。伯父様からいい品物をいくらでも貰えるのだから。
 でも今日は、ハン尚宮様がお話しをされていたから、ちょっと気になった。
「先ほどの本は何ですか?」
「ああ、明国のつまらない料理の本です。尚宮様にお見せするほどの物ではありません。ハハハ」
 カン熟手は逃げるように荷車を引いて、その場を立ち去った。

 明国の料理の本? だったら見てみたい。
 後を追う。
「あの……」
「なんですか?」
「先ほどおっしゃっていた本、見せていただけますか?」
 熟手はニタッと笑い、荷車の下の方の引き出しから本を引っ張り出して私に手渡した。
 パラパラめくると、そこには……裸の男女が絡み合う絵が、延々と描かれているではないか!
 頬や首筋が火照って、耳まで熱くなるのを感じる。震える手で本を閉じ、熟手に返した。
「……あ、あの…これは?」
「もしかして、ご覧になるのは初めてで?」
 どぎまぎしている私を見て、察したかのように言う。
「もちろん、話には聞いていましたが……見たことは……」
「ほほう。今からでも遅くありませんよ。しっかり勉強して下さい。お綺麗な顔立ちであられるのですから、いつ殿下のお召しがあるかも分かりませんよ。男と女の愛のむつび合いを知らずして、王様の女とはいえませんからね。
 この本は初めての方向けですから、ちょうど、あなた様のような方にピッタリですよ。いかがです?」
「い、いいえ! 結構です!」
  ―――赤らんだ顔を見られたくない。
 差し出された本を振り払うように突き返し、急いでその場を離れる。
「うぶな子だな〜」
 つぶやく声が背中越しに聞こえた。


 夜になってもドキドキして治まらない。あの絵が頭から離れない。
  ―――お召し? 男と女の愛のむつび合い?
 王様とナウリの顔が思い浮かんでグルグル回る。ああ……もうわけが分からない!

 チェ尚宮様が部屋にお戻りになった。
  ―――どうしよう。尚宮様なら何でもお分かりだろうけど……伺いにくい……。でも
     ……他にはいないし……どうしても知りたい……。思い切って聞いてみよう!

「……尚宮様……。殿下のお召しを受けるとは、どういうことなのですか?」
「は?」
「いえ……その……あの……男と女がむつび合うとは……」
 突然こんなことを言い出したから、驚かれたご様子だ。けれど穏やかにお答えが返ってきた。
「なぜ、急にそんなことを聞くのか分からないけど……。そうか、お前には料理ばかりで、そのことは全然教えていなかったわね」
 そう言って立ち上がられ、押し入れを開けて奥の方を探しておられる。そして本を何冊か出して机の上、私の目の前に置かれた。

 手に取ると、それは昼間に見たような、むつび合いの手ほどき本だった。
「さ、尚宮様までこのような読み物をっ!」
 再び顔が火照りだす。
「だってお前、何も知らずして、どうやって御承恩を受けることができるというの? 女官は一度はこのこと、むつびごとを勉強するのよ」
 笑いながらそうおっしゃる。
「はあ……」
 そうして本を見せながら、詳しく……そんなに詳しく知りたいわけでは無かったが……丁寧に説明を始められた。私は黙って聞いているだけで精一杯。分からないことも多かったけれど、心の中でもやもやした感情が浮かんで、それを抑えるのに懸命だった。

 ようやく一通りの説明が終わった。
「どうだった?」
「どうって……ただ……ただ恥ずかしい限りでございます」
 うつむいて、やっと答える。
「そうでしょうね。お前は真面目だから……わたくしも初めは驚いたけどね。これが人の営みというものなの」

「……尚宮様。男と女が愛しく思う時、皆がこのようなことをするのですか?」
「まあ、そうね。でも、愛し合っていなくてもする人もたくさんいるけど」
「でも、普通はそう思う者同士がするのですよね?」
「普通はね。そして余程好いてしまうと、そうせずにはおれぬのか。最近、また女官が不義密通で罰を受けた。相手の男と共々、死罪となって。……哀れなものよ。
 ところでお前……まさかと思うけれど、好きな人がいるんじゃないでしょうね?」
  ―――痛! 図星。
「ま、まさか! いませんよ」
「なら、いいけど」
 そうはおっしゃったけれど、尚宮様は私の顔をじっと見つめておられる。

「クミョン……。分かっているとは思うけれど、お前は王の女」
「はい。尚宮様」
「そして、お前はお前だけのものではない。
 代々続く一族の系譜を汚してはならぬし、またこの誉れ高い一門のためにも、振舞いには気を付けるように」
  ―――でも、叔母様。想うだけなら許されますよね? 想うだけなら……。

「……尚宮様。王様以外の方と愛を育むことができないとは……女官とは哀しいものですね」
「それが定めよ」
「……御承恩を受けられなかった女官は……」
「そうね。だからまあ……その相手が男ではないことも……それだと、見つかっても百回叩かれるだけで済む。禁じられていることに変わりはないのだが」
「え? どういうことです、それは」
「だから……女官同士でね、そういう関わりを持つこともあるということ。
 惹かれ合い……昼も……夜もずっと……一緒に過ごしたいと思ったり。愛しくなって……そしてまあ、今見せた本のように褥(しとね)を共に……したりとか」
「お、女の方と!!!」
 思わず声が裏返る。
 けれど尚宮様は淡々と続けられた。
「それでも安らぎを感じられるというから」
「あの、尚宮様には…………そのような方はもちろん……」
「いなかったわ」
 そしてふっと俯かれた。
「それに……御寵愛を夢見るわけにもいかなかった。
 わたくしには一族のために最高尚宮に成る務めがある。だから、王様のお目に留まらないよう、伯母様……先代の最高尚宮様が気を遣って下さったの」
「そうなのですか……では誰とも共に過ごすことの無い、寂しい人生を送る……」
 そう申し上げると、急に不機嫌になられた。
「そのような言い方をするでない。一族が、先代の尚宮様が築いてこられた輝かしい一族に、我らは生を受けた。
 何が寂しいものか。我らはそういうことを望む輩(やから)とは違う、そんな付き合いなど必要ない!」
 突然の剣幕に驚いて、慌てて謝った。
「も、申し訳ありません……」
  ―――何か悪いことを申し上げてしまったのだろうか。
 尚宮様はそれきり、何も言われなかった。

 でも尚宮様には、あの絵に描いてあるようなお相手はいらっしゃらなかったみたい。それが分かって、ちょっとほっとした。
  ―――けれど私は、これからどうなるのだろう。
      女官として生きるのならば……そんなことがあるかもしれないってこと?
      でもそれは、惹かれる人がいての話でしょ。私にいるとすれば……。

 あの方のお顔を思い出し、急いで打ち消した。


 それからというもの、ナウリとご挨拶をするどころかお姿を見ることさえもできない。思うだけで、あの絵の有り様が浮かんでくるようになって、そのたびに罪の意識にさいなまれた。
  ―――私って、なんてふしだらな女……。あの方のことを考えるのは、しばらく
     やめよう……。




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☆39話の百合妄想

クミョンがヨリに「チャングムを私にささげるといったわね?」 と言いました。

クミョンがチャングムをもらったら
・「水を持ってきなさい」プレイ
・「私の足もお揉み!」とリフレクソロジー
・納屋に数日放置後、飲まず喰わずで衰弱しきったチャングムをおんぶして部屋まで連れて行く。
・その後重湯をあーんさせて介抱するも、介抱中延々と「そんな女官がいたことを」と自作ポエム披露。
・医女なんか呼ばないでクミョンがつきっきりで看病←これで治りがより一層遅くなる
・チャングムが回復するまで毎晩添い寝←これで治りがより一層遅くなる
・チャングムをだしにしてチョンホを呼び出し、ふられた腹いせに「チョンホ様より私の方が早くチャングムと出会った」と訳の分からないアピール。

なーんてやれば面白いのに(私だけが)

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