韓国ドラマ「宮廷女官 チャングムの誓い」の関連記事・二次小説置き場です。特別寄稿『今英嘆 水天の月編 終章 霽月』は7/6にUPされました。

[9]
 ある日、見習い生の競技会が行われた。成績はいつものように私が一位。あなたは二位に着けたけど、その差はほんの僅かだった。
 ここまで私に迫る見習いは、いや、内人様にもいない。いつの間にか、あなたはめきめきと腕を上げている。ひょっとしたら、負けてしまう時が来るのかも……。
 でも、なぜか悪い気はしない。
 そうよ、張り合う相手がいてこそ修業に精が出るというもの。そうでなければ、どんなに退屈な毎日だったろう。あなたが上手になるなら、私はもっと先を行けばいい。それに誰より修練を積んできた私が、負けるなんて。

 そんなことを考えながら水剌間の見習い生の仕事場に入ると、競技会の話で盛り上がっている。あなたはその真ん中にいた。私も話しかけたかったが、輪に入っていけない。
 思えばあなたは、いつも人に囲まれていた。ヨンセンはもちろん、チャンイやチョバン姉さんやミン尚宮様、普段は悪口ばかり言うヨンノまで。
  ―――なんだかんだあっても、みんなから好かれているのね。

 少し離れた場所で皆の会話を聞く。

「チャングム。あなたってすごいわ! クミョンとほとんど変わらないじゃない!」
  ―――でもヨンセン、いつもチャングムのことを褒めているけど、本当に凄さを
     知っているの? あの子の実力が分かるのは、私だけよ。

「まぐれよ、まぐれ! クミョンは力を取っておいているのよ。ね、クミョン!」
 かけられたヨンノの言葉を無視する。
  ―――あなたのお世辞ばかり言うところが嫌い。それに、いつもチャングムを
     『卑しい生まれ』とかいうけど、卑しいのはあなたの心じゃないの。

「ちょっとヨンノ! あなた、自分の成績が悪かったからそんなこと言うんでしょ?」
  ―――それは私が言いたかったことよ。

「ねえチャングム。今度はクミョンに勝ってね。ね?」
 ヨンセンの言葉に、あなたは視線を遠くにやりながら、
「私は……そんなつもりじゃないわ。ただお料理がうまくなりたいだけ」

 あなたたちを見ていた私の目と、あなたの視線が合った。
 あなたは、ニコッと微笑むと、視線を皆の方に戻した。
  ―――なに? さっきの笑いは……。私への当て付け? きっとそうよ。私に笑い
     かけてくる人なんて皆そう……………でも………そんな風には見えなかった。
     ただただ、真っすぐな純粋な、そんな笑顔。

 子供の頃から大人たちは私に笑い顔を向けた。でもそれは、後ろ楯に向けられているのを、いつからか感じていた。
 チェ一門の子だから御機嫌を取っておこう。チェ尚宮の姪で、料理が得意らしいから、いずれ最高尚宮に成るのも間違いない。今のうちに顔見知りになっておこう。
 笑う顔の底には下心が透けて見えた。

 宮中でも同じだった。
 尚宮様たちも、私の力、私そのものを見ようとはしない。頑張って料理が上手にできても、自分ではうまくいかなかったと思っている時も、あの笑い顔は変わらない。
 空(うつ)ろなお世辞なんて……だから誰とも、深く関わらないようにしてきた。

 だけど……チャングム、あなたはこれ見よがしの親切さではなく、へつらいでもない。真っ白な心で接してくれる。それがとても嬉しかった。
 その日はあなたと、直接話をする機会はなかった。でもその笑顔は、私の胸に焼き付いた。
 焼き付いた笑顔が心の中に広がり、染み渡っていく。
  ―――もっと知りたい、もっと近くにいたい。

[10]
 月の冴えたある晩、気分を変えようと中庭を散歩した。ここ幾週も行事が続いてその準備で忙しく、気持ちが疲れていたから。

 夜が好き。ひとりになれる時間が多いし、本当の自分に戻れるような気がする。
 そして月を眺めて過ごす。

 ふと見るとあなたが、独り四阿に座っている。
  ―――なかなかうまくいかなくて、夢中で松の実刺しをしていたわね。ひたむきな
     姿が、とっても可愛かった。あの時の面影は今のあなたにも残っている。

 引かれるように近付いて行く。他には誰もいない。
 隣に座った。
「ああ、クミョン」
「何してるの? こんな夜更けに」
「ハン尚宮様が怒ってらっしゃるの。だから恐くて部屋にいられなくて……。お休みになられた頃に戻ろうかと思って」
「それでここで時間をつぶしているのね」
「そうなの。エヘヘ」
 怒られたっていうのに、無邪気に笑っている。

「クミョンはどうしたの?」
「うん……。ちょっと気分転換にね」
「そう。最近忙しそうだったからね。お疲れ様」
「いいえ、どういたしまして」
「ところで最近チェ尚宮様とはうまくやってるの?」
  ―――そう言えば、最近は困らせることばかり申し上げていた。変なことを聞いたり、
     お料理にしても口答えしてしまったり……。

 少し考えてから答えた。
「尚宮様がお求めになるのは、基礎に忠実であることと、一族の伝統を守り再現できること。もちろん、それも大切なんだけれど……。でも、それだけでは駄目だと思うの。だから反発したくなる時があるし……。時々、あなたのやっていることが羨ましくなるわ」
「そうなのかなあ。みんな、変わっているって言うけれど……。それに、ちっともお料理を教えていただけなくって」
「自信を持って。ハン尚宮様のなさることですもの、間違っていないと思うわ」
「そんなこと言うのは、クミョンが初めてよ。ありがとう!」
 あなたは屈託のない笑顔を返してくる。

 つられて、自分の顔もほころぶのを感じる。互いの笑顔が、疲れた気持ちを溶かしていく。

 しばらく二人で月を眺める。

  ―――でも、最近思う。あなたのご両親は、早くに亡くなられたと聞いたことがある。
     それなのになぜ、いつも前向きで明るくて、こんなに綺麗な笑顔が見せ
     られるの………。

「ねえチャングム。……こんなこと聞いていいのかどうか分からないけど……。あなたは何の後ろ楯も無くこの宮に上がって、辛いことがたくさんあったでしょうけど……。なんというか……支えになってくれるものが、何かあったの?」

 あなたは、しばらく考えてから、
「うーん。ハン尚宮様がおられるし、ヨンセンが……そしてあなたもいるし」
  ―――あなたって、つまり私? 私も一応入ってるんだ。

「クミョンって、何をしても上手でしょ。子供の頃から、いつもすごいなって」

「それとね、初めて会った時、誰か大切な方に礼を捧げていたでしょ。月明かりに映える姿が大人びて見えて、とても綺麗だった。
 あちこち走り回る私と違って、クミョンはお淑やかでいかにも女官って感じじゃない。内に秘めた志を感じるけれど、口数が少なくて儚(はかな)げで、どこかハン尚宮様に似た雰囲気があって……。
 それに、いつだってもっと頑張ろうってしている。すごい力があるのに、それでも努力を続けるところ、そこも尚宮様にそっくり」
  ―――あなたにとって、私は水剌間の友達の一人だとばかり思っていたのに。そんな
     風に思ってくれていたんだ……。

「お仕えしているハン尚宮様とチェ尚宮様、お二方は普段あまりお話しをされないけれど……それと私たちのこととは関係無いと思っているの。私たちは私たちでお料理を勉強していけばいいんだし」
  ―――それって、お互いが実力を認め合う"同志"のような関係と思っていいの
     かしら。

「ねえクミョン、あなたはどうなの? 支えになってくれているものは何?」
「え? わ、私?」
「うん。そう」
  ―――聞き返してくるなんて思わなかった! どうしよう。なんて答えよう。あの方の
     ことを話すわけにはいかない。誰にも知られてはいけない……。でも。
 あなたの顔を見た。
「私……お料理を作るのは好きだったし……好きかどうかも分からない時分から習ってきたから、それ以外のことはよく分からないけれど」
 視線を、再び月に戻す。
  ―――どう思われるか分からないけど……できるだけ思っていることを言おう。

「私は……一族の期待を背負って宮に上がったの。
 みんなは、神童だとか天才だとかいろいろな褒め言葉をくれるけれど、ちっとも嬉しくなかった。
 尚宮様は、『お前が跡を継ぐのだから、もっともっと力を付けなくてはいけない』とおっしゃって……。息が詰まりそうに思えて、逃げ出したくなることも何回もあった。
 だけど私にはひとつだけ、心の支えになってくれるものがあったの。それは…………」
  ―――同じこの宮中に、凛としたお姿の……。

 あれ? 黙ったまま、あいづちさえ返してこない。
「ねえ、ちょっとチャングム。聞いてる?」
 あなたを見ようとした途端、右肩が突然重くなった。あなたがもたれかかってきて……どうやら眠ってしまったようだ。
 それを見て、腹が立つやら呆れるやら。
  ―――あなたって人は。せっかく一大決心をして話しをしているのに! それに聞いて
     きたのはそっちじゃない。失礼ね!

 肩に手をかけ起こそうとして……やめた。
  ―――憎めないわね……。

 私の肩を枕にして眠っている。それを見ていたら、苦々しく思う気持ちが消えてしまった。
  ―――しばらくこのまま……。

 眠るあなたに語りかけた。
  ―――女官は想いを寄せてはいけない。それは分かっているの。だから心に大切に
     しまってきた。
      ここでの暮らしが窮屈で辛くてたまらなくなって、そんな時はあの方を
     そっと想い、心を癒してきたのよ。

 月が雲の後ろを、ゆっくりと通り過ぎていく。
  ―――あの方を思い浮べては、じゃあ、もし私が女官でなかったら?
      そう何度も考えた。
      それでも私は今と変わらないでしょう。
      だって、いつだってあの方の目に私の姿は映っていないのだから。

      でももし、振り向いて下さったら?
      それも何度も考えたわ。
      お振り向きになられたら、きっと私は戸惑ってしまう。
      いつも陰から見ていただけだから。

      私はあの方の何を知っているというの?
      あの方とどんなことを話し、どのように時を過ごせばいいのだろう。

 あなたの温もりが伝わってくる。
  ―――私は月のような人間。夜空で静かに、でも一番輝いている。
      私にとってチャングム、あなたは……まぶし過ぎる。
      天真爛漫で、みんなに好かれて、型にはまらない発想を持っている。いつも
     前向きで、力強くて、行動力があって。時々そのたくましさに、圧倒されて
     しまったり。
      だけど、あなたは飽き飽きした日々を変えてくれた。
      一緒にいると、腹が立つことがあるけれども面白い。
      一緒にいると、私も変わっていけるような気がする。

 二人だけの時間が流れる。
  ―――あなたのことになると怒ったり笑ったり。自分の感情の起伏に驚いているわ。

 いつの間にかチャングムの寝顔を、じっと見つめていた。
  ―――何年か前、一緒に裏山に行ったわね。あなたは私の手を引いて、薄暗い薮を
     分け入った。そんなあなたが頼もしかった。
      あなたは私を、……どこか違う世界へ連れて行ってくれる、あなたがいれば、
     新しい道が開けるかもしれない、いつか運命は変えられるんじゃないかって、
     そんな気がするの。

 私の隣で眠る柔らかな顔。
  ―――さっき皆が支えだと答えてくれたけれど。でも本当にそれだけ?
      いつも元気に振舞っていても、辛くてしょうがなかったり、やっぱり寂しく
     なることもあるのじゃない?
      周りのみんなは、あなたの気持ちの全部を分かってくれる?

 寝顔は無防備で、私の言葉、私の想いを全て受け止めてくれそうな気がした。
  ―――いつの日か、いつか私に話してくれない?
      あなたを支えている本当のものを。
      あなたのことをもっと知りたいから。

 あの方への憧れとは違う想いを、あなたに望んでしまう。
  ―――そして私のことを、もっと直に見て欲しい、いつも側にいて欲しい、私という
     存在を理解して受け止めて欲しい……。
      そうやって、お互いに分かり合えるなら、それは……。

 強い感情が……戸惑いを感じるくらい……湧き上がってくる。
 気付いて、思わず視線をそらした。
  ―――いいえ。私の支えは、あの方だけ。
      認めたくない。他の人に何かを望むなんて。そんなことを認めたら、私の
     想いが……幼い頃からただ一人をお慕いしてきた想いが、一途なものではなく
     なってしまうような気がするから……。


 しばらく、寄り添って月を見る。
  ―――でも、これだけは言える。あなたと……真正面から向き合いたい。




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☆39話の百合妄想

クミョンがヨリに「チャングムを私にささげるといったわね?」 と言いました。

クミョンがチャングムをもらったら
・「水を持ってきなさい」プレイ
・「私の足もお揉み!」とリフレクソロジー
・納屋に数日放置後、飲まず喰わずで衰弱しきったチャングムをおんぶして部屋まで連れて行く。
・その後重湯をあーんさせて介抱するも、介抱中延々と「そんな女官がいたことを」と自作ポエム披露。
・医女なんか呼ばないでクミョンがつきっきりで看病←これで治りがより一層遅くなる
・チャングムが回復するまで毎晩添い寝←これで治りがより一層遅くなる
・チャングムをだしにしてチョンホを呼び出し、ふられた腹いせに「チョンホ様より私の方が早くチャングムと出会った」と訳の分からないアピール。

なーんてやれば面白いのに(私だけが)

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