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千のFX千夜一夜 第八夜 〜 ゼロサムゲーム

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第七夜で、為替と株式の性格的な違いを見ていただいたが、株式のほうは、価値が創生されて時価総額全体が増えれば全員が儲けたり(評価益ベースで)、逆に昨年のように価値が縮小して時価総額全体が減れば全員が損をする、ということもある相場なのに対し、為替のほうは、諸説あるが、一応「ゼロサムゲーム」ということになっている。

ゼロサムゲームとは、参加者の損益の合計はゼロ、つまり端的に言えば「誰かの得は誰かの損」という意味だ。

為替相場を特徴付けると言われるこのゼロサムゲームについて、考えてみよう。

ゼロサムゲーム

ゼロサムゲームは少々重たいテーマだが、為替相場の特徴、および「FXはそんなに甘くない」ということを知る上で、ゼロサムゲームはやはり避けては通れないテーマと思う。

ゼロサムゲームは、英語の zero-sum game で、ゼロサムは「和(sum)がゼロ」という意味だ。「零和」ということもある。また、game とは、普通のゲームの意味を超えて「何らかのやり取りの継続」と考えてもらって良い。

何らかのやり取りで利益や損失が生じても、誰かが利益を得た時は誰かが損失をこうむっているというもので、それらを全て合計してしまうとゼロになるようなものが、ゼロサムゲームだ。

まず、株式市場は「非ゼロサム」であると言われる。

株価の上昇局面では価値が創生され、下降局面では価値が減少する。
株式市場には「時価総額」というものがあり、その時の「株価」に、発行済み株式総数を掛け算したものが、時価総額である。発行済み株式の数が一定でも、会社の業績が伸びたり、新規事業への期待が高まれば、その会社の株式を買いたい人が増え、株価が上昇する。株式の数は一定だったから時価総額は増える。その分、みなが(評価益ベースで)得をしうる。
反対に、下降局面では時価総額が減った分だけみなが(評価損ベースで)損をしうる。

こういうのを「非ゼロサム(non-zero-sum)」という。

企業が成長したり株式市場全体が拡大している状況では(一般的な資本主義社会では概ね拡大すると言われているが)、長期的に見て「非ゼロサム」といえる。

さらに、株式の場合は、時価総額が変化するような期間にわたって株式を保有する場合が多く、そのことも株式相場を非ゼロサム的にとらえる理由となるだろう。
(かなり短期的に見るならば、株式相場も、これから述べる為替市場のようにゼロサム的である)

一方、FXを含む為替相場は、基本的に行っている操作は「両替」だ。

ある通貨を買って別の通貨を売る、という交換を行っていて、買われた通貨はレートが上昇し、売られた通貨はレートが下落するわけだが、操作が基本的に「両替」である以上、その行為そのものに価値の創生はない

よって、仮にあなたが、ある時点で両替を行い、別の時点で反対の両替(反対売買)を行って差益が得られたら、その利益はどこから来たか?というと、自然に沸いて出てきたのではなく、市場で誰かがその分を損することでもたらされた利益である。

ただし、あなた1人のために、誰か1人がそっくりその額を損したわけではない。あなたがポジションを持ったときと決済したとき、同じ人がちょうど反対の取引をしたとは限らないからだ。いわば、市場全体が平均的に損をして、あなたに幾ばくかの利益をもたらしたことになる。

こうして、単なる市場での通貨の「交換」という行為で、その利ざやを稼ぐ方法では、市場全体での価値が創生されないことから、市場全体の利益と損失の合計はゼロ、つまり「ゼロサム」となる。

なお、ポジションを持ってロールオーバーをするとスワップポイントが付くが、スワップポイントまで含めてゼロサムと言って良い。

スワップポイントは「通貨の貸し借り」で発生する。
例えば、あなたが証拠金を担保にしてドル円のロングポジションを1Lot持った場合は、1万ドルを借りて、これを市場で約100万円と交換し、その100万円を貸す、という行為を行っており、その貸し借りの金利差に相当する分がスワップポイントになるのだから、貸し借りは、その反対の貸し借りをする相手がいることから「スワップポイントも含めてゼロサム」といえる。

あと、実際には為替市場には、買いっぱなし、売りっぱなしの実需も存在する。このような、利ざや目的でない実需を考えると、ゼロサムっぽくないが、実需の場合も「より有利なレートで為替する機会を得る(or失う)」という意味で、機会獲得・損失も含めて「ゼロサム」といって良いだろう。

例えば、ドルを売りたい輸出筋とドルを買いたい輸入筋が同じレートで出会った場合に対して、輸出筋とあなたのドル円ロング新規オーダーがドル円99.00で出会い、その後レートが50pips上がったところで、あなたのドル円ロング決済オーダーと輸入筋が99.50で出会ったとする。あなたは50pips利益を上げるが、50pipsの損失は、より不利なレートで為替をすることになった輸出筋または輸入筋の「機会損失」と見ることもできる。

なお、細かい点を言うと、スプレッドや売買手数料、あるいは売買スワップの差(くりっく365を除く)を考えると、「胴元の取り分」という点でFXはゼロサムではなく、マイナスサム(minus-sum)だ。

さらに言うと、FXで得た利益には相応の税金がかかる。税金の取り分は莫大で、それを入れてしまうとかなりのマイナスサムなのだが、先程のスプレッドなどのFX会社の
手数料相当や税金は、為替市場と無関係の仕組みであり、「為替市場での為替の仕組み」に着目すればゼロサムだと言って良い。

ちなみに、通貨供給量や通貨政策が、歴史的期間において変化するので、非常に長期的な視点で見れば「非ゼロサム」かも知れないが、為替取引では、そんな長い期間にわたってポジションを持つことはまず無いので、よっぽどインフレが急速な通貨なら別かも知れないが、通常の通貨を通常ポジションを持つような期間においてはゼロサムだと言って良いだろう。

このようなパイの奪い合いといえるゼロサムは、たとえるならマージャンだ。マージャンは「総点数が変わらない点棒の奪い合い」で、誰かが点棒を多く持てば、誰かが点棒を失うのだが、点棒全体の合計点数は最初から不変である。

プロとアマ

さて、ゼロサムとは「誰かの得は、誰かの損」だと言った。
では、この「誰か」とは、誰か?

それは、もちろん、FXで市場に参加しているあなたも、その1人だ

FXの個人投資家のみならず、為替市場に参加する全ての人が、ということだが、その中には、もちろん、プロもいる。銀行もいれば、証券会社もあり、ヘッジファンドなどもいる。実際にインターバンクに参加しているのは金融機関だけであるが、その金融機関が、顧客として、FX会社(とそこにぶらさがる個人投資家)・他の金融機関・証券会社・機関投資家・投機筋・ヘッジファンド・政府筋(年金系など)・輸出企業・輸入企業・両替をしたい個人などを持っている。

大口の為替を行うところは、それが投資であろうと実需であろうと、相応の有利なレートでの為替を望むので、相応のプロを置くだろう。

そして、為替市場は非常にオープンで、プロもアマも全参加者が1つの同じ「為替市場」で向き合っている。

そう、我々はプロも同じ土俵にいる為替相場で「ゼロサム」ゲームを戦っているのである。

プロはプロ同士、オプション、仕掛け、情報戦含め、日々戦っている。
その間隙で、個人投資家は、うろちょろしながら僅かな利益や損失を出している。

プロと個人投資家に二分したとき、どちらが利益を上げていると考えられるだろうか。

技量・資金・情報などなどにおいて、どう考えても個人投資家(の平均)を上回っていると思われるプロのほうが、平均的には利益を上げている、と考えたほうが自然だ(なお、この考えは、そう考えたほうが自然だというだけで、実際に確かめたわけではない)。

とすると、プロも一緒に参加しているゼロサムゲームで、個人投資家全体が利益を上げるのは大変に“分が悪い”環境だ。
(個人投資家だけでゼロサムゲームを戦っているわけではない)

そしてプロは、プロ同士戦いながら、個人投資家の資金をも巻き上げていく。
時には、ストップハンティングと呼ばれる手法で、ある水準にたまっているストップロスオーダーを、自分の豊富な資金で巻き込み、相場がちょっと流れたところを急速に買戻し(またはその逆)を行ったりする。

プロから見れば、個人投資家は、良い“鴨”でしかないのだ。

となると、我々個人投資家は、いかに負けないトレードをするか、よく考えなければ、相応の「装備」を身に付けなければ、とても「永続的に」勝っていけるものではない。

(我々は、「プロを相手に」戦うと考えると勝ち目は無い。そうではなくて「勝っている方のプロに乗っかって(その相手と)戦う」方が、効率が良いということだ)

6%説?

ちまたでは、よく、FX個人投資家の勝ち組は「6%」だという説がある。

この数値は、情報源により、5%だったり、1割だったり、2割だったりするが、どんなに多くても2割止まり。残りは残念ながら負け組ということになっている。

なお、言い方によっては「3年後に6%が勝ち組」という説もあるが、概ね似たようなものだ。言いたい内容は、「一握りの人しか、勝ち組になれない」という趣旨に変わりない。だから、それが5%だろうが6%だろうが10%だろうが、関係ない。

ここでいう勝ち組はもちろん、「累積損益がプラスである」という意味だ。

「3年後に6%」が勝ち組に生き残れたとしても、そのまま勝ち組であることを保証されたわけではない。というのも、もしそうであれば、年々勝ち組が蓄積されていってしまう。つまり、3年後に6%の勝ち組に生き残れても、その後その中からまた資金を失う負け組が出るだろう、ということだ。大変厳しい世界だ。

ここで、この1年間の個人投資家の推移を考えてみたい。

「FXの脱税事件(FXで4億円稼ぎながら脱税をした主婦)」の一件や、2008年3月の10数年ぶりの円高局面で、一般人にも馴染み深いものとなったFX(外国為替証拠金取引)であるが、やはり2008年3月〜5月にFXの口座数はかなり増えたようだ。

まず、銀行の外貨預金の取引数が増えて、その後FXの口座取引数が増えたようである。

この図式は、とても簡単だ。日本人は、外貨預金が基本的にロングでしか参戦できないのと同じように、まず「ロング」で参戦する発想を持っている、ということだ(ロングが好きという意味ではない)。そして、2008年4月〜8月までは、ドル円もクロス円も概ねゆるやかな円安傾向を示していた。そのため、初心者でも、ドル円・クロス円でロングしていれば、だいたい勝てていたようだ。

そのため、おそらくであるが、去年春の円高局面からスタートしたような新人は、そこから8月までの間は、ちまたで言われる6%説に当てはまらないほど勝てていた可能性はある。

が、8月以降のクロス円大暴落、及び、リーマンショックの9月以降のドル円・クロス円暴落の「円買い一辺倒相場」で、個人投資家の資金は相当傷んだようだ。

そのことは、FXの口座総数と預託証拠金推移を公開している会社のデータを見れば良く分かる。

口座総数と預託証拠金総額の推移を公表しているセントラル短資、外為どっとコム、マネーパートナーズ、サイバーエージェント、およびくりっく365各社合計(東京金融取引所預り)の2008年3月〜2009年3月の口座総数と預託証拠金総額を見ると、口座数は順調に単調に伸びているのに対し、預託証拠金は、月別では、どのFX会社のものも2008年9〜11月に証拠金総額が2、3割激減した。

これは、ちょうど、クロス円・ドル円大暴落の時期にあたる。
もし相場がどのように動こうとも、日本人が「ロングもショートも等しく出来るのなら」これほどの証拠金の激減は無かったはずだ。

しかし、これほどの証拠金の激減を招いたのは、とりもなおさず「日本人の“多く”がロングで参戦し続けた」ことの証だろう。

実は、2008年秋の時、既に先物ポジションは完全に「円ロング」(=ドル円で言えばショート)に傾いており、また、それまで行われていた「円キャリートレード」(金利の低い円を借りてこれを売って金利の高い通貨を買い、運用すること)が急速に解消され始めた時期だった。

円キャリートレードというと、何か特殊な取引に見えるかも知れないが、我々FX参加者がドル円やクロス円のロングポジションを持つことそのものが、円キャリートレードだ。

世界的には、先物が円買いに走り、円キャリートレードも急速に解消したにもかかわらず、最後まで円キャリートレードをし続けていたのは、ある意味、日本人自身だった。

結果、預託証拠金推移のデータが示すとおり、かなりの含み損を抱え、場合によってはロスカットに遭い、あるいは遭わなくても元金の回復が困難なほどの損失をこうむったと考えられる。

その後、冬の円高局面では、口座数も証拠金もゆるやかな伸びを示しているようで、どうやら冬以降、日本人もショートとロングの使い分けをし始めたようだ・・・とも言われている。

実際、為替相場は上にも下にも動くのだから、どちらかの局面にしか対応できないトレードではとても勝っていくことなど出来ない。ショートもロングも、どちらも等しく使っていくこと、これは基本的なスキルとして求められるだろう。

さて、話を「6%」に戻そう。

為替相場は、ゼロサムゲームであった。つまり、誰かの得は、誰かの損。

そして、ある時点で市場でレートが出会ったとき(=相場が形成されたとき)、その時点で出会った「売り数」と「買い数」は、同数だ。そのどちらかが正しく、どちらかがそうではない、ということだが、こう考えると損得は五分五分のように見えるが、なぜ6%になってしまうのだろうか? ここは幾分疑問である。

これは、勝つ方はいくらでも勝って利益を蓄積できるのに対し、負ける方はいくらでも負けられるわけではなく、ロスカットや資金不足で、ある水準で「市場から撤退(退場とも)」を余儀なくされる点もあるかも知れない。

先程紹介した、FXの口座数と預託証拠金総額の推移のデータを総合すると、調べた範囲の平均で、2008年3月〜9月までの口座あたりの平均証拠金は50〜55万円程度だ。
2008年12月〜2009年3月の平均証拠金は30〜35万円程度。
平均証拠額自体はFX会社間で2〜3倍程度開きはあるものの、概ね資金が「数10万円」というのが平均的な姿のようだ。

そこで、仮定として、6%の勝ち組の構成を考えてみよう。よく「1億稼いだ」という話を聞くが、誰もがそんなうまくいくわけではないにしても、ごく一握りの人間がそのくらい稼いでいる可能性は無くはない。そういった感じで、まったく大雑把だが、以下のように仮定してみる。

6%のうち・・
 0.1%  1億円以上
 0.4%  1000万円〜1億円  (つまり上位0.5%が1000万円以上)
 1.5%  100万円〜1000万円 (つまり上位2%が100万円以上)
 2%   数万円〜100万円
 2%   0〜普通預金並み (マイナスで無い、という程度の勝ち方)

本当に凄く稼いでいるのはごく一部とする。6%の中にはマイナスで無いというだけの人もいるかも知れない。

一方の負け組のほうはいくらでも負けられるわけではなく、基本的に準備できる資金が限界だから、勝ち組のような千万・億単位の負け方をする割合は低いと仮定する。とすると、

94%のうち・・
 4%  ちょいマイナス〜数万 (ちょうど、勝ち組の0〜普通預金並みと相殺)
 90% 残り

で、90%の負け方は勝ち組との相殺で言えば、概ね
 (1億×0.1%+3000万×0.4%+300万×1.5%+10万×2%)÷90%=30万
つまり超ざっくりと、平均的には30万円ほど資金を減らした形となる。

これは奇しくも、先程の「1口座あたりの証拠金30〜50万円」に近い。

つまり、新規参入する個人投資家の平均資金が数10万円だから、その資金分を失えば、平均的には撤退せざるを得ない、ということだ。

こうして、ある一定水準の負け方をする94%と、「とんでもない勝ち方を含む」6%とに分かれてしまう・・・

ここら辺、非常に適当な推論と、ややロジックさに欠ける展開ではあるが、可能な勝ち方、可能な負け方を考えれば、概ね似たような事情になっているのではなかろうか・・・

少なくともFXは、大きさの決まったパイの奪い合い。プロも一緒に参加するこの市場で、誰かのパイを奪わなければ、自分のパイを増やすことは出来ない世界だ。

たとえゼロサムと言っても、プロも参加していることや、スプレッドや税金まで考えれば、個人投資家は平均的には損をしていて当たり前の世界だ。

そのような世界に、FXの初心者がテクニカルもファンダメンタルも相場観もなく無防備に飛び込んでも、どうなるかは明らかだ。まさに鴨ネギ。プロたちに根こそぎ資金を持っていかれるのを待つばかりとなってしまう。

だからこそ、しっかりと武器を持ってトレードに取り組まなければ「負けないトレード」にはならない、といえるだろう。FXという世界を考える上では避けて通れないという点は自戒の意味もこめて強調しておきたい。

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