12氏作品 １８スレ目 その4(避難所)
233 ：愛のVIP戦士：07/06/12 00:52:41 ID:bfR64lXV
【苦しまずに】
俺友「……久しぶりに萌え萌えビーム」
ｼｭﾜｧ……
俺「あっちの方がよっぽど厨に効くんじゃね?」
別俺「……」
261 ：愛のVIP戦士：07/06/21 22:40:50 ID:8cudPDs1
【静寂と微震と激震】
※本文省略
→ まだ手はあるはずだ
なんとかしないと。
263 ：愛のVIP戦士：07/06/21 23:27:17 ID:8cudPDs1
【→ まだ手はあるはずだ】
すぐにでも走り出してしまいそうな思考を無理やり抑えつける。
落ち着け! 逃げるな!
収まらない震えはそのままに、俺は渾身の力でもってアイツの機体ごと横に飛ぶ!
直後の轟音、ゴロゴロと転がったお互いが無事だということを確認すると、また同じように回避を行う。しか
し、力を込めたはずの機体の足は無残にも空を掻くばかり。重心だけが傾き俺は頭部からモロに落ちてしまう。
「俺機、厨の攻撃により右脚部を大破。これ以上の行動はもう……!」
切羽詰った少女の声がイヤでも現状を理解させる。先ほどから地面をもがくだけの自分と、うんともすんとも
言わないアイツの機体。今度こそ、とその大槌を振り下ろさんと構える厨。どうにか出来ないのか、ここで俺は
死ぬのか、皆を、コイツを残して俺は死ぬのか。
「……よう頑張った、と言ってる」
ハンマーが俺の機体のボディーを捉える間際、厨はまさに横槍とでも言うべき突撃にその巨体を揺らし転がる。
「俺友!」
「……後は任せろ、と言っている」
同時存在である俺友の機体が、もう一人の俺友の言葉に応える様に頷く。一体、どうやって意思を取り合って
いるとっているのかは分からないが、心強い味方にやっと息を吐いた。気づいたら汗も大量に出ていた。
「カモーン……と言っているかも」
「冗談はいい、仕留めるぞ」
もう一人の俺が答える。俺は外部排出された姉のコックピットを持って戦闘域から脱出した。
273 ：愛のVIP戦士：07/06/30 22:05:32 ID:mTjvMoGe
全く>>12って奴はどこ行ったんだ。
【俺友参る】
「それで、アイツの容態はどうなんです?」
脇のモニタでは残り少ない厨に追撃を仕掛けるロボットが映し出される。感情の起伏の少ない彼女そのままに、
冷静に、冷徹に化け物を追い詰める。先ほどまであれほど暴虐をばら撒いていた厨も、いまやそれ以上の存在に
逃げ惑うだけだ。
アイツを基地に連れ帰ると、すぐに医務室へと運ばれた。俺のほうはすぐに再出撃しても良かったけれど、破
損が酷いために見るだけなってしまった。今は鏡越しに、様々な管に繋がれた横顔を覗くことしか出来ない。
「命に別状は無いわ。元々、体がそんなに強い子じゃなかったから、ある程度本人も周囲も分かっていただろう
し。酷い言い方だけど」
じゃあなんで乗せた。思わず出掛かった言葉を寸でのところで止める。吐き出されない熱はそのまま体に回り、
鼓動や思考をオーバーヒートさせる。店員さんは手に持ったファイルをパタリ、と閉じた。
「……私だって、出来るなら乗せたくなかった。もういいからって、疲れたでしょって言いたかった。でも、そ
れはしちゃいけないの。私は大人だから。理不尽で、ズルくて、いい加減な、子供に嫌われる大人でないと駄
目なの。小さい頃に、ああいう大人になっちゃいけませんって言われた大人にならなくちゃいけない、だから
……でも、でもね」
店員さんはジッとアイツを見ていた。まるでお母さんのような目だった。
「ごめんね」
本当に小さく、彼女は呟いた。
274 ：愛のVIP戦士：07/06/30 22:06:00 ID:mTjvMoGe
【火、のち火】
医務室を出ると、素ヒが立っていた。声も出ずその場でしばらく立ち尽くすしかなかったが、それでも俺は彼
女の脇を抜けようと一歩を踏み出す。けれど、それは素ヒが「男はっ」と切り出すことで遮られた。
しばらくの静寂。出てきた店員さんにこんなところを見られるのは少し勘弁したかったが、素ヒの様子にそこ
から移動することは皆目無理なことであろう。
「男はっ、その……」
歯切れが悪い。それでも必死に何かを伝えようとする彼女を無下に扱うことは出来ない。
「姉のこと……好きなのか?」
「……えっと、それはどういう」
「ち、違うんだ! 誤解しないでくれ! こういう時に言うべきことじゃないってことは分かってる! 私が聞いた
ことも、まるで検討外れだってことも知ってる! だけど……」
俯く彼女にどうすれば良いか分からなかった。抱きしめてしまえば早いのだろうけど、それはなんか、違う気が
した。素ヒは何度も口の中で何かを繰り返した後、俺を見る。
「男は、姉のことを……愛してるのか?」
怖がってた。直情的で、少しのことじゃ折れも曲がりもしない彼女が震えていた。俺の一言次第でそのまま色を
消してしまいそうな瞳。フラフラと彷徨う視線は拠り所を無くした心のように脆い。
俺は―――。
→ 黙る
お前が好きだ
276 ：愛のVIP戦士：07/06/30 23:29:13 ID:mTjvMoGe
【→ 黙る】
黙るしかない。何か言いかける彼女から、その目から逃げるように俺は歩き出す。僅かに耳に入った言葉を無理
やり頭の隅で押し潰す。こめかみの辺りが軋むように痛い。そのままメインモニタのある大部屋へと入った。
おそらく凄い顔をしてるのだろう。振り返った渡辺さんが慌てて顔を戻すのを見て、妙な笑いさえ出そうだった。
戦闘が終わっても、まだアイツは起きない。
会議室では勝利を収めたのに、どこか沈鬱な雰囲気に苛まれていた。
「今後は姉の代わりに俺友が戦闘に参加することになった。俺友の意識の問題は、現在調査中だ」
もう一人の俺がシンプルに言い終える。新しい仲間の登場にも、皆、アイツのことが気になっているようだ。
「あの、ロボットの俺友さんは、休んだりしなくて大丈夫なんですかぁー?」
姉友ちゃんがおずおずと切り出す。確かに体がロボットであろうと、意識は人間だったものだ。そもそもロボット
の体ということは、食事や睡眠、その他諸々の生理現象はどうしているのだろう。
「それは人間の方の俺友が既に承知している。体は機械だが女性だ。私が触れることではない」
「……ｲﾔﾝﾊﾞｶｰﾝ、ｿｺﾊｵﾁ」
「おい」
「……ごめん」
素直に俺友が謝る。アイツがいなければここまで酷いのか、無性に自分に腹が立ってさえしてきていた。
おそらくトイレにでも行こうと、その場から立ち上がろうとしたのだろう。しかし、それは地下世界にも響く轟音
により急激に場の空気ごと変わっていく。
全員、開こうとする口を我慢する。一体、何が起きたのか。それを知るための一報を待った。
『緊急連絡。当域に厨が出現しました。繰り返します、中型の厨が一体。国防省厨対策本部危険域第一級指定。通称、
“ダミー”が出現しました』
277 ：愛のVIP戦士：07/06/30 23:37:43 ID:mTjvMoGe
【第九話 目的はいつも 終了】
278 ：愛のVIP戦士：07/06/30 23:44:28 ID:mTjvMoGe
【次回予告】
「世界規模で出現している化物、厨。幸いにも現在の科学力で圧倒出来得る中にも、必ず例外というのは存在する。
なぜ破壊行為をするかは一切不明。もとより化け物に、災害に理由など存在するのだろうか。であるからして、する
べきことは対処すること。つまりぶっ殺せばいいんだよ、あー? さっさと殺しにこいや、俺様はいつでも待ってる
ぜー? だけどナァ、俺サマだってそうむざムザと殺されるなんて御メンなんだよ。てめエラをコロシテ殺してコロシ
テ、散々テメラニキョウフッテモンヲオシエタラシンデヤルヨギャハハ、ダカラサッサトカカッテコイヤスベテコロ
シテヤルヨコワシテヤルヨギャハハハハハハハハハ!!」
次回、【すべき復讐劇】
279 ：愛のVIP戦士：07/06/30 23:45:03 ID:mTjvMoGe
【第十話 すべき復讐劇】
287 ：愛のVIP戦士：07/07/04 21:34:10 ID:XkkGfq6+
呼んだ?
【第十話 すべき復讐劇】
『っつうわけで聞いてるかコノクソ野郎どもガよォッ、ほらさっさと殺しにコイヤー!』
メインモニタにはいつものように厨が街を破壊している様が映っている。普段なら、中型がたった一体ということも
あり何ら脅威に思うことなど無いのだが、俺はたった今ある、その異様な光景に息を飲んだ。
「しゃ、喋ってる? それに、あれって、人間の」
やっと言葉を搾り出すと、ソイツは図ったようにカメラに向かってニィッと笑みを浮かべる。まるで人間の、いや、
確かにソレは人間の顔で以って笑っていた。
「この日本には、現在の科学力ではどうしようもない厨が数体、存在する。その一体、国防省厨対策本部危険域第一級
指定、通称ダミーだ。あいつは人語を操るんだよ。人間の面まで用意してな」
人面に異形の体躯を持つ、まさか冗談かと思うような化け物。遂に言葉を失う俺に対してもう一人の俺は実に雄弁で、
どこか楽しそうでもあった。
「しかし、実際にその言葉に意味があるわけではない。自身の喋っている言葉でさえ奴は理解出来ていない。ただ単純
に、人間に不快感を催すものだけを選んでるに過ぎない。我々、人類に対するアンチテーゼの自然発生。面を見ろ、
おそらく奴が最近に喰った人間の顔だろう」
288 ：愛のVIP戦士：07/07/04 21:36:28 ID:XkkGfq6+
【切り札は「自分」だけ】
モニタ一杯に映し出される、俺たちと同じ構造でありながら本能的に拒絶反応を起こす笑み。首から下が化け物だか
らというわけじゃない。単純に、ただ単純にいやだ、と思わせる何かを含んだ顔の化物。
ふと、周囲を見渡す。そこもまた異様だった。全員が全員、その化け物を射殺さんばかりに睨んでいる。中には宿願
の敵という面持ちで眺めている人間さえいる。あの渡辺さんさえ、もしその視線がこちらに向けられていたなら竦んで
しまいそうな眼だった。
益々混迷する俺の代わりに、もう一人の俺が意気揚々に口を開く。
「皆、遂に、遂に奴が来た。私は厨との戦闘において、余計な感情は極力排除してきた。また皆にもそう努める様、指
揮してきたつもりだ。だが、あえてここではただの私怨、復讐心でのみ奴を殺す事を許して欲しい。それぞれ、皆に
も大切な人間がいると思う。それを私は奪われた。だから同情であろうと憐憫であろうと、私の行為を、憎しみを肯
定してくれることを望む。憎しみが憎しみを生むのならば、私は歓んで悪徳に身を染めよう」
その言葉にみんなが頷く。もう一人の俺がどこか、化け物めいて見えた。
289 ：愛のVIP戦士：07/07/04 21:38:11 ID:XkkGfq6+
【喜劇の出来損ない】
早急に出撃の準備が行われる。先の戦闘の影響で各機とも出撃に時間がかかるようで、キリキリと胃の痛い時間が過
ぎてゆく。俺はどうしても馴染めないままでいる気持ちを逃すように一人、空き部屋で出撃の時を待った。
『みんなのこと、怖いですか?』
天に響く柔らかな声。普段ならその真意の見えない声に身構えるばかりなのだが、我侭にも今日ばかりは唯一の味方
のよう思えた。俺は顔を持ち上げ、店長さんに投げ掛ける。
「あの化け物が、この世界の兄を殺したんですか?」
みんなあのようになってしまう理由。これしか思いつかなかったし、これ以外に相応しいものが無かった。店長さん
はしばらくの間、逡巡するような沈黙を保つ。やはりその真意は見えない。
『そうです。まだV.I.Pが今のように厨を圧倒する力を持たない頃、彼は国の援護さえままならないこの街を一人で、命
を賭して守ったんです。はたしてこの街の人々は救われました。代わりに、彼を想う幾人もの若者が自ら修羅になる
ことを選んだんです』
悲劇だと思えませんか? 加工された電子音は店長さんの声そのままだが、しかしどこか機械的な冷たさで投げかけら
れる。嫌な汗がいつの間にか体を伝い、ピッタリとしたスーツは不快感だけを残す。俺は繋ぐべき言葉も無いまま、部屋
を出ることで色々なものに背を向けようとしていた。
けど、そういう背中にこそ惨劇は、悲運は牙を剥くものだ。
『V.I.P一機出撃! あ、姉機と思われます! やめてください姉さんっ!!』
室内に響く悲鳴めいた声。
『怪物と拮抗するにはどうすべきか? それは自身も怪物になることなんです』
俺は力の限りに駆け出していた。
290 ：愛のVIP戦士：07/07/04 22:06:54 ID:XkkGfq6+
【止まない雨】
「なんでアイツが出てるんですか!?」
作戦室に入るなり叫ぶ。いくつも振り返る顔、顔、顔。俺はとにかく店員さんに噛みつくしかなった。
「今すぐ止めてください!! ああしているだけでもやっとのはずだろ!?」
喚き声が妙に部屋を転がりまわる。まるで俺だけが何も分かってないような、いや、最初から俺は異世界の存在だ。
なにも知らない、分からないなど当たり前だ。けれど、それとはまた別の、俺の必死の訴えをどこかで疎んじる空気が
そこには漂っていた。
店員さんは俺を見据えると「無理よ」と、一蹴する。
「こちらからの命令系統は全て拒絶されてる。原因は、おそらくアレね」
顎で促され、ロクに見ていなかったモニタへと目を移す。そこでまた俺は言葉を失った。
「く、黒いV.I.P……?」
漆黒の機体。その形状、また発信されている識別番号により辛うじてアイツの機体だと分かる。今までの緑の装飾は
今や闇と化し、一つの巨大な黒塊として街に聳え立っていた。吹き抜ける風は止み、今は憎悪という嵐を纏った暴風と
して化物を殺す為だけの機械化物がモニタに映っていた。
「V.I.Pは搭乗者の精神状態がモロに反映される。つまり、アレが今の姉ちゃんの心そのものよ」
「精神状態って、アレじゃまるで……」
「まるで? まるで何かしら? 彼女は大切な人間を、さもすれば別俺くん以上に大切に想っている人を殺されたのよ?
一体そこから何が生まれると思うかしら? 悲しみ? 憎しみ? ええ、その全てがアレには詰まってるのよ」
皆、黒い塊を見守っていた。一人の少女のどうしようもない悲しみと憎しみを、見守っていた。
291 ：愛のVIP戦士：07/07/04 22:07:45 ID:XkkGfq6+
【殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる!!!!】
思い出すのは、いつもあの人の笑顔だ。
暖かくて、真っ直ぐで、そんな瞳を私は見たことがなかった。私は直ぐにそんなあの人に惹かれ、どこまでも単純な
初恋はたどたどしいながらも、幸いにもあの人に受けられた。幸せだった。そうとしか言えなかった。
だから、あの人がこの世界からいなくなるなんて、そんな馬鹿な事があっていいはずがないのに。でも、あの人はこ
の街の人を守る為に散っていった。最期まであの人は笑顔だったのを私はいつまでも憶えているだろう。
だけど、それでもワガママを言えば、そんなことなんてして欲しくなかった。街の人間全員が死んでも、あの人が生
きてるのなら私の中では十分お釣りが来ると今でも思ってる。死ぬのなら一緒に死にたかった。だけどあの人は、もの
すごくズルイことを私に言ったのだ。言ってしまったのだ。
僕の代わりに、この街を、皆をよろしく
私は死ぬことさえ出来なくなった。だから私は戦った。辛くても、泣きたくても、あの人がいないこの世界で。
そして、あの人を奪った、私の全てを壊した奴が目の前にいる。
「……やる……ろしてやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺
してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺して
やる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやるぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅあああああああ
ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
あの人は、今でも私に笑ってくれるかな。
292 ：愛のVIP戦士：07/07/04 22:11:21 ID:XkkGfq6+
【姉と魔女姉のオトラジ】
姉「どんだけ可哀想なキャラだよお姉ちゃんはよー」
魔女姉「（自分で言っちゃった）……」
書き溜め分消費したんで、しばらくまた書きます。
質問等あったらよろしくー。
299 ：愛のVIP戦士：07/07/07 21:51:33 ID:DZH68XyL
【姉の理由】
作戦室に響く悲痛な叫び。今すぐにでも止めようと踵を返す俺の肩を、もう一人の俺が「止めろ」と掴んだ。
「まだV.I.Pは調整中だ。特に貴様のは脚が潰されて立つことすらできんぞ。デカイ的の上に、足手まといも良い所だ」
どこまでも冷静な言葉が過不足無く突き刺さる。それでも俺の中の、ガキの部分がどうしても収まらなかった。
「じゃあこのままアイツがこ、殺されるのを見てろって言うのかよ! 見てるだけでいろって言うのかよ!!」
瞬間、ギリッと肩の骨が軋むほどに手の力が強まる。インテリぶってる割に強い力に驚かされた。
俯いていた奴の顔が持ち上がり、こちらを捉えた。普段から鋭い眼光は、今は異常なほどに高ぶる炎を秘めている。
「黙れ……!! 貴様に何が、何が分かる……! 私だって止めたいっ」
なら、と楯突く前に「だがなぁ」と奴は続ける。既にその瞳は一種の悲哀すら篭っていた。全てを知ってしまってい
る者の目だ。
「実際問題、こちらからの信号は全て弾かれているし機体もまだ動かない……それを、状況も弁えず喚くだけなら他所
でしろ……!! 反吐が出るっ!」
声を荒げる珍しい姿にも、周囲の人間はアイツの戦いを一心に見守っている。まるでアイツの憎しみと、自身の悲哀
を重ねるように、アイツに想いを託すように。
それが、気に入らないというのに。
俺は渡辺さんを押し退けて、やっと繋いだ無線をぶん取る。背後でキャッ、と小さく聞こえた。
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」
俺は―――
→ それが兄貴の望んでることか!?
お姉ちゃんのことが好きなんだ!
303 ：愛のVIP戦士：07/07/08 10:07:02 ID:dG/eEbO1
魔女姉「質問ぐらいなら答えるわよ」
【→ それが兄貴の望んでることか!?】
「なあ! 聞いてくれ! 頼む!!」
「ああ、弟か……ふふ、見てなさい。アンタの仇も一緒に殺してあげるから……ふふふ……」
無線越しでも分かる異常。カメラが繋がってなくて、アイツの顔を見れなくてよかったと思ったのはいけないことだ
ろうか。それほどに状況は逼迫し、最悪な方向へと進んでいる。
言葉を選ぶ。アイツを止められる言葉を。一瞬でもいいから。何か。
「……なあ」
「なあによお……お姉ちゃんの言葉が聞こえなかったの? すぐにアレを」
「それがっ」
「ん?」
「それが兄貴の望んでることか!?」
バカ野郎、と体を引き剥がされる。先ほどまでアレほど喧騒を極めていたというのに、水を打ったように静かだ。い
や、みんなざわついてるのが分かる。明らかに俺の言ったことに動揺していた。少なくともこの場にいる人間が冷静に
なったのは確かだと思いたい。
画面の中で止まる機体。律儀にも厨の方も待っていたのが、どこか滑稽だった。
「……ねえ、おとうと」
静かに響くアイツの声。先ほどまでの狂想は見えない、なのに漆黒の闇は機体を包んでいた。
俺は次の言葉が怖くなった。
「ごめんね」
突然の急加速にモニタから機体の姿が外れる。カメラを切り替えたその時には、深い深い闇が厨に襲い掛かってい
た。何もかも始まってしまったのだ。きっと色んなものを終えるための戦いが。
305 ：愛のVIP戦士：07/07/08 10:41:58 ID:dG/eEbO1
【偽劇】
先ほどまでベッドで眠っていた人間とは思えないほど、黒い機体の動きは凄まじいものだった。厨が右に逃げたかと
思えば既に左に回りこみ、左にかわしたかと思えば右から叩き込む。疾風を超えた神速。これなら化物も倒せるのでは
ないかとすら思える。けれど、その戦い方はあらゆるものを犠牲にしている、傍から見ても分かるように。
「右腕部、これ以上の負荷は限界です! 更に左脚部も加圧限界!」
脆い。あらゆる惨劇を可能とする動きはもはや、自身すらその惨劇に加えんかという負荷をも機体とパイロットに与
えていた。その可動についてこれず、地に膝がつくのもすぐだった。
『ンー? なんだよせっかク押しテタのにそッチがゲン界かよお。ツマンねー、つまンネエヨクそがよー! ああもうい
いや、殺シテヤるよテメゑ』
ロボットの猛攻によりボロボロと表皮を崩していた厨が息を荒げる。フラフラだった化物は、だが次の瞬間には驚く
べき速さで再生を図っていた。
「再生能力だ。あれが軍でも倒しきれない原因の一つだ」
表面しか見えないが、おそらくその体内に受けたダメージすら徒労に終わらせていく。目を見張る俺の横で、「ただ、
それはあくまでオマケだ」ともう一人の俺が続けた。
既に再生を終えた厨は調子を確認するように体を動かす。まるで先ほどのことなど気にしていないかのように、様々
な部位を回し捻り、持ち上げては嘲笑を鳴らす。今もまだ動けないでいる塊に、お前のやったことなど無駄だと、無様
だと思い知らせるように。
『ソれじゃアソロそロテめエラをぶち殺ソウかなあってカあ』
まずい。もう一人の俺に視線を巡らすが「まだだっ」と唇を噛み切り、口から血を垂らす姿に口を閉じる。
どうしようもないほどの緊張が走る中、厨を何を思ったか、先ほどまで針のように細かった腕を人間の手のように変
化させると、自分の顔を両の手で覆い始めた。もう一度、もう一人の俺のほうを見るが明確な答えは得られないようだ。
化物はそのまま体を揺らし、『いないいない……』とV.I.Pの前で赤子をあやす様な動きを見せる。
まさか。おそらくその場にいた全員の頭によぎったろう、最悪の状況が眼前に姿を現す。
『ばあ』
兄貴の顔が、一番見たくない顔がその先に待っていた。
309 ：愛のVIP戦士：07/07/08 23:37:25 ID:eNe0kxHP
夏影を聴いただけで泣くことが出来る男、参上!
【無題】
『ほら、僕だよ? 憶えてるよね? 君の大事な人だよ? 君の大事な人が帰ってきたよ? さあ僕を抱きしめておくれ?
寂しかったろう? 僕がいなくて、気が狂いそうな日々が続いたろう? でももう大丈夫だよ? ここにいるんだから。
今すぐ僕の胸に飛び込んでおいで? そしたらこのバカと同じように喰ってやるからよお、ヒハハハハハハハハハハハ
ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!』
310 ：愛のVIP戦士：07/07/08 23:38:42 ID:eNe0kxHP
【意思の力、彼女】
「いやっ……いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
誰の声だったかも分からない。ただその悲鳴が、その場にいる全員の声だとしてもおかしくなかった。
「う……ク、クォリティ、マイナス値突破! ひっ……自重崩壊、自重崩か……」
必死に、それでも止まらない涙に溺れながら報告する渡辺さん。見ないように、悪夢から目を背けることしか出来ない
苦しみ。あまりの醜悪に吐く者までいる中で、彼女は立派だった。
「崩壊するから、助けてあげてっ……! 助けてあげてっ!」
「おいっ! まだV.I.Pは」
「だから喚くなっ!! 皆そうしたいっ」
腕を組み、瞬きすら拒むようにモニタを凝視するもう一人の俺。そうしなければいけないように、責務と罪悪感と、色
んなものがない交ぜになって、それでも前を見据えていた。店員さんは場を収めようと声を張る。おそらく自覚していな
いのだろう、大粒の涙をボロボロと零しながら振るう姿を美しいと思ってしまったのは間違いだろうか。
ロボットの力には頼れない。それでもなんとか、アイツを助けようと必死になっている。今頃になって目元が怪しくな
ってきていた。
それでも悪夢は醒めようとしない。化物、いや、ダミーは腕をハンマーのような塊に再度変化させると、高々と振り上
げる。その先には勿論、アイツの機体が。
「やめろ……やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
姉ちゃんを泣かせないでください。
振り下ろされた殺意。しかし、それは機体を捉えることなくダミーの背後から来た何かによって止められた。
「あ、姉友ちゃん、の機体?」
「この子をいじめないでください。姉ちゃんはいっぱい辛いことを経験してきたんです。もう悲しむ必要がないぐらい泣
いてきたんです、我慢してきたんです。これから姉ちゃんはずっと笑ってなきゃいけないんです。幸せでなきゃいけな
いんです。アンタみたいな化け物に壊されていいような子じゃないんですっ!!!」
314 ：愛のVIP戦士：07/07/08 23:43:36 ID:cJrCUWXL
んじゃしつもーん
房の体の表面は動物みたいな肌？それともエヴァの使徒みたいな感じ？
315 ：愛のVIP戦士：07/07/08 23:47:47 ID:eNe0kxHP
【姉と魔女姉のオトラジ】
魔女姉「絵師でも呼んで想像で書かせなさい」
姉「まあ、>>12の貧困なイメージじゃエヴァ寄りじゃね?」
321 ：愛のVIP戦士：07/07/09 00:17:40 ID:qVpXzxxb
長さがいまいち合わない
【私は� �
突然の登場にやはり俺はメガネ野郎の方を向く。まるで待っていたかのように「間に合った」と呟くソイツが、妙に憎
たらしい。
「彼女の機体だけ破損が少なかったからな。待機させておいた」
確かに姉友ちゃんの姿はしばらく見なかった。けれど、それで事態が好転したかといえばそうも言い切れない。そもそ
も彼女は後衛でのカバーが基本である為、しかも単体での戦闘で勝ち目があるかといえば限りなく低いと言わざるをえな
い。今だって、画面から見る限り厨を背後から抑えつけているだけで精一杯だ。
その不安がどうやって伝わったのであろう、顔をしかめたままでいる俺に姉友ちゃんは無線で「任せてください」と伝
えてくる。いつもの彼女とは違い、はっきりとしたその言葉には紛れも無い強さがあった。気づくとまた周囲が慌しく動
き始めていた。一体、何が起ころうというのか、全く見当がつかない。
「こっちはいつでもいけるぞ」
「それじゃ、お願いします」
モニタ越しに頭を下げる姉友ちゃん。そのまま途絶える通信に言い知れぬ不安がよぎる。
「何をする気だ?」
俺の問いに無言で返される。もういい加減慣れた態度に、おとなしく画面を見て待つことにした。ロボットの腕を振り
払った厨から距離を取った姉友ちゃんは、何をするでもなく化け物と対峙する。標的をアイツから彼女に変えたことがせ
めてもの幸いだ。
322 ：愛のVIP戦士：07/07/09 00:18:46 ID:qVpXzxxb
ごめん。今日は本編はこれぐらいで。質問は受け付けるのでー
【私は�◆�
『邪魔すんじゃねえよクソ野郎。それともてめえから先にあの世に送ってやろうか、ええ?」
悪態をつく兄貴の顔。全くの別物だと言い聞かせているのに、それでも胸の奥がムカムカと収まらない。それでも尚、
姉友ちゃんの機体はその場に立ち尽くしていた。一体、何をする気なのだろう。
すぐに変化は訪れた。彼女の機体の特徴とも言える、肩や胸を覆うパーツが外側に向かって展開していく。展開したパ
ーツは器用にその機構を変形させ、一つの終着点へと稼働する。
「六本の、腕……?」
胸と背中から二本ずつ、そして肩から二本で計六本。元からある腕を合わせれば八本の腕を持つことになる。厨すらも
足を止めるその異形は、ある時点で展開を止めるとそのまま標的である厨に照準を合わせた。
「彼女の安定した、かつ随時上昇、下降出来るクォリティに合わせて作った実験機だ」
スパイダーモードと我々は呼んでいる。説明を終えたもう一人の俺は、無線を手に取り機体の中の彼女に語りかける。
「分かってると思うがタイムリミットは常に把握しておけ。お互い助からないなど笑えんからな……それと、姉を頼んだ」
「はい。私の、大事な親友は必ず」
>12ですVIPに書き込めねー。
【苦しまずに】
俺友「……久しぶりに萌え萌えビーム」
ｼｭﾜｧ……
俺「あっちの方がよっぽど厨に効くんじゃね?」
別俺「……」
261 ：愛のVIP戦士：07/06/21 22:40:50 ID:8cudPDs1
>12です某スレでボコボコにされてきたので続き
【静寂と微震と激震】
※本文省略
→ まだ手はあるはずだ
なんとかしないと。
263 ：愛のVIP戦士：07/06/21 23:27:17 ID:8cudPDs1
【→ まだ手はあるはずだ】
すぐにでも走り出してしまいそうな思考を無理やり抑えつける。
落ち着け! 逃げるな!
収まらない震えはそのままに、俺は渾身の力でもってアイツの機体ごと横に飛ぶ!
直後の轟音、ゴロゴロと転がったお互いが無事だということを確認すると、また同じように回避を行う。しか
し、力を込めたはずの機体の足は無残にも空を掻くばかり。重心だけが傾き俺は頭部からモロに落ちてしまう。
「俺機、厨の攻撃により右脚部を大破。これ以上の行動はもう……!」
切羽詰った少女の声がイヤでも現状を理解させる。先ほどから地面をもがくだけの自分と、うんともすんとも
言わないアイツの機体。今度こそ、とその大槌を振り下ろさんと構える厨。どうにか出来ないのか、ここで俺は
死ぬのか、皆を、コイツを残して俺は死ぬのか。
「……よう頑張った、と言ってる」
ハンマーが俺の機体のボディーを捉える間際、厨はまさに横槍とでも言うべき突撃にその巨体を揺らし転がる。
「俺友!」
「……後は任せろ、と言っている」
同時存在である俺友の機体が、もう一人の俺友の言葉に応える様に頷く。一体、どうやって意思を取り合って
いるとっているのかは分からないが、心強い味方にやっと息を吐いた。気づいたら汗も大量に出ていた。
「カモーン……と言っているかも」
「冗談はいい、仕留めるぞ」
もう一人の俺が答える。俺は外部排出された姉のコックピットを持って戦闘域から脱出した。
273 ：愛のVIP戦士：07/06/30 22:05:32 ID:mTjvMoGe
全く>>12って奴はどこ行ったんだ。
【俺友参る】
「それで、アイツの容態はどうなんです?」
脇のモニタでは残り少ない厨に追撃を仕掛けるロボットが映し出される。感情の起伏の少ない彼女そのままに、
冷静に、冷徹に化け物を追い詰める。先ほどまであれほど暴虐をばら撒いていた厨も、いまやそれ以上の存在に
逃げ惑うだけだ。
アイツを基地に連れ帰ると、すぐに医務室へと運ばれた。俺のほうはすぐに再出撃しても良かったけれど、破
損が酷いために見るだけなってしまった。今は鏡越しに、様々な管に繋がれた横顔を覗くことしか出来ない。
「命に別状は無いわ。元々、体がそんなに強い子じゃなかったから、ある程度本人も周囲も分かっていただろう
し。酷い言い方だけど」
じゃあなんで乗せた。思わず出掛かった言葉を寸でのところで止める。吐き出されない熱はそのまま体に回り、
鼓動や思考をオーバーヒートさせる。店員さんは手に持ったファイルをパタリ、と閉じた。
「……私だって、出来るなら乗せたくなかった。もういいからって、疲れたでしょって言いたかった。でも、そ
れはしちゃいけないの。私は大人だから。理不尽で、ズルくて、いい加減な、子供に嫌われる大人でないと駄
目なの。小さい頃に、ああいう大人になっちゃいけませんって言われた大人にならなくちゃいけない、だから
……でも、でもね」
店員さんはジッとアイツを見ていた。まるでお母さんのような目だった。
「ごめんね」
本当に小さく、彼女は呟いた。
274 ：愛のVIP戦士：07/06/30 22:06:00 ID:mTjvMoGe
【火、のち火】
医務室を出ると、素ヒが立っていた。声も出ずその場でしばらく立ち尽くすしかなかったが、それでも俺は彼
女の脇を抜けようと一歩を踏み出す。けれど、それは素ヒが「男はっ」と切り出すことで遮られた。
しばらくの静寂。出てきた店員さんにこんなところを見られるのは少し勘弁したかったが、素ヒの様子にそこ
から移動することは皆目無理なことであろう。
「男はっ、その……」
歯切れが悪い。それでも必死に何かを伝えようとする彼女を無下に扱うことは出来ない。
「姉のこと……好きなのか?」
「……えっと、それはどういう」
「ち、違うんだ! 誤解しないでくれ! こういう時に言うべきことじゃないってことは分かってる! 私が聞いた
ことも、まるで検討外れだってことも知ってる! だけど……」
俯く彼女にどうすれば良いか分からなかった。抱きしめてしまえば早いのだろうけど、それはなんか、違う気が
した。素ヒは何度も口の中で何かを繰り返した後、俺を見る。
「男は、姉のことを……愛してるのか?」
怖がってた。直情的で、少しのことじゃ折れも曲がりもしない彼女が震えていた。俺の一言次第でそのまま色を
消してしまいそうな瞳。フラフラと彷徨う視線は拠り所を無くした心のように脆い。
俺は―――。
→ 黙る
お前が好きだ
276 ：愛のVIP戦士：07/06/30 23:29:13 ID:mTjvMoGe
【→ 黙る】
黙るしかない。何か言いかける彼女から、その目から逃げるように俺は歩き出す。僅かに耳に入った言葉を無理
やり頭の隅で押し潰す。こめかみの辺りが軋むように痛い。そのままメインモニタのある大部屋へと入った。
おそらく凄い顔をしてるのだろう。振り返った渡辺さんが慌てて顔を戻すのを見て、妙な笑いさえ出そうだった。
戦闘が終わっても、まだアイツは起きない。
会議室では勝利を収めたのに、どこか沈鬱な雰囲気に苛まれていた。
「今後は姉の代わりに俺友が戦闘に参加することになった。俺友の意識の問題は、現在調査中だ」
もう一人の俺がシンプルに言い終える。新しい仲間の登場にも、皆、アイツのことが気になっているようだ。
「あの、ロボットの俺友さんは、休んだりしなくて大丈夫なんですかぁー?」
姉友ちゃんがおずおずと切り出す。確かに体がロボットであろうと、意識は人間だったものだ。そもそもロボット
の体ということは、食事や睡眠、その他諸々の生理現象はどうしているのだろう。
「それは人間の方の俺友が既に承知している。体は機械だが女性だ。私が触れることではない」
「……ｲﾔﾝﾊﾞｶｰﾝ、ｿｺﾊｵﾁ」
「おい」
「……ごめん」
素直に俺友が謝る。アイツがいなければここまで酷いのか、無性に自分に腹が立ってさえしてきていた。
おそらくトイレにでも行こうと、その場から立ち上がろうとしたのだろう。しかし、それは地下世界にも響く轟音
により急激に場の空気ごと変わっていく。
全員、開こうとする口を我慢する。一体、何が起きたのか。それを知るための一報を待った。
『緊急連絡。当域に厨が出現しました。繰り返します、中型の厨が一体。国防省厨対策本部危険域第一級指定。通称、
“ダミー”が出現しました』
277 ：愛のVIP戦士：07/06/30 23:37:43 ID:mTjvMoGe
【第九話 目的はいつも 終了】
278 ：愛のVIP戦士：07/06/30 23:44:28 ID:mTjvMoGe
【次回予告】
「世界規模で出現している化物、厨。幸いにも現在の科学力で圧倒出来得る中にも、必ず例外というのは存在する。
なぜ破壊行為をするかは一切不明。もとより化け物に、災害に理由など存在するのだろうか。であるからして、する
べきことは対処すること。つまりぶっ殺せばいいんだよ、あー? さっさと殺しにこいや、俺様はいつでも待ってる
ぜー? だけどナァ、俺サマだってそうむざムザと殺されるなんて御メンなんだよ。てめエラをコロシテ殺してコロシ
テ、散々テメラニキョウフッテモンヲオシエタラシンデヤルヨギャハハ、ダカラサッサトカカッテコイヤスベテコロ
シテヤルヨコワシテヤルヨギャハハハハハハハハハ!!」
次回、【すべき復讐劇】
279 ：愛のVIP戦士：07/06/30 23:45:03 ID:mTjvMoGe
【第十話 すべき復讐劇】
287 ：愛のVIP戦士：07/07/04 21:34:10 ID:XkkGfq6+
呼んだ?
【第十話 すべき復讐劇】
『っつうわけで聞いてるかコノクソ野郎どもガよォッ、ほらさっさと殺しにコイヤー!』
メインモニタにはいつものように厨が街を破壊している様が映っている。普段なら、中型がたった一体ということも
あり何ら脅威に思うことなど無いのだが、俺はたった今ある、その異様な光景に息を飲んだ。
「しゃ、喋ってる? それに、あれって、人間の」
やっと言葉を搾り出すと、ソイツは図ったようにカメラに向かってニィッと笑みを浮かべる。まるで人間の、いや、
確かにソレは人間の顔で以って笑っていた。
「この日本には、現在の科学力ではどうしようもない厨が数体、存在する。その一体、国防省厨対策本部危険域第一級
指定、通称ダミーだ。あいつは人語を操るんだよ。人間の面まで用意してな」
人面に異形の体躯を持つ、まさか冗談かと思うような化け物。遂に言葉を失う俺に対してもう一人の俺は実に雄弁で、
どこか楽しそうでもあった。
「しかし、実際にその言葉に意味があるわけではない。自身の喋っている言葉でさえ奴は理解出来ていない。ただ単純
に、人間に不快感を催すものだけを選んでるに過ぎない。我々、人類に対するアンチテーゼの自然発生。面を見ろ、
おそらく奴が最近に喰った人間の顔だろう」
288 ：愛のVIP戦士：07/07/04 21:36:28 ID:XkkGfq6+
【切り札は「自分」だけ】
モニタ一杯に映し出される、俺たちと同じ構造でありながら本能的に拒絶反応を起こす笑み。首から下が化け物だか
らというわけじゃない。単純に、ただ単純にいやだ、と思わせる何かを含んだ顔の化物。
ふと、周囲を見渡す。そこもまた異様だった。全員が全員、その化け物を射殺さんばかりに睨んでいる。中には宿願
の敵という面持ちで眺めている人間さえいる。あの渡辺さんさえ、もしその視線がこちらに向けられていたなら竦んで
しまいそうな眼だった。
益々混迷する俺の代わりに、もう一人の俺が意気揚々に口を開く。
「皆、遂に、遂に奴が来た。私は厨との戦闘において、余計な感情は極力排除してきた。また皆にもそう努める様、指
揮してきたつもりだ。だが、あえてここではただの私怨、復讐心でのみ奴を殺す事を許して欲しい。それぞれ、皆に
も大切な人間がいると思う。それを私は奪われた。だから同情であろうと憐憫であろうと、私の行為を、憎しみを肯
定してくれることを望む。憎しみが憎しみを生むのならば、私は歓んで悪徳に身を染めよう」
その言葉にみんなが頷く。もう一人の俺がどこか、化け物めいて見えた。
289 ：愛のVIP戦士：07/07/04 21:38:11 ID:XkkGfq6+
【喜劇の出来損ない】
早急に出撃の準備が行われる。先の戦闘の影響で各機とも出撃に時間がかかるようで、キリキリと胃の痛い時間が過
ぎてゆく。俺はどうしても馴染めないままでいる気持ちを逃すように一人、空き部屋で出撃の時を待った。
『みんなのこと、怖いですか?』
天に響く柔らかな声。普段ならその真意の見えない声に身構えるばかりなのだが、我侭にも今日ばかりは唯一の味方
のよう思えた。俺は顔を持ち上げ、店長さんに投げ掛ける。
「あの化け物が、この世界の兄を殺したんですか?」
みんなあのようになってしまう理由。これしか思いつかなかったし、これ以外に相応しいものが無かった。店長さん
はしばらくの間、逡巡するような沈黙を保つ。やはりその真意は見えない。
『そうです。まだV.I.Pが今のように厨を圧倒する力を持たない頃、彼は国の援護さえままならないこの街を一人で、命
を賭して守ったんです。はたしてこの街の人々は救われました。代わりに、彼を想う幾人もの若者が自ら修羅になる
ことを選んだんです』
悲劇だと思えませんか? 加工された電子音は店長さんの声そのままだが、しかしどこか機械的な冷たさで投げかけら
れる。嫌な汗がいつの間にか体を伝い、ピッタリとしたスーツは不快感だけを残す。俺は繋ぐべき言葉も無いまま、部屋
を出ることで色々なものに背を向けようとしていた。
けど、そういう背中にこそ惨劇は、悲運は牙を剥くものだ。
『V.I.P一機出撃! あ、姉機と思われます! やめてください姉さんっ!!』
室内に響く悲鳴めいた声。
『怪物と拮抗するにはどうすべきか? それは自身も怪物になることなんです』
俺は力の限りに駆け出していた。
290 ：愛のVIP戦士：07/07/04 22:06:54 ID:XkkGfq6+
【止まない雨】
「なんでアイツが出てるんですか!?」
作戦室に入るなり叫ぶ。いくつも振り返る顔、顔、顔。俺はとにかく店員さんに噛みつくしかなった。
「今すぐ止めてください!! ああしているだけでもやっとのはずだろ!?」
喚き声が妙に部屋を転がりまわる。まるで俺だけが何も分かってないような、いや、最初から俺は異世界の存在だ。
なにも知らない、分からないなど当たり前だ。けれど、それとはまた別の、俺の必死の訴えをどこかで疎んじる空気が
そこには漂っていた。
店員さんは俺を見据えると「無理よ」と、一蹴する。
「こちらからの命令系統は全て拒絶されてる。原因は、おそらくアレね」
顎で促され、ロクに見ていなかったモニタへと目を移す。そこでまた俺は言葉を失った。
「く、黒いV.I.P……?」
漆黒の機体。その形状、また発信されている識別番号により辛うじてアイツの機体だと分かる。今までの緑の装飾は
今や闇と化し、一つの巨大な黒塊として街に聳え立っていた。吹き抜ける風は止み、今は憎悪という嵐を纏った暴風と
して化物を殺す為だけの機械化物がモニタに映っていた。
「V.I.Pは搭乗者の精神状態がモロに反映される。つまり、アレが今の姉ちゃんの心そのものよ」
「精神状態って、アレじゃまるで……」
「まるで? まるで何かしら? 彼女は大切な人間を、さもすれば別俺くん以上に大切に想っている人を殺されたのよ?
一体そこから何が生まれると思うかしら? 悲しみ? 憎しみ? ええ、その全てがアレには詰まってるのよ」
皆、黒い塊を見守っていた。一人の少女のどうしようもない悲しみと憎しみを、見守っていた。
291 ：愛のVIP戦士：07/07/04 22:07:45 ID:XkkGfq6+
【殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる!!!!】
思い出すのは、いつもあの人の笑顔だ。
暖かくて、真っ直ぐで、そんな瞳を私は見たことがなかった。私は直ぐにそんなあの人に惹かれ、どこまでも単純な
初恋はたどたどしいながらも、幸いにもあの人に受けられた。幸せだった。そうとしか言えなかった。
だから、あの人がこの世界からいなくなるなんて、そんな馬鹿な事があっていいはずがないのに。でも、あの人はこ
の街の人を守る為に散っていった。最期まであの人は笑顔だったのを私はいつまでも憶えているだろう。
だけど、それでもワガママを言えば、そんなことなんてして欲しくなかった。街の人間全員が死んでも、あの人が生
きてるのなら私の中では十分お釣りが来ると今でも思ってる。死ぬのなら一緒に死にたかった。だけどあの人は、もの
すごくズルイことを私に言ったのだ。言ってしまったのだ。
僕の代わりに、この街を、皆をよろしく
私は死ぬことさえ出来なくなった。だから私は戦った。辛くても、泣きたくても、あの人がいないこの世界で。
そして、あの人を奪った、私の全てを壊した奴が目の前にいる。
「……やる……ろしてやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺
してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺して
やる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやるぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅあああああああ
ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
あの人は、今でも私に笑ってくれるかな。
292 ：愛のVIP戦士：07/07/04 22:11:21 ID:XkkGfq6+
【姉と魔女姉のオトラジ】
姉「どんだけ可哀想なキャラだよお姉ちゃんはよー」
魔女姉「（自分で言っちゃった）……」
書き溜め分消費したんで、しばらくまた書きます。
質問等あったらよろしくー。
299 ：愛のVIP戦士：07/07/07 21:51:33 ID:DZH68XyL
【姉の理由】
作戦室に響く悲痛な叫び。今すぐにでも止めようと踵を返す俺の肩を、もう一人の俺が「止めろ」と掴んだ。
「まだV.I.Pは調整中だ。特に貴様のは脚が潰されて立つことすらできんぞ。デカイ的の上に、足手まといも良い所だ」
どこまでも冷静な言葉が過不足無く突き刺さる。それでも俺の中の、ガキの部分がどうしても収まらなかった。
「じゃあこのままアイツがこ、殺されるのを見てろって言うのかよ! 見てるだけでいろって言うのかよ!!」
瞬間、ギリッと肩の骨が軋むほどに手の力が強まる。インテリぶってる割に強い力に驚かされた。
俯いていた奴の顔が持ち上がり、こちらを捉えた。普段から鋭い眼光は、今は異常なほどに高ぶる炎を秘めている。
「黙れ……!! 貴様に何が、何が分かる……! 私だって止めたいっ」
なら、と楯突く前に「だがなぁ」と奴は続ける。既にその瞳は一種の悲哀すら篭っていた。全てを知ってしまってい
る者の目だ。
「実際問題、こちらからの信号は全て弾かれているし機体もまだ動かない……それを、状況も弁えず喚くだけなら他所
でしろ……!! 反吐が出るっ!」
声を荒げる珍しい姿にも、周囲の人間はアイツの戦いを一心に見守っている。まるでアイツの憎しみと、自身の悲哀
を重ねるように、アイツに想いを託すように。
それが、気に入らないというのに。
俺は渡辺さんを押し退けて、やっと繋いだ無線をぶん取る。背後でキャッ、と小さく聞こえた。
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」
俺は―――
→ それが兄貴の望んでることか!?
お姉ちゃんのことが好きなんだ!
303 ：愛のVIP戦士：07/07/08 10:07:02 ID:dG/eEbO1
魔女姉「質問ぐらいなら答えるわよ」
【→ それが兄貴の望んでることか!?】
「なあ! 聞いてくれ! 頼む!!」
「ああ、弟か……ふふ、見てなさい。アンタの仇も一緒に殺してあげるから……ふふふ……」
無線越しでも分かる異常。カメラが繋がってなくて、アイツの顔を見れなくてよかったと思ったのはいけないことだ
ろうか。それほどに状況は逼迫し、最悪な方向へと進んでいる。
言葉を選ぶ。アイツを止められる言葉を。一瞬でもいいから。何か。
「……なあ」
「なあによお……お姉ちゃんの言葉が聞こえなかったの? すぐにアレを」
「それがっ」
「ん?」
「それが兄貴の望んでることか!?」
バカ野郎、と体を引き剥がされる。先ほどまでアレほど喧騒を極めていたというのに、水を打ったように静かだ。い
や、みんなざわついてるのが分かる。明らかに俺の言ったことに動揺していた。少なくともこの場にいる人間が冷静に
なったのは確かだと思いたい。
画面の中で止まる機体。律儀にも厨の方も待っていたのが、どこか滑稽だった。
「……ねえ、おとうと」
静かに響くアイツの声。先ほどまでの狂想は見えない、なのに漆黒の闇は機体を包んでいた。
俺は次の言葉が怖くなった。
「ごめんね」
突然の急加速にモニタから機体の姿が外れる。カメラを切り替えたその時には、深い深い闇が厨に襲い掛かってい
た。何もかも始まってしまったのだ。きっと色んなものを終えるための戦いが。
305 ：愛のVIP戦士：07/07/08 10:41:58 ID:dG/eEbO1
【偽劇】
先ほどまでベッドで眠っていた人間とは思えないほど、黒い機体の動きは凄まじいものだった。厨が右に逃げたかと
思えば既に左に回りこみ、左にかわしたかと思えば右から叩き込む。疾風を超えた神速。これなら化物も倒せるのでは
ないかとすら思える。けれど、その戦い方はあらゆるものを犠牲にしている、傍から見ても分かるように。
「右腕部、これ以上の負荷は限界です! 更に左脚部も加圧限界!」
脆い。あらゆる惨劇を可能とする動きはもはや、自身すらその惨劇に加えんかという負荷をも機体とパイロットに与
えていた。その可動についてこれず、地に膝がつくのもすぐだった。
『ンー? なんだよせっかク押しテタのにそッチがゲン界かよお。ツマンねー、つまンネエヨクそがよー! ああもうい
いや、殺シテヤるよテメゑ』
ロボットの猛攻によりボロボロと表皮を崩していた厨が息を荒げる。フラフラだった化物は、だが次の瞬間には驚く
べき速さで再生を図っていた。
「再生能力だ。あれが軍でも倒しきれない原因の一つだ」
表面しか見えないが、おそらくその体内に受けたダメージすら徒労に終わらせていく。目を見張る俺の横で、「ただ、
それはあくまでオマケだ」ともう一人の俺が続けた。
既に再生を終えた厨は調子を確認するように体を動かす。まるで先ほどのことなど気にしていないかのように、様々
な部位を回し捻り、持ち上げては嘲笑を鳴らす。今もまだ動けないでいる塊に、お前のやったことなど無駄だと、無様
だと思い知らせるように。
『ソれじゃアソロそロテめエラをぶち殺ソウかなあってカあ』
まずい。もう一人の俺に視線を巡らすが「まだだっ」と唇を噛み切り、口から血を垂らす姿に口を閉じる。
どうしようもないほどの緊張が走る中、厨を何を思ったか、先ほどまで針のように細かった腕を人間の手のように変
化させると、自分の顔を両の手で覆い始めた。もう一度、もう一人の俺のほうを見るが明確な答えは得られないようだ。
化物はそのまま体を揺らし、『いないいない……』とV.I.Pの前で赤子をあやす様な動きを見せる。
まさか。おそらくその場にいた全員の頭によぎったろう、最悪の状況が眼前に姿を現す。
『ばあ』
兄貴の顔が、一番見たくない顔がその先に待っていた。
309 ：愛のVIP戦士：07/07/08 23:37:25 ID:eNe0kxHP
夏影を聴いただけで泣くことが出来る男、参上!
【無題】
『ほら、僕だよ? 憶えてるよね? 君の大事な人だよ? 君の大事な人が帰ってきたよ? さあ僕を抱きしめておくれ?
寂しかったろう? 僕がいなくて、気が狂いそうな日々が続いたろう? でももう大丈夫だよ? ここにいるんだから。
今すぐ僕の胸に飛び込んでおいで? そしたらこのバカと同じように喰ってやるからよお、ヒハハハハハハハハハハハ
ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!』
310 ：愛のVIP戦士：07/07/08 23:38:42 ID:eNe0kxHP
【意思の力、彼女】
「いやっ……いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
誰の声だったかも分からない。ただその悲鳴が、その場にいる全員の声だとしてもおかしくなかった。
「う……ク、クォリティ、マイナス値突破! ひっ……自重崩壊、自重崩か……」
必死に、それでも止まらない涙に溺れながら報告する渡辺さん。見ないように、悪夢から目を背けることしか出来ない
苦しみ。あまりの醜悪に吐く者までいる中で、彼女は立派だった。
「崩壊するから、助けてあげてっ……! 助けてあげてっ!」
「おいっ! まだV.I.Pは」
「だから喚くなっ!! 皆そうしたいっ」
腕を組み、瞬きすら拒むようにモニタを凝視するもう一人の俺。そうしなければいけないように、責務と罪悪感と、色
んなものがない交ぜになって、それでも前を見据えていた。店員さんは場を収めようと声を張る。おそらく自覚していな
いのだろう、大粒の涙をボロボロと零しながら振るう姿を美しいと思ってしまったのは間違いだろうか。
ロボットの力には頼れない。それでもなんとか、アイツを助けようと必死になっている。今頃になって目元が怪しくな
ってきていた。
それでも悪夢は醒めようとしない。化物、いや、ダミーは腕をハンマーのような塊に再度変化させると、高々と振り上
げる。その先には勿論、アイツの機体が。
「やめろ……やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
姉ちゃんを泣かせないでください。
振り下ろされた殺意。しかし、それは機体を捉えることなくダミーの背後から来た何かによって止められた。
「あ、姉友ちゃん、の機体?」
「この子をいじめないでください。姉ちゃんはいっぱい辛いことを経験してきたんです。もう悲しむ必要がないぐらい泣
いてきたんです、我慢してきたんです。これから姉ちゃんはずっと笑ってなきゃいけないんです。幸せでなきゃいけな
いんです。アンタみたいな化け物に壊されていいような子じゃないんですっ!!!」
314 ：愛のVIP戦士：07/07/08 23:43:36 ID:cJrCUWXL
んじゃしつもーん
房の体の表面は動物みたいな肌？それともエヴァの使徒みたいな感じ？
315 ：愛のVIP戦士：07/07/08 23:47:47 ID:eNe0kxHP
【姉と魔女姉のオトラジ】
魔女姉「絵師でも呼んで想像で書かせなさい」
姉「まあ、>>12の貧困なイメージじゃエヴァ寄りじゃね?」
321 ：愛のVIP戦士：07/07/09 00:17:40 ID:qVpXzxxb
長さがいまいち合わない
【私は� �
突然の登場にやはり俺はメガネ野郎の方を向く。まるで待っていたかのように「間に合った」と呟くソイツが、妙に憎
たらしい。
「彼女の機体だけ破損が少なかったからな。待機させておいた」
確かに姉友ちゃんの姿はしばらく見なかった。けれど、それで事態が好転したかといえばそうも言い切れない。そもそ
も彼女は後衛でのカバーが基本である為、しかも単体での戦闘で勝ち目があるかといえば限りなく低いと言わざるをえな
い。今だって、画面から見る限り厨を背後から抑えつけているだけで精一杯だ。
その不安がどうやって伝わったのであろう、顔をしかめたままでいる俺に姉友ちゃんは無線で「任せてください」と伝
えてくる。いつもの彼女とは違い、はっきりとしたその言葉には紛れも無い強さがあった。気づくとまた周囲が慌しく動
き始めていた。一体、何が起ころうというのか、全く見当がつかない。
「こっちはいつでもいけるぞ」
「それじゃ、お願いします」
モニタ越しに頭を下げる姉友ちゃん。そのまま途絶える通信に言い知れぬ不安がよぎる。
「何をする気だ?」
俺の問いに無言で返される。もういい加減慣れた態度に、おとなしく画面を見て待つことにした。ロボットの腕を振り
払った厨から距離を取った姉友ちゃんは、何をするでもなく化け物と対峙する。標的をアイツから彼女に変えたことがせ
めてもの幸いだ。
322 ：愛のVIP戦士：07/07/09 00:18:46 ID:qVpXzxxb
ごめん。今日は本編はこれぐらいで。質問は受け付けるのでー
【私は�◆�
『邪魔すんじゃねえよクソ野郎。それともてめえから先にあの世に送ってやろうか、ええ?」
悪態をつく兄貴の顔。全くの別物だと言い聞かせているのに、それでも胸の奥がムカムカと収まらない。それでも尚、
姉友ちゃんの機体はその場に立ち尽くしていた。一体、何をする気なのだろう。
すぐに変化は訪れた。彼女の機体の特徴とも言える、肩や胸を覆うパーツが外側に向かって展開していく。展開したパ
ーツは器用にその機構を変形させ、一つの終着点へと稼働する。
「六本の、腕……?」
胸と背中から二本ずつ、そして肩から二本で計六本。元からある腕を合わせれば八本の腕を持つことになる。厨すらも
足を止めるその異形は、ある時点で展開を止めるとそのまま標的である厨に照準を合わせた。
「彼女の安定した、かつ随時上昇、下降出来るクォリティに合わせて作った実験機だ」
スパイダーモードと我々は呼んでいる。説明を終えたもう一人の俺は、無線を手に取り機体の中の彼女に語りかける。
「分かってると思うがタイムリミットは常に把握しておけ。お互い助からないなど笑えんからな……それと、姉を頼んだ」
「はい。私の、大事な親友は必ず」
2007年10月31日(水) 18:35:02 Modified by ID:TaZFwACjHA