冷戦時代の核実験や民間防衛をめぐるカルチャー

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核戦争を中高生にどう教えるか(1983)



以下は、ROGER MOLANDZR AND ELLIS WOODWARD: "How to Teach Nuclear War to High School Students", EDUCATIONAL LEADERSHIP, 44-48, 1983の日本語訳である。

これは「我々が直面している課題が、核兵器のない世界ではなく、核兵器とともに生きる方法を学ぶことだ」という立場から書かれた、核戦争の始まる経路と阻止する方法について教える方法である。


核戦争を中高生にどう教えるか (Roger Molander & Ellis Woodward, 1983)


核戦争教育には、戦争が始まる可能性のある方法とともに、戦争を回避しうる多くの方法も含まれる。

核戦争は我々の時代における最優先課題であり、おそらく人類が直面する最も挑戦的な問題である。明らかに中学校は生徒に市民としての準備をさせる場所であり、生徒たちに、核戦争の可能性と、そして間もなく核戦争を阻止する責任を負うことになることを知らせる場所である。したがって、中学校では核戦争教育もカリキュラムに取り入れる必要がある。

どのように、中学校で核戦争を教えるべきか? 党派によらない核戦争教育プロジェクトであるグラウンドゼロの主目的の一つは、この基礎教育を推進することにある。生徒たちが、恐怖に直面することと、問題について学ぶことの両面で、建設的に核戦争の問題について立ち向かうのを助けるプログラムの設計において、ここ1年、相当の成果をあげてきた。

アプローチは単純かつ直接的なもので、生徒たちに基本的な事実を提示するものだ。すなわち、最初の原爆についての話、核兵器投擲システムの発展、軍拡競争、核戦争の瀬戸際(と、特に今日の若者の大半が覚えていないキューバミサイル危機の経験)、核戦争の直接的な影響と核戦争後の生存への課題、そして今日の世界における現在の問題である。

「なぜ、これら全部が必要なのか? ひとりあたりTNT相当1万トンの核兵器が地球上に存在することだけで十分ではないか?」と問うかもしれない。しかし、そうではない。この状況は何年も前から存在しており、専門家たちや政府当局者たちが、この問題に対する長期的解決策を見いだせていない。

問題はだれが何を持っているか、あるいは誰が誰に何ができるかではない。これは問題の背景の一部で(将軍たちと戦略立案者たちの興味深い雑談のネタで)はあるが、より関連性の高い問いがある。したがって、教育者の課題の一部は、核戦争がどのように始まり、どのようなルートで阻止されるのかを調べ、論理的な方法で、核戦争阻止の問題を構造化することにある。

核戦争への6つの経路

「問題の構造化」という概念を念頭に置いて、核戦争が発生する6つの可能性のある経路を調べることから始めよう。

第1は、今日にような通常レベルの敵対状態で、ソ連が米国を、あるいは米国がソ連を、パールハーバーのように奇襲攻撃する。双方の社会を破壊が予測されている「相互確証破壊」として知られる状況があるため、大半の国家安全保障の専門家たちは、それはありそうにないと考えている。破滅的報復に使えるだけの核兵器を双方が保有しており、そのような破壊は確実に可能である。

MADと頭文字で呼ばれる恐怖の相互均衡によって第2次核戦争(米国が広島を爆撃した1945年8月の最初の核兵器の使用を思い起こして)を阻止しているということを知って、むしろ安心するかもしれない。MADの状態により、核戦争やさらには核兵器の使用を適切を阻止していると考えるかもしれない。しかし、次の5つの核戦争への経路を考えれば、それほど巧妙かつ理性的に、自分たちをMADの箱に封じ込めていないことに気づく。封じ込められていない理由は、これらの経路では、ストレスや恐怖や疲労や国家威信や誤情報などの要因が関係してくるからだ。


これらの最悪のシナリオの1つ目は、欧州の対立のエスカレートである。たとえば、ソ連圏諸国が西ドイツを攻撃したり、ポーランドや東ドイツに危機に西側が介入するなどである。

今日、大半の軍事オブザーバーたちは、ソ連及びワルシャワ条約機構軍の通常兵器による攻撃に対して、通常兵器で対抗できるとは考えていない。このため、我々は様々な大きさと破壊力の6000発近い核兵器を西欧に配備している。このシナリオでは、動力学を予測できない。戦場でソ連軍兵士が核攻撃を受けたとき、クレムリンがどうするのか? 同じようなソ連の反応に対して、ホワイトハウスはどうするのか? アナリストの中には、状況が急速に悪化し、超大国間の全面核戦争が起きると確信している者もいる。

まずもって、西欧とソ連が関係改善に利益を見出していることから、このシナリオの可能性は小さくなってきている。しかし、(ソ連の天然ガスパイプラインに対する米国からの制裁要請を西欧が拒否している例からも示されている)この緊張緩和にもかかわらず、このシナリオの可能性はなくなっていない。19世紀と20世紀の欧州史を真摯に学ぶものなら、これを否定できないだろう。

今日、最も戦略的思想家たちを悩ませるシナリオは、、中東やペルシャ湾、あるいは1960年代に核兵器を爆発させたインドと、国民が草を食べても核兵器を保有すると首相が述べたパキスタンなどの第三世界の紛争によって、超大国間の核戦争が引き起こされる可能性である。(パキスタン政府が首相の公約を果たそうとしているという強い証拠がある。)

この経路は、以下の2つの形態のうち1つをとると思われる。第1は、地域軍事対立にソ連と米国が引きずり込まれ、最初は通常兵器で介入し、核兵器へとエスカレートする。もう一つは、第三世界諸国自身が核兵器の保有と使用をする可能性の高まりである。イスラエルは数十発の核兵器を保有している可能性があると考えられ、韓国やブラジルやアルゼンチンも核兵器を保有する可能性があると考えられている。

過去の激しい地域紛争、米国とソ連を対立に押しやる現在の事象、政治的および外交的な風向きの変わりやすさを考えれば、第三世界の危機のエスカレーションは少なくとも当面の最大の関心事であり続ける。

第4の可能性は、それほど大きくないが、誤警報のあとのエスカレーションである。米国とソ連の現在の政策は、核攻撃を乗り切ってから、選択肢を考慮するというものである。しかし、もしどちらかがこの政策を放棄し、警報後発射したらどうなるか? 1979年1月からの14か月間で、米国は147回の誤警報を記録していることを考えれば、ある程度は深刻だと考えられる。我々が欧州へ巡航ミサイルやパーシングIIミサイルを配備しようとするなら、ソ連の脅威を考えたコンピュータ発射警報システムの推進すべきだ。そのような政策変更は、文字通り、核戦争の一触即発の状態を緩和する、

5つ目の可能性は、超大国に対するテロリストによる核兵器使用である。テロリストはマンハッタンやキエフを吹き飛ばしたと名乗りを上げることはなさそうなので、ワシントンやモスクワの指導者たちは、自分たちの最大の敵が実行したと考えるだろう。自分が米国大統領あるいはソ連書記長だったら、どうするだろうか?

核戦争への最後の経路は、米国かソ連の反政府系軍人が、正当な権限あるいは正当な司令官の命令なしに、核兵器を発射を決断した場合である。米国あるいはソ連の衛星が発射を検知するだろうが、考慮された先制攻撃の一部なのか、狂人の孤立した行動なのか、区別がつかない。再び問いかけよう。自分が米国大統領あるいはソ連書記長だったら、どうするだろうか? これら6つが核戦争に至る一般的な経路であり、これらをすべて排除することが我々の課題である。


軍備管理の失敗

1945年の広島爆撃から1962年のキューバミサイル危機まで、我々は核兵器の威力と精度の向上によって、自分たちの国家安全保障をはかろうとしてきた。キューバミサイル危機以降、ソ連と米国はともに、その道筋を変えようとした。特にソ連の核兵器保有量は増大したが、両国は軍拡競争を部分的に制限しようとした。

その方法は、軍備管理条約交渉であり、大気中と海中と宇宙での核実験を禁止し、地下核実験の威力を150ktに制限し、迎撃ミサイルの配備を禁止し、ミサイル発射装置とサイロの保有を制限することにソ連と合意することである、

これらの軍備管理手段は、新兵器システムの配備(MX、トライデント、巡航ミサイルなど)と組み合わされ、我々の安全保障を高めるものとされた。しかし、このような技術的解決策の模索は失敗した。証明として。図1に統計を示す。1962年から軍備管理イニシアチブは機能しているだろうか。明らかにそうなっていない。

我々とソ連が追求してきた技術的な解決策が非常に困難であるとするなら、どのような解決策があるだろうか? 火災が激しい森林火災に拡大するのをレンジャーが阻止する経路のように、「防火隊」と呼ばれる提案が幾つかある。


防火帯

防火帯のコンセプトは5つの手段に分解できるが、ある一つの防火帯が核戦争阻止に最も可能性を持っている。それは、関係改善を追求することで、国家間の緊張を緩和することである。

実際、国家間の関係を完全する努力が実れば、いくつかの核戦争シナリオの可能性を確実になくせる、すなわち、ヒューズに点火できなくなる。現在、敵対している国々が、相違を和的に解決するか、横に置くことように説得できれば、核戦争を含む戦争の可能性は大幅に減少するだろう。

明らかに、この論は、第三世界諸国間の関係のみならず、工業諸国間でも、特に超大国間でも同様に成り立つ。

2つめに潜在的に有用な防火帯は、(ICBMや潜水艦発射ミサイルや大陸間爆撃機などの長距離核兵器投擲システムを対象とする、SALTやSTARTなどの)戦略核兵器管理である。そのような努力は、これまでは控えめなものだったが、我々とソ連の関係が変われば、軍備管理は大きく変わる可能性がある。全面核戦争の帰結を確実なもの(相互確証破壊)にするので、どちら側も理性的には、そのような攻撃の開始に誘惑されることはない。実質的には、すべてのシナリオが最終的には、核のボタンに指をかけた、超大国の意思決定者たちが、ボタンを押せば起動する相互確証破壊に直面することになる。核兵器軍備管理交渉は、核戦争を阻止するための包括的計画には不可欠である。

しかし、危機の時でも冷静でいられるだろうか? そう信じたいが、歴史の教訓と、感情が危機的行動に与える影響は何も保証しない。しかし、戦略的軍備管理によって達成された予測可能性は、一方的行動とともに、全面核戦争に至る前に紛争を止めるための重要な手段となる。

その他の軍備管理手段も、有効な防火帯となるかもしれない。これらには次のものがある。
  • 緊張を緩和し、短距離核戦力の均衡を確実にするための、欧州における中距離核軍備管理。
  • 緊張緩和と、通常兵器の均衡を確実に死、通常兵器による紛争のインセンティブを削減するための、地域軍備管理手段
  • 敵対国間の敵意と緊張を緩和し、第三世界の通常兵器による紛争の可能性を減らすための、諸国への通常兵器武器販売の規制。

幾つかの核戦争シナリオに対する重要な防火帯は、核兵器を法有していない国への核拡散防止(核クラブ加盟制限とも呼ばれる)である。核兵器保有国が増えれば、通常兵器による戦争の途中で、特に一方が壊滅的な敗北を被ろうとしているときに、そのような核兵器が使われる危険性が大きくなる。

核拡散防止のための努力の大部分は、特定技術及び、第1世代の核兵器で使われる核兵器級の「分裂(爆発性)物質」であるウランやプルトニウムの拡散防止の必要性にある。「デリケートな」技術屋施設に対する厳格な輸出規制などの措置は、他国の核兵器開発能力を持つのを防止するのに役立つ。核分裂物質を生成あるいは蓄積しているすべての原子炉を厳重に監視することで、いかなる物質も軍事用途に転用されないことを確実にするのに役立ち得る。

もう一つの重要な防火帯は、紛争解決の向上である。すなわち相違や紛争が軍事紛争の段階に達するのを防ぐための手法やメカニズムである。ひとたび通常爆弾や弾丸が飛び交い始めると、核兵器使用へとエスカレートする可能性ははるかに大きくなる。しかし、軍事紛争が起きて、これらの軍事紛争が最終的な軍事解決に至らないようにコントロールあるいは沈静化させる方法を見出すことは、非常に大きな課題である。

昨年のフォークランド諸島及びレバノンでの危機は、現在の紛争解決手法が役立っていないことを鮮明に示している。フォークランド危機では、(1) 超大国(米国)と、(2)国連と、(3)ラテンアメリカ人の国連事務総長と、(4) 米州機構と、(5)教皇による調停努力は、軍事的解決に至るのを防げなかった。この失敗から、ペレス・デ・クエヤル国連事務総長は「我々は新たな国際的無秩序に危うく陥るところだった」と述べるに至った。彼の言葉は正しい。

もう一つの防火帯は、危機がエスカレートしているときの、首脳間のコミュニケーションの最大化である、クライシスコミュニケーションである、特にこれは、現在の(しかし少し時代遅れの)米国とソ連のホットラインの基本的な論理的根拠でもある。

ライシスコミュニケーションは、悲劇的な計算間違いあるいは誤解の可能性があるときに、特に重要になる。たとえば、6つの核戦争シナリオの2つにおいて、起源や目的が不明である核爆発が起きた場合が、これに相当するだろう。

それ以外のすべての手段が失敗して、核戦争を止めるために2つの超大国の首脳が個人的にコミュニケーションを行うかの精だけが残されている場合に、クライシスコミュニケーションが「最後の」防火帯を構成する。両端で通訳を必要とする低速な電話回線である現在のホットラインが、適切なものではないだろう。

政治的解決策を作り上げる

「数字ゲームで誰が一番であるか」「どの兵器システムが不安定化していて、どれがそうではないのか」「どの軍備管理の提案がバランスが取れていて、どれが一方的な優位性を求めているか」は、軍備管理の交渉担当者や兵器システムの専門家たちの複雑な仕事である。20年間、彼らはこの問題に対する技術的な解決策を模索し、失敗してきた。

我々はの失敗を認め、核戦争問題に対する政治的解決策、すなわち変化する国際関係における解決策を模索する必要性を認識しなければならない。そのような解決策は、国民の合意なしには達成できない。そして、問題に対する国民の明確な理解がなければ、そのようなコンセンサスを見いだせない。

教師の課題は、単純明快である。核戦争の脅威を削減することは、我々の最優先事項であり、この問題を我々の学校のカリキュラムに組み入れることが不可欠である。

核戦争がどのように始まる可能性があり、どのように阻止する可能性があるかを調べるという、我々が提示したアプローチは、重大な問題を探り、核戦争の脅威の終焉を追求するための最良の枠組みとなる。これはまた、我々が直面している課題が、核兵器のない世界ではなく、核兵器とともに生きる方法を学ぶことだということを、明らかにしている。というのは、既に核の魔人は封印された瓶から出てきてしまったからだ。

この質問は、非常に抽象的な議論に学生を巻き込むための良い方法である。




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