わだ、わだ、ががい

【1、はじめに】

このシナリオは「クトゥルフ神話TRPG」に対応したシナリオである。
シナリオの舞台は現代日本、東北のI県N市を想定している。史実を参考にしたシナリオであるが、このシナリオはフィクションであり、実在する人物団体等とは一切関係はない。探索者の人数は１～３名を想定しており、プレイ時間はキャラ創造時間を除き、ボイスチャットを用いたオンラインセッションで4～5時間程度が目安である。旅行先で事件に巻き込まれるというシナリオのため、新しく探索者を創造する場合は、探索者同士である程度交流があるという設定で創造すると、ゲームがスムーズに進むと考えられる。
これがないとクリアできないという必須技能は特に無し。あると楽しめるだろうと考えられる技能は＜写真術＞。

【2、あらすじ】

　探索者は共通の友人から、宿泊すると幸せになるという旅館、「亀麿荘（かめまろそう）」に宿泊する権利を譲られる。ここには座敷童子がいて、その姿を見ると男は出世し、女は玉の輿に乗るという噂で有名な旅館である。そのため、特に座敷童子の目撃が多い「槐（えんじゅ）の間」は５年先まで予約でいっぱいの部屋となっている。今回探索者たちは幸運にもこの「槐の間」に泊まることができた。
　探索者たちは「亀麿荘」の「槐の間」で、座敷童子が起こす不思議な現象に出くわすことになる。座敷童子伝説の真相を探る探索者たちは、冷害による飢饉と子どもたちとの関係、この伝説の地で行われた冒涜的な儀式を知ることになる。その一方で、とある目的のため神を呼びだそうとする人物による儀式が行われようとしていた。
　探索者たちは座敷童子伝説の真相を突き止め、その裏で企てられている神話的陰謀を阻止しなければならない。

【3-1、シナリオの背景/KP知識】

　I県N市では昔から雑穀の栽培が盛んであったが、地形上やませによる冷害に悩まされていた。特に江戸時代に起こった天明の大飢饉では作物が全くとれず、多くの人間が亡くなった。この地の住民は生き残るために、生まれたばかりの子供を殺して人間の数を減らし、その窮地を脱した。生活にゆとりが出てきた頃、住民は殺してしまった子どもの霊のために小さな部屋を作り、お菓子やおもちゃ、人形を供える。
　ある日、部屋に供え物を持って来た住民が、うっかりその部屋で寝てしまう。誰かが戸を叩く音で目を覚ますが、なぜか体が動かない。戸を叩く音はだんだんと大きくなり、更には声が聞こえ始める。
「わだ、わだ、あげろじゃ、ががい（わたしだ、わたしだ、開けてくれ、おかあさん）」
　ふと気づくと、枕元に小さな子供が立って、彼を見ながら笑っていた。
　この現象はこの部屋で休んだ多くの人が体験したが、決まって被害はなく、むしろちょっとしたイタズラのようだった。「子どもが人形と遊んでいる」という話もあり、住民たちは「亡くなった子どもたちが遊んでいるのだ」と考え、子どもたちへのお供えを続けた。
　間引きや節制でなんとか生き延びることはできても、天災である冷害による飢饉を防ぐことは不可能で、それは何度も住民たちを苦しめる。救いを求める住民は、とある旅人からとある神の話を聞く。「火の神を喚べばいい、その熱は寒さに苦しむお前たちをきっと救ってくれるだろう」住民たちはその言葉を信じ、旅人から教わった儀式に臨んだ。燃え盛る火の中で松明を掲げ、呪文を唱える。クトゥグァの召喚の儀式である。儀式は順調にいったように思われたが、とある一人の若い男がそれを妨げる。何が彼をそうさせたかは誰も知らないが（一説によると彼をそそのかした人間？がいるという）、その男はクトゥグァの力を自らのものにしようとした。なんやかんやで男はクトゥグァの怒りを買い、辺り一面を焼き尽くす大火災を引き起こした。住民たちは神の怒りを鎮めるためにまじないを込めた人形を捧げた。公にされてはいないが、生きた人間を差し出したという記録もどこかに残っているという。大量の魔力を得たことによりクトゥグァは退散、奇跡的に若者一人以外の犠牲者を出すことなくこの大火災は終息したのである。

　本シナリオはこの過去の出来事をなぞる形で進行していく。

　ことの発端は以下の通りである。
　地方都市の院生であったNPC堀野（ほりの）はふとした出来事をきっかけに、クトゥグァを崇拝するようになる。この目でかの神を見たいという一心で研究を続けたが叶わない。やはり夢は夢でしかないと諦め亀麿荘に就職したが、奇しくもこの旅館のあるこの地で火の神を召喚する儀式が行われたことを知る。なんやかんやで儀式の方法を調べあげ、儀式を行おうと企んでいるのである。目的はクトゥグァをこの目で見ること。そのためならば、このボロ旅館がどうなってしまおうと構わない、むしろ自分をないがしろにするこの旅館など燃えてしまえばいいのだ。堀野はボイラーに仕掛けをする。決行は秋と冬の境目、フォーマルハウトがよく見えるこの季節。

　運がいいのか悪いのか、探索者はちょうどその時に来てしまったのである。

【3-2、シナリオの流れ】

・亀麿荘に到着。
・真白（NPC/座敷童子）に出会う。交流。
・夜中に座敷童子が起こす現象に巻き込まれる。
・座敷童子伝説の真相を知る。
・亀麿荘の爆発火災。
・堀野（NPC）によりクトゥグァ召喚の儀式が行われる。探索者はそれを阻止する。
・クトゥグァの代わりにイォマグヌット（ヤマンソ）が召喚される。
・NPCが食われる。MPを込めた人形をイォマグヌットに食わせ、退散させる。
・エンディング。

【4、NPCデータ】

◆真白（ましろ）７歳/座敷童子
STR 10、CON 18、SIZ 8、INT 10、POW 25、DEX 10、APP 14、EDU 9、SAN 90
耐久力 13、MP 25
＜人類学＞50% ＜オカルト＞90%　＜歴史＞50%　＜芸術（雨乞い：消費MP10）＞90%
＜天文学＞23%　＜クトゥルフ神話＞9%
呪文＜クトゥグァの招来・退散＞
このシナリオのキーマン。見た目は普通の田舎の子供である。
飢饉のため間引きが行われた際に犠牲になった子供で、現在は亀麿荘の守り神である。
人見知りが激しいが、ある程度会話をすれば心を開き、慣れたあとは歳相応の子供のように振る舞う。
命を摘み取ることを嫌う、心優しい性格。いざとなれば自分を犠牲にしてでも皆を助けようとする意思を持つ。
金田一、白鳥を実の家族のように慕っている。堀野のことは苦手で、何をしようとしているか調べようとはするが深く関わることはしない。
このシナリオでは女の子ですが、性別はPLによって変えてもOKです。

◆金田一（きんたいち）55歳
STR 11、CON 11、SIZ 13、INT 13、POW 13、DEX 11、APP 10、EDU 16、SAN 65
耐久力 12、MP 13
＜応急手当＞52%　＜写真術＞50%　＜ナビゲート＞60%　＜考古学＞70%
＜歴史＞70%　＜オカルト＞55%　＜天文学＞70%　＜経理＞55%
亀麿荘の支配人であり、亀麿荘に伝わる座敷童子伝説の語り部。この旅館では支配人となる人間に座敷童子に関わる全てが引き継がれる。
このシナリオにおいて金田一は全くの善人であり、疑われることはあっても悪人になってはいけないことに注意して頂きたい。
真白を自分の孫のようにかわいがっており、真白を邪険に扱う堀野に手を焼いている。

◆堀野（ほりの）27歳
STR 12、CON 15、SIZ 16、INT 13、POW 16、DEX 10、APP 9、EDU 17、SAN 49
耐久力 16、MP 16
＜隠す＞60%　＜隠れる＞80%　＜忍び歩き＞70%　＜目星＞80%
＜機械修理＞71%　＜言いくるめ＞60%　＜オカルト＞70%　＜天文学＞90%
＜クトゥルフ神話＞9%
呪文＜クトゥグァの招来・退散＞
このシナリオの元凶である。詳しくはKP知識参照。
癖はライターの火をつけたり消したりすること。
接客業にあるまじきだらしなさで、金田一や白鳥に注意されることが多く、彼らをうざったく思っている。直す気はさらさらない。
自分の周りをうろちょろする真白が（というか子供が）嫌いで当たりが厳しい。　

◆白鳥（しらとり）32歳
STR 14、CON 11、SIZ 14、INT 15、POW 16、DEX 10、APP 15、EDU 16、SAN 80
耐久力 13、MP 16
＜応急手当＞60%　＜写真術＞40%　＜目星＞70%　＜製作（料理）＞60%
＜言いくるめ＞80%　＜値切り＞70%　＜オカルト＞50%　＜芸術（料理の盛り付け）＞60%
＜天文学＞41%　＜経理＞60%　＜歴史＞70%
亀麿荘のスタッフである。調理担当。金田一との連携プレーが見もの。独身。
真白のことを娘のように、また手を焼いてはいるが堀野のことを弟のように感じている。

【5、シナリオの導入】

　シナリオの季節は冬の初め。天気は良すぎるくらいで、最近全く雨が降っていない。
　探索者たちは共通の友人から、「亀麿荘」の「槐（えんじゅ）の間」に宿泊する権利を譲られる。この旅館はオカルトチックな噂で有名で、そういう筋の人間がよく訪れるという。探索者がジャーナリストであれば取材ということにすれば良いし、職業が私立探偵であれば、以前に関わった依頼者から謝礼として贈られたことにしてよいだろう。＜写真術＞判定ができる箇所がちらほらあるので、「写真を撮ってきて欲しい」とカメラを渡せばやってくれるだろう。
　探索者の友人や依頼者からは以下の情報が伝えられる。
　・「亀麿荘」の「槐の間」は5年先まで埋まっている部屋である。
　・その部屋には「座敷童子」というものが存在し、泊まってその姿を見ると男は出世し、女は玉の輿に乗ることができるらしい。
　「亀麿荘」に向かう前に＜図書館＞ロールに成功すれば、「亀麿荘」について調べることができる。
　・この旅館には「座敷童子」が出る。
　・「座敷童子」を見て、実際に出世している人物がいる（原敬、金田一京助など）。
　・この地は景観がよく、特に星座を見るのに最適である。この季節のおすすめは魚座
　・（クリティカル）ボイラーから時々異音がするという噂がある。
クリティカル情報以外の情報は、タクシーで宿まで移動する時にタクシーの運転手から教えられてもいい。

　探索者たちはN駅に到着する。N市は過疎化が進む町で、駅にいる人もまばらである。ぱっと見て中年、お年寄りが多く、学生以外の若者の姿はあまり見えない。デパートなどの大きな施設はもちろん、ファーストフード店も見当たらない。
駅前商店街の1/3程はシャッターがしまったままである。バスは一時間に多くて2本。「亀麿荘」にはタクシーで移動する。駅からかかる時間は30分ほど。移動中に町の様子を見ることができるが、車通りもそれほど多くはなく、ちょっとしたショッピングセンターや古めの商店が並んでいる。
駅には座敷童子伝説についての大きな看板がある。気になるようであればハンドアウトにして渡しても構わない。新しい情報は以下の通り。
ハンドアウト：【N市観光ガイドマップ】
　・座敷童子が出現するときは、金縛りが起こる。

【N市観光ガイドマップ】

　伝説の謎をたどる旅へ。
　「座敷童子」が住む場所へ。

　古くは南部藩の指定湯治場だったことから「侍の湯」と呼ばれ、永い歴史を持つK温泉には今でも「座敷童子」の伝説が息づいています。
　座敷童子とは旧家に住み着いて家を守るとされる神霊のことで、その奥座敷に泊まると、座敷童子に枕をかえされ金縛りにあいますが、その後は驚くほど幸運に恵まれ、男は出世し、女は玉の輿に乗る。そんな言い伝えがここにはあります。
　座敷童子は幽霊ではなく、愛らしい子供の姿をした神霊で、当地方では家の大切な守り神とされています。
　これは単なる昔の言い伝えではなく、今でも「座敷童子を見た」という人は後を絶ちません。
　一見何の変わりもない古い奥座敷。しかし、一歩足を踏み入れれば、そこは伝説の世界への扉に…。

【6、亀麿荘】

　「亀麿荘」は木造一階建ての小さな旅館である。槐の間、桜の間、柊の間、楓の間、柳の間、椎の間、浴室、談話室、事務室、調理室、食堂、スタッフルーム、リネン室がある。築100年ほど。
今回探索者が泊まるのは槐（えんじゅ）の間（探索者が複数いる場合はそれに加えて桜の間）である。

旅館の内外の描写については後述する。
　「亀麿荘」につくと、玄関の前に7歳ほどの女の子がいる。前髪はきれいに切りそろえられ、肩まで髪を伸ばしている。パーカーの下にジャンパースカートとサンダル。服装は自由に描写しても構わないが、あくまでも「田舎の女の子」として描写する。
この女の子がこのシナリオの鍵になる「座敷童子」の真白である。
　真白を見て＜アイデア＞に成功すれば、真白の周りで何かが光ったことに気づく。
　真白はまっすぐに探索者たちを見て、「……お客さん？」と小さな声で聞く。＜心理学＞に成功すれば、この探索者たちを警戒していることがわかる。名前を聞かれれば「……真白」と名前だけ答える。
それ以外の質問には答えず、大きな目でじぃっと探索者を見つめるだけである。
　会話が落ち着いたならば、真白は「亀麿荘」の館長である金田一（きんたいち）を呼びに行く。金田一は50代の中肉中背の男性で、ポロシャツの上に法被を着ている。ネームプレートは「金田一」。
この男は座敷童子伝説のすべてを知る語り部で、真白の正体も知っている。真白にはなつかれている。

【7、槐の間】

　金田一は探索者を歓迎し、部屋へと案内する。探索者の人数によって部屋の割り当てが変わるので注意すること。
１）一人の場合→そのまま槐の間へ
２）二人の場合→（槐の間は一人部屋の為）１：１にわかれる。
３）三人の場合→２：１にわかれる。性別によってわけ、一人の方が槐の間に行くというのも適当だろう。
※槐の間に必ず一人は泊まらせるようにすること。

　以下に桜の間と槐の間のそれぞれの描写を示すが、探索者が複数の場合は桜の間からはじめること。探索者が一人の場合はこの限りではない。
１）桜の間
　いたって普通の畳の部屋。二人部屋。特に変わったところはない。
　テーブルの上にはせんべいとまんじゅう、ポットと茶筒、急須と湯のみ、さらに「小さな座敷童子の人形がついたストラップ（MP2～3：KPは参加人数に応じて調整すること）」が置いてある。
このストラップは後に出てくるイォマグヌットを退散させる時に食わせるものであるので、描写を忘れない。必要であればそのストラップをどうするか探索者に聞くこと。
　このストラップについて＜アイデア＞ロールに成功すれば、このストラップは見た目よりもずっと重いことがわかる。
　縁側からの景色が綺麗。
　桜の間の説明が終わると、金田一が探索者を呼び、槐の間へと連れて行く。

２）槐の間
　桜の間と基本的に同じである。一人部屋。テーブルの上には以下省略。縁側以下省略。
　他の部屋と比べて違うところは以下の2つ。

　Ⅰ）床の間
　床の間には様々な大きさのぬいぐるみや人形が並べられている。日本人形もあれば、最近発売されたばかりのゲームのキャラクターのぬいぐるみまで、床の間をはみ出すほどの数のぬいぐるみがある。
　金田一に聞けば、座敷童子に供えられているもので、噂を聞いた宿泊者が置いていったものだという情報を手に入れることができる。
　Ⅱ）壁にかかっている絵
　入って正面の壁に、A4ほどの大きさの絵が額に入れて飾られている。見ると着物を着たおかっぱの子供の絵である。金田一に聞けば、10年ほど前に有名な漫画家がこの部屋に宿泊した際、記念に置いていった絵だということがわかる。
　この絵を見ていた者のうち、＜アイデア＞ロールに成功したものは、この子どもの絵がまばたきをしたことに気づいてしまう。0/1の＜正気度＞ロール。
　
　また、この部屋全体を写真に撮る等の＜写真術＞ロールに成功した場合、写真にオーブ（光の玉）が写り込む。ポラロイドやデジカメ等、撮った後にすぐ見ることができるような写真の場合、部屋中に浮いている沢山のオーブの存在に気づいてしまう。0/1の＜正気度＞ロール。
　金田一に聞けば、これは部屋中にいる座敷童子が写ったものであるという情報が手に入る。

　部屋の紹介がおちついたところで、金田一から以下の説明がされる。
　・この部屋は座敷童子のために作られた部屋である。
　・座敷童子とは家を守る精霊で、その姿を見たものは、男は出世し女は玉の輿に乗るという噂がある。
　・座敷童子に会うためにこの部屋を予約する人が多く、予約は随分先まで埋まっている。
　・原敬や金田一京助など、有名人の中にもこの旅館のこの部屋に泊まりに来た人は多い。
　・座敷童子は子どもの精霊だから、イタズラが好きである。
　・記念に写真をとっていく人も多い。撮影は自由なのでよかったらどうぞ。

　金田一の話が一段落ついたところで、槐の間に真白がやってくる。真白は嬉しそうに金田一を「おじちゃん！」と呼んだあと、探索者に気づき、恥ずかしそうに金田一の後ろに隠れる。
「パンジーの芽がいっぱい生えてきたけど、次どうすればいいの？」金田一は微笑みながら、「そうか、じゃあ教えてあげるから、表にプランターを持って行きなさい、すぐに行くから」と優しく言い返す。真白は頷いたあと、探索者をちらっとみて、やはり恥ずかしそうに帰っていく。
　真白について金田一に聞けば、
　・彼女は真白という名前である。
　・親戚の子供だが、家庭の事情により一時的にあずかっている。
　・7歳。
　・人見知りをするが、いい子なのでよければ構ってあげてほしい。
という情報を手に入れることができる。
　以上のイベントが終われば、あとは自由に行動できる。

　廊下に出ると、20代の若い男がいることに気づく。この男は金田一と同じ、ポロシャツに法被という格好である。法被には「堀野（ほりの）」というネームプレートがつけてある。整っているとは言いがたいぼさぼさの髪が特徴の27歳の男である。
　この男は探索者に気づかず、ぼんやりとライターをつけたり消したりを繰り返している。この男に話しかけるのであれば、堀野は慌てることもなくライターをしまい、しまりのない事務的な挨拶をする。
　堀野は探索者をぼーっと眺めたあと、「あの幽霊部屋に泊まるの、もしかしてお客さんたちっすか」とたずねる。「っていうかそうだよな、こんな季節にこんなとこ来るの、幽霊部屋に泊まるやつらくらいだよな」と呟く。
　「幽霊部屋」について尋ねれば、堀野から
　・座敷童子は殺された子どもたちの霊だ。
　・座敷童子に会うと呪われる。
という情報を手に入れることができる。その後はめんどくさそうに「じゃあなにかあったら呼んでください」と言ってその場を去る。

【8、自由行動】

　探索者たちは亀麿荘の敷地内を自由に探索できる。
　旅館の外を歩き回ることもできるが、この町にはあってもちょっとしたショッピングセンターや温泉くらいしかないのでおすすめはしない。適当に時間を潰したことにして旅館に戻ってくるというのもアリだろう。

１）旅館の中
　Ⅰ）他の客室
　他の客室に人はいない。紅葉も終わったオフシーズンだからである。
　Ⅱ）浴室
　大きな浴室で、時間帯で男女が入れ替わる形式をとっている。
　Ⅲ）事務室
　堀野が誰かと電話で話している。＜聞き耳＞ロールに成功すれば、槐の間についての問い合わせの対応をしていることがわかる。どうやら明日泊まりに来る予定だったがキャンセルしたいらしい。他の従業員はいない。

Ⅳ）スタッフルーム
　STAFFONLYという札がかけられている。鍵がかかっていて中に入れない。
　＜鍵開け＞ロールに成功すれば、中に入ることができる。
　更衣室・仮眠室となっていて、一見おかしなところはない。
　２つのベッドのうち、向かって右側のベッドの上は散らかっており、シーツやら布団やらが乱雑に置かれている。＜目星＞ロールに成功すれば、丸め込まれた布団の中に手帳があることに気づく。

ハンドアウト：【誰かの手帳】
　もう少しで仕掛けおわる。
　せっかくのいい場所なのにこんなものがあっては邪魔だ。
　神を呼び出すのだ、あの炎を呼び出すのだ、こんなボロい旅館など見せられるか。
　跡形もなく吹き飛ばさなくては。

　思えば長い道のりだった。
　あのジジイは俺の仕事にケチつけやがるし、従業員も少ないから仕込める時間などほとんどなかったし。
　特に最近は、ジジイが引き取ったあのガキがちょこまかとうるさかった。これだからガキは嫌いなんだ。好奇心の塊め。一緒に吹き飛ばしてやろうか。

　まあいい、もうすぐすべてが終わる。
　俺はあの炎で新しい世界へと旅立つのだ。

　Ⅴ）リネン室
　　　特に怪しいところはない。
　Ⅵ）調理室
　　　特に怪しいところはない。
　Ⅶ）食堂
　　　テーブル席と掘り炬燵席の2つに分かれている。それほど広くはない。
　　　特に怪しいところはない。
　Ⅷ）談話室
　　　自販機と本棚、テーブル、椅子、テレビ、温度計がある。
α）テレビ
　テレビ自体に怪しいところはない。
　テレビをつけると天気予報をやっている。今日は一日中晴れ。ここ一週間雨が降る予定はないらしい。
β）本棚
　＜図書館＞ロールに成功すれば、観光案内の本以外に、【児童文学】【N市の歴史】【火の神伝説】という本を見つけることができる。

　●【児童文学】（ユタとふしぎな仲間たち/三浦哲郎）
　　・とある田舎の小学校を舞台にした物語である。
　　・都会から引っ越してきた少年が、座敷童子と出会い、成長していく話。
　　・登場している座敷童子は一人だけではない。
　　・ここに登場する座敷童子は、昔の飢饉によって死んだ子どもたちの霊である。

　●【N市の歴史】
　　・室町時代から江戸の終わりまで、この地域はN氏によって統治されていた。
　　・冷涼な環境と厳しい統治により、飢饉がたびたび発生した。
　　・300年ほど前に冷害による大飢饉が起こり、多くの人が亡くなった。慰霊のために神社を建立。
　　・100年ほど前に大火災が発生。奇跡的に神社は被害を受けなかった。
　　・10年前、新幹線が通った。

　●【火の神伝説】
　　・東北の小さな村が舞台の話である。
　　・冷害で困り果てた住民たちは、火の神を召喚し、寒さを和らげようとした。
　　・しかしとある若者が神の力を悪用しようとし、それを知った神は怒り狂ってその若者を焼き殺してしまった。神の怒りはおさまらず、辺り一帯を燃やし尽くしてしまった。
　　・住民たちは神の怒りを鎮めるために、まじないを込めた人形を捧げ、神を退散させた。幸い、件の若者以外のけが人はいなかった。
　　　
　以上3冊の本を読んだもののうち、＜幸運＞もしくは＜目星＞ロールに成功したものは、本棚の中に、更に【古びたノート】を発見する。このノートは【セラエノ断章】の手書きの写である。
　このノートには呪文《火の神（クトゥグァ）の招来/退散》（松明を動かしながら呪文を唱える。1D10の＜正気度＞喪失/MPを9P以上集めて退散の道を開く（5%）。以降はMP1ごとに成功率5%上昇）、
《旧き印》の絵、「フォーマルハウト」、「ふんぐるい　むぐるうなふ　くとぅぐぁ　んがあ・ぐあ　なふるたぐん　いあ！　くとぅぐぁ！」といった手書きのメモを発見する事ができる。
（ただし呪文は間違っている。正しくは「ふんぐるい　むぐるうなふ　くとぅぐぁ　ふぉまるはうと　んがあ・ぐあ　なふるたぐん　いあ！　くとぅぐぁ！」そのため堀野がどんなに呪文を唱えても、クトゥグァを召喚することは出来ない。）
　このノートを読んだものはこの世界にあり得るはずのない情報を見てしまったため、1D3/1D6の＜正気度＞ロール、呪文《火の神の招来・退散》の取得、さらに＜クトゥルフ神話＞にプラス6%。

γ）温度計
　　温度計を見ると、20度を示している。暖房はついていない。
　　

２）旅館の外

（こちらのイベントを起こすことが優先である、旅館の外に出るロールプレイを行った場合は、帰ってきたタイミングで行うと良いだろう）
　Ⅰ）玄関
　玄関を通って外に出ようとすると、何かを抱えて泣きながら走っていく真白の姿を見かける。続けて「待ちなさい真白！」という金田一の声が聞こえる。金田一は探索者たちを見ると、「申し訳ありません、お見苦しいところを…」と申し訳なさそうに言う。金田一の手は土で汚れている。
　金田一の話を聞くと、以下の情報を手に入れることができる。
　　・金田一と真白は、パンジーを一緒に育てている。
　　・小さな鉢に芽がたくさん出ていたため、間引きをしようと思っていたが、その話をしたところ真白は涙を浮かべて鉢を持って行ってしまった。
　　・間引いた芽は別の鉢に移そうと思っていたのだが、それを伝える前に行ってしまった。
　　・あの子は優しい子だが、優しすぎる子だ。過酷な条件の中で全てを守ろうと頑張ったとしても、時としてその優しさが全てをだめにするということを知らないんだ。
　　・おそらく今は敷地内の神社にいるだろう。迷惑でなければ、様子を見てきてもらえないか。私が今行っても、火に油を注ぐだけだろう。

　ここで出る「間引き」は、飢饉から生き延びるための「間引き」を暗喩している。
　金田一の話を聞かずに真白を追うことも可能であるが、＜追跡＞ロールに成功しなければそのまま真白のもとに辿り着くことは出来ない。＜追跡＞ロールに失敗した場合は、金田一を出して上の情報を与え、継野神社に向かわせる。

　Ⅱ）継野（つぎの）神社
　亀麿荘の裏にある、木に囲まれた小さな神社。赤い鳥居と白い鳥居の2つの鳥居をくぐると、小さな神殿がある。槐の間と同様に＜写真術＞ロールに成功すれば、神殿の周りにたくさんのオーブを確認することができる。槐の間よりも数が多い。0/1D2の＜正気度＞ロール。
　神殿の前には鉢を抱えてすすり泣いている真白がいる。探索者たちには気づいていない様子である。探索者が声をかけると、真白は驚くが泣き止みはしない。真白は探索者たちに、以下のことを言う。
　「おじちゃんが、芽が多すぎるから少しとっちゃおうって言うの」
　「みんな生きてるのに、かわいそうだよ」
　「どうしてそんなことしなきゃいけないの？どうしてもやらなきゃだめなの？」
　この質問に対して、「他の芽を無事に成長させるために必要なことだ」「金田一さんは、『取った芽は他の鉢に移そう』と言っていた」等、KPが納得する答えを出せればロール無しで真白を説得させる事ができる。「やらなきゃいけないことだ」といった説明が足りない答えの場合は、＜説得＞ロールに成功する必要がある。＜言いくるめ＞はこの場では適当ではないと考える。
　真白は「必要なことなんだね…」と寂しそうにつぶやき、鉢を持って金田一の元へ向かう。それについていくと、亀麿荘の前で新しい鉢に土を入れている金田一の姿を見つける。真白は金田一に駆け寄って抱きつき、金田一は真白の頭を撫でて何かを呟く。＜聞き耳＞ロールに成功すれば、「そうだよな…この子はそういう子だものな…」とつぶやいているのを聞き取ることができる。
　金田一は探索者にお礼をいい、「夕食の準備ができている。食堂に持っていくので待っていてくれ」と言って、真白を連れて中へ入っていく。中に入っていく金田一に、堀野が小声で話しかける。＜聞き耳＞ロールに成功すれば、次の槐の間の予約がキャンセルになったことがわかる。
　真白のイベントが終わると自由行動は終了する。

【9、夕食】

　探索者は食堂に向かう。全員集まると料理が運ばれてくる。料理は雑穀や山菜がメインの一般的な膳。川魚の塩焼きが美味しそう。「白鳥（しらとり）」というネームプレートをつけた女性が食事を準備している。
この女性は亀麿荘のスタッフで、肩まで伸びた髪を後ろで縛っている。見た目はかなり若い。KPは真白が配膳を手伝っていることを探索者たちに伝える。
　ある程度食事が進むと、真白がデザートとしてうさぎの形をしたりんごを持ってくる。「白鳥さんのおうちで作ってるんだって。このりんごね、とってもおいしいんだって」真白はりんごをじっと見つめ、名残惜しそうに去っていく。
真白が去っていった方を見ると、戸のかげから大きな目でじぃっと探索者たちを見つめている。
　探索者たちは真白にりんごをあげてもいいし、あげなくてもいい。もしあげたのであれば、無邪気に喜んでりんごをたべる真白の姿が見られるだろう。
　食堂から部屋へと帰る途中で、談話室でテレビを見ている真白の姿を見かける。真白は探索者たちに気づき、近寄ってきて、以下のことを言う。
　「明日も晴れるんだって。もうすぐ冬なのに、春みたいにあったかいって、テレビのお姉さん言ってたよ。ねえねえ、もし明日暇だったら、真白と遊んで！」
　OKだったら喜ぶし、NGだったら「けちー」といって怒る。まあ明日こいつ行方不明になるんですけどね。

【10、夜中、槐の間にて】

　探索者の行動が終わった後、槐の間に泊まる探索者は座敷童子に出会うことになる。このイベントは以下の順番で行われる。

　①不思議な笑い声
　探索者は＜聞き耳＞ロールをする。成功すると、障子の向こうから「クスクス」という笑い声が聞こえる。声をする方を見ても何もいない。

　②金縛り
　探索者が動こうとした場合、KPは「探索者は目以外動かせない」ことを伝える。所謂金縛りである。これに対抗するにはPOW25とのPOW対抗ロールに成功しなければならない。成功した場合、この現象に対して何かアクションを起こすことができる（特にできることはない）が、失敗した場合は金縛りのままこの時間を過ごさなければならない。
　声を出して隣の部屋に助けを求めてもいいが、槐の間と隣ではあっても、少し離れた場所にあるため、＜聞き耳＞の半分で成功しなければならない。
　　金縛りに打ち勝った場合は④、その他は③に移行する。

　③足音
　＜聞き耳＞ロールを行う。成功した場合、自分の布団の周りを何かが走り回っている音が聞こえる。もちろん何も見えない。もう一度＜聞き耳＞ロールに成功した場合、足音がどんどん増えていることに気づいてしまう。
　探索者がもう一度POW対抗ロールをしたいというのであれば、2回目はPOW20、3回目はPOW15との対抗ロールを行う。

　④超常現象の終わり
　探索者が体を起こす、もしくは別の探索者が槐の間に到着した場合、足音や笑い声がピタッと止む。次のような描写を行う。
　「それは突然探索者の目の前に現れた。小さな子ども。おかっぱの頭。ぼろぼろで丈の短い着物。赤い頬のそいつは探索者を大きな目でじぃっと見つめると、にやっと笑って探索者に向かって、走る。
ぶつかると思ったその瞬間。その姿はすうっと消え、あとには不思議な光の玉だけが残り、ついにはそれも消えてしまった」
　このような不思議な現象を目撃した探索者は1/1D3の＜正気度＞ロール、槐の間に泊まっていて、一連の現象を体験した探索者は更に1/1D6の＜正気度＞ロールを行う。
　この現象の後にこの槐の間を探索するのであれば、探索者が使っていた枕がひっくり返っていることがわかる。また、＜目星＞もしくは＜幸運＞ロールに成功すれば、部屋の隅に何かの植物の種を発見することができる。
＜生物学＞もしくは＜知識＞ロールに成功すれば、それはりんごの種だということがわかる。超常現象を見た探索者全員が＋5%の＜オカルト＞技能習得。

　⑤KP知識
　この現象は座敷童子である真白が探索者を驚かすために行ったものであり、神話生物が関わっているものではない。経験を積んだ探索者であれば、「クスクスという笑い声」「姿が見えない」という特徴から星の精であると勘違いする可能性があるが、それはそれで面白いと思います。ただし「あくまで座敷童子が行ったもの」のため、戦闘に入るのは避けなくてはならない。探索者が戦闘行動に入る前に④に移行すること。クトゥルフ神話的要素はないため、ここで習得する技能は＜オカルト＞である。
　この晩はこの他にイベントはない。

【11、翌朝】

　朝になると、金田一と真白が部屋にやってきて、「今日来る予定のお客さんが来れなくなったので、もしよかったらもう一泊していきませんか。お金は頂きません。この時期はお客様が少ないのでね、この子も寂しがっているのですよ」と言う。
探索者が昨晩の話をすれば、金田一と真白は顔を見合わせてから笑い、「それは座敷童子のしわざですな」と言う。小さな光の玉、ひっくり返った枕がその証拠だと話す。
「あなたたちはどうやら気に入られたようだ。もし詳しい話を聞きたいのであれば、夕方に談話室にいらしてください」と言って、真白と一緒に部屋を去る。
真白は部屋を出る直前に探索者たちの方を振り返り、大きな目でじぃっと探索者たちを見つめた後、にやっと笑って出て行く。

　食事を終えて部屋の外に出ると、金田一と堀野が話をしているのがわかる。真白の姿はない。＜聞き耳＞ロールをしなくても聞くことができる。
　・金田一「最近ボイラーの調子が悪いから、見てくれないか」
　・堀野　「俺っすか、俺よくわかんねーんで、後で町のホームセンターに電話しときます」
　・金田一「頼むよ。あと最近また言葉遣いがひどくなってきてるから気をつけなさいよ」
　金田一は事務室の方に、堀野は探索者の方に向かって歩く。堀野は舌打ちした後に探索者に気づき、「ボロい宿なんすよ」と言って去っていく。

【12、午前】

　午前中は自由行動である。金田一は事務室で仕事をしている。話している暇はないようだ。話しかけると「午後に来てください」と言う。
　堀野はボイラー室の方向にいるが、隠れて仕掛けをしている。堀野を見つけることはできない。
　＜電気修理＞や＜機械修理＞を持っているプレイヤーはボイラーを直そうとするだろうが、ボイラー室には頑丈な鍵がかかっており、扉を開けることはできない。＜鍵開け＞は意味がないとわかる。
万が一開けることができたとしても、＜電気修理＞と＜機械修理＞の両方に成功しなければならない。
　昨日は閉まっていたスタッフルームのカギが開いている。気づかないようであれば＜目星＞もしくは＜幸運＞ロールで判定する。
　真白はどこを探しても見つからない。
　亀麿荘の中は前日と同じである。談話室の本もそのまま。

【13、座敷童子の真実】

　探索者たちの行動が一段落したら、金田一が現れて探索者を談話室へと案内する。
　金田一は【児童文学】と【N市の歴史】の２冊を本棚から取り出し、机の上に並べる。

　「座敷童子って、なんだと思いますか？」
　金田一から以下の説明がある。
　（金田一の説明の間、KPは任意のタイミングで探索者たちに数回＜アイデア＞ロールをさせる。初回は＜アイデア×1/4＞、二回目は＜アイデア×1/2＞、三回目以降は元の数値で判定する。ここで成功した者は、部屋がだんだんと暑くなっていることに気づく。暖房はついていない。冬が始まる時期にしては何かがおかしい。）

・座敷童子は飢饉で死んだ子どもたちの霊である。ただ、一つ言っておきたいのは、飢えて死んだのではなく、実の親に殺されたのだということ。
・300年以上前に大飢饉が起こった時、人々は飢えに苦しんだ。食べるものは殆ど無い。育てようと思っても作物が育たない。特にこのあたりは穀物で生きていたから、どうしようもなかった。
・生き残るためにここの住人が選んだのは、「人の数を減らす」という方法だった。
・そこで選ばれたのは「生まれたばかりの子供」だった。
・勘違いしてほしくないのは、「親たちは悪意なんてこれっぽちもなかった」ことだ。悩みに悩んでこの道を選んだのだ。
・その証拠に、親・住民たちは子どもたちのために小さな部屋をつくり、そこに供え物をした。お菓子や人形、ぬいぐるみに願い（=MP）を込め、それをたくさん供えつづけた。
・あなた達も知ってるはずだ。槐の間がその部屋だ。
・親たちの子供殺しの罪の意識は相当強かったのだろう。人形を供える習慣はずっと続いた。すると、この部屋で不思議な現象が起こり始めた。
・ある日一人の若者がこの部屋で寝てしまった。ふと目覚めると外が暗い。外に出ようとすると体が動かない。外から戸を叩く音が聞こえる。
　　「わだ、わだ、あげろじゃ、ががい」
・叩く音はどんどん大きくなり、ふっとやんだかと思うと、目の前に突然小さな子どもが現れた。子供は大きな目でじぃっと若者を見つめた後、にやっと笑ってそのまま消えてしまった。
・多くの住民が同じ事を経験した。しかし誰も。怪我をさせられることは全くなかった。向こうにとってはちょっとイタズラだったんだね。その代わりということか、その子供を見たという住民はそれから一切の怪我をすることなく、それなりの地位を得て、一生幸せに暮らした。
・子どもたちは親を恨んでいたのではなかった。自然の脅威の前ではどうしようもなかった親の気持ちがわかっていたから、彼らは祟り神ではなく守り神となったのだ。
　ここまで話を聞いた探索者は＋3%の＜オカルト＞技能を得る。
「ただ、今の槐の間も、100年ほど前に燃えてしまって、立て直したものですがね。ここら一帯が火の海になるほどの大火災だったそうです。不思議なことに座敷童子のために立てた継野神社は無事だったそうですが。
私は座敷童子が神社を守ったのではと思っているのですがね。」
　ここで一旦金田一の話は終わる。

　探索者が【火の神伝説】について聞けば、それは100年前の大火災を元にして作られた話であるということがわかる。確かに若者が一人だけ亡くなっているが、実際に神を召喚したのかどうかはわからない。ただその若者の手記には、変な印（＝【旧き印】）がかいてあったことは伝わっている。
　ここで全ての者は、部屋が異様に暑いことに気づく。温度計を見ると30度近くを示している。暖房はついていない。冬が始まる時期にしては何かがおかしい。

　ここでKPはシークレットダイス（堀野の＜忍び歩き(70)＞）を振り、失敗であれば探索者と金田一に＜聞き耳＞ロールをさせる。堀野が＜忍び歩き（70）＞ロールに失敗し、かつ探索者＋金田一（＜聞き耳（50）＞が一人でも＜聞き耳＞ロールに成功すれば、誰か（堀野）がボイラー室に向かって走っていくのが聞こえる。

　＜目星＞ロールに成功すれば、空が一瞬光ったことに気づく。＜天文学＞ロールに成功すれば、フォーマルハウトが光ったことがわかる。
　次の瞬間、この部屋にはいなかったはずの真白が一瞬にして現れる。＜アイデア＞ロールに成功したものは、真白がまるで幽霊のようにすうっと現れたことに気づいてしまう。0/1D3の＜正気度＞ロール。
　真白は叫ぶ。「みんな今すぐ逃げて！このままだとみんなしんじゃう！！」

【14、ボイラー爆発事故発生】

　物語が大きく動く転換点である。緊張感が欲しい。
　探索者たちが金田一と話している間、堀野は儀式の準備を進めていた。
　堀野は以前からボイラーに仕掛けを施していた。ボイラーを爆発させて旅館一帯を吹き飛ばし、儀式を行うのに都合の良い場所を作るためである。堀野は学生時代からこのクトゥグァの魅力に引き込まれており、偶然クトゥグァ出現の歴史を持つこの旅館に就職した。
金田一や同僚に対する不満と自らの地位に対する不満が爆発し、クトゥグァを呼んで全てを焼き尽くそうとかそういう感じの考えに至った。全く迷惑な話である。
　堀野はまず炎の精を召喚し、ボイラーを爆発させた。探索者たちが談話室で見た光は、炎の精が召喚された際のものである。
　談話室で真白が叫んだ瞬間、ボイラーが大きな音とともに爆発する。爆発によるダメージは1D6。木造、冬季の乾燥、降雨不足により、火はやがて旅館全体へと広がっていく。談話室から外へ逃げるには２ラウンドかかる。各ラウンドに1D2ポイントのダメージを受ける。さらにKPの任意のタイミングで＜幸運＞ロールを行い、成功しなければ燃え落ちる瓦礫で1D2ポイントのダメージを受ける。
　ボイラーの爆発事故にしてはダメージが少ないのは座敷童子の真白の加護による。

　白鳥はいち早く避難している。金田一の姿を見ると駆け寄り、「堀野くんを見ませんでしたか、どこにもいないんです！」と慌てた様子で伝える。探索者が消防に連絡しても、到着するまでに15分近くかかると言われる。

　しばらくすると、燃え盛る炎の中から、松明のような先が燃えている木を持った堀野がゆっくりと出てくる。やけどだらけだが特にふらついた様子はない。堀野は両腕を上げて奇妙に笑う。
　「見ろよ、この美しい炎を！…だがまだだ、この炎よりも美しい炎が存在するのだ！！100年前の馬鹿は愚かにも炎の神を使役しようとしたために神の怒りを買ったのだ！！俺はそんなことはしない！！ただ仕えるのみ！！神の炎をこの身に浴びて新世界へと旅立つのだ！！いでよクトゥグア！！！」
　なんかこう　狂った感じのことを言って呪文を唱え始める。
　「ふんぐるい　むぐるうなふ　くとぅぐぁ　んがあ・ぐあ　なふるたぐん　いあ！　くとぅぐぁ！」
※正しくは「ふんぐるい　むぐるうなふ　くとぅぐぁ　ふぉまるはうと　んがあ・ぐあ　なふるたぐん　いあ！　くとぅぐぁ！」
　探索者たちは堀野が3回呪文を唱える前に、堀野の口を塞ぐか、意識を失わせるか、殺すか、火災を鎮火させなければならない。堀野は1ラウンドに1回呪文を唱える。ゆえに堀野を3ラウンド以内になんとかさせなければならない。堀野のHPを半分以上削ることで堀野の詠唱を止めることができる。
　しかし堀野の邪魔をしようとするならば、炎の精が前に立ちはだかる。炎の精の攻撃【2d6/ショック】を＜回避＞するか、無視して突っ込めば堀野のところに辿り着くことができる。
　2ターン目に入ると、真白が雨乞い（MP10消費）を始める。3ターン目の終わりに雨乞いが成功、ゲリラ豪雨のような雨が降り出し、炎の勢いが弱くなっていく。
　堀野は詠唱を止められると「俺の…おれの炎が…」と言いながらがっくりと膝をつく。
　雨が止むと、雨乞いを終えた真白がどさっと倒れる。金田一が叫びながら近づくと、真白は力なく微笑んで、「みんなをまもるのが真白の役目だもん…。ざしきわらしはみんなの守り神なんだよ…」と言う。
　堀野の詠唱を止め、火事の延焼を食い止めたことで探索者たちはクトゥグァ招来の危機を乗り越えることが出来た。

　と思うじゃん？

【15、もう一つの炎】

　全員＜目星＞ロールを行う。成功すると、もともと旅館があったところの中心に、なぜか松明ほどの小さな火が残っていることに気づく。堀野（死亡していた場合は金田一）は自動成功。
　堀野はその火を見て、「まだだ…まだ終らない！！！」と叫び、呪文を一回唱える。
　堀野が死亡していた場合は、金田一が「いや待て、まだあそこに何か…」と何かに気づいたように叫ぶ。
　以下の描写を行う。
　「先ほどまでの火災で高くなっていたはずの外気温が、それが現れた瞬間からぐんぐんと下がり始める。フォーマルハウトから呼び出されたのは、確かに炎であった。しかしその炎は100年ほど前に呼び出された、いわゆる「生ける炎」とは別のものであると、そこにいるものは直感した。心に響く、耳障りな音。炎から感じられる、人間に対する明らかな敵意。炎は円を描くように旋回する。やがてその中心に、3弁の炎の花びらが現れ、火の粉を噴いた」
　常識では考えられないこの炎を見た探索者たちは、2d4/1d10の＜正気度＞ロール。

＜イォマグヌット（ヤマンソ）＞
　STR25 CON65 SIZ40 INT46 POW89 DEX27 移動15　耐久力53
　ダメージ・ボーナス：＋3D6　
武器：炎の腕 40% 1d3+db
　　　毎ターン、その場で一番MPが多い人物を狙う。対象を炎で包み、MPを全て吸い取る。

　このイォマグヌットを退散させるには最低9MP（成功率5%）、最高28MP（成功率100%）を捧げなければならない。【古びたノート】【火の神伝説】を読んだもので、＜アイデア＞もしくは＜知識＞ロールに成功したものは、この物体を退散させるためには精神をこの冒涜的な炎に捧げなければ生き残れないと直感する、もしくは知っている。またこの生物を見て発狂したものは、ルールブックの「狂人の洞察」に基いて、この生物はMPが高いものを優先的に狙っていることがわかる。
　イォマグヌットはまず、一番近くにいる堀野を狙う。堀野を炎で包み込み、MPを吸い上げる。MPを全て吸い上げられた堀野は、炎から開放されるが、その姿は痩せこけ、黒くこげ、もう二度と動くことはないだろうと想像される。この堀野の様子を見た探索者は1/1D6＋1の＜正気度＞ロール。
　イォマグヌットは次に真白を狙う。座敷童子である真白はMP25ポイント（雨乞いが発動していた場合は15P）のMPの塊であるため、真っ先に狙われる。真白は自分が食われればイォマグヌットが退散することを知っているため、自ら食われようとする。これを阻止するためには＜言いくるめ＞ロールに成功する必要がある。＜説得＞は時間がかかるのでおすすめしない。

◆勝利条件その1：真白がイォマグヌットに喰われる、もしくは探索者が相談して真白を捧げる。
　＜言いくるめ＞もしくはKPが認めるその他のロールに失敗し真白が自ら喰われることになった、もしくは探索者が相談して真白を捧げる事になった場合、イォマグヌットは真白のMPを吸い尽くした後に自ら退散する。
　真白は喰われる直前に落ち着いた声でつぶやく。「真白はみんなをまもったよ、ねえ、おかあさん…」

◆勝利条件その2：呪文を用いてイォマグヌットを退散させる。
　イォマグヌットは堀野のMPを5P吸い取っているため、5%の退散成功率を得るためにあと最低4PのMPを捧げなくてはならない。＜幸運＞ロールに成功すれば、「小さな座敷童子の人形がついたストラップ（MP2～3）」を持っていることとする。これにMPを更に付与してイォマグヌットに捧げる形となる。探索者は1ラウンドごとにMPを付与する儀式を行うことができる。＜POW×5＞のロールに成功後、自身が持っている現在のMPを半分人形に付与することができる。ただし、【火の神伝説】を読まなかった者が付与できるMPは、現在のMP値の1/4。付与したMPの1/2の＜正気度＞減少。この正気度喪失による発狂ロールのタイミングはKPの任意とする。このロールには金田一と白鳥、＜言いくるめ＞された真白も参加する。
　KPはPC数や様子を見て必要MP数を調整してください。
　イォマグヌットは真白を狙うが、誰かが囮になればそちらを攻撃する。
　探索者たちは1ラウンドごとに＜CON×5＞ロールを行い、失敗すればそれから自動的に1ラウンドにつき1PのHPを失っていく。これは死亡するかイォマグヌットを退散させるまで続く。

　イォマグヌットを無事に退散させるか、もしくはなんやかんやで逃げ切ることが出来れば、晴れてシナリオクリアである。

【16、後日談】

　このボイラー爆発事故は、事故としてメディアで報道される。従業員一名が死亡、原因はボイラーの老朽化との報道。
　真白が生き残っている場合、亀麿荘は地域住民、そして全国から援助をうけ、数年後に新しく建てなおされるが、食われてしまった場合、建てなおされることはない。

　真白が生き残った場合、「座敷童子としての真白をみたあなた達を、真白は一生幸せにする。だけど真白たちのおうちを直してからでもいいかな。今まで守ってくれたおじちゃんたちに恩返しをしてからでもいいかな」「真白があなたたちのところに行くまで、真白の代わりにこれがあなたたちを守ってくれる」と言って、真白は【漆塗りの栞（幸運＋10）】を探索者に渡す。

　イォマグヌットを退散させた探索者は報酬として1D10＜正気度＞ポイントを獲得する。
　真白が生き残った場合、さらに1D6＜正気度＞ポイントを獲得する。

　火の神を巡る事件のなかで無事に生き残った君達であるが、果たしてこれで終わりだと断言できるだろうか。イォマグヌットは君たちの姿をしっかりと見ている、覚えている、そして平穏を乱した君たちを憎んでいる。次に相まみえた時、君たちは真っ先にかの神の餌食となるだろう。

[chapter:
【17、参考資料】]
・ユタとふしぎな仲間たち/三浦哲郎
・二戸駅にある座敷わらしの看板

このページを編集するこのページを元に新規ページを作成

印刷する

コメント（0）

カテゴリ：
ゲーム
総合

わだ、わだ、ががい - KP用先頭へ

コメントをかく

名前	ユーザIDを使用しないで書き込む	ユーザーIDを使う	ログインする
画像コード	画像に記載されている文字を下のフォームに入力してください。
備考	「http://」を含む投稿は禁止されています。
本文
利用規約をご確認のうえご記入下さい

KP用