負けヒロイン・当て馬女子データベース

エイミ

三条陸・稲田浩司『ドラゴンクエスト　ダイの大冒険』
集英社
1989年〜1996年

『ドラゴンクエスト　ダイの大冒険』
東映アニメーション
1991〜1992年
2020〜2022年

冬真由美（1991年版）
石川由依（2020年版）

ドラゴンクエストの世界観を題材に、勇者ダイが勇者アバンの弟子である仲間たちと共に大魔王バーンの野望を打ち砕くため戦う冒険活劇。

エイミはアンデッドの軍団「不死騎団」によって滅亡させられたパプニカ王国の三賢者の一人。
元不死騎団長であり、アバンの弟子の一人でもあるヒュンケルに恋をした女性。

当初は自信の故郷に壊滅的な被害を与えたヒュンケルに対して警戒心を抱いていた。
しかし、仲間として彼の姿を傍で見ているうちに、彼の繊細な心と自罰心に触れていつしか想いを寄せるようになる。
死に場所を求めて戦いを望む彼の身を案じて、彼の大事な武装である魔槍を隠してしまうこともあった。
その際に、自身の想いを告げ、これ以上戦わないでほしいと願うも、彼はエイミの想いを断り槍を持たずに戦いへと臨むのだった。

失恋してしまったものの、彼への想いが変わることはなかった。
生還したヒュンケルに対して、エイミは再び魔槍を手渡し、共に地獄の果てまで戦うことを決意するのだった。

死亡フラグクラッシャーとして有名なヒュンケルの身を案じ、恋をした女性。
これ以上傷ついてほしくないという願いに共感する一方で、どうせ死なないしと思った読者も多いのではないだろうか。

メルルと同様に、ヒュンケル・マァム・ポップの三角関係に揺らぐマァムを刺激するための当て馬のような側面があり、出番自体もあまり多いものではない。
しかし、武器を隠しヒュンケルを必死に引き留めて彼への想いを訴える彼女の姿、その想いが届かず項垂れるシーンには気合が入っており、失恋シーンとしての見どころは十分すぎるほどだ。

その願望が一方的な押し付けあったことを彼女は認める。
そして、彼の真の理解者として常に隣で戦うことを誓うのだ。
失恋後も、たとえ想い叶わずとも共に地獄に落ちる覚悟で付き従うというその強さが魅力的な、強い負けヒロインだ。

「最初は恐ろしい人だと思っていました」
「だって私たちの国を滅ぼした軍団長だった人なんですもの」
「でもそのうちにわかってきたんです」
「本当の彼は純粋で、繊細で、鋭いけれどもろい硝子のような心の持ち主だということが」

告白シーンにおけるエイミの言葉。
ヒュンケルの抱える自罰心と破滅願望に最初に明確に言及したのは彼女ではないかと思われる。

「戦いの中で生きるのが彼の望みなら地獄で野垂れ死ぬのが彼の宿命なら、私もそれに従います！一緒に地獄へ落ちます」

ヒュンケルに魔槍を返したエイミ。
既に思いは叶わないとわかっているのに、ここまで言えるのはまさに純愛と言えるのではないだろうか。