白瀬芙喜子はハッピーエンドが嫌いだ
いわく、生暖かい、甘ったるいラブストーリーが、全員が幸せになって全員が笑顔で終わるような
そんな偽善的で、現実的でない、ご都合主義な話というものが大嫌いだ

だからこれはきっとハッピーエンドではなく、何の救いもない、何の喜びもない、ただ淡々と日々を生きるものの物語


「あのね、だからいってるじゃない私は恋愛映画は好きじゃないって」

知っているとも、だからあえて見るんじゃないか
そう答え、俺、小波影人はそう向き直る
睨まれた、しかもわりと本気の殺気をこめて

「もう一度言うわよ、私は、このテの映画は見ないの、日本語理解してる?」

理解してなかったら俺はどこの国の住人だというんだ、失礼な
わかった上で、見ようと提案している俺の言葉を理解できないお前の方が日本人かどうか疑わしくなるな

「…なるほど、よーくわかったわ」
「わかってくれたか」
「要するに私に殺してくれって頼んでるのね、いい度胸じゃない私を自殺の道具に使おうとするなんて」

そういうと、白瀬は俺に向き合って、小銃、拳銃、ライフル、マシンガン、ガトリングガン、ショットガンを構えた
どこにしまってやがったんだ、こいつ


そんなこんなで俺はからかいすぎて怒りの臨界点を突破した白瀬をどうにかしてなだめ、どうにかして、その映画を白瀬に見せたい理由を話した

「…今さら見ても、私の考えが変わらないことがわかりきってるのに、何で救いのない私たちが堕落しきった甘っちょろい人間の救われる話なんて見なきゃならないのよ」

救いのない、とは白瀬が常々口をついて出す言葉だった


俺たちはCCRが解体してからというもの、片やプロ野球選手、片やフリーの殺し屋として同棲をしている
CCRを解体した経緯はかいつまんで言えば、CCR内部の人間だった俺がCCRの真実を知り、内部崩壊を起こした、そんなところだ

「大神に敵対し、組織を離反するなんて、バカのやることよ、正直その気が知れないわね」

そう憎まれ口を叩きながらも、

「ま、そのほうが面白いけどね」と、俺たちは二人で組織を離れること決めた

「あなただってそうじゃないの、いえ、あなたのほうが救いがない。いつだってそんなへらへら笑っていられるその神経が信じられないわ」

最近になって、白瀬は大神に作られた第三世代アンドロイドだった、という事実を知った
そうと知ってしまえば、ハッピーエンドが嫌いだなんて、憎まれ口にも納得できてしまった
おそらく、本当に白瀬はそういう話に対して嫌悪しているわけではないのだろう
白瀬は生まれてからこっち、戦い以外に目を向けることがほとんどなかった
例え知識としてそれを植えつけられていたとしても、それはあくまでも知識であって、経験的なものではない


「身体能力を高められたタイプのオオガミベビーだったあなたに、いまさらどんな救いが待っているっていうのよ。なんであなたは自分の生涯に対して文句がわかないの?他の人間の生涯に対して嫉妬心はわかないの?」


そして、俺は最近、オオガミベビーと呼ばれる無自覚なアンドロイドだということに気づかされた
自分で言うのもためらわれるが、野球のやの字も知らなかった自分が一ヶ月やそこらでプロ野球選手の練習についていけるようになるなど、並の身体能力では無理だ
その高い身体能力と引き換えに付与された重税
それがテロメア異常だった
あと何年、何ヶ月、何日生きられる体かもわからない、そんな不安定な、人間みたいな生き物
それが自分、小波影人だった


「はっ」

俺は長いモノローグを語り終えたかのように一息つき、言葉を継ぐ

「くだらないよ、そんなこと考えてる時間なんて」
「な…にを?」
「だってそうだろ?少なくとも俺たちは他の人よりも長生きするという願いは叶わないんだ、だとしたらそのことに悲観してる時間すらもったいないじゃないか」
「………」

信じられないものを見る目を向ける白瀬
もちろん強がりだ
俺だって長生きしたいと思うし、自分の生涯について悲観しないかと言われたら、ウソになる

「わかってるよ、白瀬、お前ホントは俺の代わりに口にしてくれてたんだろ?」
「はぁ?何の話?」

白瀬はもともと、ハッピーエンドもバッドエンドも嫌い、好きなのはビターエンドだ、と言い、そもそも理想の死に方は「好きな人に看取られながら死ぬこと」だと公言していた
それが最近になり、やたらとハッピーエンドが嫌い、甘っちょろいお話が嫌い、だの、急に幸せな終わり方に対して嫌悪の意をあらわにするようになった

自分の生涯と比較して幸せな結末を迎えている映画の内容だったりとか、そういう話の結末に対して、俺自身が悪態をつかないことに業を煮やしてか、
あるいはあたかも「私はそうだ、だからあなたもそう思っていてほしい」という願望をこめて、自分にそうさせているのか、それはわからないが
俺を思っての行動であることは、誰の目から見てもそうであるかどうかはともかく、俺の目から見て明らかだった


「―ごめんな、芙喜子」
「―ッ!!!」

ばちんばちん、と
左頬を叩く音と、返す手で右頬を叩く音が部屋に響いた
真っ赤に目を腫らした、白瀬の顔が目の前に現れ、白瀬は俺の胸をどかどかと叩く

「どうしてッ!!そう、平然としてられるのよッ!!!死ぬのよ!?アンタ、いつなのかはわからない、でも決してそう遠くないうちに…ッ!!それなのに…それなのにいう言葉がいうに事欠いてごめん、ですって?バカにしてんじゃないわよ!!!」

なんでだろうな
いつも気丈な白瀬にこういう反応をされてしまうと、意地悪をしてしまいたくなる

「いつもお前言ってるじゃないか、ビターエンドはロマンだ、って」
「バカじゃないの!?そんなの物語の中だけの話に決まってるじゃない!!」
「でもお前、好きな人に見取ってもらって死ぬのが夢だ、とかいってなかったっけ、それが逆になるだけだろう?」
「だけ…?だけってなによ!!アンタが一緒生きてくれなかったら私は…ッ……あたしは誰とッ………誰と…一緒に戦えって…いうのよぉ……」

ポカポカと、俺の胸を叩くのをやめた白瀬は急に弱々しく顔をうずめた

「やだよ……死なないでよ、小波……ッ…もう……やなの…」
「…………」

一人で過ごしてきた時間が長い分白瀬は、俺と付き合いを始めてからは少なくとも毎日当然のようにありきたりな会話をかわしてきた
さも、当然のように横たわっている死神の存在に気づくまで、いや、気づいてからも俺はいつか終わりがくるであろう日常を謳歌していたのだ
少なくとも俺はそうだった、白瀬は俺のそんな考えを知ったらどう反応を返すのだろうか
「なぁ白瀬、そろそろ放してくれよ」
「…いや……」


…駄々っ子か……いや、さすがに口に出しはしないがここまで甘えられると正直と惑ってしまう
「身動きが取れないんだよ、ちょっと離れてくれるだけで良いんだよ」
「放したら明日には…あなた消えちゃいそうだから」
「約束は出来ないけどさ、俺は出来る限りお前のそばにいるよ」
「約束できないんだったら許さない、絶対に放さない、どんないやな顔されても最期の瞬間まで離れてやらないんだから」

白瀬はもう、聞く耳を持たない、といった感じで俺の胸に顔をうずめ、ひたすらにやだやだと唱え続けた
…ダメだ、こりゃ、いろいろとスイッチが入ってしまったみたいだ

「なぁ白瀬」
「…何を言ったって離れる気はないわよ、私はもう」
「わかったよ…わかったからとりあえず顔を見せてくれないか」

ふぃっ、と白瀬が顔をあげたところで俺は唇を奪った
情緒も色気もへったくれもない、ただ触れ合っただけのキス

「――ッ!?」

なんども体を重ねている俺たちが今さらキス程度で動揺するような甘酸っぱい関係なんて思ってもいなかったが、思いの外効果は抜群だったようだ
視線が触れ合い、溶け、やがて重なった

「………ずるいよ」
「…ごめんな、芙喜子」
「………ホントに…ずるい…」

お互いの距離が縮まる
躊躇うように、しかし迷いなく二人は口づけを交わした
今度は深く、お互いの味を確かめ合うようにじっくりと


「んむ…ふ…は…ぁ……」

芙喜子の甘い声音に心踊らされ、さらについばむ唇に意識を込める
愛しい人を失くす恐怖ですくむ芙喜子の体を抱く力をさらに強め、隙間を埋めるかのようにさらに密着する

「んんっ…!!…っぅ…ぁ」

強く引き寄せると、柔らかな二つの双丘が押し付けられ、同時に切迫した鼓動を伝えてくる
せわしなく鳴る互いの胸の鼓動、そのリズムを擦り合わせるように肌と肌とを寄せ合いながら、次第に溶け込む熱の感覚に溺れてゆく

「っ、あ……!…ふぁ、あ、んっ……もっ…と…」

服を脱がし、フロントホックのブラジャーをはずすと、ピンと勃った二つの乳首が顔を出した
唾液に濡れた指先で公平に二粒の乳首を交互に転がす
優しく、しかし執拗に攻め立てながら苦しげに喘ぐ半開きの唇を再び塞ぐ

「むぶぁっ、ひん…っ……ぅ、ん、く、ふはぁ…は…ぷ…ん……」

伝わってくる息遣いは、俺の指先がクリトリスを探り当てるとますます荒くなった

「ひゃ!…まっ、まって、ダメ…や、ら、だ、ダメっ」

あやすように唇を咥えて、舌先で優しく舐る
優しく、しかし激しくクリトリスを攻め立てると、また鳴き声をあげ身悶える
指先が秘所を弄くる度に嬌声をあげ、そのたびにその興奮が俺に伝染する

「そ、そこは…!!くああああ!!だ、だめだめだめだめぇっ!!そ、そんな激しくしないで…いやっ、あ!?――ッ!!!」

糸を引く愛液が淫靡に鳴る。強めに膣口を掻き混ぜる俺の指が芙喜子の熱で蕩けそうになる


ひゃあああぁあぁんっ、くぁ……っ、ふ、あぁ、あん!?」
「…毎度思うけど綺麗だよな、芙喜子のココ」
「いやぁっ…み、見ないで…そんなじっくり…見ないでぇ…!!」

膣口がキュッとしまり指先にきつい締まりを感じる
白瀬は言葉責めにも弱いが、髪をぐしゃぐしゃと撫でられるのも苦手だ
くしゃくしゃ、と濡れそぼった手で優しく白瀬の髪を撫でる

「ひっ…?!ふぁ、えい…とぉ……あ、あ、あ、あ、も…らめ…あっ…!!」

軽い絶頂、離れようとした方にあごを置いて、腰に腕を巻きつける
追い討ちをかけるように、耳の裏をチロッと舐め上げて、とどめとばかりに親指の腹で膣口をぐるっとなぞる

「んぐっ!?ぶっ、あ……ふ、ううぅぅ、っ、む、う、んん」

息を詰めた…その唇を塞いで、

「えい、とぉ……ら、やら、やだよぉぉ〜、あ、ひゃ、く、あぁああ」
「恐がらなくても大丈夫だ、俺はここにいるよ」
「っふ、あん、ぷは…は、ひゃあああああああ!!?」

白瀬の絶頂を見届ける

「はっ……はぁ、あぅ……はぁ…」

息も絶え絶えに絶頂を迎えた白瀬は妖艶な肢体をこちらに向け、五体倒置している

「芙喜子」

びくっ、と白瀬の体がはねた気がした

「…ぁによぅ……」
「お前さ、今すごく可愛いよ」
「――ッ!!!バカっ!!!」


真っ赤になった顔を逸らして照れを隠す白瀬
その間に俺はズボンを下げ、自分の分身をさらけ出す

「芙喜子」
「知らないっ」
「…そんなこといわないでよ、悲しいな」
「…ッ…そんな目で見つめてこないでよ…」

そんな白瀬の言葉に俺の息子はさらに屹立する

「…ねぇ、小波」
「ん、どうした、白瀬」
「あの、ね…手、繋いで」

ギュッと、いわゆる恋人繋ぎで俺は白瀬と手と手で繋がる
もう一度視線が重なり、どちらともなく唇が重なる
唇の裏を、舌先でなぞると、白瀬からも嬉々として唇を絡め、強く吸い上げてくる

「ね、ねぇ…え……影人…」
「なんだい…芙喜子」

顔を真っ赤にしてこちらに向き直る白瀬

「あの、そろそろ……挿入れ…て」
「あぁ、たくさん気持ちよくしてやるからな」
「…………ば、バカっ…」

白瀬は身を起こし、腰を合わせて体重をかける

ずぶり……!

「ひ、っぁあああああ…!!!」

根元まで埋め込んだと同時に、股間に熱が広がる



「はっ、あっ、ふ、深いっ、ふかいよぉっ!はああああっ!」
「ぐっ、うっ、気持ちいいよ、芙喜子」
「う、うんっ…わたっ…あたしも……ッ!!ひんッ!!」

腰が勝手に動く、体を揺すって、芙喜子の膣内を擦って、電流のような強烈な快感が背筋を襲う
ぐねぐねとした膣内の蠢きでその快感がより増幅される

「えい…とぉ……どこにも…いかないで……!」
「大丈夫、ずっと、そばにいるよ」

耳元でささやき、その耳たぶを甘噛みすると膣内がキュッと締まる

「うぉっ…!芙喜子、それは…ッ…!」
「はぁ…ん…!!気持ち……ぃい…!!」

摩擦が強まり、快感もそれに伴い、いやそれ以上にすごくなる
不意に、白瀬の手が小波をぎゅっと、抱きしめた
張り付いた感覚がより強くなり、再び、顔と顔とが近づく
自然と唇が重なっていた

「ちゅ、ん…!!あぅ…影人…!!!む…ちゅっ…!!」

キスをしながら、腰を揺らし、白瀬をめいっぱい突き上げる
みだらな腰使いが、白瀬の一番感じる位置を教える

「芙喜子…俺、そろそろ…」
「はぁ!!…は!えい…!!と…ぉ……わらひ…も…!!もう…だ…だめぇ…」

白瀬を抱きしめ、腰を打つたびに射精感がこみあげてくる
白瀬も体を揺すり、腰を上下させ俺を限界へと追いやる

「うっ…い、いくぞ、芙喜子…」
「あん……き、きてぇ!!!膣内に…膣内に、だ、ひてぇ!!!」

急な角度で突き込んで、ずぼっ!と根元まで収めたペニスでさらに奥を窺う


「ひっ…!?」

白瀬は目を見開き、それまでとは違う、ひときわ激しい感覚に狂乱した

「ひゃ、あ、うぁはぁああああああぁーーーっ!!」
「が、ぁあああああーーーーーーっ!!!」

どくっ、どくっ、どくっ……!!

「ふぐっ、う…ふ…ふぇ、ふぇえええええ…」
「はっ、はぁ、はぁ…あ…」

完全に隙間をなくして、俺たちは絶頂を分け合った
頭の芯までしびれる快感は白瀬をも襲い、腕の中で肢体が弾む

やがて、白瀬は大粒の涙を目からポロ、ポロとこぼしだした

「影人、お願いだから…お願い…だから…ぎゅってして……」

まるで、うわ言のようにそう呟いた
望み通り、白瀬の体を抱いてやると、大声で泣き始めた

近いうちに、俺はこの世から消え去ってしまう、その時に今感じているぬくもりを忘れないでいたいのだろう
俺には俺が消え去った後の世界に関してどうすることも出来ない

「本当に、ごめんな、芙喜子」

情けないけど、何も出来なくて、本当にごめんな
だからせめて、今は白瀬のことをただただ、抱きしめていたかった
目の前にいるニヒルを気取った、けど本当はか弱い女の子を




私が目を覚ますと、小波影人は姿を消していた

正確に言えば小波影人だったもの、はそこには存在していた
顔らしきものには心地よく眠る笑顔が貼り付けられており、私を優しく抱きしめたままの姿勢でそのまま心地よさそうに眠りについていた


「好きな人に看取られて死ぬ」
コレが私の夢だった
そのつもりだったのに、自分の人生で一番に愛し、そして愛してもらった人にその先を越されてしまった

アイツが最後に言った言葉を私は反芻する
その言葉の真意はわかりきっている、私は後を追うことを許されなかった

コレは私があんな夢を願ってしまった罰だった
ならば、私はこの罰を受け入れ、私の人生を全うすることで罪滅ぼしとしよう

最後まで笑顔で自分の生涯を全うした、アイツのためにも


白瀬芙喜子はハッピーエンドが嫌いだ
いわく、生暖かい、甘ったるいラブストーリーが、全員が幸せになって全員が笑顔で終わるような
そんな偽善的で、現実的でない、ご都合主義な話というものが大嫌いだ

だからこれはきっとハッピーエンドではなく、何の救いもない、何の喜びもない、ただ淡々と日々を生きるものの物語

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