「「…………はぁ」」
と、ダークスピアこと大江和那とブラックこと芹沢真央は同時にため息をついた。
「二人とも、ヒーローがため息付くなんて止めてよね?
私だけならまだいいけど他の人もいるんだからさ!」 他の人、というのはあまり認めたがらないがその言葉を発したピンクの彼氏のことだ。本人いわく合体した方が強いのでいざというときのために連れて来ているらしい。
「それやそれ!なんで職場に彼氏連れてきとるんや!!」
「か、彼氏じゃないってば!元チームメイト!!
だいたい前から連れて来てたじゃない!」
「彼氏さん、どこまで進んでるの?A?B?それとも……」
「ブラックもちょっかいださないの!
もう!パトロール行ってくるから!!」
そう言って出て行ったピンクを一人の青年が残された二人に会釈をしてから追いかけていった。

「…………あの二人には上手くいってほしいなー」
「……うん。私たちとは違う道を進んでほしい」
「…………『たち』?」
にんまりとした笑みと、その一方で焦りが浮かべられる。
「まぁまぁ!二人しかおらへんし、たまにはガールズトークといこうやないの!な?な?」
「…………わかった。そのかわり、あなたも言わなきゃだめ」
「わかっとる、わかっとる!」
承諾したブラックは昔を懐かしんでいるのか目をつむってから続けた。


「………………私は昔、花丸高校で活動していた。その高校には私やピンクみたいなヒーローがもっといた」
「なんや、ヒーローの養成学校でもやっとるんか?」
「ヒーローがいたのは彼が望んだから」
「ありゃ。そんなえらいやつがおるんか」
「彼は望みを叶える代償としてヒーローを超えなければならなかった」
「望みは叶えるけど最終的には自分で叶える程の実力をつけなさい、ってことなんか?」
「そう。ヒーローは越えなければならない障害だった。 ……でも、その中でも私だけは支える存在だった」
「ピンクと違って人間が元の姿ならいくらでも行動できるからなんか?」
「ううん、もともと私は支える存在として生まれた。行動できるからそうなったのではなく、そうだったから行動できる。
 そして、支えるものと支えられるもの、両想いになるのに時間はかからなかった……」
「……私も同じやな。
 ……あいつのおかげであの時朱里に勝てた」
「彼がヒーローを越えたとき私も消えるはずだった。でも彼が私に存在理由をくれたから消えなかった。」

「そいつとは今でも連絡取ったりしてるん?」
「…………彼が甲子園で優勝したあと、私は彼に会いにいった。……でも魔法はとけてた。彼が覚えているのは、変身スーツを着たヒーローの中に黒いヒーローもいたな、その程度。」
「………………月並みな言葉しか言えへんけど、思い出してくれるとええな。」
「…………ありがと。じゃあ次はあなた。」
そう言って普段のブラックに戻ると相手に話すよう促した。
「なんや、案外恥ずかしいなー」
はははっ、と軽く笑って恥ずかしさをごまかしてから話し始める。
「えとな、出会ったのは高校やった。甲子園も優勝したんやけど知らへんかな、親切高校いうんやけど。」
「…………ジャジメントの。」
「おお、よく知っとったな。あいつらな、生徒に超能力開発してて、そんでそのせいで私もこの力を手に入れることになってな、」
「それで彼に危害が加わらないように、彼と別れた」
「別れたわけやあらへん!離れただけや!!
……って、なんで知っとるん?」
「…………朱里から聞いた。」
「あー!もう口止めしとくんやったわー!!最初から知っとったんやな!?だから『たち』って言ったんやな!?
 朱里のやつ、ファーレンガールズをなんやと思ってるんやー!!」
眼前で怒っていることは気にもかけず一つの疑問を投げかけた。 「…………ねぇ」 「なんや!?」 「ファーレンガールズって名前について、朱里なんか言ってなかった?」 「んー……意味わかってる?とは聞かれたなー」 「…………そう」 「私はどこにでも落ちられるから変やあらへんよなー?」 「……………………………………うん」 「……にしても、甲子園の時期はどうも顔が思い浮かんできてかなわんわ……」 「……ピンクには悪いことした」
そう言って二人は先程のピンクへの悪戯を反省しつつ各々の思い出に浸り始めた。

ちょうどその頃ピンクたちはミルキー通りを歩いていた。
「……暇ね〜」 「ヒーローが暇なんだ、いいことじゃないか」 「まぁそうなんだけどね……」
そんなたわいもない会話をしながら電気屋の前を通ろうとしたとき野球のコーチを職としている男の視界に信じられないものが映った。
「な、なぁピンク、前に高校で野球やってたって言ったよな?」 「うん、言ったよ?それがどうしたの?」 「あの街頭のテレビで甲子園見てる人、七海選手に似てないか?」 「……七海?七海ってあの花丸高校のだよね?懐かしい名前ー!」 「…………懐かしい名前って……
 まさかだとは思うけど…………チームメイトだったの?」
「当ったりー」 「じゃ、じゃあ紹介してくれよ!!」 一流のプロ野球選手が眼前に、それを知り合いとする彼女がすぐそばにいるので当然声も大きくなっていく。 「いや、それは無理、仲良くなかったし。ってかむしろ悪かったし」
「なんかあったのか?」 「あぁー……その、生れつきの身体能力に任せてレギュラー取ったり……
 あと、私は最後まで殴り合いしてたわね。」
「……いや、でももう10年近く経ってるし!」
「それでも私が嫌なのよ!」
「別に最後の最後に殴り合ったことなんて気にすることでもないだろ!!」
「気にするに決まってるでしょ!!チームメイトを殴るヒーローがどこにいるのよ!!!」
お互い自分の意見を通したいがために声量も増していく。
そして二人の声故に気付き、二人を見た七海は視線や雰囲気、そしていくつかの単語から自分の高校時代の関係者であると推測し近づいていく。七海が二人に近づいてくるにつれてピンクの表情も曇っていく。
「間違ってたらわるいんだけど、ピンクか?」
ヒーローのことを覚えているのは自分だけ、更に『ヒーロー』、『殴る』といった単語、そしてヒーローの中でも異質だった言葉遣いがあったので特定するのは容易であっただろう。
「…………そうだけど?」
期待通りの返事に七海の興奮も高まっていく。
「やっぱりそうか!懐かしいな!!その姿だったから気付かなかったよ!お前も人間の姿があったのか!
 …………ん?」
「……久しぶりに会ってなんで不思議そうな顔してるのよ」
「いや、なんで『お前も』って言っちゃったのかなー、って。まぁいいや。
それにしても久しぶりだな!学校で闘ったあと消えたからもういないもんだと思ってたよ!」 本人にしてみれば何気ない一言だが、ピンクにとってはそれでは済まされることではなかった。
「…………あんたブラックのこと忘れたの?」
「は?なんで黒打君が出てくるんだよ。黒打君とはたまに連絡取ってるぞ?
 それより他のヒーローはどうしてるんだ?」
「…………それよりってなによ、ふざけてるの?」
ピンクの声にどんどん力が入っていく。
「ふざけてるようにみえるか?だいたいお前がいるんだから他のヒーローもいるのか気になるのは当然だろ?
 あの時はムカついたけど、甲子園優勝もお前らのおかげみたいなところもあったし」 七海にとってみればなんてことのない昔のお礼のつもりだった。
ただその最優先でお礼を言ったこと自体がピンクの我慢の限界を迎えさせてしまった。

「あんたねー!!!  さんざん私に見せ付けて!!最後の試合だって放っぽって助けに来たくせになんで忘れてんのよ!!!私を差し置いて恋人作っておいて馬鹿にするなよ!!」
ピンクは感情に任せて声を出したために息も切れ肩で呼吸をしている。そこまで声を出して初めて自分が何をしたのか気付きようやく我に返った。
「………………今日は、もうパトロール終わり。あとはよろしくね」
ピンクはそう言って振り返ることなく帰って行った。
残された接点のない二人。
それに加え、さらに現状が把握出来ていないがために流れる微妙な空気。
ほんの少しの間を置いて七海が口火を切った。
「なんかよくわからないけど、ごめんね、デート中に。
 …………もしよかったらいろいろ聞きたいことあるから、そこの喫茶店でもいかないかな?」 「あ、はい。まぁ僕も聞きたいことあるんで……」 小波はピンクの後を追うべきか迷ったが相手の真剣な表情を見て何かを感じ、二人は喫茶店へと向かって行った。

「お、ピンクが帰ってきたで」
「……でも、足音が足りない」
廃ビルをアジトとしているために足音は響く。そこから向かってくる人数や相手の体格まで推測できるのだ。
「…………ただいま」
「なんやえらいふて腐れとるな、喧嘩でもしたんか?」
「違うわよ。
 …………ねえ、ブラック。今日あいつに会ったよ」
「…………そう」
「……一回会ったことあるでしょ」
「……なんでそう思うの?」
「前から不思議に思ってたんだ。あんだけ仲良かったのに会いに行く様子も会いに来る様子もないし。
ようやく納得いったよ。あんたを忘れた彼に会ったことがあるんでしょ、違う?」
「そう」
「そう、って……
……あんた悔しくないの?悲しくないの!?」 七海にもブラックにも馬鹿にされたと感じたピンクは先程以上に力が入っていた。

「………………悔しくないわけがない。悲しくないわけがない。
 でも、ヒーローにも不可能なことはある」
「……やるまえから不可能って決めつけてるの?
 ヒーローだって勝つか負けるかわからない状態で戦うよね!?負けたって力蓄えてもっかい戦うよね!?なんで忘れられてるくらいで諦めてるのさ!
 忘れられてたってまた出会いから始めればいいじゃん!あんたの能力ならいくらでも忍び込めるじゃん!それで会いに行けばいいじゃん!!
 なんで何にもやらないの!?なんでやる前から諦めてるの!?なんで、なんで苦労して手に入れた私の前で簡単に手に入れ奴がむざむざ手放してんのよ!!」
そう言い残してピンクはビルの屋上に駆け上がって行った。

「……あいつの言いたいこともわかるけど、なんであんな怒っとったん?」
「……ピンクはね、昔好きな人がいたの。
 好きになってもらえるように頑張って、でも、それでも好きになってもらえなかったの」
「だから簡単に諦めたブラックに怒った、と。そりゃ怒って当然やわ。
 じゃあ理由もわかったし、ちょいピンクの様子見てくるわ!全く肝心な時にいない彼氏さんやなー!」
そう悪態をついてから屋上に向かっていった。
しかし言い忘れたことがありその足はドアの辺りで止まる。
「と、それから。ヒーローにだって、幸せになる権利はあると思うで?もうちょい頑張ってもええんちゃうかな?」 「ん。ありがと」
「ええって!ええって!
 彼氏って花丸高校だったんやろ?なら七海選手しかありえへんし、うちのと同じチームやからお礼はそっちからもらうわ!」
「…………抜目ない。
 でも、ありがと」 交渉を無事に終え、今度は迷いなく屋上に向かって行った。

ピンクを向かいにいく足がちょうど階段にさしかかったとき、階下にいる喫茶店での話を終えピンクを探しに来た小波と七海に会った。
「っと、ダークスピア!ピンク来てない「あんたはうちと上や!
 で、あんたはそこの部屋!可愛い娘が待っとるで!」
「ダークスピア!せめて事情を!」
「うっさいわ!さっさと行くで!!」
二人のヒーローの事情を考慮して小波を屋上へ、七海をブラックが待つ部屋へと誘導する。 七海はよくわからないままブラックのいる部屋へと入りブラックと顔を合わせた。
「…………えと、こんばんは。」
「………………元花丸高校野球部キャプテン七海。ポジションはピッチャー」
「いきなりなにを……」
ブラックは自分の思いを相手に押し付けないよう淡々と話す。
「一年の時、試合中にヒーローがチームに加わる。後にその数は増えていく」
「……ヒーローのことを知ってるってことは君もヒーローなのかな?」
「また、一人の少女と黒猫に出会う。少女の名前は芹沢真央、猫の名前は……」
「……スキヤキ」
七海は何故か頭に浮かんできた名前を口にする。
「……少女はあなたの目の前で学校の屋上から飛び降りたり、あなたが帰る前にあなたの家にいたりもした」
「…………」

「二年の時、その少女に告白して付き合い始める。クリスマスには変な機械をプレゼントに受け取る。でもプレゼントはその時は爆発した」
(…………確かにあの時誰かを好きでいた。
 髪の毛を焦がした女の子と笑いあった覚えもある。
……誰、だっけ) 七海は不確かな記憶を繋ぎ合わせて当時を思い出そうとする。
「三年の時あなたは甲子園を目前にヒーローに勝負を挑む。しかし試合開始前に一時抜け出す」
(そうだ。確かに俺は抜け出した。
 でもなんで?……いや、俺は覚えてるはずだ!)
「抜け出したあなたは傷ついた少女を見つける」
(気がつけば俺の傍にはいつも不思議な女の子がいた)
「あなたは少女を庇おうとするもヒーローには敵わず「逆に少女に助けられた。だよね、…………真央ちゃん?」
「!? 思い……だしたの?」
「その……迎えにくるの、遅くなっちゃったね」  
「…………こんなに待たされるとは思わなかった」
「ホントごめん!」
「許さない」
口ではそう言っているが表情から怒っていないのは七海もわかっていた。


「ん〜……どうしたら許してくれるかな?」
「キス」
「…………魚の?」
「それはスキヤキにあげて。
 こっちの」
ブラックは言い終えるやいなや自分の唇を七海のそれに重ねる。
「……今のはノーカウント?」
「私からしたからだめ。あなたからして」 七海は先程ブラックがしたように自分のと相手のを重ね合わせる。
「これで、どうかな?」
「…………許す」
二人の顔がどんどん熱を帯び赤くなっていく。




(ね、ねぇどうやって戻ればいいの!?)
ピンクを落ち着かせた三人はドアの影に隠れて二人の様子を伺っていた。
(ずるいわー!あいつばっかり羨ましいわー!!)
(ダークスピア、落ち着いて!)
「これが落ち着けるかい!うちなんてここ何年も地面以外とキスなんかしてないんやで!!」
「ちょっとばれちゃうでしょ!ここからがいいとこなのに!!」
「…………もうばれてる」
「「「…………あ」」」
のぞき見をしていた三人の後ろには無表情で怒っているブラックと照れ笑いを浮かべる七海が立っていた。
「…………なにしてるの?」
「な、なにもしてへんで!ピンクを落ち着かせてさぁ戻ろうかー、って今調度、調度!来たところや!」
「………………借りもあるし、そういうことにしておいてあげる」


ここに来てようやく一段落ついたところで七海は関西弁の女に最初見かけたときから思っていたことを尋ねる。
「…………あの、さっきも思ったんだけど、もしかして大江和那さん?」
「へ?なんで知っとるんです?」
「やっぱりそっか。十野のやつ、酔っ払うとよく言ってくるんだよ。身長がすごく高い関西弁の可愛い女の子が彼女なんだって」
「そ、それ私です!七海選手とは同じチームやったはずやし間違いないです!
 あの、それでお願いがあるんやけど……」
「十野を連れて来て欲しいんだよね?いいよ、あいつも会いたがってたからすぐにでも時間作らせるよ」
「あ、ありがとうございます!
 やった、久々にあいつに会えるんや!!」
そう言って喜ぶ様を見ていた七海とブラックの顔も自然とほころんでいく。



そして少しおいてけぼりのピンクは嬉しそうな二人を見て一つの結論にいたる。
「…………あのさ、二人がため息付いてた理由ってもしかして「七海、屋上でさっきの続きしよ?」
ブラックは目の前の最愛の人に自分の失態を知られないよう屋上に避難しようとする。
「え!?続きって……」 「こらー逃げるなー!!
さんざん人のプライベート邪魔してきたくせにー!」
「あ、ピンク!さっきはごめんな!  あとさっきも言ったけどいろいろ話したいことがあるからま「久々に会ったんだから私と話すべき。私だってヒーロー。  だから屋上へGO」 「ちょ、ちょっと真央ちゃん!危ないから担ぐのやめて!!俺野球選手だからケガしたくないなーー!!!」 「問答無用」
ブラックは逃げるために、そして二人きりの時間を楽しむために七海を担いで屋上に行った。
「…………逃げられたか」
「まぁまぁ、あんだけいい笑顔しとったんや。それに免じて許してやろうや!な?」
「……まぁいいか。久々に会えてすごい嬉しそうだったもんね。
 ……ねぇ、小波。映画見に行かない?まだレイトショー間に合うでしょ?」 「あぁ、間に合うと思うけど。なんか見たいのあるのか?」
「んー、ちょっと二人にあてられちゃってね。
 たまにはハッピーエンドもいいかなって!」 .

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