「アアアーーーーーーーーーーーーーーッ!!」 
サイレン音が高らかと鳴り響く。 

 (あぁ、結局甲子園は無理だったわね…) 
スコアブックに最後のバッターの結果を記録しながらこの3年間を思い出す。 
 名門、古豪、強豪そういったフレーズとは一切縁の無い学校であったが、そつの無い野球とチームワークが売りのチームだった。 
 和気藹々、時には仲が良すぎるのではと思うくらい統率の取れたチームで、連年それなりの結果を残してきた。 

そんな中でも特に今年の夏は、弟の雄二とキャプテンの小波くんの二遊間を中心に守り勝つ野球で、やまのみや高校実に17年振りとなる決勝戦進出という快進撃を見せたが、最後は課題の攻撃力の弱さを露呈し敗れてしまった。 
やはり甲子園出場ともなるとそう甘いものではないらしい。分かってはいたが思わず涙がこみ上げる。 
グランドでは、泣き崩れる選手たちを小波くんが抱きかかえながら起こしている。彼が1番泣きたいだろうに…、そう言えば中学の時もそうだった、自分のことよりもまず周りを心配する。彼の良い面であり、悪い面でもある。それを思い出す。 
そうだ、私が泣いてちゃ駄目だ。挨拶や後片付け、後輩たちへの引継ぎ等等、マネージャーとしてやるべきことはまだまだある。 
しっかりしろ、弓子!!、そう自分に渇をいれる。 

 数日後行われた打ち上げの帰り道、小波くんと2人きりとなった。どうも、雄二や他のチームメイト達が気をきかしたつもりらしい…。しかし小波くんは相変わらず気のきいたことも言えないようで、仕方なくこちらから尋ねる。 
 「キャプテンはこれからどうするの?」 
 「うん、野球推薦の話がきてるから、大学にいって野球続けようと思ってる。それから、もうキャプテンじゃないから」 
 「そうなんだけど、中学の頃もそう呼んでたし、それに次のキャプテンの雄二なんかよりよっぽど頼りになるし…、何で雄二を指名したの?」 
 「そりゃ…、あいつの、野球に対する…ひたむきさ…、かな…?」 
 「雄二の場合はひたむきって言うよりかは、ただの野球馬鹿のような気がするんだけど」 
 「それは俺も一緒だよ、中学高校6年間ずーっと野球一筋。おかげで彼女の1人も出来なかったし…」 
やはりこの人は鈍いようだ、(ただ気づかなかっただけじゃないのかしら…)とつぶやく。しかしやっぱり聞こえてないようだ。はぁ…。 
そんな私の気持ちを知ってか知らずか 
「結局、弓子とは6年間一緒だったわけか。マネージャー、よく続けたね」 
 「野球好きだったから。小さい頃は雄二より上手かったんだからね。それに皆カッコいいじゃない、あこがれ…かな」 
 「あこがれか、もしかして好きなやつでもいたのか?」 
 (えっ、もしかして…)まさか、気付いてたの?いやいや、小波くんに限ってそんなはず… 
「やっぱ小杉か?ピッチャーってもてるもんなぁ」 
………、 
 駄目だこりゃ…。 

 自宅近くの神社を通りかかると聞き慣れた音がする。 
 「おっ!雄二、素振りしてるのか。俺にもやらしてくれよ」 
 「勿論、いいすっよ!」 
 雄二のバットを借りると彼は素振りを始める。 
 「相変わらず良い音、良い音させるすっね」 
 「雄二、私達より後から出たんじゃなかったの?」 
 「姉ちゃん達がゆっくりだったんすよ。俺は2人のじゃま、じゃまをしないように帰ったす」 
 自分でも赤面したのが分かった、しかし素振りに夢中の彼にはやはり聞こえていないようだ。はぁ…。 

 「ふう、良い汗かいた」 
 「さすがキャプテンっす」 
 「おいおい、キャプテンはお前だろ。全く姉弟そろって。とにかく野球部を頼んだぞ、雄二!」 
 「まかせるっす!練習して、練習して甲子園に行くっすよ。先輩も姉ちゃん、姉ちゃんのことをよろしく頼むっすね!!」 
 「ん?弓子?何のことだ?」 
 「………、姉ちゃんも先がおもいやられるっすね…」 
 本当に…。 

まだ練習を続ける雄二を置いて、私達は歩き始めた。 
 「そういえば弓子は就職するんだってな」 
 「うちは両親がね…、雄二の面倒も見ないといけないし」 
 「そうだったな、ごめん…。で、どこにいくの?」 
 「ドリルコーポレーション、だからもう会えなくな…」 
 「あっ、モグラーズの親会社!?」 
 私の言葉をかき消して大声で叫ぶ。本当に野球馬鹿だ…。 

 「じゃぁ、この辺で」 
 「気をつけてな」 
 「うん、ありがと。………、あのね、小波くんがカッコよかったんだよ。中学の時からね」 
 彼のほほに唇をあてる。 
 何がなんだか分からず立ちすくむ彼。ばいばい………。 


ドリルコーポレーションでの日々はとても忙しいものだった。 
それでもようやく慣れてきた頃にドリルトーイ社長の秘書に配置換えとなった。 
あまり大声では言えないが、社長の力量に疑問が…。その為、彼のサポートは膨大でとても激務であり、忙しく恋する暇もなく時間が過ぎていった。 
 小波くんは大学で野球を続けているといううこと、プロ入りするらしいということは聞いていたが卒業以来顔を合わせていない。 
あぁ、やっぱりあの時…。 

そんなある日、勤務時間終了後に社長とどうしても打ち合わせが必要な案件が生じてしまった。 
たしか今日は大学時代の友人と食事をすると聞いていたが店までは把握していない。 
 仕方ない、しらみつぶしにあたってみるしかないか。 

 社長に連れられて行ったことのある店を何件か探し、ようやくとあるバーで社長を見つけた。 
バーでは社長ほか数人が楽しそうに飲んでいた。できることならば邪魔をしたくはないがしかしこれも仕事、と割り切って声をかける。 
 「あ、社長!ここにおられましたか。明日の会議のことで、政府のかたがお話しがあるとのことです」 
 「ちぇっ」 
 不満そうな表情を浮かべる社長、と、その時懐かしい声が聞こえた。 
 「えっ、弓子?」 
 思わず声のした方を見ると、1人は社長の友人だというモグラーズの選手、そして… 
「!(小波君?)」 
まさか、こんなところで彼に遇うとは…。プロに進んだとは聞いていたが、まさかうちの球団だったとは知らなかった。 
 動揺を気取られないように社長を促す。 
 「さあ、社長。行きましょう」 

 店から出ると思わず笑っていたようだ。 
 「何だ、何かおかしいか?」 
 「いえ、何でもありません社長」 

 何という偶然だろう。最高に気分が良い。 
とりあえず、延長戦開始!!ってとこかな、 
いや学生時代は試合が始まっていなかったから、 

プレイボールッ!! .
 


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