『いやしからずもいやらしく』


「えっ?…えぇっ!?」
なぜこんなことになっているのかさっぱりわからない。覚えていない。
(私、なにをしてたんですか?)
この状況から思い浮かぶことは一つしか無い。しかし自分がそんなことをするはずは無い。
(なんで私、裸になってるんですか?)
それはもう豊満な肉体がすっぽんぽんに。
(なんで小波さんはどこにもいないんですか?)
この格好のときは普通隣で彼が寝ているはずなのだ。勿論同じ格好で。
(なんで私、こんな所にいるんですか?)
ここは愛しのあの人との二人の愛の巣(仮)ではない。
後輩の彼氏、走波の家だ。


「漣さん、一応俺が送っていくから、それまで適当にそこのパンでも食べてて。」
「あ、ありがと…」
シャワールームから響く走波の声。
そこら辺に脱ぎ散らかしていた自分の服を身につけ、そそくさと朝食を済ます漣。
150円前後のコンビニパンを口に運びながら、昨日のことを順々に振り返る。

まず昨日は二人の休みが重なったのだった。
願ってもない機会を利用しない手はなく、朝から小波と一緒に久々のデートを楽しんだ。
映画の後にお昼を食べ、久しぶりにマニアショップを覗いてみて、たまには、ということでバッティングセンターに行ってみて…
そこで後輩の南雲・走波ペアに出くわしたのだ。
その後なんやかんやでダブルデートになって 夕飯を食べに居酒屋に行って…
そこからはあまり覚えていないが、多分飲みつぶれたのだと思われる。

「…まさか。」
姿の見えない恋人。

男の家で素っ裸で寝ていた自分。

「あれ?あのジーンズどこ脱いだんだっけなぁ。」
再び脱衣所から走波の声が響く。

――そして同じく先ほどまで素っ裸だったと思われる他
の男。

「ひょ、ひょっとして、私…」

――――酔った勢いで他の男と寝てしまった。
状況から察することのできるもっともシンプルで真っ当な答え。
「いやそんなことするわけないじゃないですか!」
己に言い聞かせるように怒鳴るが、声の大きさとその自信の程は比例していない。
なぜあの時に記憶が欠落しているのだろう。
いや、むしろ記憶が欠落しているという事実が不安感を高めていた。
そこまで酔ってしまった自分の行動に自信は持てない。
言い換えると、昨日の自分は何をやっていてもおかしくなかった。


「漣さん、準備できた?」
「えっ?あ、あぁ、うん。」
自分の頭を悩ませている張本人は、あっけらかんとした様子で車の準備を始めた。


「…ね、ねぇ走波君。」
「なんですか、漣さん?」
助手席から恐る恐る走波に語りかける。
運転に支障が出ない程度にくるりと横を向く走波と目が合ってしまう。
「え、えーと…」
なるほど、精悍な顔つき。
男女の仲に関しては十分過ぎるほどに満足して暮らして
る自分がときめきを覚えたりすることはないが
世の女性ならそういう『間違い』を期待してしまうような相手。
…もしかして酔った自分も勝手に
「漣さん?」
「あ、ご、ごめんなさい!」
嫌な推測の連鎖が深みにはまってしまったところをハッと我に返る。
ここでふと気付くが、この男、あまりにも堂々としてはいないか?
もし本当にそんな過ちを犯しているのだとすれば、多少なりとも躊躇いに似た何かを感じ取れそうなものだが。
よっぽど下半身が緩くて、こういうことに慣れっこだというなら話は別だが、瑠璃花の話しぶりを聞く限りでは真っ当な男のハズだ。
再び螺旋を連ねる前に彼に聞いてみることにする。
「あ、あのさ、私って…昨日、何やってたのかな?」
「昨日?」
「いや、その…私、っていうか、走波君と私一緒に家にいたじゃない?私、昨日の夜、酔いすぎてあんまり覚えてなくって…」
「べろんべろんでしたからね。」
「…で、な、何やってたのかな?」
震える舌を押さえながら、慎重に言葉を運ぶ漣。
(どうか、どうか思い過ごしであってください…)

「やっぱり…それ、聞いちゃいますか。」
「えっ?」
とたんに走波の歯切れが悪くなるのを聞き、漣は手のひらに嫌な汗がにじむの感じた。

「その、俺も割とノリ気だったんで、変に咎めるような事は言えないんですけど…」
「…とがめる?」
「その昨日、漣さんは…すんません、ちょっと酒入ってない色々恥ずかしいですね、はは」
「さけいり…?」
「ま、はっきりと口に出しづらいんですけど…」
「…」
「漣さん…夜は積極的なタイプなんだなぁ…ってのがわかったというか」
「」
「あーと、えーと…その、漣さん着痩せするタイプなんですね!いや瑠璃花にも見習って欲しかったなぁ、なんつって…
あ、このことは瑠璃花には言わないでくださいよ!」


――どう考えても真っ黒な話だったので
――――――漣はそのうち考えるのをやめた。

「そんなはずないそんなはずないそんなはずないそんなはずないそんなはずないそんなはずないそんなはずないそんなはずない
 そんなはずないそんなはずないそんなはずないそんなはずないそんなはずないそんなはずないそんなはずないそんなはずない」
部屋のスミにうずくまりながらガタガタ震える漣。
どうしても信じられない。信じたくない。
汚れ無き乙女とは到底言いがたいような性生活(一日三発年中ほぼ無休)を送っているのは自覚しているが それでもある程度の貞操観念は持ち合わせているつもりだ。 言い換えれば浮気は絶対許さない。させるつもりは毛頭無い。
それがまさか自分がやらかすとは…
「な、なにかの間違い…そうに決まって…」

プルルルルルルルルルッ プルルルルルルルルルッ

「電話…瑠璃花ちゃんから…」
着信画面に映る名前は昨日出くわしたカップルの片割れ。今現在一番会話したくない相手である。
まさか昨日のことでダイレクトアタックを仕掛けてくる気なのだろうか。
「もしもし、先輩ですか」 「う、うん…どしたの瑠璃花ちゃん。」 静かな口調。にもかかわらず感じられる隠しきれない刺々しさ。 「…気付いてないみたいですけど、先輩、走波の家に忘れ物してますよ。」 「わすれ…もの?」
はて、心当たりが無い。財布も携帯も両方とも持っている。
貞操やモラルを置いてきましたという笑えない冗談は勘弁して欲しい。 「…ブラジャー、忘れてますよ。  寝室に転がってました。っていうか自分で気付きません?」 「ゑ?」 言われてみれば胸がすーすーするような…案の定確認したらノーブラである。 危ない危ないこれは無くしたら一大事…とかそういう問題では無い。 「ちょ、ちょ、ちょっっ!?」 問題なのはそこではなく、それを走波の家に忘れてしまったということ。
そしてそれを彼の恋人である瑠璃花に見つかってしまったということである。
「そ、それ本当に私の?る、瑠璃花ちゃんが走波君の家に忘れていったってことは…」 「残念ながら私にはこんなに大きなブラ必要有りませんよ。先輩と違ってトップとアンダーの差があまりありませんので。」 「い、いや自虐しなくてもいいんじゃないかな、ハハハ。」 「………まったく先輩ときたら…走波も悪いんですけどね。」 終わった。何もかもが終わった。 「では、後日先輩の家にお届けしますから…」 「ううん!わ、わたしが今からそっち取りに行くから!」 「…では、せっかく走波がそっちに送ってもらったところを申し訳ありませんが、ヨロシクお願いします。」
あの素直じゃないながらに優しい彼女とは思えないどこか冷たい物言い。
間違いなく怒っている。
「はい、こちらです。」 「ど、どうもありがとう。それにしても、な、なんで走波君の家に…?」 「特別なことはありませんよ、久しぶりに彼の家の掃除でもしてあげようとしたらたまたま発見しました。」
わざわざ玄関前で渡さなくても、と思うがそれを指摘する気などわかない。
「黒くて立派なブラですねぇ…勝負下着か何かで?」 「い、いやそんなつもりじゃ…な、なんか今日の瑠璃花ちゃん冷たいなぁ。」
あまりにも直視しがたい現実を受け入れられず、つい笑って誤魔化そうとしてしまう。
しかし、逆効果だったようだ。


「…先輩、ふざけてます?」
「い、いやそんなつもりは…」 「この際正直に言わせて貰いますが…私、結構怒ってますから。」 「えっ?」 眉間にしわを寄せ、瑠璃花は怒りと不満を声色に乗せ、静かに語り出す。 「まぁ先輩と私では女性としての魅力に大いに差がありますから、そういうことに積極的になるのかもしれません。  …全く理解できませんが。」 「そんなこと…る、瑠璃花ちゃんだってすっごくかわいい…」 「そういうことはどうでもいいんですよ。  …とにかく、昨日の出来事のおかげで先輩がどんな人なのかがよく分かりました。」 「それは、その、ちょっと、違って…」 「あんな信じられないようなことをしておいて!?」 目尻に僅かな涙を覗かせ、ギュッと目を伏せる漣。今の瑠璃花とはとても目を合わせられない。 「別に先輩がどうこうしようと構いませんよ。好きなように性生活を送れば良いと思います。  …ただし、今後二度と私を巻き込むようなマネはしないでください。」 「…………ご、ごめんなさ」 「あ、それと言うまでもありませんが走波もですよ。」
そう言い放すと、瑠璃花は踵を返して家に戻っていった。
「…確定、みたいですね。ははは」

「ただいま…」 「お帰り漣!今日も早かったね。夕飯は俺が用意しておいたから!漣に比べたら腕は落ちるけどさ。」 「……ありがとうございます。」 「げ、元気ないなぁ。今日も、その、疲れてる?」 「いえ、別に…」
いつものハツラツさはどこへやら、と言いたいところだが、ここ一週間の彼女はいつもこんな感じだった。
以前の彼女はと言えば、やる日には限界ギリギリまで残業して仕事に集中。 息抜きの日には定時までに仕事をスパッと終わらせて急いで帰宅。
その後は小波と共に甘いひとときを過ごす、たまには職場の人と飲みに行ったり、ひそかにマニア活動を行ったり等
夜遅くまで楽しむだけ楽しんで、目覚ましの音にたたき起こされる。 最近の彼女のそれに比べたら健康的とは言いがたいかもしれないが とにかく仕事もプライベートも充実した毎日を送っていたのだ。
そして現在はと言うと定時を少し過ぎる程度に残業し、何も無しに真っ直ぐに帰宅。
口数も少なく食べる量も少なく酒も飲まず、撮りだめしてあるドラマもアニメも見ないですぐに就寝し、七時頃までぐっすりと眠る。
ある意味健康的な生活とも言える。とても満ち足りたものとは言いがたいが。
「あ、漣、ちょっと待って!」 「…なんです?」 寝室に向かおうとする漣に小波の呼び止めがかかる。 「あのさ…ひ、久しぶりに、今晩どうかな。寝る前…」 「寝る前…?……ッ!?」 「いや、あの変なこと言うようだけど、最後にしてから結構経つし…そ、そろそろ溜まってきちゃったなぁ、なーんて」 「…すみません。」 「えっ?」 顔を逸らし、俯きながら震える声で言葉を綴る。 「今日は、ちょっと…勘弁してください。…疲れてるんで。」 「で、でも、さっきは疲れてないって…」 「あ、あれは…嘘、です。……ごめんなさい…そして、お休み、なさい。」 決して小波に顔を見られないようにしながら、漣は寝室の扉を閉じた。


「…ど、どうしたのかな?」
振り返ってみても、何か問題になるようなことはしていないはずなのだが…
頭を抱え込む小波に気付かれないよう、漣は布団を被りながらすすり泣いていた。


その翌日の夜遅くである。ここ一週間で初めて、そして漣が勤めてからそう多くもない出来事が起きた。
「あの、沙耶さん。どうして今日はまた…」 「上司が部下を飲みに誘うのに理由なんてないでしょ。それとも何か予定でも?」 「い、いえ、何も無いですけど…」 「まぁ実際の所は、漣ちゃんと話したかったからなんだけどね。最近なんか元気ないし。」 「そ、そうですか?私は…別に…」
ドンッ
「!?」
「はい、話を逸らそうとしないでまずは一杯飲む!あ、希美さん、枝豆とか適当にお願い。」 「あいよ。」 並々と注がれた大ジョッキが漣の目の前に置かれ、思わず体を仰け反らせてしまう。 「悩みでもあるんでしょ?こーいうのは一回腹を割って話した方が楽になるよ?  …ほら、飲んで飲んで。」 「…一杯だけですよ?」
「だからぁ…私はっ、今生を共にすると誓った、あの人を裏切ってしまってぇっ…うぅ…」 「う、うん、それはわかったからもう飲まない方が…」 今まで溜まっていた鬱憤を晴らさんばかりに、漣はその酒癖の悪さを爆発させ
割り勘ではかなり不公平なほどの数のジョッキを空にしていた。
「私、沙耶さんみたいな、家庭に憧れてたのに…こんな、酷いことを…」 「褒められたもんじゃないけどねぇ…あたしの家なんて。」 「え?だってあんなに幸せそうな…」 込み上がる嗚咽の間間に声を振り絞るように話す漣に、苦笑いを浮かべながら沙耶は続いた。
「あたしと旦那、いつ付き合い始めたか知ってる?…あたしが高校生の時だよ?」 「へ?…その時、だ、旦那さんって…」 「立派な社会人だったよ。確か…23歳だったね。  しかも入社早々あたしのメアド聞いてきたんだよ?端から見たらバカの所行だよ、ホント。」 社会人が高校一年生に手を出す。
それだけでも中々にキツイ話なのに、しかもお相手は勤め先の社長の娘。
世間的にいい顔をされるわけが無い。 「あの時はあたしも恋に恋する乙女だったから夢心地のままに付き合ってたけど
 今考えると相当ヤバイよね。普通に学校帰りにホテルとか行ってたし。」
「別にいーじゃないですか…そんな、ちょっと付き合い始めの頃が変だっただけでー…」 「いや、本題はここからここから。うちの工場が一度どっかに買収された、って話は知ってる?」 「…ふぁい?」 一応聞いたことのある話ではあった。 和桐製作所はかつて一度倒産し、その数年後に沙耶の夫が以前の人を集めて再び盛り立てたのだとか。 「倒産した後、一回今のあの人と別れちゃってさ…もう大いに荒れたね、あたし。  紛う事なき非行少女になってたよ。  流石に麻薬はやってないけど未成年でたばこもお酒もやりほうだいで
 …名前も知らないような男と一緒に寝たりすんのもしょっちゅうだったよ。」
「……」 「汚れた女になっちゃったけど…それでもあの人はちゃんとあたしの元に返ってきてくれたよ?  あんなに汚れてたあたしをちゃんと受け入れてくれたよ?」
どこか恥ずかしそうに、それでいてどこか嬉しそうな笑みを浮かべながら沙耶は語る。


「そ、それで、ちゃんと…結婚した、と。」
「そ。だからさ、漣ちゃんもそこまで頭抱える必要ないでしょ。  こんなあたしでも、漣ちゃんがうらやましく思えるくらいにはは幸せな家庭を作れたわけだしさ。  あたしが幸せになれるくらいなら、漣ちゃんくらいいい子なら十分幸せになれるって。」 「…あ、ありがとうございます。」 「大体…その、えーと…小波君か。  小波君は酔った勢いで一回やっちゃった、くらいで漣ちゃんを嫌ったりする人じゃないっぽいみたいだし。  すっごくいい人なんでしょ?」 「そうです、けど…そ、そういうもの、ですか…ね?」 「そーそー。少なくともあたしの旦那は許してくれたよ。あ、すいません、勘定お願いします。」 会計を済まそうと腰を上げる。その間も漣の顔からは不安の色が払拭されていなかった。 「………許してくれる、のかな。」 「きっと謝ったら許してくれるよ。積極的に浮気したわけじゃなくて何かの間違いみたいなもんだったわけだし。  …でも、全然その話してないんだよね?」
こくりと頷く漣。
「だったらまずは白状しちゃわないとね。」

「ただい…」 「おかえり!飲み会楽しかった!?」 扉を開けた瞬間に伝わる大きな声のお出迎え。思わず面食らってしまう。 「…飲み会、ってほどのものじゃなかったですけど、楽しかった?…です。」 「うんうん、良かった良かった!あ、上着こっちで預かるから!  お風呂湧かしてあ…ってお酒飲んだ後だったよね。ごめんごめん。」 妙に元気に振る舞う小波。
もちろんその元気が漣を元気づけるためのただの空元気だというのは明らか。
それは漣にも分かっていた。
(ごめんなさい、小波さん…)
申し訳なさと同時に心のどこかで喜びを感じてしまう。
あぁ、やっぱりこの人は自分を大切にしてくれているんだ。
あんなに冷たい態度を取ってしまった自分をちゃんと気づかってくれるんだ。
小波からの、そして小波への想いを改めて自覚すると共に、再び心が揺らいでしまう。 彼を裏切ってしまったことを告白することへの恐怖がぶり返してしまう。 「じゃ、勿体ないから風呂入ってきちゃうね。二度風呂もたまには…」 「小波さん。」 「な、なに?」 「ちょっとお話がありますので…お風呂上がったら、寝室まで来てください。」 「あ、あぁ、わかった…」

「んぅ…ちゅぅ、ちゅるる…」 薄明かりのついた寝室に水音が響き渉る。 「んんっ、ふぁ…こなみさん…んぅっ」
その音は深く重なり合った漣と小波の唇から奏でられていた。
舌と舌が絡み合い、お互いの唾液を飲み干さんばかりに吸い付く濃厚なディープキス。 数分間続いた後、名残惜しさを残しながら二人の唇が離れた。 「い、いきなりどうしたの?」 「…後で言いますから、とにかく、今日は私を抱いてください。」 艶やかな顔で見つめられた小波は何も言うことができず、こくりと頷いた。

展開についていけない。 今日は久しぶりに彼女が仕事帰りに会社で飲んできたという。
それなら少しは元気になってくれたかな、などと楽観的に考えていると、なぜか寝室に来いと言われた。
そしてノコノコと寝室に入ると素っ裸の彼女が半身を起こしていた。
驚くのもつかの間、久々にその豊満な身体にに見とれてたり色々混乱したりしてるうちに
気が付いたら彼女が馬乗りになって熱烈なキスを施してきた。


「着てから間もない所を申し訳ないですけど…」
そう言いながら小波のボタンを手際よく外していく漣。
「…」 混乱の収まらない小波だったが、とりあえずその間に沸騰せんばかりに熱くなった頭を落ち着けるよう努めた。 「すみません、昨日は断っちゃったりして…」 「そ、そりゃ仕方ないさ…誰しも疲れてるときくらいはあるだろうし…」 「でも、小波さんはどんなに疲れてても私が頼むと…」 「漣の頼みだったら断れないよ。どんなに疲れてても。」 「んっ、あ、ありがとう、ございますっ…あぁ」 久々の彼女の豊満な胸の感触を手の平いっぱいいっぱいに味わう小波。 柔らかな全体もにゅもにゅと揉みしだきながら、ときおりぴんと立った乳首を指先でこねくり回し その度に漣から甘い声が漏れる。 「ちゃんと漣を幸せにしないと、他の男の所いっちゃうかもしれないしさ。」 「っ…!そ、そんなことありませんよ…」 「いや漣ならどんな男でも選び放題だし、もし俺が不満だったら…ってうわっ!」 彼なりの賛辞であることは確かなのだが、今の漣には耳が痛くなる話。 小波の言葉を遮らんと、再び小波を布団の上に押し倒す。 「れ、漣?」 「脱がせますね。」 有無を言わさぬ勢いのまま、無理矢理小波のトランクスをひん剥きいきり立った肉棒を露出させる。 「すいませんね、長らく放置してしまって。」
まるで肉棒相手に話すかのように語った後、ぺろりと先端を舐め上げると小波の口から小さなうめき声が漏れる。
「ちゅる、んぅ…ちゅぶ…」 「…い、いい感じ。」
ぺろりぺろりと全体に唾液をまぶすように舐め上げる漣。
そのまま先端をちゅぱちゅぱと唇と舌で丹念に愛撫し、小波が上げた情けない悲鳴を耳にした直後にそれを頬張る。
「ぢゅぼっ、ぢゅぼっ…ぢゅるる!」 「…っ…ぁあっ!」
ひとたび口に咥えた後の漣は容赦が無かった。
肉棒を舌で転がすように全体を舐め回し、柔らかな頬とぬるりとした粘膜できつく締め上げ そのまま頭を上下させ、口内から抜き差ししていじめぬく。 「や、やっぱり、漣はんぱな…うっ…!」 賞賛の言葉を途切るかのように舌と頬でカリ首を抉るようにキュッと締め上げ、玉袋を優しく揉む。 「うわっ…あぁあっ!」 「んっ…ぢゅうぅ、んっ…」
ぢゅぽぢゅぽといやらしい水音を響かせながら、刻々と小波の限界が迫る。
「れ、れんっ…!?…え」 「………すいません、ちょっと待ってください。」
これまでの彼との交わりで学んできた『後一歩』のタイミングで口を離す漣。
そしてもどかしくて堪らないであろう小波の膝の上に腰掛け、小波の半身を引き起こして肩に手を掛ける。所謂座位の体勢。
「いれても…いい、ですよね?」 「う、うん、えと、お願いします。」 幾度となく繰り返してきたことだというのになぜか改まってしまう二人。 若干の緊張を感じつつ、膝立ちで腰を上げ、先端を膣口にあてがう。


「…は、入ってきてます…!」
「っ……やばっ…」 小波のモノをしゃぶっていたときの興奮で漣のそこは十分に湿っており するするとそれを飲み込んでいくものの、相も変わらず侵入物をきつく締め上げる。 漣自身も同じように彼の背に手を回しギュッと抱きしめた。 「漣?」 「しばらく、しばらくこのままで…お願いします。」 「…う、うん。」 彼女の切ない眼差しから何かを感じ取り、同じように彼女を抱きしめ、改めてその温もりを噛みしめる。

(な、何気にヤバイな…これ…)
愛溢れる恋人同士の抱擁のようだが(間違ってはいない)、小波としては余裕などあった物では無かった。
先ほど射精のお預けを彼女に食らってしまい、しかも興奮冷めやらぬ彼女の膣は肉棒を求めきつく蠢いている。
その淡い快感が欲望を再燃させ、小波の腰を突き上げさせる。それとほぼ同時に漣の口から甲高い嬌声が飛び出した。
「ご、ごめん。」 「いい、ですよ…も、もう動いて…ふぁああぁっ!!」
お許しが出た。
小波は躊躇うことなく下からガンガン彼女を突き上げ始めた。 漣の身体を持ち上げるように腰のバネを使い、肉壷の奥まで抉るように責める。 「い、いいですっ!こな、こなみ、さんっ!あぁああっ!んんっ、んはぁああっ!」 「こ、こっちも最高だよっ…!」
いつの間にか同一のタイミングで性器の押し引きを合わせ、互いの快楽を強めだす。
「あっ、あっ、ああっ!…ふかっ、ふかひぃっ!お、おくまで、きちゃぁあっ!」 「ぐ…っ……!」
このままではあっという間に果ててしまう。
なんとか堪えようとする小波だが、もはや小波以上に激しく身体を動かして自分を貪ろうとする漣の責めの前に歯を食いしばるばかり。
ヤケに大人しい導入に誤魔化されてしまっていたが、夜の彼女は女豹に変わるのだった。
「んぅっ、んん、んうぅ、んーっ!」
もはや座位ではなく、小波に覆い被さるようにしてその唇を貪り尽くそうとする漣。
口と口とがぴたりとくっつき、それでいて下半身は激しい上下運動を繰り返し、全身で小波に食らいつく。 「ん、ちょ、れん、でちゃ…んぅっ!」 隙を見て押し付けられた唇の間から言葉を発しようとするも、すぐさま激しい口辱によって遮られる。
そして腰のグラインドは激しさを増し続け…
「……っ…!!」
「んっ、むぅううっ、んんっ――――――!!」 彼女の絶頂にワンテンポ遅れるようにして欲望を解放してしまう。 昇天せんばかりの快感、搾り取られるような脱力感。
その二つの感覚が小波の脳内を支配している間、中に収まりきらなかった白濁液が膣口からあふれ出てきた。
「は、激しかったね、漣…」 心地良い疲労に包まれながら苦笑いを浮かべて語りかける。
そんな小波に帰ってきた返事は予想だにしないものだった。
「…ごめんなさい、小波さん。」 「へ?」

いきなり落ち込む。そのままの調子で一週間過ごす。
いきなり誘われる。そのまま好き放題やられる。
そして再び落ち込み始める。
二転三転する漣の挙動。そして二度三度と困惑の渦に落とされる小波。


「ど、どうかしたの?俺が何かまずいことでも…」
「違います…私なんです。…私、とんでもないことをしちゃったんです。」 「と、とんでもないこと?あ、ほら、泣かないで。」

なぜいきなり彼を求めたのか。
それは彼女なりの覚悟が決まったからだ。
彼に嫌われるかもしれないという覚悟を決め、せめて最後に彼を感じたかったのだ。 本当のところ、話したくなんてなかった。 一度は全てをこのまま無かったことにして、いつも通りに彼と暮らしていければ、となどと卑怯なことも考えた。
それでもダメだった。すぐに理解して、いや、理解させられてしまったからだ。
このままでは一生「いつも通り」は帰ってこないということに。
そうこう二の足を踏んでいるところ、沙耶の後押しの勢いのまま、全てを打ち明ける覚悟を決めたのだ。
「先週の土曜日に…」 「あ、ひょっとして走波君の家のあれ?」 心臓が口から飛び出しそうになった。 「そ、そう、ですけど…知って、たんですか?」 「え?…そりゃあ知ってるよ。」 嫌な汗が漣の白い肌に伝う。 身の毛もよだつような寒気と同時に彼女の頭の中に共に浮かび上がるのは一つの疑問。 「あー、あれでショック受けてたのか、なるほどなるほど。」 「…その、本当に申し訳ありませんでした!」 「いいっていいって。過ぎた事だし、気にすることでもないって。」

(……いくら何でも平然としすぎじゃないですか?)

「酔った勢いみたいなのもあったししかたな…漣ならシラフでも結構ノリがよさそうだけど。」
「なっ…ど、どう言う意味ですか!」 確かに悪いのは自分だし、やらかしてしまったのもまた自分なのだが、その言い方はないだろう。 彼は自分の事を貞操観念皆無のふしだらな女だとでも思っているのだろうか。 「いやー、だって良くないこと、ってのは分かるけどああ言うのってやっぱりちょっと興奮しちゃうじゃん。恥ずかしいけど。」 「え?」 話の流れがおかしい。先ほどからどこかおかしかったが本格的におかしくなっている。 「小波さん、NTR属性でもお持ちですか?」 「NTR…なにそれ?」 「えーと、略称みたいなもので…って違います違います。そんなどうでもいい解説してる場合じゃありません。」 「?」


「その、変なことを聞くようですけど…先週土曜日、私、何やってました?」
「え?」 「ね、念のため、確認を…」 「4人で乱交してましたが…」 「………はい!?」 「いや、乱交ってのも違うかな?お互い見ながらセックスしてただけでヤってる相手は変わらなかったし。」 「えっ?えぇぇ!?…ちょ、ちょっと待ってください!だ、だったらなんで小波さんと違って私は走波君の家で寝てたんですか?」 「俺も走波君の家にいたよ?一緒の部屋では寝てなかったけど。  二日酔い酷すぎて昼の11時過ぎまで寝てたから、帰るまで漣とは顔を合わせてなかったなぁ。」 「なんで別の部屋なんかに…」 「別の部屋、ってか気が付いたらリビングのソファの下で眠ってたんだよね。多分トイレの帰りに寝ぼけたんだと思う。」

点と点が線で結ばれだした。 自分はあの日、酔った勢いで他の三人を巻き込んで大乱交でスマッシュしてしまったらしい。ブラザーズは生まれていないが。
それでお世辞にも酒が強くない自分はそのまま服も着ないで一足先に爆睡。
それに次いで小波が別の所で就寝。
朝起きたら泥酔時の記憶を無くし、気が付けば素っ裸でよその男の家の布団にくるまっていた。
オマケに一緒にいるはずの小波が見つからず、そのせいで走波と浮気をしたと勘違い。
車の中での

「漣さん…夜は積極的なタイプなんだなぁ…ってのがわかったというか」

という意味ありげな走波の発言も、文字通り『見たまま』をそのまま言っただけのものだったようだ。
そして瑠璃花に怒られた後、昼過ぎに小波が帰宅。
ショックのあまり、その時まで彼が何をしていたのかを問わないまま、一日を終え
今日の今日まで引き続けたと言うことだ。
ただもう一つ気になるのは

「それにしてもあの時の漣は凄かったなぁ…俺の上で腰振りながら瑠璃花ちゃんにディープキスとかしてたもん。」

…つまり彼女があそこまで激怒していたのはそういうことらしい。
「……」 「どうかした?」 「いえ、なんか力抜けちゃって…」 「大丈夫?久しぶりにやったからちょっと疲れてるのかも…」


心配してくれる小波だが、今は彼の厚意に感謝の意を述べる気にすらなれない。
身の潔白(?)が証明された安心感。ここ一週間の何度も涙を流すほどの絶望感が一気に不意になったという脱力感。
その二つが同時に押し寄せてくるが、どちらが大きいかと言われたら間違いなく後者だった。
自分はこの一週間何を悩んでいたというのだろうか。 馬鹿馬鹿しいの一言に限る。 誰が悪いのかと言えば間違いなく自分、その事実自体は何も変わらないのだが
何かが、いや何もかもが違うではないか。
そうこう考えているうちに苛立ちとも違う、それに近しいやるせない感情が腹の奥底で湧き上がる。

(なんかもう、今度こそどーでもよくなってきましたね…)

グイッ

「うわっ!?」
心配そうに顔を覗く小波を突き倒し、三度彼に馬乗りになる漣。 「あ、大丈夫ですよ。小波さん。」 「な、何が?」 「小波さん寝てるだけでいいですから。私が全部やってあげますから。」 「ごめん、話の流れが…」 「いいから好きにさせてください。」 久しぶりに見た彼女の満面の笑み。その後ろに見える謎の圧力の前に小波はただ小さく頷くことしかできなかった。

その夜、彼は待ち望んでいた彼女の肉体を存分に味わうこととなった。
文字通り昇天しかけるほどに。



FROM 南雲瑠璃花
TEXT
相当落ち込んでると聞きましたが、こちらも怒鳴ったりしてすみませんでした。
正直に言いますと、確かに恥ずかしいというのもあったんですが どちらかというと先輩の裸に見とれてたこっちのバカな連れ合いにムカッ腹が立っていたのが本音でした。 八つ当たりのようなマネをして申し訳ありません。


「わざわざメールしてくれるなんて…やっぱり瑠璃花ちゃんいい子だなぁ」
「あ、漣ちゃん、今日は定時帰宅?」 「あぁ沙耶さん。先日はアドバイスありがとうございます。」 「別に大したことは言ってないわよ…で、どうだったの?浮気の話。」 「えーと、あれは浮気じゃなかったみたいです。勘違いでした。」 「?」

コメントをかく


「http://」を含む投稿は禁止されています。

利用規約をご確認のうえご記入下さい

どなたでも編集できます