太陽が昇り始め、辺りがはっきりと見えるようになった時間のことらしい。
「いやぁ……やめてっ、離して……」
人影ひとつ見えない砂浜に、少女の弱弱しい声が吐き出されていた。ともすれば、さざなみにかき消されてしまいそうな声だった。
まだ砂浜は染み込んだ潮の面影を残し、必死に“それ”から逃れようとする少女の指に引掻かれて、少しばかりの爪跡を残していた。
“それ”は蛸であった。少なくとも、力強い八本の触腕に肉付きの良い吸盤、さらに坊主頭に似た胴を備えていた。
少女の衣服だったらしいものは、原型を留めていなかった。蛸らしきものに引き裂かれたのだろう。
「ああっ! だめ……そんな、やめてっ!」
少女は首を大きく振って抵抗しようとしたが、しっかりと巻きついた蛸の腕がそれを許さない。
どれだけ激しく動こうとしても、砂浜に散らばっていた女の長い髪が、わずかに揺れるだけだった。
少女は蛸に比べてあまりに華奢であった。すっきりとした曲線を描く脚は、蛸の長い腕ならば何周でもできそうなほど。 白磁のような肌の裸身は、ところどころ湿った砂に汚れていた。砂浜よりやや沈着した色の蛸の腕が、それに絡みつこうとする。
少女は絡みついてくる蛸の腕を、手で掴んで払い除けようとする。それは反射的なものだった。
けれど、れっきとした人間である少女の腕は二本、少女を目の前で襲っている蛸の腕は八本。少女は腕を封じられただけだった。
蛸が少女の脚に割り込み、口らしき器官を少女の秘所に迫らせる。不吉な気配を覚えた少女は、ひっと声にならない呻きを上げた。
まだ誰にも侵入を許したことの無いそこへ、怪物の何かが近づいている。おぞましい想像が脳裏に浮かび、少女の身が総毛立つ。
少女は蛸を締め出そうと、懸命に脚に力を込めたが、蛸はその圧迫により力を得たようであった。 冷たい蛸の肌が少女の体温を奪う。ついに蛸は少女の秘所に触れた。
「ひぅううっ……いや……いやあ……」
少女の粘膜に蛸の吸盤が襲い掛かる。人や機械の手では決して味わえない侵食に、少女は為す術も無く晒され続ける。 細く白い肢体の中でわずかに肉感的な、少女の慎ましい乳房にも、蛸の残りの腕が這ってくる。 膨らみを締め付けて無理矢理搾り出す。少女は息を詰まらせた。
「だめっ、いや、助けて、助けてっ」

じゅぶじゅぶと粘性のある蛸の体液が、少女の肌や粘膜に塗りつけられていく。
ぬめる白い肌を蛸の吸盤は危なげなく保持し、さらに成長途上といった風情の乳房に似合う桜色の頂を責め始める。
死の恐怖と未知の感覚に少女は転げまわされる。未熟な性感帯を強引に刺激され、呼吸を乱される。 内奥の体温を吸い出され、奪われていく。少女は最早抵抗する力を失って、思い出したように身体をびくつかせるのみだった。 少女の濡れた瞳は濁っていた。それは残酷な姿であったが、少女の儚げな美しさを引き立てていた。
「うぁ……いっ、あぁぁ……」

ひとしきり少女の反応を愉しんだ蛸は、いよいよ少女の秘所のさらに奥へ腕を伸ばそうとする。
微かに残っていた少女の意識が、青ざめたくちびるを動かして言葉を紡ごうとした。 少女の吐息交じりの声は、砂と水音に紛れて聞こえなくなった。 蛸の腕は少女の脚を大きく開かせ、別の腕が押し開かれた秘所の中に――


「――うわあああぁああああぁあっっ!」
「こ、小波君どうしたのっ」
小波は机に突っ伏し、顔を自分の腕に埋めていた。それがいきなり叫び声を上げて立ち上がった。しかも授業中に。 教師とクラスメイトは全員度肝を抜かれ、午後の気だるい授業風景は一瞬にして消え去った。
「だいじょうぶかしら? 小波君、すごい汗をかいているわ」
小波は、自分の顔に伸ばされた手の主を見やった。幼馴染の心優しい少女だった。 心配げに小波を見るその顔が、夢の中で犯されていた少女と重なって見えた。
べっとりとした汗とは異なる嫌な感触を股間に覚え、小波は少女――明日香に向かって力無く笑った。
「あれ、小波センパイ今日はお休みなんですか?」 「何だか調子が悪いらしいでやんす。午前中はそんな様子は無かったでやんすが」 「あいつ、午後の授業中に居眠りしだして、どれだけ起こそうとしても起きなかったくせに、ようこ先生が諦めたあといきなり大声出して起きてな。  しかも変な汗かいて顔色も悪かったから、先生と明日香ちゃんに練習止められて帰ってったよ」
小波は明日香に送られて帰っていった。今まで病弱な明日香を小波が送って帰ることはあったが、その逆は初めてのことだった。 下校途中、尚も小波の様子を気にする明日香の顔を、小波はまともに見ることが出来なかった。 .

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