ある年の夏、極亜久高校は甲子園を優勝した。
そして、それから3ヵ月後、野球部の部室にて…
「ようこ先生、春が来たらお別れなんですね」
「ええ、そうね」
小波とようこ先生がベンチに座っている。
小波はドラフト1位でプロ野球選手に
ようこは他の学校へ
それぞれ自分の道を進んでいくのだ。
「ところで…小波君は誰が好きなの?」
「え?どういうことですか?先生」
ようこ先生の突然の質問に小波は首を傾げてしまう。
誰が好きか? という質問に対して何も思いつかないのだ。
「分からないの?」
「はい…」
小波の頭には誰の顔も思い浮かばなかった。
そんな小波を見ながらようこは思わずくすっと笑ってしまう。
「まあ、いいわ。とにかくうちのマネージャーさんたちをよろしくね」
「あっ、うん!分かったよ、先生」
小波はそう答えると部室を出て行った。

そしてそのまま校門へと行くと…
「あっ、小波君」
突然明日香から声をかけられた。
「明日香じゃないか。どうしたんだ?」
「たまには一緒に帰らない?」
「いいぞ、一緒に帰ろうか。」
明日香の誘いに小波は応じた。

そんな二人を物陰から眺める少女がいた。
「……先輩…」
石田由紀である。
由紀は未だに小波のことが忘れられずにいる。
もっともそれ以前に告白もしていないが…
そんな由紀に声をかける人物がいた。
「あら、誰かと思ったら由紀ちゃんじゃない」
四路智美である。
「四路先輩…」
由紀はちらっと横目で小波たちを見る。
「ん、どうしたの?」
智美は由紀の視線の先を見る。
そこには楽しそうに会話する二人がいた。
「あら、小波君と明日香ちゃんじゃない…」
智美は小波たちの様子を少し眺めると由紀の方に視線を戻した。
由紀は不安そうな顔をしている。
「ははーん、あの二人が幸せそうだったから話に入ってこれないって訳ね」
智美は少し呆れたような声を出した。
「はい・・・」
由紀は力なく答えた。
そんな由紀を見ながら智美はふうとため息をつく。
「由紀ちゃんには悪いけど私も小波君のことが好きなのよね。」
「え?先輩も…ですか?」
突然の宣言に戸惑いを隠せない由紀。
「ええ、でもあの子やあんたに負けるつもりはないわ。」
智美は小波の隣にいる明日香を見ながら言った。
由紀は智美の言葉に思わず黙ってしまう。
「さて、邪魔させてもらおうかしら?」
智美が小波のところへ行こうとすると突然由紀が智美の制服の裾を掴んだ。


…わたしも」
「へ?」
「私も小波先輩のことが好きです。」
真っ直ぐに智美を見ている。
不安な顔はどこかへ行ってしまい言葉の奥には深い決意があった。
そんな由紀を見て思わず苦笑してしまう智美。
「そう、なら一緒に邪魔しちゃいましょうか?」
「はい!」
智美の提案に由紀も乗った。
「小波くーん!」
「せんぱーい!」
二人は小波のところへかけていく。
「ん?智美と由紀ちゃんじゃないか」
「先輩、一緒に帰りませんか?」
「小波君、途中までいいかしら?」
「……まあ、いいか。一緒に帰るか、三人でさ」
こうして小波は三人と一緒に帰宅することとなった。

「やれやれ、親友がいなくなって落ち込んでいると思ったら…」
三鷹が女性陣三人に囲まれている小波の様子を眺めながらため息をついた。
「はっはっはっ、人徳がなせる業じゃな」
村上は思わず大笑いしてしまう。
「じゃが、本当は未だに引きずっていると思うぞ、ワシは」
村上はゆっくりと甲子園大会決勝の事を思い出していた。
甲子園大会決勝、その日は小波にとって究極の厄日といっても過言ではなかった。
明日香の様態が急変し、智美はプロペラ団のボスに捕まり、そして極亜久高校のキャッチャーである亀田が交通事故に会い亡くなった。
しかし小波はその不遇を跳ね除け甲子園で優勝したものの亀田という親友を失ってしまった。
それを癒そうとしたのがあの三人である。
「あの人のために何とかしてあげたい…」
そう思う三人のおかげで小波は立ち直り始めドラフト1位も素直に応じた。

さて、一方死んだ亀田君はというと…
「ああ…おいらは死んだでやんすか…」
亀田の幽霊は愚痴を言いながら大空を漂っている
「それもこれも小波君のせいでやんす!小波君がおいらを甲子園に連れて行ったからでやんす!」
まったくの逆恨みである
「折角だから小波君に嫌がらせをしてやるでやんす!」
亀田が小波に向かっていこうとすると・・・
「お待ちください!」
「やんす!?」
誰かが亀田を呼び止める。
亀田が後ろを振り向くと一匹の悪魔がいた。
「あ、あんたは・・・」
「あっ、申し遅れました。私・・・」
「みなまで言わなくて良いでやんす!もしかして…伝説の悪魔って奴でやんすか!?」
「はい、先ほどの貴方の叫び、聞かせていただきました。」
悪魔はこれ以上のない笑顔を浮かべている。
「それは丁度良かったでやんす!悪魔!あの男を困らせてやるでやんす!」
「・・・それは契約ということですか?」
「そういうことでやんす!」
亀田は胸を張っていった。
「では、困らせてあげるとしましょうか…」
悪魔は頬を吊り上げて邪悪な笑みを浮かべた。
ええ、困らせてあげますよ。貴方をね…


続く!

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