「ああ。いいぞ」
小波は、そう答えた。
何も警戒することなく、ただ紐を解くだけだと思ってそう答えた。

にやけた顔を隠すために、振り向いた顔を元の向きに。
(二人を幸せにしなきゃな〜。しかし、嫁が二人いるなんてしあわせだな〜。ロリ巨乳の妹系の嫁に、クールなナイスボディな嫁。
しかも二人とも仲良し!われながらしあわせだなあ。さっきはアカネもリンもかわいかったなあ・・
いつもは可愛いだけのアカネがあんなにいやらしい声を出して・・・エロカッタ!)
マニアポイントが15上がった!

(リンもいつものクールビューティな顔が崩れて、よわよわな一面を見せてくれて・・・ぎゃっぷ萌え!!)

マニアポイントが20上がった!

(毎日が楽しみだなあ〜さてとそろそろ続きを・・・
アカネとキスしながらリンになめ・・きた!3Pきた!これでかつる!)
にやけきった顔で、これからの妄想。イメトレに余念がなかった。
一瞬の油断が命取り。注意力がないエージェントに未来はにい。

しゅるしゅるしゅるり
縄がほどけていく音がする。

(・・・・・・)
妄想に余念がない小波。顔がだらしなく歪む。

「ありがとうアカネ」

「はいです!!」

(・・・・・・)
引き続き妄想に余念がないので声に注意が向かない。更に顔が崩れる。
シリーズ1のナイスガイだろおい。






「ちょっと眠ってなさい」

「はいです!・・え?リンお・・・」

軽く響く音がした。

何気ない音で、何気なく聞き逃しそうな音。
その音の半瞬後、ベッドの上に何かが崩れ落ちる音。


ギギギと音を立てて、首だけ後ろを向く小波。

そこにはベッドにうつぶせに倒れた茜の姿。
外傷はないが、茜の意識は遠い昔に作って壊れたアカネハウス1号の中。



「リンさん」
小波が機械仕掛けのぜんまいの声で聞く。

「なあに」
とリンは過冷却の水のような声で答える。
過冷却の水はほんの僅かな衝撃で凍りつくのだ。

「アカネはどうしてたおれてるのでしょう」

さび付いたぜんまいの声で聞く。

「私がたたいたからよ」

ヒマラヤ山頂の水のような声で答える。
高所では水はとてもとても低い温度で沸騰する。

「妹には優しくガモットーデハ」

更にさびる。

「優しく痛くないように気絶させたわよ。愛してるからね」

リンの後ろからゴゴゴという文字が見え隠れ。必死に押さえつけているのがわかる。

「ボクノコトモ、アイシテクレマスカ?」

「もちろん、愛してるわよ小波君」

「しあわせー」
小波が笑顔で。ひきつってるけど

「でもね。」
笑顔で。

「罰は必要よね?」
部屋中に広がる「ゴゴゴ」の文字。圧倒的な質量が怒りのほどを物語る。

「デスヨネー」

「覚悟はいいかしら?」




その言葉を床にたたきつけ。
跳ね返ったのを契機に。
繰り広げられる百鬼夜行に狂気乱舞と再生帰無。
虐待と暴力のラインダンス。
虐殺と殴打の同盟。会盟。城下の盟。
艱難辛苦と七難八苦がソシアルダンス。
破壊と滅亡が仲良くデュエット。

その結果は惨憺たるもので。
北国が見せる晩秋の草原。
枯れ果てた草原に命の気配はもはやなく、あるのはただ荒涼とし、茫漠とした枯れ野のみ。

「科学の発展には犠牲はツキモノデース・・・ってこれは別の人ね」
振り乱した金髪に、弾ける汗にまみれた身体。
けれどもさっきまでの淫靡なそれとは違い、健康的な美に満ちている。
リンの美しさは、どちらでも変わりなく。
カーテンの隙間から差し込む朝日に照らされた姿は、ラグナロクを戦い抜いた戦女神のように神々しい。
ほうとため息を一つつき。

「小波君生きてる?」
ベッドの上から、ベッドの下に優しく声をかける。

痙攣で答える小波。
今の姿を表現するのは、たとえるのは非常に困難だ。
強いてあげるなら。
創業30年以上の定食屋で使い込まれた布があった。
20年間布巾として使い込まれ、そしてその後は雑巾として使い込まれたその布。
布を構成する繊維は、ほつれ。引き裂け。削れ。もつれ。
もともとの形状をその布から思い出すのは不可能なほどに。
そんな風にボロボロになって、フローリングの冷たい冷たい床に倒れている。

「生きてるならいいわ」
あっさりと。
しかし痙攣は死んでても起きるので、別に生きてる証明にはならない。
信頼の故か愛想が尽きたのか。
まあ前者なんだろうけれど。



「アカネ?そろそろ起きなさい」
優しい姉の声で、ベッドに横たわるアカネに。

「ふぁ・・ふぁ〜い」
もぐもぐむぐむぐと、起き上がるアカネ。
顔が(′3ω3`)
起き上がるも腕に力が入らず。ベッドに手を置いてもころりころりと転がる。

「ああ、もう」
優しく、面倒だけれどもまんざらでもないといった笑顔でリンはアカネに手を貸すために、傍による。

「ふにゃ」
子猫のように近寄ってくるリンの胸にダイブ。
母猫は優しく抱きとめて、緑色の髪を梳いてあげる。
子猫の手と顔は母猫の胸に吸い込まれ。
「お姉ちゃん・・・大好きです。ずっと一緒です・・」
その言葉に優しく微笑んだ母猫は
「ずっと一緒よ・・・」

「・・・父猫は死んじゃったかもだけどね」
ポツリと呟いた。















「死んでないぞ!」
ガバリと跳ね起きる小波であった。
めでたくもなし。






God's in his heaven. All's right with the world
神は天におわしまし、世の中なべて事もなし。

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