最終更新: marokoro0920 2023年07月12日(水) 17:52:08履歴
『今日はよく晴れ、絶好の行楽日和になる見込みです…』
ラジオから天気予報が聞こえる。
空は澄み渡り、雲ひとつない快晴だ。
今日はお休み。
この穏やかな天候の下、いつもいる屋上の指定席は、いつも以上に居心地がよかった。
いつもより少し気分よく、いつもと同じ休日が始まる。
「まだかな」
ただ、今日は少しだけ特別。
一年に一度、祝日のように年毎変わらない日。
生きとし生けるものに、例外なく与えられる日。
去年までは心から楽しむことはできなかった日。
けれど、今年は違う。
「まだかな」
「落ち着きがなさ過ぎますよ、桜空。さっきからそればっかり」
楽しそうなクスクス笑いが聞こえてくる。
少し顔が赤くなるが、俯いたりはしない。
つい最近まで大嫌いだった――でもいつも心の底から想っていた『家族』に、隠し立てすることなどないから。
隣に座っている『家族』の顔を見る。
ベンチに腰掛けて首からカメラを提げ、明るい表情で若草のような髪をなびかせている。
うれしそうに緩んだ目元は私のそれとよく似ていて、髪の色が異なっている今でも血の繋がりが見て取れる。
この青空の下、一度は溝が生じたお姉ちゃんと一緒に笑い合える。
これも彼がいてくれたおかげだ。
「まだかな」
「何度も言わなくても、小波のやつは来るよぉ」
お姉ちゃんの向こう側から、非常に残念そうな声がする。
のぞいてみると昔の知人――今では親友候補といってもいい子が、見事なまでに不貞腐れていた。
「姉御ぉ、いい加減手を離してよぉ」
「その呼び方、止める」
親友候補はがっしりとわが姉に手首を掴まれ、身動きできないでいる。
「呼び方はともかくさ、手を離して!そしたら、私が小波を」
「『完膚なきまでに叩きのめして来てやる!』ですか?」
「そ、そんなわけ…」
図星だったのだろう、口をコイみたいにパクパクさせて黙り込む。
ほぼ毎日のようにこのやり取りを見ているが、本当に懲りないというか、不屈というか。
「さらちゃんもさ、笑ってないでどうにかしてよ〜」
先ほどからの顔の緩みとは別に、自然と笑みもこぼれてしまう。
今、こんなやり取りができるのも、彼がいたから。
「まだかなぁ」
彼が来るのが待ち遠しい。
去年のこの日、彼はなんの前触れもなく現れた。
そして、祝ってくれた。
一番自らの生を意識する日、ひとりぼっちだと思い込んでいた自分に手を差し伸べてくれた。
この日だけじゃない。
出会ってから、私が早まりそうになった日、その後もずっと。
彼という存在は、私を支えてくれた。
彼がいなければ、今日という日は存在しなかった、そう強く思える。
「まだかな」
自分でも、気がはやりきっているのは百も承知だ。
だけど、今日ぐらいはいいと思う。
だって今日は。
屋上のドアが開ける音がし、包みを持った彼が駆け込んでくる。
「あちゃ〜」
そう言って仰向けに倒れこむと、しばらく胸を上下させた。
毎日走りこんでいる彼がぜいぜい言っているのだ。
相当急いだに違いない。
「先に、来て…驚か、せる…つもりだったん、だけどなぁ」
苦笑しながら言い終わると、大きく息を吸い込んで掛け声と共に反動をつけて立ち上がった。
そして再度深呼吸をして息を整えると、こっちを向いて言ってくれた。
「誕生日おめでとう、桜空」
そう、今日この日は私の誕生日。
変えようにも変えることはできやしない。
そして、私のそばに誰かがいる限り、いつまでも変わらない、幸せな一日だ。
「はい、桜空。プレゼントだよ」
彼が包みを差し出す。
「ありがとうございます、小波君」
今年は一体なにを選んでくれたんだろうか?
「はい、さらちゃん。私からも」
やっと開放されたいつきも、ポケットから綺麗に包装された箱を取り出す。
「ありがとうね、いつき」
いつきからプレゼントをもらうのなんて、何年ぶりだろうか?
傍らでその様子をフィルムに焼き付けていた姉がカメラを下ろす。
「よかったですね〜桜空。…ところで、私には何もないのですか?」
少しすねた風を装ってお姉ちゃんが言う。
すかさずいつきはポケットからもう一つ箱を取り出す。
「そんなわけないあるはずないよ。はい、姉御の分」
「ありがとうですよ、いつき!やっぱりモッチンの次に大事ですよ♪」
「姉御、もう少し格上げしてよぉ〜」
いつものように、昔馴染みのお隣さんをいじっているが、今日は(も、かな?)どちらも楽しそうだ。
ただ、今一人、
「え?」
状況を把握できてなさそうな、ポカンとした顔が。
「あれ、どうかしましたか、小波君?もしかして私たちが双子だって知らなかったとか?」
お姉ちゃんが笑いながら彼の肩をたたく。
そういえば、『姉妹』とは言ったが、『双子』とは言っていない。
いや、だけどわからないはずは、と思い彼を見ると。
「まさか、いくら小波さんだって、そんな常識で考えればわかるようなこと…」
いつきも笑いながら言い切ろうとしたが、明らかに困っている顔を見て言葉を止める。
数秒の沈黙、三人に注視された彼は、
「……ごめんなさい」
どこに焦点を合わせているのかわからない表情で頭を下げる。
「「………」」
あっけにとられて絶句している二人。
そして、この場の空気をどうとりなそうかとオロオロする私。
空は予報どおりきれいに澄み渡り、コスモスが花壇で揺れていた。
その後、彼はいつかの如く、自分の存在を否定するぐらい謝罪をし、お姉ちゃんが笑い出すまで壊れたレコードよろしく謝り続けていたが、それはまた別の話。
また別の機会に。
ラジオから天気予報が聞こえる。
空は澄み渡り、雲ひとつない快晴だ。
今日はお休み。
この穏やかな天候の下、いつもいる屋上の指定席は、いつも以上に居心地がよかった。
いつもより少し気分よく、いつもと同じ休日が始まる。
「まだかな」
ただ、今日は少しだけ特別。
一年に一度、祝日のように年毎変わらない日。
生きとし生けるものに、例外なく与えられる日。
去年までは心から楽しむことはできなかった日。
けれど、今年は違う。
「まだかな」
「落ち着きがなさ過ぎますよ、桜空。さっきからそればっかり」
楽しそうなクスクス笑いが聞こえてくる。
少し顔が赤くなるが、俯いたりはしない。
つい最近まで大嫌いだった――でもいつも心の底から想っていた『家族』に、隠し立てすることなどないから。
隣に座っている『家族』の顔を見る。
ベンチに腰掛けて首からカメラを提げ、明るい表情で若草のような髪をなびかせている。
うれしそうに緩んだ目元は私のそれとよく似ていて、髪の色が異なっている今でも血の繋がりが見て取れる。
この青空の下、一度は溝が生じたお姉ちゃんと一緒に笑い合える。
これも彼がいてくれたおかげだ。
「まだかな」
「何度も言わなくても、小波のやつは来るよぉ」
お姉ちゃんの向こう側から、非常に残念そうな声がする。
のぞいてみると昔の知人――今では親友候補といってもいい子が、見事なまでに不貞腐れていた。
「姉御ぉ、いい加減手を離してよぉ」
「その呼び方、止める」
親友候補はがっしりとわが姉に手首を掴まれ、身動きできないでいる。
「呼び方はともかくさ、手を離して!そしたら、私が小波を」
「『完膚なきまでに叩きのめして来てやる!』ですか?」
「そ、そんなわけ…」
図星だったのだろう、口をコイみたいにパクパクさせて黙り込む。
ほぼ毎日のようにこのやり取りを見ているが、本当に懲りないというか、不屈というか。
「さらちゃんもさ、笑ってないでどうにかしてよ〜」
先ほどからの顔の緩みとは別に、自然と笑みもこぼれてしまう。
今、こんなやり取りができるのも、彼がいたから。
「まだかなぁ」
彼が来るのが待ち遠しい。
去年のこの日、彼はなんの前触れもなく現れた。
そして、祝ってくれた。
一番自らの生を意識する日、ひとりぼっちだと思い込んでいた自分に手を差し伸べてくれた。
この日だけじゃない。
出会ってから、私が早まりそうになった日、その後もずっと。
彼という存在は、私を支えてくれた。
彼がいなければ、今日という日は存在しなかった、そう強く思える。
「まだかな」
自分でも、気がはやりきっているのは百も承知だ。
だけど、今日ぐらいはいいと思う。
だって今日は。
屋上のドアが開ける音がし、包みを持った彼が駆け込んでくる。
「あちゃ〜」
そう言って仰向けに倒れこむと、しばらく胸を上下させた。
毎日走りこんでいる彼がぜいぜい言っているのだ。
相当急いだに違いない。
「先に、来て…驚か、せる…つもりだったん、だけどなぁ」
苦笑しながら言い終わると、大きく息を吸い込んで掛け声と共に反動をつけて立ち上がった。
そして再度深呼吸をして息を整えると、こっちを向いて言ってくれた。
「誕生日おめでとう、桜空」
そう、今日この日は私の誕生日。
変えようにも変えることはできやしない。
そして、私のそばに誰かがいる限り、いつまでも変わらない、幸せな一日だ。
「はい、桜空。プレゼントだよ」
彼が包みを差し出す。
「ありがとうございます、小波君」
今年は一体なにを選んでくれたんだろうか?
「はい、さらちゃん。私からも」
やっと開放されたいつきも、ポケットから綺麗に包装された箱を取り出す。
「ありがとうね、いつき」
いつきからプレゼントをもらうのなんて、何年ぶりだろうか?
傍らでその様子をフィルムに焼き付けていた姉がカメラを下ろす。
「よかったですね〜桜空。…ところで、私には何もないのですか?」
少しすねた風を装ってお姉ちゃんが言う。
すかさずいつきはポケットからもう一つ箱を取り出す。
「そんなわけないあるはずないよ。はい、姉御の分」
「ありがとうですよ、いつき!やっぱりモッチンの次に大事ですよ♪」
「姉御、もう少し格上げしてよぉ〜」
いつものように、昔馴染みのお隣さんをいじっているが、今日は(も、かな?)どちらも楽しそうだ。
ただ、今一人、
「え?」
状況を把握できてなさそうな、ポカンとした顔が。
「あれ、どうかしましたか、小波君?もしかして私たちが双子だって知らなかったとか?」
お姉ちゃんが笑いながら彼の肩をたたく。
そういえば、『姉妹』とは言ったが、『双子』とは言っていない。
いや、だけどわからないはずは、と思い彼を見ると。
「まさか、いくら小波さんだって、そんな常識で考えればわかるようなこと…」
いつきも笑いながら言い切ろうとしたが、明らかに困っている顔を見て言葉を止める。
数秒の沈黙、三人に注視された彼は、
「……ごめんなさい」
どこに焦点を合わせているのかわからない表情で頭を下げる。
「「………」」
あっけにとられて絶句している二人。
そして、この場の空気をどうとりなそうかとオロオロする私。
空は予報どおりきれいに澄み渡り、コスモスが花壇で揺れていた。
その後、彼はいつかの如く、自分の存在を否定するぐらい謝罪をし、お姉ちゃんが笑い出すまで壊れたレコードよろしく謝り続けていたが、それはまた別の話。
また別の機会に。
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