狭い部屋に散らばったゴミ、テレビは砂嵐を映し出し、壊れかけのテーブル上には大量のジュースの空き缶にらっきょうの瓶詰、その中に埋もれている時計は夜の8時を指し示していた。

「はぁぁ〜・・・」

大きな溜め息をつきながらソファーでグッタリする一人の女の子、ピンク色のフードをすっぽりと被り、顔は少し紅く染まっていた。

「疲れた・・・今日は色々と疲れた・・・」

一日の出来事を振り返り、独り言を漏らしている私の名はピンク。日本名で言えば桃井。
職業は正義のヒーロー。年齢は未成年ということにしておく。一応・・・彼氏みたいな者もいる。


「・・・ブラックの馬鹿、なんで私があんな羞恥プレイを受けなきゃいけないのよ・・・全く・・・」

散乱したアジトを見渡して先程の事を思い出す。
ことの始まりは数時間前。今日はヒーロー稼業が休みということで、皆がそれぞれの時間を得ることができた。
ある黒装束はフラフラと何処かに消えて行き、ある重力槍はアジトから空へと落ちて行き、ある眼鏡幼女はいつもの感じで何処かへ出かけて行った。
そんな私も、心の奥底で嬉しい気持ちを抑えながら、買ったばかりの新作ゲームを理由にして小波の家に向かっていた。

最近、私は小波と居る事が増えた。一緒にご飯を食べたり、ゲームをしたり、何気ないことでよく家に遊びに行ったりもする。
今日もそんな感じ、いつものように家に行ったんだけど・・・あんなイベントが起きるなんて思ってもいなかった。

「・・・はぅ」

思い出すだけで全身が熱く胸が苦しくなる。
(あ、あんな風に好きって言われるなんて思ってもいなかったし!そりゃあ、嫌われてはいないと思ってたけど・・・そのまま、キ・・・キスされるなんて想像してすらいなかったし・・・)

「・・・」

(もしかして・・・あのまま帰らないで、私がもう一言言ってたらきっと・・・と、泊まりになって・・・それから・・・・な、何考えてるの私は!これじゃあ変態ブラックみたいになっちゃうじゃない!・・・っ!それにもし、そんな流れになってたらそれまで撮影されてたってことじゃないっ!)


簡単に言うと小波の家に遊びに行き、キスをされて恥ずかしさのあまりそのまま飛び出し、アジトに戻ると変態三人衆が居て、私の今日一日を盗撮した映像を無理矢理リプレイさせられたのだ。
まぁ、私は暴れ叫んでいたのでほとんど見てないし聞いていなかったが・・・

「ったく、あの三人め・・・今度は私が盗撮してやる・・・」

そんな犯罪宣言を述べている時、ふと私はあることに気づいた。ブラックのやつ、撮影したディスク持って帰ったっけ?
横に落ちていたリモコンを手に取り、レコーダーの取出スイッチを押してみると中から一枚のディスクが出された。

「ふふふ、やっぱり忘れて行ったのね、こんな物即刻廃棄して・・・・・・・!・・・・」


・・・・・・・・・・・・ピッ・・・・・カチャ・・・・ウィィィィン・・・

・・・・・・・いや・・・えっと・・・うん・・・・そう!中身の確認しないと!もしかしたら別のディスクに変えられてるかもしれないし、空っぽのディスクかもしれないし!そうそう!確認は大事だもん!
そんな言葉を心の中で自分に言い聞かせながら、リモコンの再生ボタンを恐る恐る押してみる。
・・・・えいっ
砂嵐を映していたテレビが、良く知る部屋、そして二人を映していた。

「えっと・・・もう少し早送りして・・・っ!」

その場面になると指が勝手にボタンを押していた。あの時に感じた時間はとても長く感じられたが、映し出されていた映像、一番気になっていた場面は10秒程度で終わりを迎えていた。
それでも私はその数秒間に見とれてしまった。私はこんな顔をして小波にキスされ、あんな風に頭を撫でてもらって、抱きしめてもらってたんだ・・・愛されているのかな・・・

「小波・・・」

最近色々と知ることが多くなった。
私は涙脆いらしい、そう言われたが今、間違いないと思えた。
好きになった人に愛されていると分かった時の涙はいつもと違うと知ることも出来た。


ー数分前ー

「いやぁ〜おもろいもんみれたわぁ」

「そうだけど、少し悪いことしたわね・・・どうかしたの?ブラック」

「・・・さっきのディスクを忘れてきた」

「あらら、完全に破壊されるわね」

「とってくる、先に帰ってて」

「へいへい〜」


(リーダーは常に先を読んで行動しなければならない、ディスクは既にダビング済み、破壊されても問題ない・・・破壊する前にピンクが何をするか見物)
アジトに戻るブラックの手にはデジカメが握られていた


数日後、ピンクが二度目の羞恥プレイを受けるのはまたの話

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