桜も散った4月のはじめ。 
カレー屋「カシミール」の女店主、神田奈津姫は、閉店とカレーの仕込みを終えた後、風呂場の脱衣所で洗濯物を分別していた。 
 時刻は既に11時を過ぎていた。決して早い時間とはいえないが、夫を亡くしてから一人で店を切り盛りしていた頃に比べれば、考えられないほど早い時間だ。 
 元・放浪者で商店街の野球チームを勝利へと導いた男、小波が紆余曲折を経て住み込みで働くようになってから、彼女の生活は変わった。 
 作業時間、特に肉体労働の時間は減り、代わりに洗濯物と家庭内の会話が増えた。一人息子のカンタも、最近は野球に行くようになった。 
このように日々の生活に余裕が出てきたのは、すべて小波のおかげである。 
 日々野球の練習やカレー屋の接客で汗水流して働く彼は、商店街に流れ着いたときとは見違えるほどハンサムになっていた。 
 年明けとともに旅立とうとした彼を引き止めたときのやり取りは、カンタと武美により商店街中に知れ渡っている。 
 小波は野球チームの新キャプテンであると同時に、奈津姫の新たなパートナーとして、商店街の中にその存在を確立したのだ。 
 「…まったく、カンタは何度言ってもズボンを裏返しにして…あら」 
 選択をする彼女の目に留まったのは、泥と汗にまみれた、小波の汚らしいユニフォーム。普段なら気にせずに洗濯してしまうものだ。 
しかし、今日の彼女は違った。熱に浮かされたような目でそれを見ながら、何ともなしに呟いていた。 
 「…小波さんのユニフォーム…」 

 大晦日の、暗闇の中での熱い抱擁は、彼女にとって忘れられぬ出来事だった。 
 色々とあって、彼らは洞穴に生き埋めになった。そのとき、奈津姫は意を決して小波に告白をした。そして誰もいないことをいいことに、互いをむさぼるように求めた。 
 疲れ果てるまで激しい抱擁を続け、そしてそのまま眠ってしまった。酸素の消費を抑える、なんてすっかり忘れていた。 
いっそこのまま死んでもいいとすら思うほど、幸せな時間だったのだ。 
その後奈津姫は、家のない小波を「住み込みで雇う」という口実で世話しはじめた。そして神田家に、以前とは違った家族の温かみが宿るようになったのである。 
しかし2人は同居以降、口付けを交わすことはあれど、肌を重ねあうことはなかった。 
 時間もなかったし、一日中仕事をして疲れていた、ということもある。しかし何より、互いの身を心配しすぎていたのだ。 
 翌日の仕事に支障が出るといけない。嫌なのに無理強いをしてしまうかもしれない。そのお互いの配慮が、逆に距離を作り出してしまっていた。 
あの日のような熱く激しい抱擁を、もう一度交わしたい。その欲求は奈津姫の中で着実に大きくなり、抑えきれないものになっていった。 



 周囲を見渡す。誰もいない。カンタはとうに眠っている。やるなら今だ。 
 奈津姫は、すばやく着ていた服を脱いだ。そして汗の滲んだユニフォームを着込み、彼のトレードマークである野球帽を被った。 
 再度、周囲を見渡す。誰もいないことを確認した彼女は、ほっとため息をついて姿見を見た。 
そこには、泥まみれのユニフォームを着て、頬を紅潮させている野球服の女の姿がうつっている。 
 「…小波さん…」 
 今着ている服は、小波が着ていた服。小波の匂いが、雰囲気が、すっかり染み付いてしまっている物。 
 「…っ…」 
それを意識すると、身体が熱くなっていく。鼓動は次第に強くなり、今すぐにでも小波を抱きしめたくなる。 
 「小波さん…!」 
 温もりは既に消えうせているが、それでも彼に抱きつかれているように錯覚する。 
むせ返るような汗の匂いが、彼を思い起こさせる。 
 『(…奈津姫さん…綺麗ですよ…)』 
 目を閉じると、小波のそんな声が聞こえてくるようだ。 
 「(私は…なんて浅ましいのだろう…)」 
こんなことをしていても、ただむなしいだけだというのはよくわかる。しかしそれでも、彼女はそれをせずにはいられなかった。 
ただ小波という存在を感じていたい。彼女は肩を抱くようにしてうずくまる。 
 「…小波さん…」 
 腕は空を掴むばかりだ。目の前に実物がいればどれだけ嬉しいだろう。彼女がそう思ったとき。 
 「…奈津姫さん、何やってるんですか?」 
 「え?」 
 不意に、奈津姫の意識が妄想から現実へと引き戻される。声の主はほかでもない、妄想の中で自分に優しい言葉をかけてくれた男だ。 
 「あれ、それ俺のユニフォーム…どうしたんですか、本当に」 
 小波は怪訝な顔をして聞く。一体何が起こっているのだ、といわんばかりの発言だ。 
 他人の汗と泥でべたべたしている汚らしいユニフォームを着て、その場にうずくまって息を荒げている女がいたら、誰だってそう思うだろう。 
 奈津姫は誤魔化すように笑いを浮かべ、話題を逸らす。 
 「あ、あの…今からお風呂に入るの?それとも…」 
 「いえ、呼ばれたような気がして。…気のせいかな?」 
 小波は頬を掻く。それを見て、奈津姫の鼓動はますます早くなっていく。 
 日々の練習によって引き締まった体。投げ込みによって鍛えられたたくましい腕。頼りがいのありそうながっしりとした胸、そして、優しそうな目。 
 既に我慢の限界だった。今すぐ抱きしめてもらいたいという激しい感情が、奈津姫の体の奥から湧き上がってくる。 
 「小波さん…お願い!」 
そして彼女は、欲に駆られるがままに、小波に思い切り抱きついた。 



 「ど、どうしたんです?」 
 小波は目を白黒させながらたずねる。 
 「…私…大好きなのに、一緒にいるだけじゃいやなの!もうこれ以上我慢するだけなんて耐えられないのよ!だから…」 
すべて言ってしまったあとで、顔が真っ赤になる。打ち消すように、奈津姫は小声で言う。 
 「…浅ましい女だと思うでしょう?」 
 「いえいえ…」 
 小波は失笑する。 
 「奈津姫さんが浅ましい女なら、俺はさしずめ欲深な男といったところですね…」 
 「…何故?」 
 「だってこうなることを、望んでいましたから…」 
そう言って、小波は奈津姫の唇を無理やり塞いだ。 
 普段交わすような口付けとは桁違いの快楽。満たされていく欲求。むなしい妄想が今、温かな現実となって彼女の身体を満たしていく。 
 「…それで、何でユニフォームなんて着てたんです?」 
 「あの…小波さんに、抱きつかれているような感じがするかな、って思って…」 
 「…そういってくれれば、いつでも抱きしめてあげますよ」 
 小波は優しく微笑む。 
 「…それなら…今、お願いできる?」 
 「ええ、もちろん。…さすがに脱衣所で抱き合うわけにはいきませんけどね」 
 苦笑する小波を見て、奈津姫は突然恥ずかしくなった。 


 奈津姫の寝る部屋と、小波の寝る部屋はわかれている。それは小波の示した「従業員」としての最低限のけじめだった。 
 奈津姫は一緒の部屋で眠ってもらっても構わない(むしろ一緒の部屋にいてほしい)のだが、小波は頑としてそれを受け入れなかった。 
 今回は、それが幸いした。カンタは今、奈津姫の部屋でぐっすりと眠っている。小波の寝室には現在、誰もいない。 
もし奈津姫と同じ部屋で寝ていたら、カンタの前で色々やってしまうことになる。さすがにそこまで危ない橋を渡るつもりはない。 
カーテンから漏れる街灯の無機質な光が、部屋の中を薄暗く照らしている。これほどにまでおあつらえ向きな環境があるだろうか。 
 「…少し寒いですね」 
 四月の空気はまだ冷たく、彼らの肌から温もりを奪う。しかし体は既に興奮していて、むしろ熱を帯びていた。 
 「ええ…でも気にならないわ。真冬の外でも寒くなかったんだもの」 
 「それもそうですね…」 
 小波は微笑む奈津姫に相槌を打ち、着ていた服を脱ぎ始めた。 
 日々の労働と野球の練習で鍛え上げられた、引き締まった体躯。長期にわたる放浪が、彼から贅肉を奪い、無駄のない体型を作り出した。 
 肉棒も、大きさは申し分ない。興奮のせいで、既に上方へそそり立っている。 
 奈津姫も服を脱ぎ、下着をはずした。 
ボディラインは滑らかな流線型を描いている。胸は豊満とまではいかないものの、形が整った美しいラインを描いていた。 
 秘部は既に十分に潤っており、太股の内側は溢れ出た愛液が流れ落ちている。 
 裸体を小波にまじまじと見つめられると、羞恥心とわずかな愉悦で身体が熱くなっていく。 
 「…あまりじろじろ見ないで…」 
 「あの時は暗くてよく見えなかったから、よく見ておきたいんですよ」 
 小波は奈津姫の背後にまわり、囁きながら裸体に体を絡ませる。 
 「綺麗ですよ、とっても柔らかくて…いい香りがします」 
 「そんなこと…」 
 耳元で囁かれる甘い言葉が、彼女を快楽に酔わせていく。 
 「…奈津姫さんは確か…こうされるのが嬉しいんでしたよね?」 
 小波の指が、奈津姫の乳房に乗っかった桜色の突起を、指で何度も弾き、乱暴に摘み上げる。 
 「あっ…」 
 乳頭を甘噛みされると、意識が飛びそうなほどの快楽が襲い掛かった。 
 「っ…小波さん…やめて…」 
 「いいんですか?」 
 「もう、恥ずかしくて…」 
 奈津姫は懇願するが、小波は攻めの手を緩めない。 
 「じゃあ恥ずかしい姿、もっと見せてください」 
そう言って笑い、彼女の秘所に左手を伸ばした。 




 小波の冷たい指が、興奮して熱を帯びた秘所の中をまさぐりはじめる。 
 「んっ…やめて…」 
 自分の中でうごめくひんやりとした快楽に、思わず声をあげてしまう。 
 「こんなに濡れて…もう前戯の必要なんてありませんね」 
 小波は耳元で囁き、耳たぶにそっと息を吹きかける。 
 「はぁっ…」 
 突然の不意打ちに力が抜け、声が出てしまう。それを抑えるように力むが、その行動が、ますます小波の攻めを激しくしていく。 
 「我慢しないで下さい、奈津姫さん?」 
 「はぁぁっ!」 
 小波はにやにやと笑いながら、膣内の肉壁を、指の腹でくすぐるように引っかいた。 
 「でも大きな声を出したらカンタ君が起きちゃうかもしれませんね?困りましたね…」 
 「ひぁっ…はぁん…」 
 小波に言われて、はっと気づく。こんなところを息子に見せるわけにはいかない。残っている理性を総動員して、なんとか声が出ないように口を押さえる。 
 奈津姫が声を出すまいと口を押さえるのを確認してから、小波は彼女の秘部に指を激しく抽迭しはじめた。 
 「んっ!ひぃっ…!」 
 快楽が一気に襲い掛かるが、声を出したくても出せない。我慢しながら、愛液を垂れ流すことしかできない。 
 「(我慢なんか…できるわけないじゃない…!)」 
 歯をくいしばり、目を瞑り、息を荒げながら快楽の波に必死に耐える。 
その姿はあまりにも痛ましく、その痛ましさが小波をますます欲情させる。 
 「…んひっ…はぁ、はぁ…くっ!」 
 「奈津姫さん…声を出さないと、気持ちいいものも気持ちよくなくなりますよ?」 
 「で、でもっ…!」 
 「奈津姫さん、たまには自分のことだけ考えてみたらどうですか?」 
 小波が耳元で囁やいた。 
その台詞はシンプルだったが、奈津姫の残っていた理性をあっさりと陥落させるには十分すぎるほどの威力を持っていた。 
 体裁なんてどうでもいい。他人に見られても構わない。浅ましいとバカにされても気にしない。 
 今はただ、大好きな男にめちゃめちゃにされて、疲れ果てるまで快楽に溺れてしまうことだけを考えればいいのだ。 
こんなときにまで、周囲の目を気にする必要はないのだ。 
 「小波さんっ…!もっと…!」 
 理性を捨て去った奈津姫は、艶かしい身体を淫らにくねらせ、しぼりだすように言った。それを聞いて、小波はにやりと笑う。 
 小波の右手の人差し指が、彼女の性感帯の弱点部分を確実に貫きはじめた。同時に、左手は彼女の女陰の上部にある突起をしごき始めた。 
 「はぁぁっ!はぁん!あはっ!あああっ!」 
 指の動きに合わせて、意識が吹き飛びそうになるほどの快楽が襲い掛かってくる。 



 「どうですか、奈津姫さん?」 
 「んひぃぃっ!ひゃっ、はぁっ!」 
 着実に絶頂に近付いている。先ほど我慢していた分も含んだ快楽が、津波のように押し寄せてくる。 
 「もう…ひぃっ…」 
 「我慢しないでいいんですよ!」 
 小波の指先が、奈津姫の膣内の弱点を引っ掻き回し、同時に淫核をひねり潰した。 
 「はぁぁぁぁぁっ!はぁっ!ああっ!」 
 全身が痺れるような感覚に襲われ、頭の中が白い火花で満たされる。体が弓なりに反り、手足の先が小刻みに痙攣を起こす。 
 数ヶ月ぶりの絶頂は、彼女の全身に快楽の電流を走らせていく。 
 「…はぁっ…」 
 奈津姫はしばらく小刻みに体を痙攣させていたが、最後に大きく痙攣してから、糸の切れたマリオネットのように倒れた。 
 倒れこむ彼女の肩を、小波がしっかりとささえる。 
 「大丈夫ですか?」 
 「…はぁ…はぁ…ごめん、なさい…力が、抜けちゃって…」 
 息を荒げ、蕩けた目で小波を見つめる。その顔に、小波はどきりとしてしまう。 
 「…奈津姫さん、すごいなぁ…」 
 「…はぁっ…はぁ…大丈夫かしら…こんなに大きな声だしちゃって…っ…」 
 今更のように頬を手で押さえながら赤くなる。ここまでなりふり構わずに乱れてしまうとは、2人とも予想できなかった。 
 「…起きちゃったかもしれませんね…」 
 「や、やっぱりそうかしら…いけないわ…」 
 「まぁでもカンタ君も起きないと思いますよ?ここからカンタ君の寝ているところまでは、結構距離がありますから… 
俺の言うこと、さっきからころころ変わってますけどね」 
 小波はそういって微笑む。それを見てすっかり安心したのか、絶頂後特有の疲労感と深い安堵が、奈津姫の体にどっとのしかかった。 
 「いじわるね…」 
 奈津姫はうっすらと涙を浮かべ、小さな声で呟く。 
 「そんなこと言うから、いじわるしたくなるんですよ」 
 小波はそう言って、奈津姫の頬に軽くキスをした。 




 既に前戯は十分すぎるほど行った。本番はこれからだ。奈津姫の秘所は愛液を泉のように流している。 
 「…小波さん…お願いがあるの。聞いてくださる?」 
 「何ですか?」 
 奈津姫は熱にうかされたような声で、小波に尋ねる。小波は奈津姫を押し倒したくなる欲望を抑え、平静を装ってたずね返す。 
 「俺にできることなら、何でもやりますよ」 
 「それなら…今だけは、奈津姫って呼んでくれる…?」 
そういいながら、奈津姫は小波に抱きついた。 
 「…奈津姫さん…」 
 小波は抱き返そうとして、暫し戸惑った。 
そこは超えてはならない最後のラインだと決めている。そこを超えれば、自分は人として失格であるとまで考えている。 
 小波には、彼女の最愛の人間だった男の居場所をのうのうと占領することに抵抗があった。 
 「あ、あの…だめならいいんです。私ったら何言っているのかしら…」 
だが今だけは、彼女の望む男になってやるべきではないか。 
きっと彼女は、周囲の目を気にせず、大好きな男の腕の中で、望むようなシチュエーションの中で果てたいのだろう。 
それなら、その望みをかなえてやるのが自分の務めだ。 
 「…ああ、わかったよ、奈津姫…」 
 小波は奈津姫の頭を撫ぜた。奈津姫は頬を朱に染め、恥ずかしさを紛らわすように小波に抱きついた。 
 女性特有の芳香が鼻腔をくすぐる。柔らかな乳房が肋骨に当たる。華奢な腕は小波の身体に巻きつき、はなれようとしない。 
 「大好き…」 
 「俺もだよ…じゃあ、その…本番、いいかな?」 
 小波は遠慮気味に尋ねる。奈津姫は恥ずかしそうに、しかし嬉しさを隠し切れない様子で、一度だけ頷いた。 



 奈津姫を布団の上に寝かせ、足をそっと広げさせる。 
 「大洪水だな…そんなに気持ちよかったのかい?」 
 「言わないで…」 
 奈津姫は顔を真赤に染めて目を逸らす。その様子が、たまらないほどかわいらしい。 
 「…小波さん、いいの?」 
 「何が?」 
 「あの、まだ…その…口とかでしてあげてない…」 
 「いいよ、どうせ今から奈津姫に白い粉になるまでしぼり取られそうだから」 
 「そ、そんな…」 
 小波の半ば本気の冗談に、奈津姫の顔はどんどん紅潮していく。 
 「それじゃあ、そろそろ…」 
 小波はそう言って、そそりたつ肉棒を奈津姫の股間にあてがった。 
 「…準備はいい?」 
 「ええ…」 
 「それじゃあ…せぇ…のっ!」 
 掛け声とともに、小波の肉棒が、奈津姫の淫裂に侵入していく。 
 「…くっ!?」 
すぐさま射精感に襲われる。小波はぐっとこらえるが、奈津姫の膣内は暖かく柔らかで、自らの分身を優しく包み込み、淫らにしめつけて射精をせがむ。 
 懸命にこらえるが、数ヶ月ぶりの女性の体の中はあまりにも刺激的で、忍耐力などというものは冗談のように消えうせていく。 
 奈津姫は腕を小波の首の後ろへ回し、足は小波の腰の部分をしっかりとホールドする。その動きにあわせ、膣内のしめつけが強弱の波を起こして射精を促す。 
 精を搾り取ろうとするその淫らな動きに、小波はまったく耐えられなかった。 
 「で、出るっ…!」 
そう叫んで、白く濃厚な自分の欲望を彼女の中に一気にぶちまけた。 
 「はぁっ…中、に…」 
 奈津姫は、体全体が満たされていくような感覚にとらわれ、心地よさそうに息を震わせる。 
 「…すごい…たくさん出てる…」 
 奈津姫は恍惚とした表情で呟く。その顔を見て、小波は情けなさと罪悪感で胸がいっぱいになっていくのを感じた。 
 相手のことをまったく考えていない、自分勝手な射精だ。しかもあろうことか彼女の膣内に、ものすごく濃厚なものを放ってしまった。 
 「…ごめん、奈津姫…」 
 小波はすまなそうな表情をして謝るが、奈津姫は首を振って返す。 
 「いいの…私で気持ちよくなってくれたってことでしょう?」 
 奈津姫はそう言って、嬉しそうに笑う。その表情に、小波はどきりとする。どこか疲れを見せたその表情が、実に扇情的なのだ。 
 「これからが本番なんだから…もっとたくさん、出してくださいな?」 
その台詞とともに、淫裂がまとわりついてくる。 
 「はぅっ…」 
 彼女の不意打ちに、小波は情けない声をあげた。 
 満足して萎えかけていた自分の分身が、さらなる快楽を求めて硬質化する。 
 「(な…奈津姫さんの中ってこんなに…っ!)」 
 普段の、清楚で働き者で真面目で顔にかわいらしさを残す彼女からは、到底考えられないほど淫らな動きだ。 
 精液をさらに搾りとろうとする動きが、小波の意識を支配していく。小波はすっかり、彼女の体に魅了されてしまった。 
 「ね?」 
 奈津姫がにっこりと微笑む。その微笑で、小波の中のリミッターが外れかける。なんとか踏みとどまり、小波は質問をした。 
 「…奈津姫さん、今日は安全日ですか?」 
 「…え、ええ…そうですけど…小波さん、そういうことあまり聞くものじゃないわよ?」 
 奈津姫は視線を逸らしながら答える。おそらく恥ずかしいのだろう、と小波は解釈した。 
 「それなら…遠慮なく乱打戦を楽しむとしようか」 
 小波は奈津姫の髪を整えてやりながら、耳元で呟いた。 
 「今夜は寝かしてあげないよ?」 
 「はい…」 
 奈津姫は恥ずかしそうに微笑んだ。 



 一度離れて体力を回復しようと、小波は腰を浮かす。すると、何かに体をつかまれた。 
 「…」 
 「…な、奈津姫さん?」 
 奈津姫が足をがっちりと小波の腰に回し、離れたくない、とでも言いたげな表情で抱きつくようにしめつけている。 
 小波はますますにんまりとした顔になり、奈津姫の頬を指でつつきながら言った。 
 「そんなに中に欲しいのか、奈津姫は意外と淫乱だね?」 
 奈津姫は恥ずかしそうな表情で目を逸らす。 
 今こそ「絶倫」の異名を持つスタミナの使いどころだ。小波は左手で体を支え、空いた右手で、彼女の胸を乱暴に、押さえつけるように揉みしだきはじめた。 
 「くっ!」 
 奈津姫は胸に襲い掛かる痛みに声をあげるが、小波はそんなことは知らぬといった様子で、乳房を乱暴にこねくり回した。 
 手に収まる程度の大きさの胸は柔らかく、その先端の乳頭はすっかり勃起していた。それを欲望の赴くままにつねりあげ、嘗め回し、軽く噛みつく。 
そのたびに、奈津姫は痛ましい声をあげて悶える。 
 「はぁっ!やめて…痛い…!」 
 「うるさいっ!」 
 小波は吐き捨てるように言って(もちろん9割がたは演技である)、腰の前後運動をはじめた。 
 小波の逸物は射精後の一連の行動ですっかり硬くなっており、彼女を貫く棒としては十分な威力を持っている。 
それが奈津姫の膣内の奥を何度も貫いて、彼女を否応なしに絶頂へと導いていく。 
 同時に乳首を痛くない程度に甘噛みし、歯形をつける。 
 「はっ、痛っ…!もうダメッ…!」 
 「くっ、出す!出すぞ…!」 
 先ほどより濃く、ねっとりとした精液を、小波は彼女の中に一気に放出した。 
 「はぁぁぁぁっ!はっ、はぁっ…」 
 奈津姫はただ、熱に浮かれたような顔で、自らの中に放たれた精を受け止める。 
 自分の中に、愛しい男の人のそれが流れてくる。そのことが、奈津姫を更なる悦びへと昂らせていく。 
 「小波さんっ…!」 
 彼女の淫裂のしめつけが、いきなり強くなる。小波は射精しながらも、なんとか力を振り絞って腰を前後に動かし続ける。 
 「ひぁぁっ!はぁっ、はぁ!小波さんっ!」 
 「奈津姫…!」 
 快楽が迫っているときに、さらにそれを後押しされる。奈津姫は、あっさり絶頂を迎えた。 
 「ひぁぁぁぁっ!」 
 家中に響くのではないかというほどの大きな声をあげ、奈津姫の体が硬直する。 
 快楽に何度か痙攣を起こす。呼吸が不規則になり、目尻から涙が伝い落ちる。 
しばらく息も絶え絶えに体を痙攣させたあと、奈津姫はばったりと布団に倒れこんだ。 
 「はぁ、はぁ…」 
 「はは、顔がぐちゃぐちゃだ…」 
 小波はそういいながら、奈津姫の髪を適当に整え、涙を拭ってやる。奈津姫はすっかり疲れきったようで、うつろな眼で小波を見やった。 
 「…小波さん…ひどいわ?歯形、残っちゃった…」 
 「ごめんごめん…」 
 奈津姫は表情こそ怒っていたが、内心では喜んでいた。これはキスマークのようなものなのだ。キスマークより苛烈な、愛と欲望の刻印なのだ。 
 「…大好き…」 
 「俺もだよ、奈津姫。…にしても、抜かずに二回なんて…ふぅ…」 
どんなに絶倫の男でも、「連続して」射精するのは非常につらいものなのだ。それを危惧したのか、奈津姫は心配そうに尋ねる。 
 「…小波さん、まだ大丈夫?」 
 「もちろん、今日は寝かせない、って言ったよね?」 
 小波は笑って答えた。 
 「せっかく久しぶりにしたんだ。これだけで終わるなんて、あまりにももったいないじゃないか。奈津姫さんは大丈夫?」 
 「ええ、大丈夫…ありがとう、小波さん」 
 「こんなことで礼なんていうものじゃないよ…」 
 小波はそう言って、奈津姫を抱き寄せた。 


それからどれほど経っただろうか。 
 何度も奈津姫の膣内に射精し、文字通り精根尽き果てた小波は、疲れ果てて布団の上に寝転がっていた。 
 右腕には奈津姫が幸せそうな表情で、腕を枕にして寄り添っている。 
 「ねぇ、小波さん」 
 「何です?」 
 事後の余韻に浸っている小波に、奈津姫が尋ねる。 
 「今日は安全日、って言ったでしょう?」 
 「ええ…これだけ出せば関係ないと思いますけどね」 
 小波はそういいながら、内心で焦り始める。そこに、奈津姫の言葉が追撃をかけた。 
 「…あれ、嘘なのよ」 
 「…え?」 
 小波の全身のから、冷や汗がどっと吹き出る。 
 「だって…そうじゃないと小波さん、遠慮しちゃうでしょ?そういうのは嫌だったから…」 
 「…え…?」 
 奈津姫はにっこりと笑って言った。 
 「責任、取ってくださる?」 
その笑顔が、なんとなく怖い。彼女は決して怒っていないだろう。しかし、その無垢な笑顔が逆に恐怖を煽り立てる。 
 「…腹を決めましょう」 
これは避妊具をつけなかった自分が一方的に悪いのだろうし、むしろこれは関係をはっきりさせるいい機会かも知れない。 
だが、自分はこれからどう身を振るべきなのだろうか。従業員と店主の関係ではもう済まされない。 
そんなことを考えていると、奈津姫が小波に擦り寄ってきた。 
 「…あと、二人きりのときだけでいいから…これからも奈津姫って呼んで…」 
 「ああ、わかったよ、奈津姫…」 
 自分の胸に乗せられた彼女の頭を撫でながら、小波はつぶやいた。 
これから先のことなんて、これから考えても遅くはないだろう。 
そう考え、小波はゆっくりとまどろみの中へ落ちていった。 


 鳥のさえずりで目を覚ました。 
 「…ん」 
 時計を見ると、既に開店間際の時間だった。しばらく時計を見て、しばらく朦朧とした頭で昨晩のことを思い出していたが、突然頭に稲妻が駆け抜けた。 
 「あ、仕事!」 
 急激に意識が現実へと引き戻される。小波は急いで立ち上がり、枕元に畳んで置いてあった服を着た。 
 布団のシーツの上にはシミがたくさんできている。 
 「(昨日は本当にすごかったな…久しぶりだったとはいえまさかあそこまでなぁ… 
普段の真面目な彼女は、夜になると淫乱でした…って、なんかのビデオの広告じゃないんだから…)」 
 小波はそんなことを思いながら、大きく伸びをする。体にはものすごい疲労がのしかかっているが、これから仕事なのだ。休むわけにはいかない。 
 「今日は土曜日だからお客さんもいっぱい来るな…」 
そう呟きながらエプロンと帽子を被り、手を洗ってからカウンターに出る。既に店の準備は終わっていた。 
 「おはよう、今日はおねぼうさんだねぇ」 
 手伝いに来ているエプロン姿の広川武美が、にこやかに笑って挨拶をする。 
 「はい、お水。これ飲んでシャキッとして!そんな眠そうな顔じゃお客さんが不愉快になるよ」 
 「ああ、ごめんごめん…疲れてるのかな」 
 武美が言うのだから相当疲れた表情をしているのだろう。小波はそう思いながら、氷の大量に入った水を飲む。 
 冷たさで頭の中をしゃっきりさせ、大きく伸びをする。まだけだるさが残るが、自分は従業員なのだ。 
 「で…夕べはお楽しみでしたね?」 
 「ん?何を?」 
 「奈津姫には内緒だよ?…カンタ君が覗いてたって」 
 心臓が跳ね上がった。氷水なんかよりよっぽど目が冴え渡ってくる。いい目覚ましになったなぁと心のどこかで考えている自分が憎い。 
 「(ま、まずいんじゃないか…!?)」 
 「小波さんって隠し事が下手だね」 
 武美が半眼で小波を見つめる。小波はそこではっと気づいた。 
 「カマかけてたのか…!」 
 「引っかかる方が悪いんだよ」 
 「あー…」 
 小波は恥ずかしさを紛らすように額を掻いた。 
 「まぁでもよかった、カンタ君が見ていたわけじゃなかったのか」 
 「(…カンタ君が見ていたのは本当なんだけどね)」 
 武美は答えを返さず、厨房を見やる。 
 「〜♪」 
 奈津姫は鼻歌交じりにカレーの鍋をかき混ぜている。何か嬉しいことがあったのだと、一目でわかってしまう。 
 「ちぇっ、妬けるなぁ」 
 「え?今なんて…」 
 「なんでもなーい。さ、お店あけるよ」 
 武美はそう言って、店の入り口へと向かっていった。 




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