「うーん、日本刀とマドファは用意しておかないと厳しいよな…マサムネは温存しておきたいし」

ブツブツと次の冒険への構想を練りながら歩くのは、冒険家小波。
相当な数の事件を解決している、そこそこに名の知れた冒険家である彼だが、その懐事情は厳しい。
今日も駅で60円の日本刀を買うか否かに散々悩んだ程だ。

「あ〜あ、詩乃ちゃんのアメノムラクモみたいに、壊れない強力な霊刀でもあればなぁ」

溜息と共にそうぼやく小波。
アメノムラクモとは、先日出会った少女、詩乃から依頼を受けて行った冒険にて、盗賊団から取り返した物で
彼女の神社に奉られていた御神体であるその刀は高い攻撃力と、耐久性を有している。
相手が人外の者、この世の者では無い存在にも有効であり、その汎用性は非常に高い。

「というか、御神体を普通に戦闘に使って良いんだろうか…詩乃ちゃんの巫女さんとは思えない妙な戦闘力の高さも謎だけど…」

「あ、小波さんやん」

色々と謎の多い娘だなぁと改めて思っていると、その件の少女に後ろから声を掛けられた。

「やぁ詩乃ちゃん」

「買い物の帰り?」

「うん、武器類を少しね。本当はもう少し準備したいんだけど持ち合わせが…」

「なぁなぁ、こんな街中で会ったのも何かの縁やし、お芝居でも見に行かへん?その後甘味所であんみつとかもええなぁ」

「詩乃ちゃん話聞いてた?ウチの事務所にそんな余裕はありません!」

「ぶーいけずー。ケチな男はモテへんでー」

頬を膨らまして小波に視線をぶつける詩乃。
小波も出来れば男を見せたい所ではあるが、ヘタすれば売られる身としては少しでも節約しておきたい。

「そうだなぁ…詩乃ちゃんは次の冒険には参加出来ないよね?」

「うん。前の冒険も大変やったから、ちょっと遠慮しとくわ」

「じゃあそのアメノムラクモ、ちょっと貸してくれない?」

詩乃の腰を指差して言う小波。
言われた詩乃はぽかんとした顔で、聞き返す。

「へ?なんでなん?」

「次に行こうと思ってる依頼も、どうやら霊的なものがいるみたいだからさ。
 鬼の手使うのも勿体無いから、貸してくれると助かるなって」

「えーあんまり人の手に渡したくないなぁ。壊されても困るし」

「剣の扱いには多少自信はあるんだけどなぁ。詩乃ちゃん普段ガンガン使ってるし」

「む、素人剣法やと思って馬鹿にしてるやろ。
あのなー小波さん。私は由緒正しき歴史のある蕪崎神社の正統な血を継ぐ巫女やで?
当然そこに奉られるアメノムラクモを扱う修行もぎょーさん積んどんねん。
そんな私だから使えるのであって、精神統一もろくに出来ない小波さんが簡単に使いこなせる訳ないやろ?」

自信あり気にフフンと笑いながら言う詩乃。
駄目元で言ってみただけの小波ではあるが、そう言われては冒険家のプライドがむくりと顔を上げる。

「大丈夫だって、詩乃ちゃんに貰った霊刀だってしっかり使えてたし。ちょっと練習したら越えちゃうかもよ?」

「なんやてー!そこまで言うなら勝負や小波さん!私が勝ったらお芝居と映画とあんみつ10杯奢ってもらうで!」

「…太るよ?」

「女の子に太るとか言うたらアカン!」

「…で、勝負と言っても何をするんだい?」

「私と小波さんの勝負と言えば決まってるやん。ズバリ、精神統一勝負!」

「…ずるくない?」

小波が聞くと、だって霊刀を賭けた勝負なんやから仕方ないやん?と笑顔で返す。
もう頭の中は勝利後の甘味でいっぱいの様だった。

(このままじゃ負けは確定事項…何か策を考えないとな)

傍らの少女の嬉しそうな顔を見ていると、別に負けてあげてもいいなという気持ちも起こっていたが
同時に、それ以上に、その顔を崩してみたいという被虐心も顔を上げる。
いつもの広場に向かう最中、小波の心中では良心との激しい戦いが繰り広げられていたが
着く頃には決着が着いていた。

「で、着いた訳だけど。ルールはどうする?」

「せやなぁ。修行なら軽く3時間はやる所なんやけど、あんまり遅くなると店が閉まってまうし
 30分、て所やろうな」

「30分、俺が集中し続けて居れば良いって事?」

「うん、手を前に組んで印を作って、直立不動で耐えられたら小波さんの勝ち。
 まぁ普段10分もじっとしてられへん小波さんには無理やと思うけどなー」

フフンと小悪魔的な流し目で小波を挑発する詩乃。これも怒らせて動揺を誘う、作戦の一つなのだろう。
そんな事をしなくても勝てる自信はあるのだろうが、念には念という事だ。
実際、このルールで勝負をしていたら小波の負けは確定だっただろうが、小波も無策で挑む訳も無い。

「その間、詩乃ちゃんはどうしてるの?」

「ただ待ってるのも暇やから、隣で私もやってるよ。大丈夫、小波さんの集中が途切れたり寝たりしたら気配で分かるから。
 ズルは通用せえへんで?」

「ふーん。じゃあさ、詩乃ちゃんも30分の間に集中が途切れたら負けって事だよね?」

小波が聞くと、詩乃はきょとんとした顔をして3秒程間が空いた後、笑い出した。

「あははははっ、おもろい冗談やなぁ小波さん。
24時間飲まず食わずでやり遂げた事のある私が、たかだか30分で音をあげるって言うん?
自分に自信が無いのは分かるけど、そっちの方がよっぽど可能性が低いと思うで?というかゼロやゼロ」

「それじゃあ良いんだね、その条件で?」

「うん、おーけーおーけー。じゃあ早速始めよか」

小波の悪足掻きの様な提案を、詩乃は半ば呆れまじりに軽く受けた。
この提案に隠された裏の顔に…了承を得た際、小波がニヤリと笑った事に気付かずに。

勝負が始まって10分が経過していた。
両者共、ここまでは身じろぎ一つせずに集中を続けている。

しかし、小波の方は早くも限界が見え始めていた。
表情は涼しいままだが、心中では『飽きた』の三文字が巡っている。
ただぼーっとするのなら得意な小波だったが、それを強要されるとこうも違うんだなと
これをする度に毎回抱く感想を今回も抱いていた。

(…ふぅ、正攻法で勝てるならそれが一番良いかと思ってみたけど、やっぱり俺には無理だな。機を狙って…いくか)

小波の作戦は二枚腰だった。
とは言っても一つ目で勝てるとは全く思っていなかったが。そこまで甘い相手でも無いだろう。

一つ目の勝利条件「小波が30分集中を続ける」は放棄する。本命は二つ目だ。

小波がその為のプランを練り終わり、行動に移すのはそれから3分後の事だった。

(ふーん、思ってたより粘るなぁ。まぁ別に集中はしてへんみたいやけど)

傍らの小波の気配を感じながら、詩乃はそんな事を考えていた。
精神統一勝負、と言ってはいるものの、相手が本当に集中しているかどうかなんて
分からない以上、ただの我慢大会の様なものだ。
厳密に言えば、詩乃は何となく気配で相手が何かを考えているのか否かは分かるのだが、それを証明する事が出来ない以上は
言っても水掛け論になるだけなので結果としては同じ事だった。

(ま、それを言うたら私も、今こんな事考えてるんやから他人の事言えへんのやけどな。
 30分ぽっち精神統一した所で、何も変わらへんし、だったらこの勝負の後のでーとの計画を練ってた方が有意義やろ)

そう考え、街中を想い浮かべていた詩乃だったが、ふと気になった。

(そうえば、小波さんは何であんな事言ったんやろ?)

あんな事、とはさっきの小波の質問から出来た追加ルールの事。
小波と同じく、詩乃も30分の間集中し続けなければ敗北になるというルール。
さっきはそんな事がある訳が無いと二つ返事で了承した詩乃だったが、改めて考えると少し不安になって来た。
いや不安というより、妙だという疑問か。

(小波さんは何だかんだ言うても賢い人や。その人が無駄な提案をするやろか…。
 何か、裏があるんじゃ…)

ザッ

そう思考が移行した時、隣の小波が動く気配がした。

「ふぅーやっぱり俺には無理だよ」

そしてそんな声が聞こえた。
小波のギブアップ宣言。何の事は無い、拍子抜けする程予想通りの詩乃の勝利だ。

(な、なんや。あっさり勝ってしもたな。まぁ小波さんにしては頑張った方やね)

結局ただの杞憂だったかと安心し、目を開けて声を出そうとした瞬間

「――――――――!」

気付く。小波の仕掛けた罠に。
まだ時間は勝負を開始して15分も行っていない。
勝負のルールは「30分の間、集中を維持しなかったら負け」
もし今詩乃が「もーだらしないなぁ小波さん」等と言って集中を解いていたら
詩乃も負けていた事になる。

勿論、小波の方が先に負けているのだから、それを盾に言い張る事も出来るが
何かそれは美しくない気がするし、してやられた感が詩乃の中に産まれているのは事実だから
それで勝ちと主張するのは厳しい物がある。元々詩乃有利の勝負だけに。

(あ、危ない危ない。これが小波さんの作戦…セコい手を使うなぁ…)

内心では冷や汗を流す詩乃だったが、外面は一切の揺らぎを見せていない。
どこからどう見ても集中を継続させていた。
あえてギブアップして詩乃の自爆を誘うという小波の作戦は、空を切った。

(ま、作戦としては悪く無かったけど、私は気付いたで!小波さんの刃は空振り。
後はただ時間が過ぎるのを待つのみや)

勝利を確信し、心中で笑みを浮かべる詩乃。
ただ、それは些か早過ぎると言わざるを得ない。…小波の作戦は二枚腰。
刃はもう一本残っている。

「ふっ」

(はわっ!?)

耳元に突然息を吹きかけられ、詩乃は大きく動揺する。
体を動かさなかったのは日頃の鍛錬の賜物だろう。だが心の方はそうはいかない。

(ど、どどどどどどど、どーいうつもりにゃん!?小波さん!?)

心中で噛んでしまう程にパニクる詩乃に対して、小波が口を開く。

「へーこれでも微動だにしないとは、流石だね詩乃ちゃん」

「――――!――――!」

悪びれる風も無くそんな事を言う小波に、色々言いたい事がある詩乃だったが
声を出しては負けになってしまう為、それは出来ない。
それどころか感情を表情に表す事も出来ないので、不本意ながらただ黙っている事しか出来ないのだ。

「詩乃ちゃん。多分気付いてたと思うけど、俺の作戦はあえてギブアップして詩乃ちゃんの自爆を待つ事。
 話の持って行き様によっては、勝ち扱いにする事も出来る…これが一つ」

淡々と告げる小波。
それを聞き、詩乃は自分の読みは間違っていなかったという事に安堵すると同時に、それに続く言葉に恐怖を覚えていた。

「まぁこれは多分駄目だと思ってたよ。本命は、二つ目の策」

ゆっくりとした、焦らす様な語りに、詩乃は自分の心が小波の手で握られている様な想像を抱いていた。
そして次の言葉で、その手はぐっと握る事となる。


「俺がこの手で詩乃ちゃんをイかせる事で、集中を解いてあげようってね♪」

「ふわぁあああああああああああ!!!」 ビクビクッ!

30分の経過まで、後10秒を残した所で詩乃は絶頂に達した。
全身が脱力し、くったりとそのまま倒れそうになる詩乃を小波が抱き留めて支える。
ずっと堅く閉じていた口から、遂に零れ出た嬌声は大きく周囲に鳴り響き
詩乃自身が自分の声に驚く程だった。
人通りの少ない広場ではあるが、時刻はまだ夕暮れ前なので誰かが周囲に居る可能性は低くは無く
その事に小波は心臓の鼓動を速くして、きょろきょろと周囲を見渡したが
幸いにも声の届く範囲には誰も居なかった様だった。

(や…やってしまった。ここまでするつもりは無かったのに…)

人が居なかった事に安堵した後、小波が我に返る。
当初の予定では、軽く首筋に口づけでもすれば直ぐに音を上げるだろうから
怒る詩乃に「ま、これから色々と奢らせられるんだから、これ位の役得はあっても良いだろ?」とでも言って
頭を撫でて終わらせようと思っていたのだが
思いの外、詩乃が我慢強かった事と、責める事でどんどん膨れ上がって来た色気にやられて
すっかり暴走してしまっていた。ほぼ理性がトんでいたと言って良い。

(時間は…大体あれから15分か。その間中ずっと暴走していたなんて…)

小波はそれなりの年齢であるし、冒険家という職業柄、色々と出会いは多く
その中で多くの女性と関係を結んだ事はあるが、そんな経験など何の役にも立たない程に興奮してしまっていた。
詩乃の白い肌。その柔らかさ、滑らかさはこの世の物とは思えない程、極上の物だった。
その肌が行為の流れの中で、紅潮していく様、ピクリピクリと反応してしまっているのを見て
どうしようも無い程、めちゃくちゃにしたいという被虐心が盛りあがった結果が、今のこの状況である。

(い、いやでもこれは仕方ない。まだ十代も半ばの生娘が巫女姿で野外で、俺のされるがままになって必死に耐えている…。
 もうこれ以上の燃える状況は俺の人生には訪れないだろう。…今日この日の為に俺はこの世に生を受けたと言っても決して過言ではない)

そんな馬鹿な事を考えて、自己を正当化する小波。
まぁ実際、彼の相棒である眼鏡の男がこの事を知れば、有無を言わさず血涙を流しながら小波の撲殺に走る程度には
妬むに十分なシチュエーションである事は間違いない。
というか普通に犯罪である。法的にも世間的にも浪漫的にも。

(たしかにコレはヤバい………。他の皆に…智美や珠子あたりに知られたら殺される可能性が9割を越える…)

今更自分のしでかした事の大きさに冷や汗を流し出した小波に、小波の腕の中ではぁはぁと荒い息をついていた詩乃が糾弾を始める。

「…こ、…こなみさん…何を、しとるん………?」

「え、あ、うん。い、いやぁ…そのぉ………勝負だからさ」

「しょうぶ………?そんな事のために、お、女の子の体を好き放題………」

腕の中の詩乃の体温が上がって行くのを感じる。
元々肌が紅潮しきる程に、詩乃の体は熱を持っていたのが、更にそれを上回る要因があるとすれば、怒り。もしくは…

「ほ、ホントにゴメン。ここまでするつもりは無かったんだ。
 言い訳にもならないけど…その、詩乃ちゃんがあまりにも可愛いくて…」

「……………っ!」 ぼんっ

ぼんっという擬音と共に、詩乃の体が更に温度を上げる。
それを感じて、小波の中の被虐心がまたしても顔を出す事になる。

「…詩乃ちゃん。ホントにゴメン。目を見て謝りたいから、こっちを向いてくれる?」

そう言いながら、腕の中の詩乃の顔を覗き込もうとする。

「あっあかん!絶対今こっち見たらあかんで!」

しかし詩乃は、それから逃げる様に顔を背ける。
それを見て小波は予想通り、と悪い顔でニヤリと笑みを作った。
怒り以外の、いや勿論怒りもあるだろうが、もう一つの熱の原因。それは、照れ。

(途中からはもう訳分からなくなって、恥ずかしさもどこかへ行ってたんだろうけど
 一旦時間を置いた事で再燃したって所かな。いやー初々しくて良いなぁ)

「まぁでも詩乃ちゃんも、満更でも無かったんでしょ?頑張って耐えてたのは、ホントに勝負の為だったのかぐえっ」

「う、うるさい…」

ボスン、と詩乃の肘打ちという名の照れ隠しが入る。
それにしては高い威力だったので、仕返しの意も多分に含まれているのかもしれない。

「ハハ、これ位力が戻ってるんならもう大丈夫そうだね。じゃあ甘味所にでも出かけようか」

「え?ええの?だって勝負は……」

「それとは別に、単なるお返しだよ。俺はもう詩乃ちゃんから甘味を貰ってるからね」

「へ?………!も、もう!何をゆーとるんよ!」 ドスドス

妙に爽やかに言う小波の言葉を詩乃は数秒反芻して、その意図に気付き
また顔を赤くしながら二度三度と肘打ちを繰り返す。

「全くもう小波さんは助平なんやから!………それにそれゆうたら私だってもうお腹いっぱいやわ(ボソッ)」

「ん?何か言った?」

「なんでも無い!ほら事務所に帰るで!私がお風呂に入ってる間に小波さんは着替えのお洋服を買ってくる事!」

「え``。よ、洋服?それはちょっと持ち合わせが…

「…武田さんに言って、しょっぴいてもらおかなー?」

「この辺で一番の物を買ってきます」

「うん、良い返事や。じゃあ行こか!」


この後も、事務所に遊びに来ていた智美と珠子と出くわして、必死でごまかしたり
夜には勝負の延長戦が行われたりと二人にとって長い一日となるのだが
その話はまたの機会に。






おまけ(最中を書くなら使ってたであろう描写)


スルリ、と小波は詩乃の腰に差してあったアメノムラクモを抜き取った。
未知の快感を抑える事で頭がいっぱいの詩乃は、その事に気付かない。

(ふーん、やっぱり刃も無いし、剣としてはこれ以上無いなまくらだ)

左手で詩乃の下腹部を撫で回しながら、右手で刀の触感を確かめる。
アメノムラクモは御神木で造られた、言ってしまえば木刀なので刃が無いのは当たり前だが
木刀と比べても、全体的に丸みを帯びており柔らかい印象を受ける。

(丁寧にやすり掛けをしてあるんだろうな。なんて滑らかさ…これなら)

「ね、詩乃ちゃん」

耳元で声を掛ける。どうやら詩乃は耳が弱い様で、それだけでビクリと反応してしまっていた。
小波が声を掛けた理由。詩乃が声を出せない事は分かっているので、それは会話の為では無く、宣言をする為だった。

引いては――確認の為でもある。詩乃がどれだけ快楽に堕ちているのかの。
残り時間は約3分、仕上げの始まりだった。


(ア、アカン!絶対にアカン!神聖な御神体をそんな事に使うなんて!)

頭では、勿論拒絶の意志を持つ。
しかし、心はそうはいかなかった。小波の言葉を聞いた瞬間に産まれた、ゾクリとした感情。
その感情の正体は期待感。
そのこれ以上無い、背徳的な行為に対する期待に詩乃の心はどんどん犯されていく。


ジュプジュプと淫靡な水音と共に、詩乃の秘所を出し入れされるアメノムラクモ。
剣自体が持つ霊力と、詩乃の霊力が共鳴してそれは異常な程の快感を産んでいた。

「フフフ、悪い巫女さんだねぇ詩乃ちゃんは。神聖な御神体で苛められてるのに、こんなに歓んじゃって。
 本当にいやらしい娘だ」


詩乃は自分と自問自答を始める。
何故抵抗をしないのか?

力が入らない訳では無い、やろうと思えばいつだって逃げられるハズだ。
目を開けて、止めてと声を出して、一歩前に歩けば恐らく小波は続ける事はしないだろう。
簡単な事。それだけでこの異常な時間から逃れられる。

―――逃れられて、しまう。

(!わ、私今、何を考えて…ぁんっ!あ、あふっ……!!)

詩乃は気付いてしまった。
これは勝負だから、負けたく無いから、勝った後のご褒美が楽しみだから。
そんな言葉で武装して、自分の心を誤魔化していたという事に。

負けたくないからでは無く、終わってほしく無いから自分は耐えられているのだという事に。

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