Beautiful World stage.4

 やれやれ、変身ヒーローも楽じゃない。ネルフ職員の説教を聞き流し、僕は内心でため息をついた。あの後変身を解き、こっそりシェルターに戻ったんだけど、そこでは先生が委員長とケンスケにお説教してる最中だった。結局、僕も外に出ていたことがバレちゃって、一緒にお説教。警報が解かれて家に戻ると、ネルフの人が来て、抜け出したことの厳重注意を受けることになったんだ。僕が委員長とケンスケが外に出るのを目撃して連れ戻そうとしたという、あらかじめ考えておいた言い訳もしたんだけど、そういう時は大人の人に言いなさいとまた注意を受けてしまった。使徒になっても、僕の頭の出来は変わらないらしい。一通り説教が済むと、ネルフの人は帰っていった。
 退屈な時間だったが、それだけの価値はある。ネルフが僕を見つけたのだ。現在MAGIが徹底的に僕の身元を洗っているだろう。そして実に怪しいことが分かる。けどそれだけだ。正体までは分からない。今後、近いうちにネルフからのアプローチがある筈。向こうがどんな手を打ってくるか分からないけど、まぁ、僕はやりたいようにやるだけだ。

 それからまた2週間。委員長が登校してくるようになったけど、代わりにケンスケがちょくちょく休むようになった。たまに来ても授業が終わると真っ先に帰ってしまう。多分、ケンスケはエヴァのパイロットに誘われたんだ。そしてそれを引き受けた。トウジの死や使徒を目撃したことがケンスケにどんな影響を与えたのかは分からないけれど、その真剣さに前の時みたいな英雄願望や兵器への憧れは見当たらない。
 けれど、状況は悪い。ケンスケがどれだけ戦えるのか分からないけど、次のビームを放つ使徒にはどうやっても勝てない。エヴァが1機しかないからヤシマ作戦はできないんだ。ミサトさんなら何か他の奇抜な作戦を考えてくれるかもしれない。けど、仮に作戦が思いついても、勝つ確率は前の時より低いだろう。かと言って僕が飛び込んでもうまく戦えるとは思わない。いくら頑丈な僕でも、あのビームは耐えられないかもしれない。でもケンスケを見捨てるわけには行かない……結局、ぶっつけ本番でがんばるしかないって事か。
 ネルフからの接触はまだ無い。多分ケンスケの訓練や、次の使徒への対応でそれどころじゃないんだろう。だけど、ネルフに関係ない人間って、本当にネルフと関わることが出来ないものなんだなあ。前の時、ケンスケがいつもネルフのことを聞きたがっていた気持ちが少しだけ分かる。そのケンスケが今はエヴァのパイロット。僕は一般人。世の中分からないものだ。夢の中だけど。
 そんなことを考えているうちに、町中に警報が鳴り響く。使徒だ。前の時、エヴァは遠く離れた遮蔽壁の影に射出されたけど、使徒のビームは直線状にあるものを全て突き抜けた。油断も何も無い。まだ使徒戦が3回目だったネルフは、使徒のデタラメさにまだまだ対応できていなかったんだ。今回も多分同じ展開になる。僕のときは助かったけれど、今度は攻撃を受けるエヴァが違う。零号機はまだ実験機で、戦闘に耐えないはずだ。だから、僕が先に出る。どうなるか分からないけど、使徒の攻撃を見て、また作戦を立て直してくれるはずだ。再び僕はこっそり外に出て、変身した。

 いきなりビームが来た。咄嗟にATフィールドを展開したけど、防ぎきれない物凄い熱が僕を襲う。あ、熱い! このままじゃ拙い、と思った瞬間、ビームが止む。慌てて近くにあった射出口をこじ開け、飛び込んだ。ATフィールドを調整し、ゆっくりと降りていく。やれやれ、危なかった。様子見だったらしいけど、僕が防いだから驚いたのかもしれないな。それにしても、思った以上に強い。さて、どうしたものか……考え込んでいると、轟音が下から聞こえてくる――まさか!? 物凄い速度で射出台が上がってきた。僕は不意を突かれ、そのまま外へ押し出される。勿論固定なんてされてないから一気に空へ飛び出した。……そうだよね。正体不明の存在が内部に侵入しようとしてきたら、拒むよね。それはともかく、空じゃ殆ど身動きが取れない。格好の的だ。急いで防御を固めるも……攻撃が、来ない? 使徒を見ると、一応ビームを出してるみたいだけど、ここまで届かないみたいだ。――そうか、構造上、上のほうに撃てないんだな。なら、上から飛び掛ってしまえば良い!
 フィールドで位置を調節し、上から使徒に飛びつく。使徒も暴れてもがき、僕を振り落とそうとする。しがみ付こうにも使途の表面は滑ってひどく掴み難い。ならば、と指を食い込ませようとするも、硬くて指が刺さらない。なら槍だ、と打ち込もうとした瞬間、振りほどかれてしまった。僕は地面に叩きつけられ、使徒はエネルギーを籠め始めた。やばい!
 が、使徒にどこからか銃弾が叩き込まれ、使徒の気が一瞬逸らされる。その隙を逃さず、使徒に槍を打ち込んでやった。悲鳴を上げ、引き抜こうとする使徒。けど、そうはいかない。使徒の体内に刺さった槍をムチに変え、滅茶苦茶にかき回す。使徒の内側から所々に穴が開き、体液や引き裂かれた内臓が飛び出し、全身がブルブルと震える。震えが収まってきたところでムチを引き抜くと、使徒は地に落ち、体液を流しながら2・3回痙攣すると、動かなくなった。
 使徒を殲滅完了して一息つくと、一体何処から援護が来たんだろうと辺りを見回す。すると、少し離れたところに銃を構えたまま固まった零号機がいた。ミサトさんの指示なのかケンスケの独断かは知らないけど、本当に助かった。近づくと撃たれそうなので、遠くから手を振るだけに留めておく。

 変身ヒーローは、今回の使徒で一段落だ。次の使徒はアスカに任せれば良い。海の上だから、どうせ行けないしね。その次の使徒は、アスカとケンスケで頑張れば良い。僕がやることは、やっと戦力の揃った、ネルフのサポートだ。本当は僕が戦わなくて良いのが理想なんだけど、流石にそこまでは望まない。適当に助けて、適当に関わって、適当に遊べればそれで良い。今はまだ前の時と大して流れが変わってないけど、そのうち引っ掻き回すつもりだ。そのときを楽しみにしていよう、と説教を聞きながら内心呟く。……またバレちゃった。
2008年11月23日(日) 11:50:08 Modified by mhythoth




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