冷戦時代の核実験や民間防衛をめぐるカルチャー

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「スイス民間防衛」にない「乗っ取り戦争6段階」の登場と普及


日本の誰が作ったのか定かではないが、スイス民間防衛ドイツ語版にもフランス語版にも存在しない「乗っ取り戦争」というネタがある。
辿れたのは、この2008年11月21日のYahoo知恵袋:
日本国は侵略されています 乗っ取り戦争
「スイス政府民間防衛」より新しい戦争。その名も「乗っ取り戦争」
第一段階「工作員を送り込み、政府上層部の掌握。洗脳」
第二段階「宣伝。メディアの掌握。大衆の扇動。無意識の誘導」
第三段階「教育の掌握。国家意識の破壊。」
第四段階「抵抗意志の破壊。平和や人類愛をプロパガンダとして利用」
第五段階「教育や宣伝メディアなどを利用し自分で考える力を奪う。」
最終段階「国民が無抵抗で腑抜けになった時、大量植民。」
これで言うといま日本国は第何段階だと思いますか?
yahoo知恵袋

おそらく、これより少し前から当時の2chなどにあったと思われる。

その後、2009年9月16日、鳩山由紀夫内閣が成立した。その当時、民主党首脳部は「親中派」が多いと見られていた。こういった事態がネタを広げるのに影響したかもしれない。
故田中角栄元首相といえば、日中国交正常化を果たした人物。民主党首脳部には小沢一郎氏、渡部恒三氏、藤井裕久氏、石井一氏、鳩山由紀夫氏、岡田克也氏など自民党田中派の出身者が数多く含まれる。特に小沢氏は日中民間交流プロジェクト「長城計画」の立役者であり、中国と太いパイプを持っている。さらに選挙前に民主党に加わった田中真紀子氏、連立政権樹立で合意した社民党の福島瑞穂氏らも中国とのつながりで知られる。

[ <民主党>首脳陣に田中派出身・親中派多い、日中関係の発展に期待―中国紙 (2009/09/11)  ]

冷戦にそぐわない最終段階

逆に、最終段階は明らかに1969年という冷戦時代の、欧州の小国にはそぐわない結末となっている。当時スイス民間防衛が想定していた脅威は、東ベルリン暴動(1953)やハンガリー動乱(1956)やプラハの春(1968)など、戦車で市民の抵抗を蹂躙するシナリオ。少なくとも最終段階は「静かなる侵略」ではない。ドイツ語版では戦車隊が国境線を越えてなだれ込んでくるバッドエンド、フランス語版では戦車隊による介入の要請というバッドエンドを描いている。


訳の誤りによる第一段階

ただ、この「乗っ取り戦争」がまったく、「スイス民間防衛」と無関係かというと、そうでもない。いささか大胆豪快すぎる第一段階「工作員を送り込み、政府上層部の掌握。洗脳」は、原書房版の「スイス民間防衛」(のフランス語版からの翻訳)に類似した記載がある。
この地下組織は、最も活動的で、かつ、危険なメンバーを、国の政治上層部に潜り込ませるようとするのである。
この翻訳はいささか疑わしい。該当するフランス語版の記述は、少し違っている。
Une telle action de sape commencera par l'établissement d' un réseau clandestin où se retrouveront les espions et les tenants de !' « idéologie ». ''Ce réseau s'efforcera de glisser parmi les cadres politiques du pays ses éléments les plus actifs et les plus dangereux.'' On n'oubliera pas que les« novateurs ». les « progressistes » se recrutent souvent dans des milieux d'intellectuels à l'affût de nouveautés et peu rompus à la solution des problèmes concrets de la vie sociale.

そのような弱体化工作は、スパイと「新秩序」の支持者の地下ネットワークの構築から始まる。このネットワークは、国の政治的枠組みの中で最も活発で危険な分子を引き寄せようと努める。「革新者」と「進歩主義者」は、多くの場合、新しいアイデアを探し求めており、社会生活の具体的な問題を解決した経験のない知識階級から採用されることを我々は忘れてはならない。

[ Défense civile, 1969 ]
コンテキスト的にも「政治上層部に潜り込ませる」話をしていない。もともと翻訳した官僚有志の誰かが、政権中枢に工作員を確保するシナリオを念頭においていて、勘違いした訳を書いてしまったかどうかは、今となっては知りようもない。(なお、この部分はドイツ語版から大きく改訂されていて、該当する記載はドイツ語版にはない。)

第一段階はこの勘違いした訳に基づいているように見える。

スイス征服*段階

「スイス民間防衛」には「乗っ取り戦争」とか「6段階」とかはない。

しかし、1960年代のスイスでは「共産主義の間接戦争5段階というのが流行っていた。それなりにバリエーションがあるが、最終段階は、傀儡政権の介入要請に応じた、ソ連軍あるいはワルシャワ条約機構軍の戦車による市民の抵抗の蹂躙である。

しかし...

しかし、お手頃にコンパクトにまとまった主張であり、日本のことを言っているかのように見える(実際にスイスと無関係な、日本に対する中共による支配シナリオ)ことから、この「乗っ取り戦争6段階」は「スイス民間防衛」よりも広く知られることになるかもしれない。

スイス政府「民間防衛」の書より
〜武力を使わない戦争の形・その名も「乗っ取り戦争」〜

第一段階: 工作員を政府中枢に送り込む。
第二段階: 宣伝工作。メディアを掌握し、大衆の意識を操作。
第三段階: 教育現場に浸透し、「国家意識」を破壊する。
第四段階: 抵抗意志を徐々に破壊し、平和や人類愛をプロパガンダとして利用する。
第五段階: テレビ局などの宣伝メディアを利用して、自分で考える力を奪ってゆく。
最終段階: ターゲットとする国の民衆が、無抵抗で腑抜けになった時、大量植民。



なお、2009年の「イマココの第5段階」から、11年が経過した2020年時点、やはり「イマココの第5段階」とされる。


なお、これと同様に「武器なき平和を叫ぶ者は敵国の工作員だと思え」も「スイス民間防衛」に載っていない。






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