中国の通貨事情
中国銀貨の歴史
１７世紀の末まで、中国は独自の通貨制度を取っていたが、１７世紀以降になると世界経済の風雪を受けるようになりる。それに伴い、西洋の貨幣が貿易銭として入ってくるようになり、瞬く間に沿岸地域から内陸部へと浸透することになる。
近代において、『幣制を支配するものは、経済を支配する』といわれるとおり、清朝末期から国民政府時代にかけては西洋貨幣と中国貨幣の葛藤の歴史でもある。
中国で最初に流通したのはスペイン銀貨であった。１６世紀後半、スペインはフィリッピンを植民地として、ここを東洋貿易の拠点とする。その頃から、スペインドルが中国に流入してきたものと思われる。その後、東インド会社に中国貿易を独占するようになるが、その決済として使用したのも、このスペインドルである。
スペインドルで、当初横行したものに『カルロスドル』というものがあります。
この銀貨は、スペイン国王であるカルロス３世／４世の肖像をあしらったもので、中国では圧倒的な人気を持ち、そこに含まれる純銀の量以上の価値で取引されました。
特に、１８２２年にメキシコでの生産が止まると、高いときで８０％もの「打歩」（プレミアム）がつくことさえあるといわれる銀貨である。
１７５７年、乾隆帝が中国唯一の貿易港として広東港を開港。日本でいえば長崎の出島に当たる。この『カルロスドル』の多くも、広東から入ってきたものといわれている。
その跡を受けて使用されたのは、『メキシコドル』である。これは、表面に鷹のデザインをあしらっていたので、中国では『鷹洋』とも言われた。この銀貨の流通は中国後半に渡り、１９１１年の辛亥革命当時は『鷹洋』の流通高は４億元〜５億元に上ったとされる。このメキシコドルは、広範に流通しており、当時、インド・日本・台湾を始め、インド〜日本までの太平洋に面したアジア各国で利用されている。
『メキシコドル』の『鷹洋』に対して、『カルロスドル』は『本洋』といわれていた。なお、『カルロスドル』の多くの鋳造もメキシコである。
しかし、この外銀の横行に対しては、中国の政治家からも『主権の侵害』『国家財政の障害』などの異論が出され、光緒１３年（１８８９年）から光緒銀幣なるモノを広東で鋳造するようになり、後年、武昌・天津でも鋳造されるようになる。
これらの銀貨は統一性がなく、その後、儲けになるとわかると各省の軍閥が濫発するようになり、省をまたがると通用せず、同等価でなくなり、為替の相場が必要になってくる。まさしく、「貨幣あって貨幣制度がない」状態の紊乱極まる通貨システムである。
それでは、中国が銀本位制度かというとそうでもない。
パール・バックの『大地』の一説にこういう文言がある。『わたしが銀貨を持つのは、生まれて初めてです。』これは、阿蘭という女性が、初めて子供を設け、夫からその子供にために渡された時に言った言葉であるが、当時、中国奥地の農民は一生銀貨を見ることもなく、触れることもなく一生を送ったことがわかる阿蘭の言葉である。
現在でも、内陸部の農村で１００元を渡すと「こんな紙幣は観た事がない。」と言って、近所の住民がゾロゾロ集まって大騒ぎするが同じ感覚であろう。
その頃、銀経済圏が流通する階層と阿蘭のような一般庶民を中心とする銅経済圏が流通する階層に別れていた。これは、歴然と区分できるものではないので、当時の開港での貿易が大きな卸売り取引であると銀で相場が立てられ、これが小売の取引になると銀と銅の混合相場になる。銅・銀の複本位制の通貨というと、それも難しい。
銀と銅との交換比率が一定ではなく、毎日刻々と相場が変動する。地方軍閥が発行する銅貨には銀貨と交換ができない兌換不能な銅銭や紙幣も珍しくない。
紙幣に関しても、中国の通貨の発行は、中国資本や外国資本の銀行が勝手に通貨を発行しており、その数は、２８行を数えた。その他、各省や市が発行する紙幣、他に、各種商業団体・工場・商店が私票等を発行しており、その数は夥しいモノであった。
これは、近代的な貨幣というより、銀を基礎とする秤量貨幣である。いつ何時でも銀に替えられる兌換券のようなものである。このように複雑怪奇な通貨制度のため、いつしか経済が発達した都市には貨幣を換金する店舗；銭荘と呼ばれる中国特有の両替所ができるようになった。そして、国民経済の基盤は銀の国際相場に直接依存しており、銀相場によって左右される頼りないものであった。
その意味に於いては、民衆の経済生活は国内政治とは関係なく、政権が誰の手に委ねられようと、どんな通貨政策が行われようと、直接民衆の経済生活を揺るがすものではなく、後にアメリカの銀買い上げの政策であるピットマン法がいかに深刻な影響を及ぼしたか想像出来よう。近代史では、戦前の中国を半植民地とか経済的植民地化したとかいうが、その原因を作ったのは、やはり私利を貪ろうとして貨幣を勝手に濫発した軍閥とそれに対して有効な手段を講じることができなかった中国政府自身にある。このような通貨システムでは、いかようにも付け込まれるスキがある。
アヘン戦争で南京条約で上海などの５港を開港した際、貿易が増えてくると、貿易決済やら借款収支の障壁となってくる。
中国と取引する外国の要望である外圧ばかりでなく、海外に依存する新興階級からも貨幣改革論が湧き上がってくる、英支通商航海条約では、１９０２年時点で『幣制改革』の約束をしている。それに続き、米支通商航海条約や日支通商航海条約でも同文の契約をうたっている。それ以降、百花繚乱の『幣制改革』が出る、１９２８年７月には「財政整理大網」なるものを発布して、
中国の法幣改革以前の通貨は複雑極めていた。各省または、銀行・銭荘ごとに勝手に紙幣を発行してことにあり、統一された貨幣が存在しないことにあった。各地方ごとの発行紙幣は下記のとおりである。
【満州】1932年（昭和７年）の日本が満州中央銀行設立以前は、もっとも、地方の軍閥紙幣が跋扈していた所で、日本による通貨改革以前は、奉天票が１０億元以上が発行され、その他に、吉林・黒龍江省の官帖が二百億吊以上あったとされたが、1935年（昭和１０年）には満州中央銀行券に取って代わり、それ以降は、旧通貨は兌換不可となる。
『華北以南の法幣改革が日本対英中の通貨戦争であり、満州での通貨改革は単なる通貨整理。』であったとしても、３年程で通貨統一が可能になったことは、画期的なことであり、満州中央銀行行員の血の滲む様な努力があったことであろう。
その後、法幣の暴落を余所に、通貨も安定しており、満州消滅後も２年程、
１７世紀の末まで、中国は独自の通貨制度を取っていたが、１７世紀以降になると世界経済の風雪を受けるようになりる。それに伴い、西洋の貨幣が貿易銭として入ってくるようになり、瞬く間に沿岸地域から内陸部へと浸透することになる。
近代において、『幣制を支配するものは、経済を支配する』といわれるとおり、清朝末期から国民政府時代にかけては西洋貨幣と中国貨幣の葛藤の歴史でもある。
中国で最初に流通したのはスペイン銀貨であった。１６世紀後半、スペインはフィリッピンを植民地として、ここを東洋貿易の拠点とする。その頃から、スペインドルが中国に流入してきたものと思われる。その後、東インド会社に中国貿易を独占するようになるが、その決済として使用したのも、このスペインドルである。
スペインドルで、当初横行したものに『カルロスドル』というものがあります。
この銀貨は、スペイン国王であるカルロス３世／４世の肖像をあしらったもので、中国では圧倒的な人気を持ち、そこに含まれる純銀の量以上の価値で取引されました。
特に、１８２２年にメキシコでの生産が止まると、高いときで８０％もの「打歩」（プレミアム）がつくことさえあるといわれる銀貨である。
１７５７年、乾隆帝が中国唯一の貿易港として広東港を開港。日本でいえば長崎の出島に当たる。この『カルロスドル』の多くも、広東から入ってきたものといわれている。
その跡を受けて使用されたのは、『メキシコドル』である。これは、表面に鷹のデザインをあしらっていたので、中国では『鷹洋』とも言われた。この銀貨の流通は中国後半に渡り、１９１１年の辛亥革命当時は『鷹洋』の流通高は４億元〜５億元に上ったとされる。このメキシコドルは、広範に流通しており、当時、インド・日本・台湾を始め、インド〜日本までの太平洋に面したアジア各国で利用されている。
『メキシコドル』の『鷹洋』に対して、『カルロスドル』は『本洋』といわれていた。なお、『カルロスドル』の多くの鋳造もメキシコである。
しかし、この外銀の横行に対しては、中国の政治家からも『主権の侵害』『国家財政の障害』などの異論が出され、光緒１３年（１８８９年）から光緒銀幣なるモノを広東で鋳造するようになり、後年、武昌・天津でも鋳造されるようになる。
これらの銀貨は統一性がなく、その後、儲けになるとわかると各省の軍閥が濫発するようになり、省をまたがると通用せず、同等価でなくなり、為替の相場が必要になってくる。まさしく、「貨幣あって貨幣制度がない」状態の紊乱極まる通貨システムである。
それでは、中国が銀本位制度かというとそうでもない。
パール・バックの『大地』の一説にこういう文言がある。『わたしが銀貨を持つのは、生まれて初めてです。』これは、阿蘭という女性が、初めて子供を設け、夫からその子供にために渡された時に言った言葉であるが、当時、中国奥地の農民は一生銀貨を見ることもなく、触れることもなく一生を送ったことがわかる阿蘭の言葉である。
現在でも、内陸部の農村で１００元を渡すと「こんな紙幣は観た事がない。」と言って、近所の住民がゾロゾロ集まって大騒ぎするが同じ感覚であろう。
その頃、銀経済圏が流通する階層と阿蘭のような一般庶民を中心とする銅経済圏が流通する階層に別れていた。これは、歴然と区分できるものではないので、当時の開港での貿易が大きな卸売り取引であると銀で相場が立てられ、これが小売の取引になると銀と銅の混合相場になる。銅・銀の複本位制の通貨というと、それも難しい。
銀と銅との交換比率が一定ではなく、毎日刻々と相場が変動する。地方軍閥が発行する銅貨には銀貨と交換ができない兌換不能な銅銭や紙幣も珍しくない。
紙幣に関しても、中国の通貨の発行は、中国資本や外国資本の銀行が勝手に通貨を発行しており、その数は、２８行を数えた。その他、各省や市が発行する紙幣、他に、各種商業団体・工場・商店が私票等を発行しており、その数は夥しいモノであった。
中国国内で通用する中国国内の銀行のモノもあれば、各外国銀行のモノもなる。これらは、皆一様の１円と刻印があるが、各貨幣毎に等差が付けられている。また、兌換不能な通貨や偽札も横行しているので、うっかりするとひどい目にあう。実際、これらの貨幣を使うには想像以上に面倒である。不要に使うと大損をするが、当の中国人は、この不便さを利用して、『今日の相場はいくらだ』と言い包め、狡賢く儲けていることも多々見受けられる。（『赤裸の支那』を一部変更して抜粋する。）
これは、近代的な貨幣というより、銀を基礎とする秤量貨幣である。いつ何時でも銀に替えられる兌換券のようなものである。このように複雑怪奇な通貨制度のため、いつしか経済が発達した都市には貨幣を換金する店舗；銭荘と呼ばれる中国特有の両替所ができるようになった。そして、国民経済の基盤は銀の国際相場に直接依存しており、銀相場によって左右される頼りないものであった。
その意味に於いては、民衆の経済生活は国内政治とは関係なく、政権が誰の手に委ねられようと、どんな通貨政策が行われようと、直接民衆の経済生活を揺るがすものではなく、後にアメリカの銀買い上げの政策であるピットマン法がいかに深刻な影響を及ぼしたか想像出来よう。近代史では、戦前の中国を半植民地とか経済的植民地化したとかいうが、その原因を作ったのは、やはり私利を貪ろうとして貨幣を勝手に濫発した軍閥とそれに対して有効な手段を講じることができなかった中国政府自身にある。このような通貨システムでは、いかようにも付け込まれるスキがある。
アヘン戦争で南京条約で上海などの５港を開港した際、貿易が増えてくると、貿易決済やら借款収支の障壁となってくる。
中国と取引する外国の要望である外圧ばかりでなく、海外に依存する新興階級からも貨幣改革論が湧き上がってくる、英支通商航海条約では、１９０２年時点で『幣制改革』の約束をしている。それに続き、米支通商航海条約や日支通商航海条約でも同文の契約をうたっている。それ以降、百花繚乱の『幣制改革』が出る、１９２８年７月には「財政整理大網」なるものを発布して、
中国の法幣改革以前の通貨は複雑極めていた。各省または、銀行・銭荘ごとに勝手に紙幣を発行してことにあり、統一された貨幣が存在しないことにあった。各地方ごとの発行紙幣は下記のとおりである。
【満州】1932年（昭和７年）の日本が満州中央銀行設立以前は、もっとも、地方の軍閥紙幣が跋扈していた所で、日本による通貨改革以前は、奉天票が１０億元以上が発行され、その他に、吉林・黒龍江省の官帖が二百億吊以上あったとされたが、1935年（昭和１０年）には満州中央銀行券に取って代わり、それ以降は、旧通貨は兌換不可となる。
『華北以南の法幣改革が日本対英中の通貨戦争であり、満州での通貨改革は単なる通貨整理。』であったとしても、３年程で通貨統一が可能になったことは、画期的なことであり、満州中央銀行行員の血の滲む様な努力があったことであろう。
その後、法幣の暴落を余所に、通貨も安定しており、満州消滅後も２年程、
2007年05月27日(日) 10:07:54 Modified by yuyu122222