あにまん掲示板の各種スレッドに掲載されているR-18小説を保管するためのwikiです。

「サーフィン日和ね」
 フェリジットは海水浴場を見渡した。ここはそこまで混んでない。水温は高めだろうし、沖まで出ればそれなりに風も良さそうだ。
 今日は鉄獣戦線の夏季懇談会で海に来ていた。日のあるうちは海で遊び夜は酒をしこたま飲む。
 海の家や釣具屋や公衆トイレがある海水浴場だ。
 ボードを持って意気揚々と海に向かう。フェリジットはウェットスーツをすでに着ていた。
 彼女の視界の隅になにかが引っかかった。
 海水浴場での注意。よくある立て看板だ。
 フェリジットはその中の一文に奇妙なものを見つけた。
『●●を海に入れないでください』
 特に注意をして見ていたわけではないが、●●の部分が明らかにモザイクがかかっているように見えた。その単語を認識させないようにこの世ならざる力が働いているように感じた。
 フェリジットは立ち止まったが、立て看板からその一文は消え去っていた。
(あれ…さっきまで変な一文あったよね。見間違いかな?)
「フェリジット、どうかしたのか?」
「別になんでもないわ。ちょっと見間違いしちゃったみたい」
「そうか、浮かれているんだな」
「シュライグこそ。そのクーラーボックスと釣り竿はなに?」
「いいだろう。新調した」
 シュライグは得意げだったがフェリジットは釣り竿のことをよく知らない。
「へえ、今夜のツマミは魚になるのね」
「釣れたらな。日中は魚はあまりいない」
「まっ、素潜り勢が結構獲ってくるでしょ」
 素潜り勢代表ルガルはシュノーケリングを用意している。
「おいおい、勝手に期待しないでくれるか?」
 ルガルの言葉に二人は笑った。

 今日の海は悪くないとフェリジットは思った。何度か波に乗ったし、新しい技も練習できた。
 休憩しようと、海岸を目指す。ボードに乗って泳ぐフェリジットは少し違和感を覚える。海の中に人がいない。さらに沖側でキットはモーターボートに乗っていたが、その音も聞こえない。
 海岸に着いたときに流石にフェリジットは困惑した。人が誰一人いないのだ。

 今日は良く釣れると、シュライグは思った。小物ばかりであるものの入れ喰いと言っていいほど釣果だ。
(唐揚げにでもすればフェリジットは喜ぶだろう)
 魚はバケツの中で悠々と泳いでいる。ここの波止場は二人ぐらいしか釣りをしてる人がいなかった。案外魚が釣れる穴場なのだろうか。
 シュライグは釣りをやめて周りを見渡した。先ほどまでいたはずの釣りをしている人達はいなくなっている。
 砂浜の方に目を移してもやはり人はいない。
 海の家にでもいるのだろうかと考えたが、賑わう声すらしないのはさすがにおかしい。
 流石にシュライグも穏やかではないなと思った。
 シュライグは砂浜を歩いていく。人がいないと言うこと以外はごくごく普通の海水浴場に見えた。
 ガランとした海の家はやはり違和感の塊だ。日差しが照りつける中、軽食や飲み物が飛ぶように売れているはずだ。作りかけの焼きそばやら座敷に置いてある荷物やらさっきまで人がいたという痕跡はあれど、人影らしきものすら見つからない。
 何かないだろうかと辺りを見渡したところ、黒電話が一つ置いてある。その隣に管理人と書かれた電話番号の書かれた紙が置いてあった。番号は数字の羅列のようで市外局番も無茶苦茶だとシュライグは思った。
 やることもないので電話を掛ける。
『はい。管理人です』
 ノイズが混じっているものの声は聞こえた。本物である保証はないが情報を得ることができる。
「オカルトライターをしているものだが、そちらの海水浴場で起こったオカルト事件について調べている。取材はできないだろうか」
『あー、はいはい。昔はどうあれ、今はなにも起こってない平和な場所なんです。開発前の出来事を記事にされるのいい加減迷惑しているんですよ』
 イライラとした声が返事をした。ガチャンと電話が切られる。
「昔、なにかあったのか。まずそこを調べるか」
 浜辺から女の声がする。シュライグは一瞬警戒したがすぐに安全だと分かった。
「キット。シュライグ。ルガル。どこ〜!」
 海から上がってきたフェリジットがボードを片手に声を出していた。

「なるほど。この海水浴場では昔なにかあったのね」
「フェリジットはなにか分かったことがあるか?」
 二人は海の家で情報交換を行っていた。
「ない……わね。なんだかサーフィンの調子がいいぐらいでおかしなことはなかったわ」
 フェリジットは立て看板のことを泳いでいるうちにすっかり忘れていた。一瞬の出来事であったため見間違いだと思っている。
「それ以外だと小さめだがよく釣れたぐらいだな。とりあえず分かったことをまとめると、ここが異空間か俺たちが他の人を認識できなくなっているかだろうな」
「そうね。でも他の人を認識出来なくなっているなら私の周りにキットいるわよね。キット、お姉ちゃん怒らないからほっぺ抓っていいわ」
 フェリジットは虚空に向かって声をかける。しばらく待っていたがなにも反応はない。
「違うんじゃないかしら。他のものも見て回る?」
「一度車に戻って武器でも取りに行くか。釣り竿とサーフボードだけでは心許ないだろう」
「そうね。武器はあっても悪くないし、海水浴場の外に出れるかも調べてみたいかな」

 車のあった場所にはなにもない。他にも何台かあったはずなのに影も形もない。
「世界の造りが雑になったな」
 シュライグは道路の先を見たが虚空が広がっている。夢の端のようにその先がないことが分かった。
「異空間で正解みたいね」
「そうだな。だが武器になるものがない」
「ボードは殴れるし、釣り竿は…釣れるんじゃない?」
「何をだ」
「遺物とか邪神とか」
「釣れる訳ない…ないよな。釣具屋にモリがないか探すがフェリジットはどうする?」
「ここが異空間なら荷物漁っちゃおうかな。昔なにかあったならそれ目当ての客もいるんじゃないかしら。そこで調べられそうだし」

 シュライグは釣具屋に入った。入り口には魚の餌の冷凍庫、そして店の奥には生餌の水槽がある。
 ルアーや釣り竿は置いてあるが、スピアフィッシングはこの場所では禁止のようでモリのようなものは置かれていない。
 他に目ぼしいものはないかとを探したところリールを一つ見つけた。
〜マグロでもラクラク!キット印の最強リール〜
「ないよりはマシか…」
 シュライグはそれを拝借して釣具屋を出た。

 フェリジットは悩んでいた。海の家に置かれている荷物を漁ったところそれなりに情報が集まっている。
 一つは数字の羅列、もう一つは雑誌だ。
 シュライグの情報からするとこの番号にかけると誰かと通じるらしい。管理人と繋がったという番号とは違うものだ。
「雑誌の方はシュライグに任せちゃおっかな」
 フェリジットは電話を掛ける。
『もしもし、お姉ちゃん?今、どこにいるの?シュライグもいないの』
「キットね。シュライグは私と一緒よ」
 ふう、フェリジットは息を着いた。確かに聞こえてくるのはキットの声だ。雑音が混じっているものの、聞き取れない訳ではない。
『良かった。ってシュライグも一緒なの?もしかして二人で盛り上がっていた?』
「違うわ。変な事件に巻き込まれちゃってね」
『そうなんだね。でもシュライグと一緒なら平気じゃない?異空間からの脱出なんて二人なら出来るでしょ』
「まあ、そうだといいわ。今のところ手がかりが全然なくてね。なにか知っていることない?」
『あたしもこの海に来るのは初めてだからな』
 少しの間キットの声は沈黙した。
『お姉ちゃんは海に●●を入れてないよね?』
「えっ、なに?」
『だから●●だよ。●●。それを海に入れちゃダメだからね。そんなことしたら大変なことになっちゃうし…』
 キットの声が少しずつ低くなっていく。
『●●を海に入れないで。●●を海に入れないで。●●を海に入れないで。●●を海に入れないで。●●を海に入れないで。●●を海に入れないで。●●を海に入れないで。●●を海に入れないで。●●を海に入れないで。●●を海に入れないで。●●を海に入れないで。●●を海に入れないで。●●を海に入れないで。●●を海に入れないで。●●を海に入れないで。●●を海に入れないで。●●を海に入れないで。●●を海に入れないで。●●を海に入れないで。●●を海に入れないで。●●を海に入れないで。●●を海に入れないで。●●を海に入れないで。●●を海に入れないで。●●を海に入れないで。●●を海に入れないで。●●を海に入れないで。●●を海に入れないで』
 ノイズ混じりの電話はそこで切れた。

 シュライグが海の家に戻ってくると、放心したフェリジットがへたり込んでいた。彼女を支えるように隣に座った。
「無理」
 フェリジットはシュライグに体重を預けた。
「そうか」
 フェリジットの頭にシュライグは手を添えた。
「雑誌があったからシュライグ読んで」
「ああ」
「私、ちょっとその辺歩いてくるから」
「一緒にいなくていいか?」
「ここにいたくない」

 フェリジットは白い砂浜を一人で歩いて行く。パラソルや荷物がそのまま残されているが、人の気配などこの場所にはない。
 気が付くと太ももまで海に浸かっていた。
 フェリジットは揺れる水面を見つめる。
 小さな小さな赤い魚が彼女の足を取り囲んでいる。
 ああ、綺麗だ。フェリジットはぼんやりとそんなことを考えていた。

 シュライグは雑誌をめくる。それらしい記事はすぐに見つかった。
『……今は海水浴場として賑わうこの海岸の昔の姿を知るものは少ない。
 この海は波がよく荒れて転覆する船も多かった。最初に港として整備された時には土台がよく流されて人身御供が行われたとも言われている。それによって海が荒れることはなくなり、無事港が完成したという。
 この話には続きと隠された言い伝えがある。
 人身御供は港が完成してからも続けられていたのだ。
 古い文献を当たると、波が荒れた時や不漁の時に人身御供が行われた。多くの場合子供に経文の刻まれた石を抱えさせて海に沈めた。
 人が沈められると大きな赤い魚が海から顔を出す。それがこの海の神が生贄を受け取った証だと言われている』
『隠された言い伝えを知っている老人たちは口を噤んでいた。
 筆者はこの話を聞き出すことに成功した。語ってくれた老人の名は伏せる。このような話であった』
『釣りをして暮らしている男がいた。その日は小物しか釣れなかったが仕方がないのでその魚を食べようと思った。
 しかし小さな赤い魚が男に命乞いをした。その小さな魚は自分は神になると言った。
 男は小さな魚を海に返した。何日かして男がまた釣りをしている時にあの時の魚がやってきた。
 魚は男より大きくなり、あの時のお礼がしたいと海に誘った。
 海に入った男を魚は一口で食べてしまった……』
 シュライグはそこで雑誌を読むのをやめた。フェリジットはまだ散歩しているのだろうか。

 フェリジットは大きな影が近づいていることに気がついた。ゆったりと泳ぐその姿はこの海の主のように見えた。彼女の両手を広げてもまだ大きい魚だろう。
 大きな大きな赤い魚が水面に顔を出した。

「フェリジット!」
 シュライグは駆け出した。遠くのフェリジットの様子が明らかにおかしかった。
 潮風で錆びてしまうからと機械の羽をつけていない自分を恨んだ。砂浜で足を取られて転ぶこともなく、彼女を止めることができたはずだった。
 何度も声をかけてもフェリジットは海の中に進んでいく。そして彼女が立ち止まると伝承通りの赤い魚が水面に現れた。

「とりゃー!」
 フェリジットは反射的にサーフボードで大きな赤い魚を殴打した。足の踏ん張りは効かなかったが、腰や背中の筋肉がその重い一撃を作り出す。
 ギャッと音を発した赤い魚は水面に潜る。その隙をついてフェリジットはボードに乗り、浜辺のほうに戻って行く。
(あの魚が原因なのかな。咄嗟に殴れたから良かったけど、肝が冷えたわね)


 パラソルの下で二人は休憩がてら情報交換した。
「それにしてもシュライグ、砂まみれね」
「転んだ」
 フェリジットは怪訝な顔をした。
「それで情報をまとめるとあの赤い魚が怪物みたいな感じなのね」
「まあ、そうだろうな。この雑誌に載っている話と一致する」
「すっかり忘れてたんだけど、立て看板におかしいことが書かれていたのよね」
「…。立ち止まっていたな。なにが書かれていたんだ」
「海に入れるなと書かれていたんだけど、なにを入れちゃいけないのか読めなかった。一瞬のことだったから見間違いだと思ったのよね」
「調べてないところは波止場ぐらいか。立て看板見てから波止場に行くのが無駄がなさそうだな」

「…うん。うーん?」
 フェリジットは立て看板を見て少し考える。シュライグも考えているがこの一文の意図が分からない。
立て看板には『生贄を海に入れないでください』と書かれている。
「生贄を海に入れないでください、か。電話は味方だったということか?」
「だったら!もっとこう!伝え方があるでしょ!」
 フェリジットは結構怖かったのだ。
「,△竜に妨害されていた。▲ットが黒幕。E渡辰亮腓鰐Jではないが魚と敵対している。考えても埒があかないな。波止場に行くか」
「そうね。あの魚をぶちのめしたいし」

『……怪魚となったその魚は船を一呑にした。
 それから怪魚の望むままに人々は生贄を差し出した。そうすれば海が荒れることもなく豊漁になったからだ。
 そのうち、村人は旅人を捧げるようになった。
 ある時、山伏がこの漁村を訪れた。村人はいつも通りに酒を勧めたが、山伏に意図を見抜かれた。
 怪魚は山伏によって倒された。
 わざと飲み込まれ怪魚の腹を切ったとも、背に跨って退治したとも伝わっている……』

 波止場へ向かう途中の防砂林に小さな石の祠があった。長年掃除をする人がいなかったのか、屋根や観音開きの扉に苔がむしている。
 フェリジットは迷わずその扉を開けた。中には石碑のようなものが入っていた。文字らしきものが刻まれていることが分かった。
「読めない」
「巨魁になれど、雑魚は雑魚。陸に上げれば息できぬ。だそうだ」
「陸に上げる…。波止場には漁船があるわよね。それで沖まで出て釣るとかどう?」
「伝承の船を一呑の部分が怖いな。そもそも操舵技術は俺もフェリジットもないから動かせるとは限らないし」
「モーターボートぐらいなら動かせるけど、あの魚に体当たりされたら沈むでしょうね。船は使わない方がいいか。とりあえず、普通に釣りしてダメだったらその時に考えればいいか」
「俺は釣り竿に〜マグロでもラクラク!キット印の最強リール〜をつけるから、その間フェリジットは海の家に行って刃物を取って来てくれ」
「そうね。ついでに調味料とバーベキューコンロも持ってくるわ」
「……食う気か?」
「相手をビビらせたいだけよ」
 フェリジットはウインクした。

「ゴラァ!三枚に下ろすから大人しくしろ!ゴラァ!」
 フェリジットは包丁を構えてビッタンビッタンと跳ねる赤い魚を恫喝していた。
 魚は海の中にいたときよりも明らかに縮んでいる。全長2m弱、体重は100kgぐらいだろうかとシュライグは思った。
「リールは壊れたか。キット印じゃなかったら危なかった」
 海の中にいた魚が船を一呑と言うのも納得の大きさになるとは思わなかった。ファイト中にリールは熱を持ち、釣り竿は折れそうなほどに曲がった。

 シュライグはまだ抵抗を続ける赤い魚に向かって静かに言葉を投げかけた。
「おい、雑魚。このままフェリジットの食事になるか、俺たちを元の場所に返して二度と俺たちに関わらないか選べ」
 雑魚、雑魚ってなんだ。シュライグは自問した。
 波止釣りしかしない彼の一番の大物は五十七cmのヒラメである。その三倍の大きさはある魚に向かって雑魚呼ばわりはどうかと思った。
 あの大物を釣った時の喜びが薄れてしまうような気がしたのだ。
 しかし赤い魚はまだ抵抗を続けている。

『もう、やめましょうよ。●●●様』
 声がどこからともなく聞こえてきた。その言語は二人とも知るはずのないものであったが、その意味は理解できた。
『自分で決めた食事制限期間ぐらい守りましょう』
 赤い魚は抵抗をやめてその言葉を聞いていた。耳が痛くなるような部下の進言を聞いている王のようだ。
『制限期間が終わったら、たくさん食べていいですから』
 その瞬間、シュライグとフェリジットの意識は暗転した。

 フェリジットは海の中にいた。息をすることが出来ない。体の力を抜いて海上に浮かぶ。
「ぷはぁっ!」
 海水を飲んだがなんとか吐き出すことができた。ボードは近くにあった。
(波に飲まれて溺れかけたんだ)
 フェリジットは海の家に戻って休もうと思った。

 シュライグが目を開けると消波ブロックがあった。いつの間にか眠っていたようだ。椅子に座っていたが、眠っている間に体勢が崩れて頭から落ちるところだった。
 流石のシュライグでもこの高さで頭から落ちれば命が危ない。


 夜の飲み会でシュライグは少し離れたところで本を読んでいた。酒瓶を片手にフェリジットは絡みに行く。
「シュライグさぁ、何読んでるの。もっと飲みなよぉ〜」
「この辺りの伝承だ」
「へぇ、そうなんだ。なんか面白いことあった?」
「海で死んだものは神の供物になるらしい」
「つまんないこと言ってないで飲め〜」
 フェリジットはキョトンとしてから、シュライグに酒を飲ませた。 

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