10月某日の放課後 
 昨日の練習試合において勝利を収めた花丸高校野球部は今日つかの間の休息を得ていた 
 それは俺、小波七瀬にとっても例外ではないはずだ 
…ところで本来休息、というのは体を休める、という意味であるはずだ 

「ねぇ、七瀬」 
 「なんだよリコ、残念だけど空き缶を打ち返す元気は今の俺にはないぞ」 
 「む、失礼ね、私が常にアンタを攻撃してる人間みたいに、緑茶飲む?」 
 「…まぁ、良いけどさ、サンキューもらっておくよ」 

なのに俺は休息である日を使ってよりによって誰よりも疲れる奴の相手をしている 

「…今、すごく失礼なこと考えられた気がしたんだけど…」 
 「気のせいだ」 

ったらいいな、と心でつぶやきながら鋭すぎるリコの勘におびえている内心びくびくな自分である 
 まったく、いつになったらリコはつつましさを体得してくれるのk…ブッ!!!! 

 「……おい、リコ」 

 俺は努めて低くドスの聞いた声でリコにたずねた 

「なに?」 

そんな俺の反応を予想してか、リコは実に良い笑顔で俺に向き直ってきた 

「俺は緑茶を飲んでいたはずだよな」 
 「そうだね、リコちゃんはちゃんと緑茶を七瀬に渡したね」 
 「じゃあなんで炭酸が混じってるんだよ!?俺の記憶が正しければ緑茶には炭酸は入っていないだろ!!」 

そう、渡された緑茶の缶からは緑茶味のソーダがえも言えない香りをただよわせていた 

「ええっ!?七瀬ってば知らないの?」 

わざとらしいアクションを交えながら続ける 

「最近炭酸緑茶ってのが流行ってるんだよ?」 
 「流行るわけないだろ!!」 

キワモノ過ぎて逆にトレンドになるっていうのはありそうな話だけど!! 
さすがに緑茶に炭酸はきつすぎるだろ!! 

 「だいたい、お前両手に緑茶とソーダの空き缶持ってる時点で説得力がないんだよ…」 
 「炭酸って疲れが取れるってよく言うからせっかく気を使って炭酸にしたのに…」 
 「じゃあいっそソーダだけくれよ!!混ぜる必要性はゼロじゃん!!!」 

…まぁ、リコなりに気を使ってくれた結果なのかもしれないg「………ちっ、だまされなかったか…」…前言撤回、やはりこいつは今倒すべき敵だ…ッ!!! 

 「リコ…今日こそはてめぇのそのずうずうしさを矯正してやる!!!」 
 「あら、ずいぶんな口が利けたものね?いいわ、かかってらっしゃい?」 

みどりのあくまと対峙した俺は…っ…!! 


 「七瀬、今日は何の日か知ってる?」 
 「さぁ?とりあえずリコにボコボコにされる記念日ではないことはたしかだな」 

はれた顔をさすりながらそういうと 

「むー…七瀬にとっては毎日が記念日じゃない、リコちゃんにボコボコにされる」 
 「俺は女に殴られて喜ぶような特殊な性癖を持ってないよ…」 

そういいつつ頭半分でリコの質問に対する答えを考える 
 こういうときは俺に何かイベントごとを期待している質問だからな 

「………伊万里のトンテントン祭?」 
 「何で佐賀県の片田舎でしかやらないようなイベントをやらなきゃならないのよ…」 

 知ってるお前もお前だけどな、とは言わず 

「まったく…今日はハロウィンでしょ?」 
 「あぁ、なるほどね」 

ハロウィンか、そいつは盲点だった 

「で?」 

 素直な疑問を聞いてみることにした 

「で?ってなによ」 
 「ハロウィンってなにをする日なんだ?」 
 「は…?もしかして知らないの?」 

お?馬鹿にされた目で見られてる 

「普通は知ってるものなのか?」 

はぁ〜、とひときわ大きなため息をつくとリコは 

「あのねぇ、ハロウィンといえばかぼちゃのお化けで有名でしょうが」 
 「あ、あぁ、あのかぼちゃをくりぬいた仮面みたいなやつか」 
 「正式にはジャック・オ・ランターンっていうらしいけどね、外国のドラマとか見てたら良くやるはずでしょうが、トリックオアトリート!!って聞いたことくらいはあるでしょう?」 

あ、それくらいならわかるぞ 

「悪いごはいねぇが〜!!!」 
 「それじゃ日本のお祭じゃない…それはなまはげ」 
 「いたずらしちゃう子食べちゃうぞ〜、だっけ?」 
 「それはガチャ○ンでしょ…お菓子をくれないといたずらしちゃうぞ、って意味よ」 

 物知りだな、と言葉を継ぐと 

「七瀬が物を知らなすぎるんでしょ…」 

と心底残念なものを見る目で言われてしまった、その通りだから何もいえない… 

「じゃあなんだ?俺はこれからお前の家に言ってドライブユアドリームズ!!!って言いにいけば良いのか?」 
 「どこをどう聞き違えたらト○タのCMになるのよ!?」 
 「トリックオアトリートだっけ?それを俺が言いにいけば良いのか?」 

イベントごとが好きなリコのことだからそれだけじゃおわらなそうだけどな 

「違うよ」 
 「え?」 
 「今からリコちゃんは家に帰ってしまいます」 

なに?ということは何もやらないってことか? 

 「そして何時に来るかはわかりませんが、私は七瀬のうちにお菓子をせびりに行きます」 

なるほどそう来たか 

「ただし、いつ行くかは教えない、どこから入るかも教えない、どんな手段でお菓子をせびるかも教えない」 
 「それはいろいろと問題があるぞ?」 

しかし、うん、なるほど 

 それは面白いな 

「面白いでしょ?スリルあるイベントにしないとね〜、もともとハロウィンってそういう殺伐としたものを追い払うために出来たイベントらしいしね」 
 「まぁ日本の豆まきみたいな物だったんだろうな、もともとは」 
 「ふふふ、わかった?じゃあ私はこれからいろいろと準備をしなければならないので帰るわね」 
 「よーしわかった、どっからきてもいつきてもどんな手段をとられても俺は動じないぞ…ふふ、コレはリコ、お前からの勝負と受け取って良いんだな?」 

キュピーン 

「望むところよ!!ま、七瀬だったら私が油断してても驚かせそうだけどねぇ〜?さっきの戦いからみてもわかるけど?」 
 「ふっ、さっきは女の体だからと気を使ってやった結果さ、だが!!今度は俺に地の利がある…いつでもかかってくるが良い」 
 「生意気な口をきくようになったじゃない、いいわ首を洗って、いや、全身洗って待ってなさい」 

そう言い放つと高らかに笑ってみどりのあくまは去っていった 
 さて、俺はどうしたものかな… 


いつかかってくるかわからない状況下、飯を食い終えた俺はひそかに自分の部屋で準備を進めていた 
今日部屋に来るとわかっていたら買わなかった代物とか借りなかった獲物とかを秘密裏に隠しておくのだ 

「こんな本持ってたりしたら怒るべなーリコ…」 

うおう、想像するだに恐ろしい…早いところ隠しておかなくては…まぁ屋根裏に隠しておけば見つからないだろう 
俺は布団の入っているふすまをあけ、一箇所だけ開くことのできる屋根裏の板をはずし中にもろもろの物をしまった 

 いよし、これで安心だ 

「さぁ、どっからでもかかって来い…!!」 

とはいうものの、油断を誘おうとしているのか一向に来る気配はない、さすがに気を張っているのも疲れてやれやれと椅子に腰を下ろすと 

 ーッ!!ーッ!!ーッ!! 

 急に携帯電話のバイブがなった 


From:リコ 
Re:Re: 

七瀬へ、ごめん今日行けなくなっちゃった 
悪いんだけどまた今度ね 


 とのメール 
 なんだこれないのか 
 なら仕方がない明日もどうせ朝練ではやいんだ、とっとと寝ちまおうか 
布団をふすまから出そうとすると、いつもよりも布団が重くなっていることに気がついた 

 ついでに言うならばその布団が今朝畳んだときよりもくしゃくしゃになっていることにも気づいた 

「………」 

 「………」 



 俺は携帯電話を手に取りリコの番号に電話をかけてみた 

「090の…………」 


 〜♪〜♪〜♪ 


布団の中からひっそりと聞こえてくる着信音 
 俺は努めて声を低くして聞いてみた 

「おい…リコ」 
 「……」 

 布団の中のヤドカリは答えない 
負けず嫌いなやつめ…… 

「あのなぁ、リコそんなところに隠れていないででてこいよ」 
 「……」 
 「大丈夫だって、勝手に入ってきたこととかに対して文句はあるけど別に怒りゃしないから」 
 「……」 

 出てくる気配がない 
 ったく…ホントに負けず嫌いな奴…こうなったら強硬策だ 

「あぁ…もう!!!おらっ!!でてこい!!!」 

 俺は布団を床に投げ落とした、少々乱暴だったがこうでもしないと一生でて来まい 
 しかし、布団から出てきたものは大量に何らかが入ったかばんと着信音がなり続けている携帯電話だけだった 

「なん…だと…?」 

ところで布団をしまっておくふすまは二段になっていることをご存知だろうか 
 そして俺は普段布団を上の段にしまっており、下の段にはあまり物を入れておかない 
 そう、ちょうど人一人入るスペースくらいは開いているのである 


 ガシィッ!!!!! 


 不意に後ろから足首を掴まれた 
今自分のみにおきている状況そのすべてを理解し、振り向いた 


 そこにはまるで血に染まったかのように真っ赤な手が俺の足首を掴んでいた 
 そして手が生えてきているふすま下段から這い出してきたそのものは俺の方を見るなりこう言い放った 


「……トリック・オーア・トリー……ト?」 


 俺はまるでこの世の終わりを見たかのような声を上げてその場に五体倒置した 

「あははははははは!!!!!」 
 「笑いすぎだー!!!!」 

あれからしばらくして、起きると俺はベッドの上に横たわっていた 
 どうやら気絶してしまったらしく、リコは俺を介抱してくれていたらしい 

「いやぁそれにしても気絶するって本当にあるんだねぇ、びっくりしちゃったよくくっ…くくははははあはははははは!!!!!」 
 「まったくもう…笑いすぎだろ…本当に恐かったんだからな…」 
 「ごめんごめん、くくっ…あははあはははははあはははははあはははははははは!!!」 

 顔を歪ませながら腹を抱えて笑い転げている血まみれの吸血鬼女の姿がそこにはあった 
 アレが下段から這い出してきたんだから恐怖以外の何者でもない 

……っていうか半端じゃなく恐かったんだからな…? 

 「その細かいディテールはなんなんだよ、吸血鬼」 
 「あははははは…あー…え?これ吸血鬼じゃないよ?」 
 「違うのか?」 
 「うん、これサキュバス」 

さきゅばす? 

 「夢魔の一種で、まぁいっちゃえば悪魔の一種だね」 

お前にぴったりじゃないか 

「もう一度気絶してみる?」 
 「悪魔には心を読む機能でもついてるのか?」 

それにしても、もう一度そのサキュバスの姿を良くみてみる 
 なんというか、うん、いろいろなところが露出してて、ついでにいつもは見せてくれないようなところもでてて 

一言で言ってしまうと、エロい 

「リコ…お前その格好でここまで来たのか?」 
 「私がそんな露出願望が強い人間に見えたんならちょっとここで七瀬を調教しなきゃならないわね」 
 「ってことはここで着替えてくれたんだな…良かった…」 

なるほど、じゃあかばんに入ってるのは着替えか 

…ってまて 

「…ここで着替えたのか?」 
 「そうよ?」 
 「この狭いふすまの中で?」 
 「うん、まぁ厳密に言えば違うけど」 

そんなバカな…俺が気づかないうちに…? 


 「エート…ちなみに何時頃からおりましたか?」 
 「んー?七瀬と別れてからかばんに入ってあった着替えを持ってすぐに七瀬の部屋に行ったわね」 
 「ってことは最初からこの部屋に潜んでたってこと?」 

なんて恐ろしいことを…そういえば帰ってきた時に窓を開けっ放しにしておく癖が直ってないなんて母親いわれたの忘れてたっけか 
 それにしてもここ二階だぞ? 

 「そうなるわね、でちょくちょく七瀬が部屋から出て行くたびに着替えて、今に至るわけだけど」 
 「なるほど……俺が身構えているころにはもう虎視眈々と準備を進めて立ってことか…参りました…」 

まいったな、今回ばかりは俺に良いところがない 

「くすっ、あ〜可愛かったなぁ、七瀬の寝顔、何枚も写真にとって起きたいくらいだったよ」 
 「……そりゃどうも…」 

 男にとって可愛い、というのは屈辱的な言われようだ 

「でも楽しかったでしょ?」 
 「…まぁな」 
 「ふふっ、じゃあお菓子頂戴?」 
 「…さっきもういたずらしたじゃねぇか」 
 「えー、あんなのちょっと脅かしただけじゃない?」 

ひどい言われようだ、ちょっとどころかあれは大の大人がやられても気絶するレベルの恐さだったぞ 

「むしろあれくらいで気絶されているようじゃ私がこれからしようとしていたいたずらに耐えられるか疑問が残るわね」 
 「あーあーもうわかったわかった、けど困ったな、ほんとにお菓子は用意してないんだよ」 
 「…それってどういうこと?リコちゃんはこのむさい部屋の中ずっと待たされていた苦労はどうなるのよ?」 
 「むさい部屋にずっと待ってたのはお前の自業自得だr…わかったわかった!!!あぶない、あぶないからまずは椅子を床においてくれ!!!」 

もらえないから即殴ろうとするってどんな女子高生だよ… 

「もー…しかたないね、じゃあ七瀬にはいたずらを執行するしかないみたいだね」 
 「あー…お菓子はあげられないけど甘いものを渡すってことで手を打たないか?」 
 「なに?それ?」 
 「あー…いや、我ながらクサいとはわかってるから、何も言わないでくれよ…」 
 「何ってなーーーーーッ!!!!」 

 「甘かったか?」 

 「……ばか…」 

 「ところで七瀬」 
 「なんだよ?」 
 「さっき私こんなセリフ聞いちゃったんだけど」 
 「どんな?」 
 「『こんな本持ってたりしたら怒るべなーリコ…』って」 
 「………サー(←血の気が引く音」 
 「さて、七瀬?」 
 「はははははは、な、何の話?」 
 「どんな本を持ってたらリコちゃんは怒っちゃうのかその辺のことをはっきりさせてほしいな?」 

このときの俺の顔は隠れていたリコに足をつかまれたときより青い顔をしていたに違いない 













「待てって!!リコ!!!話がきれいに収まったんだから良いじゃん!!!」 
 「問答無用!!!リコちゃん以外の女の子の裸に興味を持っちゃうのはこの眼かー!!!!!」 
 「ぎぁあああああああああああああああああ!!!!!」 .
 
 


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