「さあ、教科書を開いて」 
 冬の寒さも厳しくなってきたころ、夕日の差し込む部屋で妙子は小波の勉強を見ていた。 
とは言え、普通の勉強会とは様子が違う。いつもの向かい合った形式ではなく、机に向かう小波の後ろから覗き込む妙子。 
 背後から近づくものだから、妙子の胸は小波の背中に押し付けられる。 
 背中に当たる胸の感触と、すぐそばから聞こえる妙子の息使いに小波は勉強どころではない。 
 「どうしたの。手が止まってるわよ」 
さらに接近する妙子。身体はより密着し、小波の心臓も激しく鼓動する。こんなシチュエーションに興奮しない男はいない。 
 「あら、こんなに硬くして、いけない子ね」 
この状況に小波の肉棒も巨大化してしまう。膨れ上がった小波の下半身を見て妙子は妖艶に笑う。 
しかしその表情に余裕はなく、無理をしているのが見て取れる。 
 「こっちの方が興味あるみたいね。それじゃあ特別に先生がお、お……」 
 「女について教えてあげる、だろ。恥ずかしがるなよ」 
 「そんなこと言ったって恥ずかしいんだからしょうがないじゃない」 
 先ほどまでのインモラルな雰囲気はどこへいったのか、くだらない言い合いが始まる。 
 二人は家庭教師プレイをしている真最中だった。 
なんでこんなことをしているかと言うと、原因は小波にある。 
 高校で恋人になった二人だったが、小波がプロ野球選手になってからというもの会える機会がほとんど無かった。 
このことにフラストレーションを感じていた小波は、時間ができたら妙子とエッチなことを一杯しようと常日頃から考えていた。 
シーズンオフのある日、小波はレンタルビデオ店へ行っていた。 
そこでたまたま家庭教師を題材にしたアダルトビデオを見かけたとき、彼の脳裏にある考えが過ぎった。 

――そういえば高校で妙子に勉強を教えてもらってたな。 

いつしか小波の頭の中では妙子と女家庭教師が結びついていた。 
そこからの小波の行動は速かった。 
 次の日には妙子に家庭教師プレイがしたいと懇願したのだ。驚くべきことにプレイの内容を書いた脚本まで作って。 
 小波の熱意におされ、妙子は了承してしまった。 

しかし実際にやってみて、想像以上の恥ずかしさに後悔してしまう。 
 「やっぱりやめましょうよ。こんなの恥ずかしいだけよ」 
 「でも恥ずかしいってことは興奮してるってことだろ。絶対気持ちいいって」 
あまり乗り気ではない妙子に対し、目を血走らせて説得する小波。 
 妙子とは違い、小波はこのプレイを気に入っているようだった。 
 「一回やってみて気持ち良くなかったら次からやらなきゃいいだけなんだからさ、な?」 
 「そこまで言うなら……」 
あまりに必死な小波に妙子は結局折れてしまった。 

 「よく見て、これがクリトリス」 
 耳まで真っ赤にして妙子がセリフを喋る。 
 机に腰掛け、足は大きく開かれていた。秘所を覆う布は脱がされ、その目前には小波の顔がある。 
 食い入るように見入る小波の視線に、妙子は恥ずかしくて気が狂いそうになる。 
 「そんなに見ないでよ」 
 「何で? 何回も見たことあるじゃないか」 
 「こんなにまじまじと見られるのは初めてじゃない。恥ずかしいわよ」 
 「いいから、続けて続けて」 
 既に男女の仲になった二人だったが、こんな近くで凝視されてはたまらない。 
そんな妙子の思いも、小波の欲望の前には何の抑止力にならなかった。妙子は諦めて再開する。 
 「男の子のペニスに当たる器官で、女性が最も感じる場所よ」 
 彼女の声は震え、今にも消え入りそうだ。 
 「そしてこれがヴァ、ヴァギナ。セックスのときには、ここにペニスを入れるのよ」 
 羞恥に震える彼女は、教え子を誑かす妖艶な女教師とはかけ離れていた。 
 想像していたものとは違うものの、これはこれでありだなと小波は思う。 
だったらこっちから攻めてみよう。そんな気を起こす。 
 「先生、良く見えません。指で広げて見せてください」 
 「ええ!?」 
 突如、台本に無いことを言い出す小波。彼の無茶な発言に、妙子は一瞬頭の中が真っ白になってしまう。 
 「先生がやらないなら俺がやります」 
 小波は呆けている妙子の女性器を指で広げる。 
 「きゃあ!」 
 「なんだ、嫌がってる割には濡れてるじゃないか。見られて気持ち良かったのか?」 
 「うう……」 
 容赦のない発言が妙子に降り掛かる。 
 「じゃ、じゃあ次は実践レッスンね」 
こうなればヤケクソだ。一刻も早くこの茶番を終わらせるべく妙子は小波を促した。 

 「私が上になるの!?」 
 「だってそうだろ。女家庭教師が生徒を誘惑するって内容なんだから、妙子がリードしないと」 
 二人が付き合うようになって何度か肌を重ねる機会はあったが、いつも小波が主導権を握っていた。 
 今回小波がこんなプレイを提案したのも、攻守を入れ替えることでいつもと違った刺激を得たかったからという一面もあった。 
 妙子は女性から求めることに抵抗を感じていた。 
とはいえ今までの小波の態度を見ていれば、簡単に諦めてくれるとは思えない。 
 仕方なく小波の言う通りにすることにした。 
 寝そべる小波の上に妙子が跨る。俗に騎乗位と呼ばれる体位だ。 
 「それじゃあ入れるね」 
ゆっくりと腰を下ろしていく。やがて性器が完全に結合する。 
 自分の肉棒が咥えられる光景に小波は興奮する。 
 「さあ、動いて」 
 「うん」 
 腰を上下に動かす妙子。戸惑いのためか動きは遠慮がちだ。 
 「そんなんじゃ気持ち良くないだろう? もっと激しくしないと」 
 「わ、わかったわ」 
 小波は妙子を煽る。速く快楽が欲しい、そんな感情が小波を支配する。 
 初めはスローペースだった妙子も、やがて快感が生まれてくるとピストン運動は自然と激しくなる。 
 「ん! っあぁ! いい!」 
 自ら腰を動かす浅ましさが妙子をより高ぶらせる。 
ボリュームのある胸は大きく揺れ、淫靡な光景を生み出していたが妙子には気にする余裕がない。ただひたすらに快楽を求めていた。 
 受けるだけだったの妙子が求める姿は小波にとっては意外であり、また扇情的であった。 
 妙子にリードするように言ったことも忘れ、自分も腰を振っていた。 
 「こっ、小波君、私そろそろイク」 
 「俺も出すぞ!」 
やがて二人は同時に果てた。アクメに震える妙子の中に、小波の熱い精液が注ぎ込まれる。 
 絶頂を迎え力尽きたように倒れ込む妙子を小波は抱き止める。 
 小波の腕の中で彼の温もり感じた妙子は、今までの羞恥も許せる気がした。 

 「随分気持ち良さそうだったね」 
 「ええそうね。たまにはこう言うのもいいかも」 
 「じゃあまた……」 
 「調子に乗るんじゃないの。だいたいあなたが書いた台本だって誤字だらけだったじゃない。 
 決めた。シーズンオフの間は勉強しましょう。私がきっちり見ててあげるから」 
 「えー」 
 不平不満を漏らす小波。ただでさえ勉強が嫌いな小波は、せっかく妙子と一緒にいられる貴重な時間まで使って勉強したくは無かった。 
この休暇の間に目一杯イチャイチャしようという目論見が音を立てて崩れていく気がした。 


そんな小波を見て、ちゃんと勉強頑張ったらご褒美あげてもいいかな、と思ったのは妙子だけの秘密である。 .
 

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