「うーん、あーでもない、こーでもない・・・」 
12月下旬。言い換えればクリスマスイブ目前 
一足先に毛布にこもった恋人の美しい笑顔を布団の近くに座って見つめながら、青年小波は悩んでいた。 
 「せっかくのクリスマスだから、ちょっと趣向を凝らしたいよなぁ・・・」 
 悩みといってもそう深刻な物では無い。 
のデートルートをどうしようか、というだけの話。 
なんだそれだけか、と言ってしまえばそれまでだが、本人は大真面目だ。 

(去年は居酒屋で軽く飲んでから――のところを漣が飲み過ぎちゃって有耶無耶のうちに一晩中・・・で終わっちゃったからなぁ。) 
別に不満があるわけではない。 
 付き合いが長くなってきたとはいえ、彼女と共に過ごすのが楽しいのには変わりはない。自分も漣もそうそう文句を言おうという気にはならないくらいには幸せな一時ではあった。 
 「クリスマスだったのにやってることが全く変わらないってのがなぁ」 
 彼女の酒癖の悪さと“お盛んさ”が原因と言えなくもないのだが、自分がしっかりしていなかったと言えばそれまで。 
 今年はしっかりルートを構築しておきたかった。 

 「うふふ、小波さぁん、飲み過ぎですよぉ・・・」 
(いやいや、漣。俺、一杯しか飲んでないよ。) 
気の抜けた寝言が彼女の口から飛び出す。幸せそうな寝顔と相合わさって非常に微笑ましい。 
 今日も今日で、宅飲み、ベッドイン、シャワー、シャワールームで×××・・・と 
宅飲みを居酒屋に変えてしまえばクリスマスと何ら変わりない一日を過ごした。 
 週に2,3回の晩酌の内容から察するに彼女のお気に入りはワインのようだが 
 もう少し自分に甲斐性があれば高い酒を買ってあげられるのに。 
 「ワイン以外もごちそうできたらなぁ。なんか、こうカクテルみたいなのとか・・・ 
 って素人がカクテルなんて作れるわけ・・・カクテル?」 
 適当な独り言から、一つの妙案が思い浮かぶ。 
 発想の元の不甲斐なさはともかく、いつもと違う特別な日という演出にはぴったりのある場所。 
 自分も彼女も足を踏み入れたことの無い、ちょっとばかりハードルが高そうな場所に。 
 「・・・よし、ちょっとネットで調べてみるか。」 


そして時は過ぎ、クリスマスイブ。世の若者達の発情期。 
 小波と漣はショッピングと食事を終え、夜道を二人並んで歩いていた。 
 「小波さん、本当に大丈夫ですか?殆ど私の買った物なんですから、半分くらいは・・・」 
 「軽い荷物だし全然問題ないよ。たまには俺も頼りになる場面見せなきゃね。」 
 片手にやや大きめの紙袋二つを抱えた小波が笑顔で答える。 
 一方の漣は申し訳なさげに、それでいてはっきりとした声で返した。 
 「小波さんより頼りになる男性なんて存在しません。」 
 「買い被りすぎだよ。」 
 「少なくとも私にとっては、です。」 
きりっとした表情でそう答えた後、漣は柔らかに笑う。 
 「ありがとうね、漣。」 
 「いえいえ、小波さんこそ、今年も一年間ずっとありがとうございました。」 
 「今年だけ?」 
 「んもう、言われなくてもわかってるくせに・・・これからもずぅっとお願いしますよ♪」 
 耳元で囁きながら、小波の肩にぴたっと寄り添う。シャンプーの良い香りが鼻腔に漂う。 



(う〜ん、やっぱり可愛いなぁ、漣って・・・) 
うっとりしているとこちらの空いている腕に漣が自分の腕を絡ませてきた。 
 彼女の豊かな双球が自分の腕で潰れる感触がコート越しにも感じられ、良からぬ下心がむくりと持ち上がる。 
これを素でやっているのだから、まさしく天性の男殺しだ。 
 「それで・・・今日はこの後どうします? 
  お食事はさっきの店で済ませちゃいましたけど。」 
 「えーと、実はちょっと行ってみたいお店があるんだ。いいかな?」 
 「はい。でもここら辺って馴染みのお店とかは別に・・・どんなお店に?」 
 「それは着いてからのお楽しみ、ってことで。」 
 「じゃ、期待しちゃいますよ?」 
 足取りも軽やかにバカップルは歩み始める。 
うっとりしたままの漣と違い、周りから羨望にも苛立ちにも近しい視線を感じる小波だったが、何ら気に止めなかった。 

 「あ、着いた着いた。ここ、ここ。」 
 「へぇ、BARですか。」 
 二人が来たのは繁華街の外れにあるBARだった。 
 「せっかくのクリスマスだし、たまには変わったところも良いかな?って思ってさ。」 
 「素敵なお店・・・小波さんのセンスは流石ですね。」 
 「まぁそこまで大層なことじゃないけど、漣に喜んでもらえるなら嬉しいよ。 
  ささ、寒いからとっとと入っちゃおうよ。」 
いつもの愛らしいデレ顔の漣の手を引いて店に入り込む。 
 足を踏み入れたそこは外装通りから察する通り、薄明かりに照らされた落ち着いた雰囲気。 
 客も込みすぎない程度に 
漣にはああ言ったが、我ながら悪くないセンスだと思う。 

 「BARなんて久しぶりです。」 
 適当にカウンター席に腰掛けると、漣が何気なく呟く。 
 「漣は来たことあるの?」 
 「はい、学生の時に後輩と何度か。 
  実はちょっとだけカクテルとか知ってたりするんですよ?」 
 「へぇ〜」 
 何気ない風を装っている小波だったが、内心では少し焦っていた。 
ネットのにわか仕込みの知識で(知ったかぶりになら無い程度に)彼女をリードするつもりだったのだが当てが外れた。 
(まぁ共通の話題ってことも結構大切だよな。) 

「それじゃ注文をって・・・えっ?」 
 「あれ、確かこの方って・・・」 
 「やーっと気付いたでやんすか。」 
 一瞬、目を疑った。 
 「さっきから何度も挨拶してるのに全然返ってこないから嫌われたのかと思ったでやんす。」 
 何せカウンターの向こう側に立っていたのは、ワイシャツとソムリエエプロンを身に纏った旧友、開田具智だったのだ。 



「ど、どうしたの開田君・・・そんな面白いカッコして。」 
 「仕事でやんす。し・ご・と!」 
 「バイトかなにか?」 
 「最初はバイトだったでやんすが、なんやかんや仕事覚えていくうちに、正式に勤めることになったでやんす。」 
 「へぇー、無事就職決まったとは言ってたけどこんなところにねぇ。」 
 訝しげな開田の眼差し。 
もちろんその視線は小波の隣の女性に向けられている。 
 「えーと・・・この黒髪ロングで背の高い可憐なお姉さんが・・・前、小波君が言ってた彼女さんなんでやんすか?」 
 「はい。浅井漣と言います。」 
 目を見開き上から下まで舐めるように彼女を観察する。 
 「開田さんのことは小波さんから何度か伺ってます。よろしくお願いしますね。」 
にこやかに笑いながらぺこりとお辞儀。 
やや深くを下げる様は、微笑ましくも、可愛らしくもある。 
 「・・・どうもでやんす。」 

(どうしてこんな良い女が万年彼女無し仲間だった小波君と一緒にいるでやんすか?) 

 (―――とでも言いたげな目で見るのは止めてくれ!) 
自覚はあるだけにそこらへんを指摘されると何も言い返せない。 
そして僻みの強い彼のこと、あれやこれやと彼女の目の前で何かを言われるのでは、と思った。 

 「・・・こちら、メニューになるでやんす。 
  注文したければここに書いてないカクテルもお出しできるでやんす。」 
 「あ、ど、どうも・・・?」 
 「小波さん、どうかしました?」 
 「い、いや、別に」 
 意外にも開田はその件に関しては言及しなかった。 
 就活の間に空気を読んでくれるくらいには成長したのか、それとも単純に客商売としてビジネスに徹しているのか。 
どちらにせよ、二人の一時を邪魔する気はないようだ。 

 「じゃあ漣、何頼む?」 
 「うーんと、小波さんと同じ物をお願いします。」 
 「うおっ、責任重大だなぁ。」 
おどけてみせる小波だったが、内心ほくそ笑んでいた。 
 今日のため、簡単にではあるがカクテルについて予習をしておいたのだ。 
せっかくのお洒落なBARなのだから、中々話が弾み、それでいていい雰囲気を引き出せるような酒についてあれやこれやと調べておいた。 



・・・と言っても実際の所、カクテルというもののバリエーションの多さに辟易し、綿密に調べられたとは言い難かったのだが 
今日はひと味違うところを見せられるのではないか、という自信(期待)があった。 

(確かこう言う意中の女性との席にもってこいのお酒がいくつかあったはず・・・) 

「えーと、なんだったかな・・・そうだ、ルシアンお願い。」 
 「はいはいルシア・・・ってええっ!?ルシアンでやんすか?」 
 「る、ルシアン!」 
 驚いた顔を見合わせる開田と漣。 
 「あの、開田さん、私は飲んだこと無いんですけど確かこれって・・・」 
 「確かにこれは例のあれでやんすが・・・流石にそんな露骨な真似は・・・偶然でやんすよ偶然。」 
 「で、ですよね・・・」 
そのまま顔を合わせながら小声で何かを話し合っている 
「あの・・・二人とも何が・・・?」 
 「いえ、なんでもありません。」 
 「と、とりあえず、ルシアン二つでやんすね。かしこまりまりましたでやんす。」 
いそいそと準備を始める開田。 
 隣の漣の表情はどこか恥ずかしげで実に可愛らしいが、そう暢気にはしていられない。 
 自分がどういうことをしたのか推し量ることはできないが、何かをやらかしてしまったのだけはわかる。 
 女受けが良いと評判の酒を頼んだつもりだったが、実はにわか知識で地雷を踏んでしまったのだろうか。 

 「おまたせしたでやんす。ルシアンでやんす。」 
 心配している小波の目の前に、開田が慣れた手つきで琥珀色の液体で満たされたカクテルを差し出す。 
 「んーと、頼んだ俺が聞くのも変だけど、これってどう言う物なの?」 
 「ジンとウォッカとカカオリキュールを1:1:1で合わせた物でやんす。」 
 「カカオリキュールって?」 
 「ざっくり言ってしまうとチョコ味の酒って感じでやんすね。」 
 「チョコ味?」 
ジンとウォッカというまるで某死神少年探偵を思い出すような組み合わせのペアに、チョコ味のアルコールという未体験物質。 
ますます持って不安が高まる。 

 「えぇっと・・・じゃあ小波さん、ご一緒に。」 
 「か、かんぱーい。」 
 乾杯を交わした後、恐る恐るグラスに口を付けてる。 
まずは一口だ。それで色々と様子を見よう。 

スゥッ 
「変わった味ですけど美味しいですね小波さん。流石のチョイスです。」 
 「はは、ありがとう。」 
 「大部分はおいらのおかげのはずでやんす。」 

(・・・変だな。普通に美味しいじゃいか。) 

チョコ特有の苦みと甘さがしつこくない程度にまとまっており 
 それがアルコール特有の辛みを爽やかなものに抑えている。 
 甘みとすぅっとした風味の口当たりが非常に良く、面白い美味しさだった。 



「口当たりが良いんであーっという間に飲んじゃいましたよ。」 
 「そりゃよかっ・・」 
 「小波さん!お代わりしましょう。お代わり。これ美味しいです!」 
 「えっ?いや、いいけど・・・」 
 「二杯目でやんすね。了解でやんす。」 
 妙にテンションの高い・・・というか、まだ一杯だけなのに結構酔いが回り始めているようだ。 

 「んくっ、んっ、んっ・・・ふぅ・・」 
 赤く染まった頬、とろんとした目つき、悩ましい溜息。 
 「やっぱりお酒って良いですねぇ」 
 明るくハツラツとした普段の彼女とは違う艶やかな様は、何年見ても飽きないほど色っぽい。 
つくづく一挙一動が絵になる女性だ。 
 「ん〜?小波さん、どうかしました〜?」 
 「えっ、いや、その・・・お美しいなぁ、って思って。」 
 「ふふ、お上手なんですからぁ、もう。ちゅっ。」 
 「うわっ」 
 頬に軽く口付けられる。 
もうほっぺちゅーで心臓をバクバクさせるほどウブでは無いが、人前でやられると流石に驚いてしまう。 
 「おいおい、漣、人前で・・・」 
 「だって小波さんが変なこと言うからー」 
というか彼女だろうと何だろうと、美人に人前でキスされるという行為そのものが普通に恥ずかしい。 

(うーん、周りの人に申し訳ないなぁ・・・) 

妬みの視線を感じるわけでは無い。 
むしろ別の客の元にそそくさと足を運ぶ開田を筆頭に、他の客からそっとしといてやろう、的な微妙な気遣わせているような空気を感じた。 
 「えへへ、・・・小波さぁん。」 
 「おいおい、ここで抱きつくのは流石に・・・いやじゃないけどさぁ・・・」 
それ以上に彼女とじゃれ合うのが楽しくて幸せで仕方ないあたり 
自分でも己がどうしようも無いやつだとは思っているのだが、いかんせん漣が可愛らしいのが悪い。 

 「・・・お熱いところをお邪魔するようで申し訳ないでやんすが 
 他にご注文はあるでやんすか?」 
 「あっ、ごめんごめん。」 
 「すいませーん。」 
いい加減見るに見かねたのか、ややぶっきらぼうな開田が口調で接客してきた。 
 触れ合い中断は残念だが、店の中でこれ以上騒いでも迷惑なのでしかたない。 

 「今度の注文も、小波さんにお願いしますねー。」 
 「え、えーと、そうだなぁ」 
 頭の中でいつぞや調べてみたネットのデータを引っ張り出す。 
ルシアンと同系統で、女性との会話にもってこいのカクテルが確かあったはずなのだ。 

 「えと、確か・・・そうだ、スコーピオンだ、スコーピオン!それお願い。」 
こんな状況だというのに、我ながら意外と覚えている物だなぁ、と自画自賛する小波。 
 「うわぁ、小波君、マジも大マジでやんすねぇ」 
 心底驚き呆れた様子の開田。 
 「えーと、開田さん、そのスコーピオンっていうのも例の・・・」 
 「そうでやんす。正統派かつ強力なレディキラーでやんす。」 
 「へぇ〜、やっぱりそうなんだぁ・・・えへへ。」 
 「・・・?」 
 妙に嬉しそうにはにかむ漣、戸惑う小波。その二人を余所に開田は準備に取りかかる。 



「全く小波さんったら、大胆なんですからぁ・・・」 
 「え、えーと、何の話?」 
 流石の小波も自分が何らかの間違い(?)を犯したことには気付き始めた。 
そうは言っても隣の彼女の楽しそうな微笑みにも、目の前の友人の呆れたと言わんばかりの表情にも 
 どちらに何をどのように聞けば良いのかさっぱりわからない。 
 結局微妙な沈黙がしばらく続いた後、開田がグラスを差し出した。 

 「おまたせしました。スコーピオンでやんす。」 
 「・・・オレンジジュース?」 
 出てきたのは限りなく真っ黄色な液体。オマケに薄切りのオレンジの飾り付け。 
どこら辺がサソリなのかさっぱりわからない。 

 「どーいうお酒なんですー?」 
 「ホワイトラムとブランデーをベースに、オレンジとレモンとライムのジュースをあわせたものでやんす。」 
 「それって半分ジュースなんじゃ・・・」 
 「まぁ半分にちょっと足りないくらいはジュースが原料を占めてるから、当たらずといえども遠からずでやんす。」 
さっきのチョコ味のカクテルもそうだが、なんでまたそんな子供のような味の酒が女性との席で推奨されているのだろうか。 
 「ささっ、小波さんぐいっと言っちゃいましょう、グイッと。」 
 「いや、カクテルってそんなにぐいぐいいくもんじゃ・・・ってもう飲んでるし。」 
 彼女に続くように、カクテルを程よく飲み込む小波。 
 先ほどのルシアンと違って、こちらは見た目通りの味と言ったところ。 
 程よく甘く、柑橘系のジューシーで爽やかな酸味が非常に口当たりに良い。 
 系統こそ違えど、先ほどのルシアンと同じく、飲みやすさを重視したお酒ということらしい。 

(うーんと・・・酒が苦手な女の人でもおすすめの、あんまり強くないお酒、ってことか?) 

なぜ女性との席にお勧めなのか、そして先ほどからの二人の反応はなんなのかを考えて見るが、イマイチ考えがまとまらない。 
いや、考えがまとまらないというより、思考がそのものが随分と鈍っているようだ。 
 結構酔いが進んでいるらしい。だがしかしまだ二杯しか飲んでいなかったはずだ。 
そこで小波はようやく決定的な違和感を感じ取った。 


 「開田君。さっきのルシアンってやつと、このスコーピオンって、アルコール度数どれくらいなの?」 
 「度数?ルシアンが32度、スコーピオンが25度ってところでやんす。」 
 「えっ?それって滅茶苦茶強くないか?」 
 「市販のビールが大体5度くらいでやんすから、大分強いといえるでやんすね。」 
 「でも、そんなに度数高い割に随分飲みやすかったけど・・・」 
 「だからレディキラーなんでやんす。」 
 「あの・・・レディキラーっていうのは、女性との席で出すと話が弾むとか、好感を持たれるとか、そういうお酒じゃないの?」 
 「はぁ?そんなカクテルがあるならオイラは今頃ハーレムでやんす!」 
 「そりゃそうか。」 
 「レディキラーっていうのは度数が滅茶苦茶高いのに、口当たりが良いから 
 女を酔いつぶせてお持ち帰りするのにぴったり、っていうカクテルのことでやんす。」 


「・・・ゑ?」 

つまり今まで小波がやっていたのは夜這いも同然のことだったというわけだ。 
 開田も目の前でそんなことをやられればやりづらくなるのも当然。 
そして酒に弱い彼女ならば、一杯飲んだだけでもほろ酔いになるのも当然。 
 更にそんなお誘いを受けた彼女がこれから何をするのかなど当然・・・ 

「小波さん」 
 隣から聞こえる彼女の声は、予想とは裏腹に落ち着いていた。 
しかしその彼女の顔は相当赤く染まっている。 
 「れ、漣・・・どうかした?」 
 「トイレ行きたくありません?トイレ。」 
 「い、いや、俺は別に・・・」 
 「ですよね、三杯も立て続けに飲んだら流石にもよおしますよね」 
 「俺はまだ2杯しか・・・ってうわっ!」 
 「じゃあ開田さん、少し席明けますから鞄とコート、お願いできますか?」 
 「りょ、了解でやんす」 
 彼女の細腕からは想像できないような力で小波は座席から引っぺがされ、そのまま一目散にトイレに連れて行かれてしまった。 


 「んっ・・・ちゅるっ・・んぅ・・・ぷはぁっ」 
 「はぁっ、はぁっ・・・まずいよ、こんな所で・・・」 
 「説得力ゼロですねぇ♪」 
 二人は男子トイレの個室で身を寄せ合い、熱い口付けを交わしている。 
 既に漣はブラウスのボタン、ブラのホックを外して小波に露わになった豊満な身体を押し付けていた。 
そして手際よく小波のズボンをずり下ろし、下着の隙間に細い指を忍ばせていた。 
 「こぉんなにビクビクしてるのに」 
 「こ、ここはお店だから、他のお客さんが入ってくるかもしれないし・・・」 
 「誘ってきたのは小波さんじゃないですかぁ♪」 
 「いや、だからそれは違・・っ!」 
パンパンに膨れあがった小波の玉袋を、ひんやりとした滑らかな肌触りの指が這うように愛撫する。 
しなやかな彼女の手つきがじわじわと性感を高めていた。 

 「そ、れ、に、小波さんだってふだんより元気みたいですよー?」 
 「や、やめっ・・・」 
 「いいじゃないですかぁ♪小波さんもぉ、いけないところでいけないことして、興奮しちゃってるんでしょう?」 
 「うわっ」 
とうとう下着が完全にはぎ取られ、いきり立った男根が露わになる。 
 漣はそれを柔らかな手つきで握りしめ、くすぐるように上下に動かす。 
 「うふふ、先っぽがどんどん濡れてきちゃいましたよ? 
  今からこれじゃ、私の中でドクドク出しちゃうんじゃないですか?」 
いやらしい笑みを浮かべながら竿をなで回し、もう片方の手で玉袋に丹念なマッサージを施す。 
 店のトイレという異様な状況と、普段以上に淫らに迫り来る彼女を前に 
小波は背徳感に後押しされた興奮でぞくぞくと震えてしまっていた。 

 「わかった!わかったからここでは待ってくれ!とりあえずここで会計を済ませた後、家に・・・いや、最寄りのホテルに・・・」 
 「小波さんったら、すなおになってくれませんね・・・じゃ、ここは一つ、ゲームで決めましょう!」 
 「げ、ゲーム?」 
キョトンとする小波を解放し、笑顔を崩さないまま漣は解説を始める。 



「これから私が小波さんにかるーいスキンシップをしますから、小波さんは身動き取らず、じっと我慢してください 
 それで小波さんが私とセックスしたくなったらここでセックスを 
 したくなくなったら帰りましょうおうちまで、っていうゲームです。」 
 「わ、分かった、分かったからここでは止して・・・んうぅっ!!」 
いきなり小波の頭に手を伸ばし強引に唇を吸い上げる。 
 舌を小波のそれに絡みつかせ、口腔を蹂躙し、唾液をすする。 

 「んっ、はぁっ・・こんなにビンビンなんですからぁ、すぐにしたくなりますよねぇ♪」 
 「うぅ・・・」 
 恥じらいの欠片も無い(普段でも欠片程度しか無いが)淫らな言葉遣いが背筋をぞくりとさせる。 

 漣は器用な手つきで小波のシャツのボタンを外し、乳首に吸い付く。 
 「ひぃあっ!」 
 「ふふ、小波さんのここって、わたしより敏感なんじゃないですかぁ?」 
 指先でもう一方の乳首をくりくりといじり回し、舌のほうはその周りを舐め回す。 
そして開いている方の手の玉袋への愛撫は止まない。 
まるで身体全体をくすぐられているかのような淡い快楽が、小波の性欲をあらぬ領域まで駆り立てる。 

 「くちゃ・・ちゅ・・ちゅうっ・・んふふっ・・・」 
 「・・・っ!」 
 蠱惑的な流し目、妖しげな笑みを愛する人に向ける漣。 
いつもの彼女の健康的な色気とはまるで違う、淫魔のような妖艶さに、それだけで気をやってしまいそうになる。 
 「んっ、ふぅ・・・私としたくなりましたぁ?」 
 小波をイスに座らせ、跪くようにして玉袋をさする漣。 
 先ほどから殆ど男根への刺激を 
「それは・・その・・・」 
 「素直になっちゃえば、気持ちよくなれるはずなんですけどねぇ・・後一押しが足りませんか?」 
 「ひと、押し?」 
 「例えば」 
 「うぁっ」 
 膨れあがった先端を舌で舐め上げる。 
 焦らされ続けた場所への暖かな口撃に、小波の口から情けない嬌声が上がる。 
 「こんな感じで・・・もうちょっと強くしてあげてもいいですかね? 
  ・・・ふぅーっ」 
 「うぅっ・・・ぐっ・・・!」 
 赤黒く膨れあがったそれに、音を立てて息を吹きかける。 
それだけで肉棒はゾクゾクと震え上がり、射精願望が小波の脳を埋め尽くす。 
 「いい加減素直になりましょうよぉ・・んっ・・くちゅっ、ちゅっ・・」 
 腰に手を回し、根っこの両玉をねちっこくしゃぶりつくす。 
しかし決して男根を直接触れるようなことはせず、徹底的に焦らし続ける。 
 「あっ、あっ、ひぁあぁっ・・・」 
 情けない声を上げつつ、身を焦がすようなもどかしさに打ちのめされるばかり。 

 「んちゅ、んっ、ちゅぼぼ、ちゅるる・・ 
 んもう・・これじゃわたし、まるでいじめてるみたいじゃないですかぁ」 
 「はぁっ、はぁっ、はぁ・・・」 
もはや責め苦と言っても差し支えない愛撫からようやく解放される。 
もちろんそこから与えられたのは安堵感などではなく、思考がまともに働かなくなるほどの劣情。 
そもそも自分はなぜこんな快楽拷問に耐えているのかも分からなくなっていた。 



「ねぇ、小波さん」 
 「はぃ・・・?」 
 顔を上げて前を見てみると、スカートと下着を下ろし、半脱ぎ状態の漣がそこにいた。 
 「抱いて、くれません?」 
 先ほどまでの奔放さとは違う、妖艶ながらに優しい笑みを浮かべてそう言った。 

ずにゅにゅっ! 

 「ああぁあっ!・・・んんっ・・凄い・・・おくまで・・・!」 
 小波は漣に飛びかかり、彼女を壁に押し付けるように、強引に挿入した。 
 「ぐっ、ぅ・・・」 
 温かく程よい肉壁が男根にまとわりつき、強烈な快感が身体をぶるりと震わせる。 
 「あ・・・あぁっ!あ、はぁんっ・・・っ!」 
 既に彼女のそこは触れられてもいないのに、愛液でたっぷりと濡れており 
無我夢中のままに放った一突きで、飛び上がりそうな程の強い刺激を受けさせられてしまう。 
 「いい、です!こなみさぁん・・そのまま、そのま・・・はぁああんっ!」 
 季節外れの汗がにじむ、赤く染まった頬、とろんと蕩けた目、端からだらしなくよだれを垂らしている口元。 
 乱れに乱れ、完全に蕩けきった顔を小波に向けながら、ぬらぬらと愛液を滴らせた秘壷で男根を包み込む。 
 「うぅ・・漣の中・・・すご・・・!」 
 燃え上がる漣の肉壷は肉棒を喰らうかのように締め付け、白濁液をを搾り取ろうとしてくる。 
 強力な快楽に耐えようと、小波はぎゅっと歯を食いしばる。 
 達するのも時間の問題だった。 
 「ぐぅっ・・・はぁっ・・!」 
 「あっ、だめ・・・おっぱい、そんな、はぁあっ、はげし、いぃ」 
 少しでも反撃しようと、小波は彼女の身体を下から支えるように、その大きな双球に胸を食い込ませる。 
 両手に収まらない程のボリュームと、指に吸い付くかのような柔らかさがこの上なく気持ち良く、自然と手つきが激しくなる。 
 「あぁあっ、ひぁあ・・ん・・・・・っ、はふ、ぅ・・・・あ、あぁあんっ!!」 
 漣が背筋を反らし、そのくびれた腰を揺すると、男根の入り込む角度が変わり、亀頭が強く肉ひだに押し付けられる。 
 「くっ・・これ・やば、い・・」 
 「ひゃ、あっ、あ、あっ、あああん・・ひっ、はぁあああっ!」 



不規則な媚肉の蠢きに、小波は加減もままならず、ただひたすらに腰を振るう。 
その暴力的な律動が膣壁をえぐり、子宮口を突き上げ、その度に頭が真っ白になるような衝撃が走る。 
 漣は衝撃をもっと味わおうと、淫らに腰を振るって子宮口に亀頭をぶつける。 

 「はぁ、はぁっ・・漣、もう、そろそろ・・・っ!」 
 「い、いいです、はぁっ、んっ・・・わたしのなかに、全部、ぜんぶっ、ぶちまけてっ!」 
さらに漣の中が小波のモノを搾ろうと、妖しく激しく蠢く。 
その強烈な刺激と、彼女の淫らな誘いに、小波はあっさりと限界を迎えた。 
 「ああぁああっ・・・っ・・――――!」 
 「うっ、漣・・・もう・・ぐぅうっ・・・・!!」 
うめき声を上げながら、彼女の中にため込んだ精を放出する。 
 「あぁ・・きてます・・いっぱい・・・」 
どぴゅっ!どぴゅっ!そんな音が聞こえてきそうな程の勢いと量の粘着質の液体が押し流され 
漣はそれを恍惚とした表情で受け止める。 
 小刻みにぴくぴくと動く小波の腰に足を回し、更に身体を密着させる。 
 「はぁ、はぁ・・・」 
 「ねぇ、小波さん。」 
 「な、何、れんむぅっ!」 
 小波の顔を豊満な胸に押し付け、耳元で優しく囁く。 
 「・・・まだ、出来ます・・・ね?」 

 小波に返事の猶予は与えられなかった。 

・・・ 

「お、お待たせ・・・」 
 「えへへ、お荷物すいませんねー。」 
 未だに酔いが回ったままの漣、そして酔いも興奮も色々な意味で醒めきった(搾られた)小波が同時に開田の前の席に着いた。 
 「・・・・・」 
 「ど、どうかした?」 
 「ツッコミ所が多すぎてどこから聞いていこうか迷っていたでやんすが・・・ 
 お客様相手に無粋な真似は止めておくでやんす。」 
 「助かります。」 
 「・・・?何の話ですー?」 

 目の前で擬似的に女を誘いまくる。 
それなりにいる客の前でいちゃつきまくる。 
 唐突に2人揃ってトイレに向かう。 
そこでおよそ2時間経過。 
 何も言わずに席に戻る。 
ここまでやっておいて文句の一つも付けしない開田に、小波は感謝した。 

 「あー、そうでやんす。 
  出来上がってるそっちのお姉さんは置いておいて、二杯しか飲んでない小波君に是非飲んで貰いたいカクテルがあるでやんす。」 
 「お、俺に?」 
 「もちろんおごりじゃないでやんす。」 
 「あー、えっと、うん。じゃあ一杯お願い」 
 「おなじやつ私も私も!」 
 「いや、漣ちゃんは大分出来上がってるから――ま、いいでやんすか。」 



「はーい、小波さん。今晩のお開きのかんぱーい!」 
 「か、かんぱーい。」 
 恐る恐る口にしたそれは、今までの口当たりの良い酒とは大違いの代物だった。 
 薬品のような風味がすぅーっと口の中を通り、シャンパンの果物系のひんやりとした口当たり、炭酸のシュワシュワとした口当たり 
口の中の温度を急激に下げられたかのような錯覚に陥る。 
 「うわぁ、このお酒、キュッときますねー!」 
 「えーっと・・・開田君、これ、どんなお酒?」 
 「シャンパンとアブサンを3:2で合わせたものでやんす。」 
 「アブサン?」 
 「ニガヨモギやらハーブやらをベースにした酒でやんす。 
  本来はこれじゃなくて黒色火薬をシャンパンに入れるという面白いカクテルなのでやんす」 
 「黒色火薬!?花火とかにつかうあれ?」 
 「まぁ流石にんなもんが普及するわけも無いので、基本的には代用品としてアブサンが使われてるでやんす。」 
 「ふーん・・・なんて名前?」 
 「デス・イン・ジ・アフタヌーンでやんす。」 
 「いや、死の午後って・・・しかも火薬使った酒。・・・あっ」 
 察した。 
 「えーと、つまりこれは・・・」 
 「とどのつまり盛大に爆死しろということでやんす。」 
 「・・・・すいません。迷惑かけまして。」 
 「おあいそでいいでやんすか?」 
 「はい、じゃあ・・・」 
 頭を下げるる小波に、再び後ろから誰かがしがみついた。 
 「えっへへ〜、こーなーみーさーん。」 
 先ほどより明らかにおっとりとした声音で漣が耳元で騒いでいる。 
くるりと振り向いていると、この上なくトロンとした目つきで、より顔を赤く染めた彼女がそこにいた。 
 「あの・・・開田君。この出オチカクテル、度数はどれくらいなんだよ。」 
 「30%ってところでやんす。しかも炭酸によるアルコール周りの加速のおまけ付きでやんす。」 
 「んもう、なにをはなしてるんですかぁ〜」 
 「あの、ひょっとしてここまでわざとやったんじゃ・・・」 
 「はいはいー、他のお客様にご迷惑でやんすからとっととレジにお願いでやんす〜」 
 「おい!開田君ちょっと待て!これ絶対わざとだろ!おい!」 




そのままつまみ出されるように店を出て行った小波は 
 ビル街の適当な路地裏に連れて行かれ、完全に出来上がった漣に徹底的に搾られたという。 

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