冬休み。 
所謂長期休暇の一種。 
生徒は勉強から放免され、先生から解放され 
全寮制の学校であれば、両親に顔を合わせる絶好の機会。 
とどのつまり、多くの生徒学生が求めて止まない長い長いお休みだ。 
しかし俺はその限りではなかった。 

「早く新学期にならないかなぁ…」 

待ち受けに映る緑髪の少女の笑顔を眺めながらぼそりと呟いた。 


3年の冬休み。 
高校野球を終え、実質高校でやれることを全て済ましてしまった俺は実家で悠々と羽を伸ばしている。 
羽を伸ばしているといっても、楽しいかというとそういうわけでも無い。 
理由は冒頭で述べたとおりである。 
確かに久しぶりの実家。 
といってもこの年で母親に会えたとしてもあまりありがたみは無い。 
テレビも面白くも無い番組ばかりだし、外は寒すぎて体を動かす気にもなれない。 
なによりなによりなによりナオがいない。 
これでおもしろいと思うことがあろうか。いやない(反語) 
「おっ、珍しく古文の内容覚えてたな!…どーでもいいか」 
本当にどうでも良いことをブツブツ呟きながら自室に戻る。 
あの監獄のような学校からようやく離れられたというのに、離れられたら離れられたで彼女とも離れることになる。 
世の中上手く行かないもんだ。 
退屈しのぎにナオに連絡でもしてみよう。…といっても直接会いたいんだけどなぁ。 
そうこうしながらものぐさに携帯を充電器から取り外してみると 
連絡アリのマークが点滅していた。 

「あれ?メール来てる。」 
もしやと思って開いてみると案の定、差出人高科奈桜の表記が目に入った。 
なんとも奇遇、いや流石恋人と言うべきか。 

SUB:無題 
TEXT 
今からそっち行きますよ! 

「…はぁ?」 
恋人に送っているとは思えないほどの単文メール。しかも無題。 
味気ないことこの上無いがそういう問題ではない。 
一体何を言っているんだこいつは。突拍子もなさ過ぎる。 
「まさか本当に家に来るんじゃ…」 
こっちとあいつの家は県をいくつか超えるくらいの距離があるので、常識的に考えたらそんな唐突な話があるわけではない。 
だからといってあいつが常識的な行動を取るわけも無い。 
とりあえず返信して、どういうことなのか説明をしてもらわないと。 

TEXT 
お前、まさか本当に俺んちに来たりはしな 

ピンポーン ピンポーン 

「はーい今行きますね」 
メールを書き終える前に玄関チャイムの音、それに呼応する母親の声が響いた。 


「いやぁうちの息子がお世話になっております。」 
「いえいえ、お互いにお世話しまくってますからお気になさらずにお母様!」 
「お母様?」 
「ええそりゃもう私にとっては第三の母親ですよ。」 
「だ、第三?あ、そういえば息子からそんな話を…」 
「はは、まあうちはほんのちょこっとだけ複雑な家庭なのでそこはまぁ…」 

とんとん 

「もう、なんなんですかー、小波くんはぁ。今良いところなのに…」 
「お前こそ何やってんだ。」 
「お母様評価アップイベントを進行させていますです。」 
「俺からの評価が下がるぞ。」 
「小波君は攻略済みなのでお互いにある程度好き放題しても大丈夫なのです。」 
「どんな基準だ。」 
「水回りを汚されると流石にマズイですが…」 
「親の前でやめろ。」 
少し離れていただけなのに随分と久しぶりのこのやり取り。 
…うれしくもあるが、やっぱり疲れるもんは疲れる。 
数日ぶりにあったナオは相変わらず可愛らしく…といっても四日そこらで変わるわけないが。 
可愛らしい私服だがこの冬にミニスカートとか寒くないのかと。 
いや是非穿いて欲しいですが。はい。 

「で、お前何しに来たの?わざわざ特急使ってここまで来て。」 
「予行演習に来たんです。」 
「予行演習?」 
「はい新婚旅行の予行演習です!」 
… 
「予行演習?」 
「いやループしませんよ。何無理矢理スルーしようとしてるんですか。」 
「お前こそ無理矢理わけわからん方向に話を持って行こうとするな。」 
「じゃあ説明しますね。」 
「わかりやすく簡潔にたのむぞ。」 
「そんな頭のいい人みたいなマネできませんよ。バカですから。」 
「いいからやれ!」 
手持ちの鞄から何かを取り出すナオ。 
何かの広告の様子、旅館のパンフレットだ。随分とご立派な旅館の。 
「…何、この高そうな旅館。」 
「明日から一緒にここに泊まりに行きますよ!」 
「はぁ!?」 

せっかくの高校最後の冬休み。 
どうもこの小娘は数週間前から俺と旅行する気満々で、2泊3日でこの旅館に勝手に予約を入れてしまったらしい。 
無断で、しかもよりによってこの高そうな旅館に。 

「そこら辺のことは気にせずに!交通費宿泊費諸々も全部私が出しますよ!」 
「マジで?」 
「それくらいじゃないとこんな厚かましい申し出できませんから。」 
「うーん、なんか逆に悪い気が…」 
「……ダメですか?」 
その切ない表情は卑怯だ。 
「いやいやいや!是非お願いするよ。」 
「ありがとうございます!」 
その眩しい笑顔は反則だ。 

「ホントにこんな可愛い子が彼女さんだったんだねぇ。」 
物凄くにやついた顔で母親が話しかけてくる。ナオと違って実に気に障る笑顔だ。 
「この子本当にうるさいんですよ。家に帰ってからナオちゃんの話ばっかりで…」 
「うわぁ、それ以上言うな!」 
「へぇー…非常に興味深い話ですねぇ。」 
「この前なんか結婚は何歳くらいでするべきかって…」 
「やめろやめろやめろー!!!」 

それから話は流れるように進んだ。 
その日の午後を使って通行手段の確認から荷造りまで済ませ、明日に備えることに。 
ナオは父・母共に大好評。 
当然のように今日はこの家に泊まることになった。 
部屋が恋人の俺とは別なのが残念だが、まぁ仕方ないと言えば仕方ない。 
それにしても両親二人して、やれ息子には勿体ない、やれ相手のご両親に申し訳ない… 
別に猫を被ってるとまでは言わないが、この女の破天荒さを知ったらさぞや驚くんじゃなかろうか。 
ったく、よくもまぁこんな滅茶苦茶な女を… 

…選んだのは他でも無い俺ですよ、ええ。 
仕方ないじゃん。惚れちゃったんだから。 

そして翌日、家を出発した俺達はちょっとした電車の旅の後、予定地の旅館に到着した。 
「ほぇー、実際見てみるとまたご立派な…よくこんなところ借りられたな。」 
「フフン、パパのお仕事の関係でちょっとしたコネがありまして。」 
「なんで得意げなんだよお前は。」 
甲子園に行ったときの宿泊施設も中々だったがそっちよりも随分でかい。 
ごくごく普通の収入の一般家庭出身の俺にはありがたい話なのだが、本当に旅費を全面負担してもらっても良いのだろうか? 
「本当にお金任せちゃって大丈夫なのか?」 
「そんなに小波君が払いたいですか?」 
「いやそういうわけではない。」 
「お金は予約の時にもう払っちゃいましたから問題有りませんよ。 
 パパも快く承諾してくれました。」 
「お前の…その、今の父さんは俺のことなんか言ってるのか?」 
「もう大評判ですっごく感謝してましたよ!杯交わしたいくらいだって!」 
「さ、さかづき…?お前の父さん、何やってる人なんだ?」 
「…聞きたいですか?」 
ナオの目が久しぶりにチュピーンと輝いたのを見て、俺は口をつぐんだ。 

何はともあれ、本格的に周りをうろついてみるのは明日と言うことで 
今日は早速荷物を部屋まで降ろしてゆっくりすることに 
従業員さんに手荷物を運んでもらえるという時点でかなり驚いてしまったのは内緒だ。 
なんとも貧乏くさい話である。 

場面は飛ぶが、今、俺は温泉に浸かりながらのんびりとしている。 
やや早めの時間だったからか、他の客も少なめ。 
旅の疲れを存分にお湯の中に溶かすように湯船で身を休めた。 
これはこれで素晴らしいのが、惜しむべきは混浴が存在しなかったということか。 
正直、かなーり期待していたのだが…まぁナオが変な輩に絡まれなくなったということで納得しよう。 
…それにしてもバスタオルまで無料レンタルだとは思わなんだ。 

「ちょっと早すぎたかな?」 
俺個人としてはそれなりに長湯したつもりだったのだが、未だにナオは入浴中。 
先に部屋に帰ってしまっても良いのだが、せっかくなので待ってあげるべきか。 
待合用に用意されていたイスに腰掛け、適当に時間を潰す。 

「なんでこんな時期に旅行なんだろう。」 
彼女を待っている間に、ふとそんな疑問が頭に浮かぶ。 
別にこの旅行に不満があるとかそういう話では無い。 
確かにドタバタしたものの、むしろナオと二人っきりで過ごせるのは願っても無い話。 
この機会に、そしてこの機会そのものを与えてくれた彼女自身に感謝している。 
しかし別に冬休みなんてめんどくさそうな時期にどうしてまた…と思ったがどうせいつもの突拍子も無い思いつきだろう。 
というかそんなことはどうでもいいのだ。旅行は自体は嬉しいし。 
問題は一緒に旅行しているという事実そのものなのだ。 
「…一緒に外泊、ってそういうことだよな。」 
初体験は学校でこっそり済ませてしまったが、回数は片手で数えられるくらい。 
わざわざ外泊のお誘いをしてくるくらいなんだから、そういうことなのは間違いない。 
「あれって…普通の人はどうやって誘うものなんだ?」 
悲しいながら女性経験が彼女以外にない俺にはそれが全く分からない。 
学校でやっちゃったときは勢いのままこっそりやっていたので前例としては使えないだろう。 
無言でキスでもしちゃえばいいんだろうか? 
事前に「やりたいんだけどいいかな?」的なことを言えばいいのだろうか? 
でもあんまりがっついてると身体目当てみたいに思われそうな…いやもちろんそうなんだけど身体だけが目当てでは無い。 
そもそも向こうから誘いをかけているわけでもあってだな。 
やっぱり事前にそれっぽい雰囲気になったりするのか? 
馬鹿な俺にでも分かるような空気に。本当にその空気が読めるのかわからないけど。 
めんどくさいからここはもう開き直ってルパンダイブしちゃって… 

「お待たせしました!」 
「うわっ!?」 
やましいことを考えている最中に肩トントンの不意打ち。なんと卑怯な。 
「…?どうかしました?」 
「あっ、いや、その…なんでもない。」 
振り返ってそこにいたのは浴衣姿のナオ。 
勿論旅館の貸し出しだが中々新鮮な出で立ち。 
っていうか、風呂上がりのナオが…なんかこう…ストレートに言ってしまうとエロい。 
僅かに湿った髪とか赤みの残る肌とか、妙に色っぽいと言いますか。 
いつもと違って縛った髪型(乾かすためか?)も中々にグッドです。 

「ちょっと早いですけど、ご飯食べに行きましょうか。時間になったら部屋に運ばれるはずですので。」 
「お、おう。」 
「…なんか変ですね、今日の小波君。」 
あからさまに変な俺に少し首をかしげたナオだったが、それに構わず、そろそろと歩き出した。 
俺も彼女の後を追って歩き出す。 
「…ん?」 
そこであることに気が付いてしまう。 
「……!?」 
う、うなじ…! 
普段の髪型だと見ることが不可能なナオのうなじ。 
なにがどうとか言えないけど…なんか凄く良い。 
以前荷田君にうなじの良さを力説された事があったが、今になって初めて分かった。 
あの時は完全に戯言扱いで聞き流してたけど、湯田君、君が正しかった。新学期になったら謝らないといけな… 

「じーっ」 
気が付いたらいつの間にか振り向いていたナオが俺のことをガン見していた。 
もはや怪しいを通り越して疑いのような何かを感じる視線だ。 
「こーなーみーくーん…」 
「うっ」 
ジリジリとナオが距離を詰めてきた。流石にいかがわしい目で見ていたのがバレたのか? 
っていうか顔近!めっちゃ顔近い!5cmも離れてないぞこれ。 

「…ナオっちはそんなに魅力的ですか?」 
「そ、そりゃ…はい」 
「じゃあ他の人に目移りしちゃだめですよ?」 
「あ、ああ、そんなの当たり前だろ。」 
「…えへへ」 
はにかんだ笑顔を浮かべ、ナオは再び歩みを進めだした。 
あぁ危ない、怒られるかと…っていうかやっぱりナオ可愛いな、うん。 

「いやぁ美味しいですねぇ!」 
「そ、そうだな…美味しい美味しい。」 
確かに美味しい。 
懐石料理、っていうの?よくわかんないけど、和食でもこんなに美味しいんだね。 
でもアワビをそのままの形で出すって言うのはどうなのかなぁ。詳しくは知らないけどこれ、冬が旬じゃなかったよな。 
まぁそういう食べ方もあるんだろうし、躍り食いってしろって話じゃないから文句があるわけではないんだけど 
なんかこう…今の俺には別の物が連想されてしまうと言うか… 
「小波君、私のアワビとお刺身食べます?もう胃袋がヤバイので」 
「!?」 
「どうかしました?」 
「な、なんでもない!」 
ナオのアワビナオのアワビナオのアワビナオのアワビ… 
れ、冷静に冷静に。 


「布団まで敷いてくれるんですねー。」 
なんとも至れり尽くせりというか、ここまでされるとサービスのはずなのにこっちが悪い気がしてくるのはただの貧乏性だろうか。 
といってもそんなことはどうでもいい。とうとうこのときが来たのだ。 
「いよいよか…」 
「何がです?」 
なんとも暢気な表情のナオ。 
俺と違って随分気楽そうだが、女の方が案外こういうことに積極的だと聞いたことがある。そういうことなのだろうか。 
「どうかしました?」 
「いや、ちょっと緊張して…」 
「別に緊張する必要なんて有りませんよ。いつも通りで良いんです。」 
「そ、そうか。」 
よ、余裕だなこいつ。 
よく考えてみれば、初めての時もきっかけはこいつだったし…襲いかかったのは俺だったけど。 
「じゃ、電気消しますね。」 
そう言った直後、部屋は真っ暗に。小さなランプ程度の明かりくらいは付けるものかと思ったが、完全に消灯だ。 
なんだかんだ言って恥ずかしいのか。あたりまえだけど。 
それぞれ布団に入り、横になって向き合う。少し目が慣れたので大分ナオの顔が見え始めた。 
「いつも通り、って言われてもやっぱなんか難しいな…」 
「やっぱりこういう所だと変に意識しちゃいます?」 
「そ、そりゃまぁな。」 
「甲子園でマウンドに立ってた男なんですから、このくらいの事で緊張しちゃいけませんよ。」 
「いや俺キャッチャーだから。」 
「キャッチャーだったらなんでもできますよ。センターフライのキャッチ位余裕です。」 
「どこのダメジャーだ。」 
「あれ原作は面白かったんですよ?」 
ニコニコ笑顔のまま思いっきり話を脇道に逸らすナオ。 
どこまで俺をやきもきさせる気なのか。 

「じゃ、そろそろ…ですかね。」 
ゆったりとした声と共にナオの目が閉じられた。 
「そ、そうか…」 
あんまりにも余裕綽々な彼女にあっけにとられたが、こっちもそれについていかないと… 
覚悟を決めて彼女の唇に自分のそれを重ねた。 
「ん…んぅっ!?」 
最初は軽く触れる簡単な口付け、それをほんの数秒続けた後、彼女の口の中に舌をねじ込ませた。 
ヌルリとした感触に惹き付けられるかのように、そのまま舌と舌を絡ませ、唾液を吸い上げる。 
(ひさしぶりだけど…やっぱりキスってすごいな。) 
欲情の高まりと共に、自然と彼女を蹂躙する舌が力強くなってしまう。 
彼女 
このままどろどろとした感触に流されるように彼女と一つになってしまいたい…そう思っていたその時だった。 

「んっ…んむぅっ、ふぁ、んんぅぅっ!ちょ、ちょっと待ってください!」 
こっちが大分盛り上がってきたところでナオに身体をひっぺがされてしまった。 
「な、何なんです?」 
「えっ?いや、その…そろそろってナオが言ったから…」 
「だ、だったらなんで寝ないんですか!?い、いきなり濃厚にぶちゅっとされましても…」 
大いに狼狽えるナオ。全く状況が理解できていないようだ。俺もできてない。 
「…いや、だった?」 
「そ、そんなわけないじゃないですか! 
 いやだとかいやじゃないとか、そんな話じゃなくてなんでこんなことに…」 
まさか…こいつ…いや、いくら何でも高校生になってそれは… 
「お前、ひょっとしてこれから寝ようとしてたのか?」 
「だ、だってもう11:30じゃないですか!」 
… 
… 
… 
「なぁ、ナオ。俺達、一応恋人同士…だよな?」 
「一応どころか今世紀最高のカップルですよ。」 
「…一般的な恋人同士がが、二人っきりで夜を共に過ごすとしたら…何やってると思う?」 
「と、トランプとかPカードとか…?」 


なんか変だとは思ってましたよ。 
意外と純情なこいつがいざ共に夜を迎えるってときに、妙に堂々としてるのは確かに違和感がありましたよ。 
それでもここまでとはは予想していなかった。 
一緒に寝る、って聞いて本当に熟睡しようとするほどの純情きらりな女だとは思ってなかったよ。 
何、こいつ性欲無いの? 
恋人と一緒にいてヤりたいとか思わないの?女ってそういうもんなの? 
いやむしろ俺がダメなのか?ひょっとして女から性的な目で見られないような男だったりするの? 
自分で言うのもアレだけど背は低くないし太ってるわけでも無いし 
顔だって、少なくとも…荷田君よりはイケメンだと思うんだけどなぁ。 
いや、やっぱりナオがば…じゃなくて、その、えーと…ああもういいや。やっぱりこいつが馬鹿なだけで俺は… 

「…あっ、そ、そういうことで…って、ええ!?」 
急に炎上するナオ。やっと俺の言ってることが理解できたらしい。 
「つ、つまり、小波君は…わ、わたしを、だ、だだだ、だ、抱きたかったと…」 
「テンぱりすぎだろ。間違ってないけど」 
「だ、だって…」 

そのままナオは真っ赤な顔のまま俯いてしまう。…凄くいじらしいが、そう感じてしまうことになぜか悔しさを覚えてしまう。 
もういいや、どうとでおなれ 
「じゃ、じゃあ…おやすみ。」 
「ちょ、ちょっと待ってください!」 
布団を被ろうとする俺を、ナオは慌てて引きずり出し、その腕を引く。 
まるで取り返しがつかないような顔をしている。目頭が潤んですらいた。 
「えと、その…あぅ、あぁ…」 
そのままあたふたと目をそらしながらしどろもどろに口を開く。 
かなり動揺させてしまったらしい。 
…なんというか、結局、俺が悪かったんだろうなぁ。 

「えーと、その、ちょっと話してもいいかな?」 
「は、はい!!」 
「なんというか、まぁ結果的に俺は、全くその気の無かったナオの寝込みを襲いかかってしまったわけだ。」 
「い、いや、小波君はそんな…!」 
「でもナオはその気が無かったんだろ?」 
「そ、それはそうなんですけど…」 
「ごめんな。変なことして。」 
「いえ、その、こっちこそ、その小波君の想いを踏みにじるようなマネを…」 
「いやそんな想いとか格好いいもんじゃないよ。欲望のままに動いただけだし。 
 とにかく……その、わるかった。」 
険悪な雰囲気になることだけは避けられた。 
まぁ大体俺のせいなんだし謝れて、そして許してもらえてよかった。 
こっちが勝手に納得していると。目尻を拭ったナオが表情をきりりと改める。 
「あの…勝手なこと言うようなんですけど……」 
「なに?」 
「その、ええと…改めてお願いします!わ、私を…だ、抱いてください…!」 
「ハグ?」 
「そ、そうじゃなくて…18禁で子作りで責任問題なほうでお願いします!」 
「…責任はとるよ。」 
微妙な重圧(?)をかけられたようなそうでもないような、よく分からない調子で俺達の夜は始まった。 


「くちゅ…ん、ぴちゃ、ちゅるる…」 
「んっ、んぅ、はぁっ…ナオって、キスうまいよね。」 
「へへ、ありがとうございます。」 
明るいながらに艶めいた笑みを見せると、すぐさま俺の唇に飛び込んで舌を絡ませてくる。 
先ほどと打って変わって乗り気のこいつに押されまいと、再び寝間着のボタンに手を掛け、一つずつ外していった。 
「ふぁっ…んふぅ、んっ…ちゅぅ」 
ぴちゃぴちゃとした水音を響かせながら、ナオも俺の寝間着に手を掛けはじめ 
濃厚な口付けを交わしながらの脱がせ合いが始まり、不慣れながらにお互いの服をひん剥きだす。 
二人とも裸同然の格好になってもになってからもキスが続いたが 
唇周りが唾液にまみれてぬるぬるになったころ、口と口とが少しずつ距離を取り始めた。 
「…なんか、申し訳ないですね。」 
「なにが?」 
「だって、小波君がこんな立派でたくましい身体を見せてくれてるのに、私の身体ときたら胸無しの尻無しで…」 
赤らんだ顔でそういいながら、しょんぼりとした顔でこちらの胸に倒れ込んできた。 
「…たしかに薄い身体だな。」 
「すいませ…」 
「だがそれがいい。」 
「んふぁあぁっ!」 

薄い。限りなく薄い。 
この起伏の無い最高にスレンダーな身体の素晴らしさをナオは理解していない。ちっぱいも小尻も最高だというのに。 
胸板の上でナオの可愛らしい双球がつぶれる感触の心地よさを噛みしめながら 
彼女の下着の中に手を突っ込み人一倍敏感なそこをまさぐる。 
「ちょっ、いきなり、そんな…んちゅっ…んんっ!ふぁっ…」 
嬌声を上げる口を封じるかのように三度口付け、より指の動きを激しくする。 
「ちゅ、んぅぅ…ん、はあぁっ、ぢゅる…」 
指の動きに連動するかのように舌で口内を蹂躙し、上で下でと彼女を責め立てる。 
膣の凹凸の触感を楽しむかのように掻き回し、びくんびくんとくる震えを受け止め、上の方では彼女の唾液を吸い上げる。 
「んっ…ちょ、こなみく…んぅ、はぁっ…んむぅ、」 
このぬるぬるの穴の中に自分のそれを入れる。 
一度は味わったその快楽が再び脳裏に蘇り、自分のそれが痛いくらいに起ち上がる。 
「んっ…ぁっ…あああっ、ひぃあああっ!」 
口を離して呼吸を整え、そのままねちっこく責め続けると、ナオが一際大きな声を張り上げ、びくびくと秘所が震えた。 

「イっちゃった?」 
目尻に軽く涙を見せながら、こくりとナオは頷く。 
「…なんか、あたまが真っ白になって、ちょ、やぁ…」 
彼女の陳述を聞く傍らで胸のにぷくりと膨らんだ可愛らしいつぼみをくりくりとつまむ。 
「いつっ…い、いじわるです、小波君は…畜生です、ド畜生です。」 
抗議を呈するナオの顔は既に興奮の熱で朱色に染まり、表情も快楽で緩み、悩ましげな吐息が連続的に口から漏れていた。 
一言で言うならエロい。ものすごくエロい。 
「はぁ、な…んっ…ぁぁ」 
いつもの天真爛漫な明るいナオとは違う、何とも言えない艶やかさを纏ったナオ。 
物凄く、この上なく愛らしく、愛おしい。 
「む、むねばっかりいじわるしないで…もう、その…い、入れてください!」 
「はは、ごめんごめん。」 
身体もほぐれ、すっかり抵抗をなくした彼女の下着を完全にはぎ取る。 
「ぐしょぐしょだな。」 
「だ、だってあんなにいじめられたら…」 
直接愛撫していたのでわかったことをあえて言ってみると、案の定ナオの可愛らしい反応を目にすることができた。 
「もう少しいじりた…」 
「この期に及んでまだいじわるする気ですか?」 
その問いに答えること無く、生まれたままの姿になった彼女を布団の上に寝かせた。 

「まだ結構キツイな」 
「だ、大丈夫です、そのまま、そのまま…」 
ぬるりとした膣内をかき分けるように進行するも、まだ経験の浅い彼女のそこは抵抗感を失っていない。 
「…っ…ぁ……」 
「ほ、ほんとに大丈夫か?」 
苦しんでいる彼女には申し訳ないが、こっちはこっちで余裕が無い。 
このぞわぞわとしたもどかしい快楽が身体を突き動かすのを堪えるのに必死だ。 
ようやく根元まで入った頃には、流石にナオもこなれたのか 
すっかり上気して赤く染まった頬と、潤いを帯びた瞳の、何とも悩ましい表情でこちらを見据えていた。 

「動くぞ?」 
「お、おーけーです…ぁあっ!」 
ぴくりと腰を引くだけでカリ首が肉ヒダに擦れるように刺激され、堪らない快感が生じ、甘いしびれが腰回りを襲う。 

「ぅ…ナオ…っ!」 
目の前を見れば、恥じらいと肉欲の入り混じった、なんとも淫靡な顔をしているナオが目に飛び込んできてしまった。 
「んぁあ!ちょ、やさし、く…ふぁああ!」 
「…っ…ナオっ、かわいいっ!」 
そんなナオを前にして己を押さえられなくなり、前後運動が加速されてしまう。 
きつく締め上げる彼女の肉壷が与える快楽は、俺の欲求をどんどんと高めていった。 
「んぁああっ、お、おく、き、きてますっ、こな、ああぁあ、こな、みくんっ!」 
「ごめん、とまんないっ…!」 
いつの間にかナオのほうも快感を求めて腰を揺るがしだしていた。 
唐突に加わった別の刺激に怯むどころか、さらにそれを求めて動きが勝手に激しくなり 
ナオの引き締まったお尻と俺の腰が、ばしんばしんと音を立ててぶつかり合う。 
「っくぅ…」 
「ああぁああっ!こなみくん、だめ、だ、だめぇっ!ん、んぁああっ!」 
拒絶の言葉とは裏腹に、両の足でがっちり俺をホールドし、さらに密着度を高めながらよがり狂うナオ。 
不意に中がキュッキュと締まり、堪えがたい快楽が肉棒を急襲する。 

「ナ、ナオ…そ、そろそろ…っ……!」 
「そ、そのままで、んっ、はぁあっ、んあぁ、ああぁああああ!」 
限界を悟った俺は、無我夢中でナオの奥を突きまくり、子宮口を亀頭で穿ち続けた。 
その間にナオがこちらの唇にむしゃぶりついてきた。 
「んぅーっ、んんん!んん、んんっー!」 
くぐもらせた嬌声を響かせながら激しく舌をねじ込まれ、上下の口でこれ以上無いくらいに密着される。 
彼女はこのままの絶頂を望んでいるらしいが、こちらとてそれにあらがうわけもなく… 
「んっ…うぅ…!」 
「――――――――――ッ!!」 

精の解放と共に、凄まじい絶頂感と射精感で満たされる。 
文字通り昇天するような錯覚を覚えた。 

「ふぁあ…こなみ、くん…」 
「だ、大丈夫かお前?」 
「殺す…じゃなくて、壊す気ですか?」 
「あ、あれはお前が…い、いや、悪かった。」 
「うら若き乙女の肉体をこんな凶器で…ってあれ?」 
下半身を再びまじまじと眺めるナオ。 
「な、なんでまだ凶器のままなんです!?」 
「そ、それは……その…かなり期待してたもんで…つい…」 
「…」 
「本当は昨日の時点で抜こうと思ってた所をお前が家に来たから仕方なく先延ばしにして、その、つまり元々結構溜まってたといいうか…」 

「………………続き…します?」 

しばしの沈黙の後、恥ずかしそうな顔でナオは弱々しく呟いた。 

「あぁ、パパ、ママ、お父さん、お母さん…私ももうすぐそちらに向かいます…」 
「いやまだ大半の人は生きてるだろ、その面々。」 
それから時はあっという間に過ぎ、もう次の日の同時刻。 
昨日と違うのはいつの間にかこの時刻になっていたと言うこと。もう一つは二人で一つの布団をつかっていることか。 
「もうダメです…四六時中小波君に慰み者にされてしまい、ナオっちの肉体はもうヨレヨレのホクホクです。」 
「どっちだよ。」 

昨晩は結局朝までガッツリとナオと身体を交え、今日も昼間に数時間観光したのを除けば、殆ど一日中まさぐりあって 
ついさっきも一戦終えたところ。疲れて当然だ。 
一応言い訳させてもらうと、ナオはナオで相当ノリ気だった。殆ど抵抗しなかったし。 

「小波君、重罪ですからね〜。責任とってくださいよ?」 
咎める気ゼロのへらへら顔をこちらの腕にすりすりしてくるナオ。 
「……」 
「どうしたんです?何とも言えない顔していますが。」 
「…いやぁ、その、やっぱり…なんでもない。」 
やっぱり可愛いなお前、と言おうと思ったがやめた。 
ナオじゃあるまいし、そういうことを直接言うのは恥ずかしい。 
「うわぁ、小波君極悪非道です。早速恋人に隠し事を作りましたね。」 
「悪人のハードル低すぎだろお前。」 
「そりゃあ小波君は極悪人ですよ。乙女の純粋なハートをギュッと鷲づかみにして握り潰しちゃってるんですから。」 
「潰してない潰してない。」 
いや、ひょっとして一度つぶれたからこんな変な奴に…ってこいつは最初っからこんな奴だったな。 
「それにしても…明日帰っちゃうのが非常に残念です。」 
そしてこんなやつだからこそ、俺は惚れちゃったんだろうな。 
「とっとと冬休み終わってくれませんかねぇ?」 
「…なんなら、明日俺の家に帰ってからもう一泊するか?多分母さんも許してくれると思うし。」 
「マジですか!?」 
「そりゃそんなウソ付く必要ないだろ。」 
「是非是非是非ぜーひお願いします!!」 
嬉しそうな笑みがナオの顔からこぼれる。 
やっぱり、この笑顔だ。 
この笑顔が否応が成しに俺を元気づけてくれるんだ。 

「えへへ、楽しみが増えちゃいましたよ。」 
「何が楽しみなんだ?」 
「そりゃあ小波君の家に泊まって、泊まって…泊まって……って!?」 
「んっ?…あ、あぁ」 
そこで自分が何を言っているか気付いたらしい。ナオの頬がほんのりと赤みを増す。 
「ま、まぁそういうことになっちゃいますよね。ハハハ…」 
「ひょっとして嫌?」 
「…とんでもないですよ。」 
今度はうろたえること無く、再びいつも通りの優しい笑みを見せてくれた。 
そんな彼女の温もりに包まれながら、俺達は文字通り夜を共に過ごした。 




新学期にて。 
「お姉ちゃん、差し出がましいようだけど、なんかお土産とかあったりする?」 
「えへん!ばっちり用意してありますっ!」 
「ありがとね。」 
「それと年内には甥っ子か姪っ子の顔をしっかり拝ませてあげるからね!」 
「…ゑ?」 

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