…………え?なんだこの状況? 


 俺はいつも通りテントの中で目覚め、近くの川で魚釣って食べて荷物まとめてまた出発したんだよな? 
 歩くこと2時間。初夏といえど暑いのでそろそろどこか公園かなんかで休もうとしたんだ。そうだ。 
 割と広いが平日なので誰もいなかったから自販機の下を探った。今日の収穫は10円玉2枚と100円玉1枚。 
ドリンク1本冷たい奴を非常用に持てると喜んだ。 
もうしばらく休んで遠前町での思い出に浸ってた。(といっても8割方維織さんのことだが) 
……しばらく会えないとは言ってたが、あれからもう4,5年は経った。 
 時折不安にならないと言えばうそになる。それでも愛してる人との約束だ。俺は旅を続けて待とう。そう思い直し、また出発した。 


……はずだよな? 
それが…それがなんで公園の入り口で、黒服サングラス(暑そうだなあ…)たちに囲まれてるんだ!!? 
 警察か!?浮浪者がいるって通報されたのか!? 
いや、少なくとも今までは(長期滞在を除き)そんなことはなかった。 
 焦って自分が何か罪を犯したことはないか記憶を必死にたどった。 
 (いや、そんなはずはない。何も悪いことはしてないぞ!? まさか自販機をあさるのが犯罪になったのか!? 法律が改正されたのか!?) 

そんなあり得な(くもな)いことを考えてると黒服の一人がトランシーバーか何かを取り出し 
「チーフ、ターゲット包囲しました。」 
 通信機から声が返ってくる。声からして女性だ 
「OK、じゃあさっさと連れてきちゃって。…手段は問わないから?(ボソッ)」 
 「了解。」 
な、何なんだホント・・・? にしてもあの通信機の相手。声は淡々としてたが話法にどこか懐かしいものを感じるのだが・・・? 
 「かかれ!手段は問わんとのことだ、確実に捕まえろ!!」 
それを合図に黒服が全員こっちにすごい勢いで向かってくる。 

 「ええ!? ちょ・・・!?」 
 問答無用といわんばかりに近づいてくる。 
 「うわあああああああ!!!!!」 

 数十分後、いかにもという感じの黒服軍団に連れてかれるホームレスの姿があったそうな…。 


・・・・うぐ。 
えーと、なんだここ? というかなんでこんなところに…? 少し前の記憶をたどり、どこかに連れ去られたんだと理解する。 
 椅子に縛り付けられてるようで動けない。 あたりを見回すと古い掃除用具などが転がってる所からして物置かなんかだろう。 

 「ん・・・、あれ? くそっ、結構堅いな…。」 

 紐をほどこうとするが結び目が驚くほど堅い。 
 「うぐぐ・・くおんの・・・!」 
 暑いせいか頭に血が上り意地でも紐を解こうとする。しかしそれが災いし 

 ズルッ 「ぅおわあ!!」 
ガッターーン!!!! 「痛ってっ・・・・!!!!」 

 後ろ向けに倒れてしまった。しかも椅子に手を巻きつける形で縛られてるので両腕を床と椅子と倒れる勢いをプラスした全体重に挟まれた。 
かなり大きな音だったせいか 
 ガチャ 「起きたか。」 

ドアを開けさっきの黒服らしき男が入ってくる。 
 男はまたもや通信機を取り出し 
「チーフ、目を覚ましました。」 
 同じようにまた声が返ってくる。 
 「わかった。じゃあすぐ行くね。」 

 「な、何なんだよお前ら・・・?」 
とっくに警察でないことはわかっている。 

 「安心しろ。少なくとも「俺たちは」危害を加えない。」 
 20人ほどで人をリンチしといて何言ってるのだろうか? それより一体「俺たちは」って? 
 「答えになってな・・・」 
とりあえずそう言いかけた瞬間 
 「おー待たせーー。」 
という女性の声がして誰か入ってきた。 
ということはこいつがそのチーフとやらなのだろう。 
 「おい、あんたら一体・・・。」 
ひっくり返ってる状態なので天井しか見えない。 
 「あ、もういいよ、お疲れさまー。」 
 女性がそういうと黒服は部屋の外に出ていったようだ。 

 「おい、あんたが誰か知らないけどまずは俺をどうするのかきかせてもらおうか?」 
なぜか女性が入ってきた途端いやな汗が流れだしたのだ。 
しかし女性は 
「…そのかっこでいわれてもなぁ。」 
もっとも過ぎて言い返せない自分がなさけなかった。 
 足音が近づいてくる。 相手の顔を見た途端俺は絶句した。 


 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」 
 「ちょっと石化しないでよ!!」 

やっぱりと言おうかなんと言おうか・・・・うん。こんなのただのゆめだったようry) 

 「石・化・し・な・い・で・よ?」 
メデューサ顔負けのにらみが俺の意思を戻した。 
 「は、はい!」 
 情けない…。数年たった今でも俺はこいつに勝てないことを思い知らされた。 

 「・・・俺を拉致したのはお前の差し金か? 准?」 
 「うん、そうだよ。」 
 「笑うな!」 

やっぱり准だった。 


 場所を移し応接室かどこかにつれてこられた。 
 「いや〜、探すの苦労したよ〜? どこに溺死死体になってるかもしれなかったしさ〜。」 
 「縁起でもないことを笑顔で言うな!!」 
 「この暑さで死体が腐ってたりしたらそれこそ見つかんなかったしね〜。」 
 「だから死んでない!!」 

 外見は結構大人らしくなっていたが中身は変わっていないようだ。いやむしろ悪いほうこ… 
「何考えてんのかな〜?」 
 「だからその顔はやめろ!」 
 危ない危ない、こいつには読心能力がある(?)んだった。 

 「はいコーヒー。」 
コーヒーを差しだされ、飲もうとしたが思いとどまった。 
 「おい准これ・・・」 
 「ん? 大丈夫、薬なんか入って・・・」 
 「お前が煎れたってことはあのまずいやtry)」 
 今度はゴルゴン顔負けの形相になった。 
 「つなわけないよな。お前も成長したんだし。」 
 「当たり前でしょ。どうぞ。」 
 「いただきます。」 
 一体今日はいくら汗を流せばいいんだ。冷や汗だけならギネス乗れるんじゃないか? 
そんな事を思いながらコーヒーを飲む。 
 思いのほかうまかった。 


 「・・・で、なんで俺を連れてきたんだ?」 
 「いや〜、それがね・・・。」 
 「?」 

いうのをためらってるようだった。 
 「維織さんに何かあったのか?」 
 真面目に心配になった。 

 「まあ…、そう…かな? どっちかといえば悪いことかも…。 いや、いいことかな…?」 
 「…? なんだそりゃ…?」 

 「九城(くじょう、9主)さん。明日が何の日かわかる?」 
 「え?7月7日だっけ?」 
 「そうだけどほら…、もっとビッグなイベントがあるでしょ!?」 
なぜか怒られる。 
 「えっと…ヒントを。」 
 「喫茶店でもやったでしょ!!」 
 「あの店で…? マンモs」 

 今度はメデューサやゴルゴンを倒した英雄たちすらおそれおののくオーラをまとった。 
 「・・・仏の顔も三度までって知ってる?」 
 仏じゃない。俺の前にいるのは絶対に仏じゃない! 神様だとしてもおそらくどこぞのゼウスさまもみじん切りにしそうな戦神だ!! 
 必死に記憶をフル動員させ 
「た、七夕でしょうか、夏目大明神様?」 

 「大明神?まあいいや、そうよ。」 
 冷や汗だけで5キロは痩せたんじゃないだろうか。ボクサーに自慢できる。 
 「つまり言うと九城さんには彦星になってもらいに来たのよ。」 
 「は?」 
 「織姫は私かな?」 
 「にょえ?」 
どこぞの最強小学生の女の子のような声を出してしまう。 
 「つまりね…。」 


 「維織さんの願いをかなえてもらいたいの。」 

 「・・・・・・・・はい?」


 「と、とりあえず何だよ願いって?」 
 「実はね・・・」 

 数日前NOZAKIグローバルシステム社長室 
 「・・・社長、もう少し仕事してくださいよ。」ため息交じりに准が言う。 
 「・・・二人っきりの時は名前で呼ぶ約束。」机にもたれかかって維織さんがけだるそうに言う。 
 「はいはい、じゃあ維織さん。仕事して。」 
 「・・・・・・・めんどくさい。」 
またため息が出てしまう。 
 「何でですか今更?そりゃ今まで好き好んではやってなかったけど…、じゃあたとえばこれ見てください、今月の財政状況。かなり悪くなってますよ?」 
 「本当・・・・・どうし 
「維織さんが原因です!社長が1番仕事してなくてどうするの!」 
 「・・・・めんどくさい。」 
 「だから何でですか?この前ドンパチやったおかげでようやく実権握れたのに・・・。」 
 「・・・・・だって。」 
 「え?」 
 「頑張ってようやく安定させたのに…まだ九城君に会えない・・・。」 
 「・・・は?」 
 「会いたい…。でも頑張ったのにまだ問題は山積み・・・。やる気でない…。」一層悲しそうな声で呟く。 
しかし准は少し戸惑いながらも 
「全部終わるまで会わないと行ったのは維織さんでしょ?だったら頑張らなくちゃいつまで経っても会えないよ?」 
 「こんなに大変とは思わなかった…。運命は残酷…。」 
 准は(半分はあきれたせいで)何も言えなかった。 
 「会いたい…。あの日に戻りたい…。」 



 「はあ・・・。」場所を移して社内の廊下を歩きながら3度目のため息をつく。 
 「なんであんなはいスペック星人のくせにそれ以上にやる気ない星人なんだろ…?」 
 親友だからといってついてきた自分を少し呪う。 
 「・・・・・・・ぁ・・・」 
 「ん?」 
 「・・・・・ぅ・・・」 
 「何だろ?」かすかに何かの音が聞こえた。 
 「・・・・・こっちかな?」 
どこかの使われてない小部屋だった。やはりここから聞こえるが依然音はは小さくて内容がわからない。 
 「う〜ん、久しぶりに使いますか?」 
メイド時代に身につけたスキルの一つ盗み聞き。やはりこういう時に使ってこそだろう。 
 「ぁ・・んぁ・くじょ・・く・・ん・・。」 
まさかとおもいより耳をすませる。 
 「ん・・・・あっ・・や・・んん!」 
むしろ向こうの声のほうが大きくなってきた。 
 「ん・・・や・・あ、んんっ!!」 
ひときわ大きくなった後にやけに静かになる。 
 扉の向こうに聞こえないようにつぶやく。 
 「はあ・・・・・、維織さん。一体ホントなにやっ」 
また音が聞こえて来たのであわてて口をふさぐ。 
 「う・・・、ひっく・・・。」 
 「・・・・・・え?」 
それは紛れもない泣き声だった。 
 准は耳を疑ったが、それは紛れもない泣き声だった。 
 「会いたい・・・よぉ・・・。九城く・・ん・・・。」 
それを聞いた准は勘付かれないようにしつつも、すぐに自室(普通秘書専用の個室などないが維織さんの一存で作られた)に走った。 
 維織さんにあんな乙女チックな一面があったのにも驚きだったが、そんなことはどうでもよかった。 
・・・悲しくて仕方なかった。 
よく考えればああなって当然だ。生まれて初めて愛し合った人と4,5年も離れ離れになり、それぞれ理由が違うにせよ、いつ死んでもおかしくないような立場なのだ。 
ようやく会うことが許されたかと思えば以前より高い壁が立ちはだかる。大げさに言えば無限地獄のようなものだ。 
 准はその日の仕事を何食わぬ顔で急いで片付け、ある人物の元へ向かった。 

[[続く>〜寝起きドッキリも楽じゃない〜 (前編)]]

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