最終更新: george_mckenzie 2016年01月06日(水) 02:35:01履歴
「ですよね!絶対にそうです!」 「そうやろ?ウチも前からそう思っとたんや」 「……なあ」 「どうしたの?」 「あの二人って仲良かったか?昨日の昼までは何となくぎすぎすしてた気がするんだが」 早朝の酒場、前の前に座っているタケミに問いかける。 少し離れたテーブルに、ヤシャとミソラの姿。 楽しげに談笑している二人は、姉妹……いや、親子と言った方が適切だろうか。 まあ、そんな風に見えるほど仲が良さそうに見える。 「あー……昨日の夜、いろいろあってさ」 タケミはどことなく疲れたような顔で、小さく返事をしてきた。 そのままオウム返しに問い返す。 「いろいろ?」 「えっと……あれはあんたが自分の部屋に帰ってすぐだったかな……」 タケミは虚空を見つめながら、ゆっくりと語りはじめた。 「そんなわけないやろうが!ちっこい方がいいに決まっとる!」 「そんなわけありません!すらっとした長身の女性の方がいいに決まってます」 甲高い子供の声と、落ち着いた大人の女性の声が深夜の坂場にこだまする。 周りの客は一瞬そちらを向いたが……酒場ではそんな出来事が頻繁に起こる場所でもあるため、 それ以上特に反応することはなかったが。 「……あの二人、どうしたの?」 だが対面に座ったサトミ――今から修理のコツについて、 いろいろとレクチャーするところだったのだ――は不安そうな顔になっていた。 確かに酒場に入り浸るようになって日が浅い彼女にとって、少々刺激が強いかもしれない。 それも言い争っているのが仲間ともなれば、だ。 とりあえず、問いについて答えようとしたところで、再び叫ぶような声。 「わかってないなぁ自分。ちっこい=強いってのは世界の常識で。 ようするに世の男はあんたみたいなんに惹かれるんや」 「違います!妖艶な大人の女性に、男の人は惹かれるんです!」 「…………えっと、つまり」 「いや、だいたいわかったわ」 「そう」 悟ったサトミに短く答え、タケミはずずずとコップに残っていた液体を飲みほした。 くだらない争いと言ってしまえばそれまでだが、本人たちにとっては死活問題なのだろう。 「あんたにわかるか?!着る服着る服全部特注にせなあかんウチの気持ちが!」 「あたしだって、服売り場に行ったら『親御さんはどこ?』って声かけられるんですよ!」 「…………」 「…………」 「ウチなんてちょっといい男見つけたな思っても、 声かけた瞬間逃げられるんやで!そんな男こっちから願い下げやけどな!」 「あたしなんて道を歩いてたら『お菓子をあげるからついておいで』 って言われるんですよ!一日に三度も!」 「…………」 「…………」 「ウチなんて!」 「あたしだって!」 「……!」 「……!」 「!」 「!」 …………………… 「こんな具合で」 「……それで、どうやったらそれが仲良くなったのにつながるんだ?」 「たぶん戦った二人に友情が芽生えたってやつじゃない?」 「そんな適当な……」 と、そこでカランコロンという音とともに、扉が開いた。 視線を向ける。現われたのは美貌の女探偵――リンだった。 彼女はそのまま入口の近くに座っていたヤシャとミソラに近づいていく。 「おはよう……あら?なんだか楽しそうね」 「おは…………」 「…………」 「…………?どうしたの?」 楽しく談笑していた二人だったのだが、リンの姿を視界に入れて、表情が急変した。 「……身長」 「高くもないですし、低くもないです」 「?」 不思議そうな顔になったリンに、二人はたんたんと言葉を紡いでいく。 「スタイル」 「ないすばでぃです、ボン、キュッ、ボンですね」 「顔」 「カッコイイです」 「性格」 「くーるびゅーてぃです」 「…………」 「…………」 「????」 沈黙。 次に二人の口から出た言葉は、まあ予想通りと言えばそうだった。 「…………帰れ」 「帰れ!」 「「帰れ! 帰れ!」」 「え?ちょ、ちょっと?」 「「帰れ! 帰れ! 帰れ!」」 罵倒し始める二人、静かな酒場に泣いているような二人の声が響く。 「さすがのリンもたじたじだな」 「そうだね……あ、ソムシーも混じった」 「「「帰れ」」」 「……なあ、カメラ持ってないか?」 「ないよ、残念だけど」 「「「帰れ!」」」 「…………え、えっと」 三人に罵倒されて、リンは逃げるようにすごすごこちらに向かってきた。 怒りではなく、戸惑っていると言った感じの表情。 「……私、何か悪いことしたのかしら?」 彼女はこちらのテーブルに近づいて、すぐに問いかけてきた。 一瞬タケミと顔を見合せて。 「えっと……」 「……しいていえば、存在自体が罪だな」 脳裏に浮かんだ答えを口に出す。 「…………(こめかみに怒り)」 「あ」 タケミの声。すぐ後に轟音――地面を蹴った音だろうか。 少し遅れて顎に突き抜けるような衝撃が届いて。 そのまま彼の意識は途絶えた。 .
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