「ふむ、トウコというのか。」 
 「………。」 
はじめてその人にあったとき、なんとなく 
 あなたは特別な人じゃないから、と言えなかった。 
そればかりか、気がついたら頭をなでられていた。 
レディに対して、なんて失礼な。 

 「ヘルガには『トウコさん』ってよばさないんでやんすね?」 
つーん。 
 金魚のフンごときにまともに相手してやる義務はない。 
トウコはホットミルクのマグを両手で持ち上げて無視した。 
まったく、この人たちの関係は理解できないわ。 
ゴンダが敬語を使ってる相手に金魚のフンごときが 
『ヘルガ』と呼び捨てにするなんて。 


リンとヘルガが似ているなんて節穴もいいところだ。 
リンはあこがれの素敵な人。 
 自立していて自由でいたずら好きでさっそうとしてる。 
パワポケをからかうのはちょっとムカつくし 
 あたしに一言断ってからにしてほしいとおもうけれど、 
でもやっぱりあの人なら少しぐらい仕方ないかな、と思う。 

ヘルガはリンと同じ金髪だけど、ネコじゃなくて犬ね。 
ほとんど動かないし、動くときはのっそり。 
あまり冗談なんて言わないし、まじめすぎてつまんない。 

それなのに、どうして… 
どうしてパワポケはあの人と一緒にいるんだろう? 
この前なんて「アレはどこに置いた?」「3番目の引き出し。」 
なによ、それ。あたしにわからない会話はしないで欲しいわ。 


きっとあの人はなにかパワポケの弱みをにぎってるのよ。 
それでもってキョーハクしてるのにちがいない。 
 許せないことだけれど、それでもあたしに利用できるかどうか 
確認してからでも遅くはないと思うわね。 
ようし、今晩ヘルガのへやに忍び込んでしらべてやろう。 

もうひとりのメガネ男(そして金魚のフン)のアキラが、 
 毎晩あたしが寝たかどうか確認しに来るけれど 
 かしこいわたしは毛布でニセモノをつくっておくから 
 ベッドを抜け出してもバレたりしないのだ。 



ヘルガのへやにきた私はがっかりがっくり。 
 何にもない部屋じゃない。 
まったく、オトナの女だったら武器とか以外に 
持っておくべきものがあるでしょうに。 
でも、押入れはしらべてなかったわね。 
ガサゴソガサゴソ。 
 調べているととつぜん背後で足音。ヤバイわ。 
とっさにあたしは押入れに入って扉を閉めた。 

 入ってきたのは部屋のあるじ。 
いきなり服をぬぎだしたのは予想外。 
フン、ばつぐんのスタイルをみせつけたって 
 ドーヨーなんてしないんだからね! 
あたしだって数年後には、ムネもコシも 
 どーんのポンなんだから…たぶん。 



そんなバカなことを考えていたから、 
あの人のハダカを見たときは本当におどろいた。 

わたしは、シロタの大事にしていた花瓶を 
割ってしまったことがある。 
やさしいシロタはあまりしからなかったけど 
 わたしは十分罰をうけた。 
だって、つなぎあわされた花瓶を見るたびに 
 すごくつらい思いをしたから。 

ヘルガの身体はその花瓶と同じ。 
かみさまが作った、とてもうつくしいものを 
 だれかがめちゃくちゃにこわしてしまったんだ。 

のろまだなんて言ってごめんなさい。 
だって、右のひざから下がモップの柄みたいな 
棒になってるなんてしらなかったんだもの。 

 食事のギョーギが悪いなんて言ってごめんなさい。 
 左うでがあんなおもちゃみたいになってるなんて 
 しらなかったんだもの。 

いつもいじわるしてこまらせててごめんなさい。 
のっそりとしてうごかないんじゃなくて 
 うごけないなんてしらなかったんだもの。 


そのあとパワポケが入ってきた。 
 彼もハダカだったのは少しおどろいた。 
そのあと2人がはじめたことは 
 もうこどもじゃないわたしでも 
 うすうすなんなのかわかったけど、 
まったく腹は立たなかった。 

わたしは、ただただおいのりをしていた。 
かみさま、けっしてパワポケが 
 あわれみの目であの人を見ませんようにって。 


ふたりの息がまじりあい、 
ひとつになっていくのはとてもすてきなことでした。 
かみさま、ありがとう。 
これが「愛」なのですね。 


 朝になって、アキラのやつわたしが 
夜中にぬけだしていたことにか文句をいったけど 
 ほんのすこしやさしい態度をとったら 
病気なんじゃないのかと心配された。 
けつろん。 
やっぱりメガネ男はダメだ。 .

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