ツーリングカーカテゴリー「TCR series」「WTCR」「ETCR」の情報をまとめたWikiです。

TCRの大まかな概要

  • TCRは2014年に元WTCCプロモーターMarcello Lotti氏が立ち上げたツーリングカーカテゴリー。
    • マニファクチャラーが完成したレーシングカーを制作しチームに販売するカスタマーレースとして人気を博していたGT3/GT4を参考にしている。
  • マシンは量産市販車(4ドアセダンまたは5ドアハッチバック)をベースに2L以下の4気筒直噴シングルターボエンジン(約340hp)を搭載。前輪駆動が義務付けられている。
  • プライベーターを対象に作られたカテゴリーであるため、性能調整(BoP)が導入されたり、マシンの販売価格に上限を設けるなど低コストというコンセプトに合わせたレギュレーションとなっている。
  • TCRシリーズはたちまち世界中で人気を博すシリーズとなり、世界中にTCRシリーズ公認の地域・国内選手権が誕生している。また、マニファクチャラーやマシンも毎年のように増加している。
    • TCRマシンを使用して開催されているTCR公認シリーズは基本的に約30分程度のスプリントレースとなっているが、耐久レースでもTCRマシンの採用が進んでいる。

これまでのグローバルなツーリングカーの流れ

TCR発足まで

  • 現在の量産車ベースのツーリングカーによるスプリントレースが大きく影響を受けているのは1990年からBTCC*1が導入した2.0L以下の自然吸気エンジンに4ドアセダンをベースとした車両で競うレギュレーションである。これは元々3クラス制だったGr.A(2.5L以上, 2.5~1.6L, 1.6L以下)*2から派生したレギュレーションだった。1993年にFIAは人気を博していたBTCCのレギュレーションをGr.A規定のSuper Touring(Class 2)として国際レギュレーションに定め、世界各国に広まった。日本ではJTCC*3として1994年から1998年まで開催された。(ちなみにClass1はDTM/ITCが使用した)
  • Super Touring(Class 2)は世界中のツーリングカー選手権の標準カテゴリーになるまで発展したものの、土台となっていたグループA規定はベース車両となる市販車からの改造範囲が極めて狭いため、人気とともに開発費高騰に拍車がかかり次々とメーカーは撤退、1990年代後半には崩壊してしまった。
  • 2000年にグループAの発展形としてFIAが改造範囲を緩和したSuper 2000を導入したことで低コストでベース車を改造しレーシングマシンに仕立てる事ができるようになり、メーカーの参入が進んだ。
    • 具体的な改造範囲としてエンジンの換装・軽量化・駆動方式・足回りの変更・エアロパーツの追加などが上げられる。
  • Super 2000はBTCCやETCC*4で採用され、盛り上がりを見せた。2005年にはETCCがFIAによって世界選手権に格上げされ、WTCC*5がスタートし、スプリントレースの人気を更に高めることとなった。
    • Super 2000は2011年にそれまで2LのNAエンジンだけだったレギュレーションから1.6Lのターボエンジンが使用できるようになり急速に置き換わっていった。この頃、競争の激化によりマシンのコストが増え続けていることに懸念を抱いたBTCCは、共通規格を増やしてコストを下げた次世代ツーリングカーNGTC規定に移行している。
  • 出だしは良かったWTCCであったがリーマンショックの影響でマニファクチャラーが相次いで撤退していき、2013年にはHondaとLadaの2チームにマニファクチャラーチームが減ってしまった。
  • 転機は2014年にSuper 2000マシンより改造範囲を緩和、高性能化することで新規メーカーを呼び込むためにWTCCに導入されたTC1規定である。TC1は今までより高出力なエンジンと大規模な空力開発が可能となり高性能化している。これにより今までのマシンはTC2と呼ばれるようになった。

TCR発足

  • 時を同じくして2014年7月15日、ETCCの頃から関わり、WTCCを立ち上げたMarcello LottiがWTCCのプロモーターを辞め、新たにTC3という構想を打ち立てた。TC3構想は当時、カスタマーレーシングカーレース*6として人気沸騰中であったGroup GT3/GT4を参考にした構想だった。GT3はBoP*7による性能調整でどのメーカーのマシンでも同等の性能に調整され、勝利へのチャンスをより平等にできるようになっていた。また、調整はメーカー同士の過度なマシン開発競争を抑えることにも繋がり、プライベーターが安価にレースにエントリーできることも人気の理由の一つである。TC3構想ではマニファクチャラーがタイトルを競い合うという従来のレースとは異なりプライベーター専用のカテゴリーとなっている。
  • TC3のコンセプトはツーリングカー人気の補強とツーリングカーピラミッド(フォーミュラのF3→F2→F1のようなもの)の構築によるドライバーの育成であった。また、メーカーのPRとなるように世界的に量産車の中でも販売台数が多く、メーカーの顔となっているCセグメントをベースにすることでメーカーの参入を促した。
  • TC3TCRに名称を変更。Marcello Lottiが代表となり、World Sporting Consulting LTDによって運営されることになった。2015年3月からTCRの中心核を担うシリーズ「TCR International Series」がスタート。それと同時に、「TCR Asia Series」もスタートし以後爆発的にシリーズが増えていった。

WTCR発足

  • 2014年TC1規定導入当時、2チームだったマニファクチャラーチームは2016年まで徐々に増えていき4チーム(Citroën Honda Lada Volvo)となった。しかし、2017年、マニファクチャラーチームがHondaとVolvoの2チームに減ってしまった。

WTCC参戦チーム・台数の推移

  • TC1規定はマシンの価格やランニングコストの増加とWTCC独自規格になったことからプライベーターへの負担が大きくなった。
    • TC1は1台あたり約100万ユーロ、プライベーター向けでも約80万ユーロという非常に高価なマシンとなっていた。*8
    • TC1規定以前は中古マシンを地域・国内選手権へ払い下げるといった市場が形成されていたが、TC1を採用する選手権は他になく、マシンの総台数も増えにくかった。
  • コストの問題以外にもTC1規定で大幅に緩和された空力パーツの規制によってダウンフォースへの依存度が高まり、魅力の一つであったホイール・トゥ・ホイール、バンパー・トゥ・バンパーのぶつかり合いが減っていたこと*9などから売りであった格闘戦のようなバトルが減少し、人気の低迷に泊車をかけてしまった。
  • 2018年、FIAはWTCCを終了することを決定し、FIA WTCR World Touring Car Cup の開催を発表した。TCRシリーズの中心核として2年目のシーズンを終えたTCR International Seriesを運営するWSCとWTCCを運営するEurosport Eventsが契約を結んでいる。
    • TCR International Seriesは欧州選手権だったため、これを補う形でTCR Europe Seriesが地域選手権としてスタートすることになり、これまでの欧州ツーリングカーの頂点を競うETCCが閉幕することになった。
  • WTCRはTCR規定に則りワークスチームの参戦が禁止されていることからこれまでのチャンピオンシップからカップに格式が変更されている。
  • WTCR発足で既存のTCRシリーズからWTCR出場を検討するチームだけでなくWTCCから他のツーリングカーレース・カテゴリーに去っていたチーム、ドライバーの復帰も相次ぎ、初年度からエントリー上限26台フルグリッドを埋めることになった。

増え続けるTCR公認レース

  • TCRシリーズの公認を受けるシリーズは年を追うごとに増え続けており、その人気は衰えてはいない。しかし、公認レースの増加に対して参戦するチーム・台数が減少したり、足りていないシリーズも出てきており、TCR全体・各シリーズの工夫が必要となってきている。
    • TCR Middle East、TCR Portugal、TCR Koria、TCR Thailandなど参戦台数が集まらず開催されなかった・されなくなったシリーズも出てきている。

WTCRで見えてきた問題点

  • 2018年から2019年まで順調に見えていたWTCRにも問題点が現れ始めた。
    • 1つ目はコスト増。TCR規定の頂点であるWTCRはマシンの活躍がTCRマシンや市販車の販売へ影響を与える。そのため、メーカーから派遣されたワークスドライバーやサポート体制によるコスト増が問題となった。これに対して運営はコスト増への対策を毎年のように発表している。
    • 2つ目はBoPへの影響。WTCRは他のTCRシリーズと異なり、プロドライバーを中心としたチームプレーのあるレースとなっている。全世界統一のBoPにWTCRのチームプレーやプロドライバーの活躍が反映されてしまうと正しいマシンの性能調整にならないのではないか、WTCRの性能調整は他のTCRシリーズと切り離すべきではないかという意見が出ている。
    • 3つ目は内燃機関。モータースポーツ界においても環境問題に取り組むためハイブリッド化や電動化が話題となる中、TCRシリーズは内燃機関オンリーのシリーズであるためメーカーが消極的になりつつある。実際にVWは2019年をもってTCRマシンの生産を終了した。TCRを運営するWSCはEV版TCRであるETCRを立ち上げた。しかし、現行のTCRシリーズとは大きく異なる性能を持つETCRは代替になるとは考えにくいため、TCRがどのように環境問題に取り組むのかが今後の課題だと考えられる。TCRと同じCセグメントをベースとしたマシンNGTCでレースを行っているBTCCはハイブリッド化が決定している。
      • WTCRは2021年からバイオ燃料を導入すると発表した。*10

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