バーチャルキャストから生まれた、創作系 RPG シェアワールド

カガミ家は医療の家系だった。
父親も母親も、おじいちゃんもそのまたおじいちゃんも医学の道を歩んだ。
国の経済成長と共に医療も発達した。
そのおかげで平均寿命は上がり成人までに命を落とす子供は大幅に減少した。
私たちも変化を求められた。
医療機関の在り方、国との付き合い方、予算を得る方法と使い方、そして働き方。
私は一人だった。
親からは数字を求められた。
友達より高い数字を得られれば褒められた。
友達より低い数字を取れば呆れられた。
「次はもっと頑張りなさい」
「わからないことがあったら聞きなさい」
パパもママも、おじいちゃんやおばあちゃんと一緒にテーブルを囲んでご飯を食べていた事を知っている。
一緒に川へ釣りに出掛けていたのを知っている。
一緒に薬草を採りに行っていたのを知っている。
私はそうならなかった。
私はある時塞ぎ込み、ひたすらパパの書斎の本を読み漁った。
パパに見つかって固まってしまった私を褒めてくれた。
「マドカも医療の道に進みなさい、マドカには才能がある。」
それが嬉しかった。

パパとママが在籍する医療機関が立ち上げた学校でみんなより2年早く課程を終え卒業した。
友達と別れるのが寂しかったけど、いつか一緒に仕事をしようと約束した。
私は大切な仲間に手を振り、学舎を後にした。
それからはパパの跡継ぎとして機関で多くを学んだ。
周りの大人達は快く迎えてくれた。
本当に快く思っていたのかはわからない。
如何せん彼らは私を見ていないような気がしてならない。
私の背後にある、あらゆる数字を見ていた。
パパとママを見ていた。
それに伴うあらゆる人脈を見ていた。

ある程度、社会というものに属してみて気が付いたことがある。
私は人付き合いが苦手ということだ。
自分の論理をうまく伝えられなかった。
あたふたしてるうちに「かわいそうな子」として見られた。
研究に没頭しすぎて言語化する機能が壊滅的に落ち込んだのだろうか。
いや、考えてみたら元からそうだったかもしれない。
私は嫌なことを忘れる為に分厚い医学文献を眺めた。

私は多くの命を奪った。
医療とは命を救う行為ではないのか。
小動物に薬品を与え経過を見るような事をする毎日だ。
今日も横になって動かなくなったネズミを処分している。
なんの為にこんな仕事をしているのかわからなくなってきた。
いやわかってる、人を救う為には必要な行為なのだ。
それにはこういう役割の人間がいなくてはならない。
こんな虚しい役割の人間が。

毒と薬の違いは量である。
私は様々な毒を扱い薬に変えた。
一般には出回らない毒を取引するには商人ギルドとの交易が必要だ。
エスティア王国から帰ってきた商人、デイディー・ディマルディさんとは緊張せずに話ができた。
私はエスティア王国の事を教えてもらった。
文化、食べ物、医療技術。
商工が栄え、建築が発展し、高く美しい城が建っている事。
そして国境を跨ぐ危険地帯、ポイズンフォレストの事。
毒は取得難易度や運送リスクなどを鑑みて、高額な取引となってしまう。
それは重々承知である。
森の情報や取得方法を知った。
採取してくれる人、遠国から届けてくれる人。
そんな話を聞くと人知れぬ繋がりに胸が温かかくなる感覚がある。
私は感謝を述べて笑顔で代金を支払った。

私は知らぬ間に医学発展に多大なる貢献をしたらしい。
彼の国で蔓延した幻覚を見せるという花から麻薬成分を抽出、改良を加え
麻酔薬として生成したものがある。
それが今、各医療機関で使用されているのだ。
主に内臓にダメージを負った冒険者の外科医療に使われている。
それに加え、我が国で「赤茸病」と呼ばれる乳幼児を苦しめる病の対処法を確立した。
皮膚が岩肌のように吹き出て赤く腫れる。
幹部はカサカサになりひどい痒みを伴う。
発症期間には免疫を失い、合併症で死に至る。
完全なる治療法は無いものの、確立した対処法により死傷者は激減した。
実感が無いのはほとんど研究に没頭していたからだ。
その後の商品化や実際の医療には関与していない。
在籍わずか3年でポストも確実のものとなった。
だが満たされないものがあった。
エスティア王国の話をデイディーさんに聞いてから、外国の文献を漁っている。
ポイズンフォレストやエスティア王国への興味が沸々と湧いているのだ。
私はこの熱情を止められずにいた。

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