バーチャルキャストから生まれた、創作系 RPG シェアワールド

デイディーさんを交えて両親に説得を試みた。もちろん反対されたが、めげずに何度も熱情を伝え続けた。
そんな日が続きお父さんの眼差しにも覚悟が感じられた。そしてこんなことを言われた。
「君は癒神ピアニーの申し子かもね、この東の地じゃ信仰されないけれど」
なぜ私たちの知らない遠国の信仰対象を知っているんだろう。
商人伝手に聞いた話なのだろうか。
私も後から知ったのだが、ピアニーとは「人を癒す」職業において古くに信仰されていた神らしい。
人を癒すのは医者だけではない。
軽傷なら神職者が媒介となり授かる加護によって治癒される。
需要はどうしてもそちらの方が高いので、多くの人は「治療といえば神職者」と認識しているだろう。
現在ではピアニー信仰の形が変わり、治癒魔法の象徴になっている。
とは言うものの業界の人間はそれを悲観していないし、神様本人がどう思っているかはわからない。
もしかしたら信仰が広まって喜んでいるかもしれない。

それからの私は忙しかった。
商会の推薦状で滞在する許可を貰い、拠点を固めた。
何をするにも許可証が必要で、一気に襲ってくる発行手続きに歩き続け、足が棒になった。
初日はデイディーさんが付き添ってくれて、その日の昼過ぎに別れた。
私は別れ際に何度も頭を下げ感謝した。
彼は「いいよいいよ、ついでだし。カガミさんにはお世話になってるから、今後も是非ご贔屓に!」と商人らしい挨拶を述べ、手を振りながら遠くに消えていった。

エスティアに滞在して11日が経過した。
この国の医師会の小さな支部へ向かった。
古びれた建物に入ると、何やら騒々しかった。
どうやら複数の患者が危険な状態らしい。
治癒魔法では癒せなかった危険な状態の患者が運び込まれ騒然としていた。
私は白衣を奪い取り、髪の毛をキャップに押し込み消毒を開始した。
受付の人や見習い風の若い男の人などが驚いていたし、私を止めようとしていたかもしれない。
でもそんなことはどうでもいい。
70歳前後の見た目で背の高い先生は顔を全く動かさず、横たわっている患者の患部を見つめながら問いかけてきた。
「何者だ。」
「お初にお目に掛かります。もしかしてあなたがこの支部の責任者さん?私はカガミマドカ、遠い国の医者です。」
そう言うとしばらくの沈黙の後に腹底に響くような声で指示が飛んだ。
「患者4人は新人の冒険者だ、帰りの道中に盗賊に襲われた。1人は命に別状無し、3人は危険な状態だ。中でもこの患者は動脈の損傷による出血が酷い、患部を早急に探し止血する。」
「ではその役を私がやります。」
小さい世界を見るのは得意だ。
私が持つ機械仕掛けの眼鏡〈ガンキョウ〉を使えばどんな傷も見つけられる。
「…わかった。」
彼はそう言い残すと次の患者の方へ向かった。

その戦いは真夜中まで続いた。
結論から言うと冒険者達は助かった。
私が担当した男性患者はその先生の息子さんだと聞いた。
医者の家系に生まれると、その子供はほぼ間違いなく医療の道に進むという。
しかし彼は冒険者の道を選んだ。
彼は自分の息子の血を見て何を思ったのだろうか。
皆疲弊していた。
私も今すぐにでも眠りたかった。

先日のこともあって交渉は上手く進んだ。
医療関係者と認められて滞在許可証にスタンプを貰えた。
これにより正式に医療関係者と認められ施設の利用許可、医学講習会の参加、病院での労働が可能となる。
協力してくれたのは私が手術した冒険者の父親「マックス・ブロージャー」さんである。
ブロージャー家といえば、かなり歴史の長い医者の家系で医師会設立にも関わっていた。ちなみに息子さんはミド・ブロージャーと言う。

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