金融経済恐慌から法幣改革まで
昭和１０年１月下旬 孔祥熙財政部長が日本に対して借款を要請を行う。日本側は、北満鉄道買収を含む満州国関連の支出が大きく、高額な対中借款やクレジット設定は不可能という結論。孔祥熙財政部長は、日本と交渉する以前に、英米との交渉も行っているが、不調に終わっている。
昭和１０年８月下旬 紙幣法貨は、その後の銀喪失の恐れかから、不安を呼び、大幅な為替暴落。
昭和１０年９月６日 英・財政顧問リース・ロスを東京に訪問し、中国に対し、共同借款の意向を打診するとともに、中国の法幣改革を進言する旨報告。高橋蔵相は、時期尚早として断る。
昭和１０年９月21日〜24日日 英・財政顧問リース・ロスを中国に訪問、汪行政委員長、孔財政部長などと会談。
昭和１０年11月2日 汪兆銘の遭難事件で緊張が増し、現銀の兌換を求めるモノが殺到した。
昭和１０年11月2日 孔祥熙財政部長の使者が有吉大使を訪問。中国・中央・交通の3銀行が通貨発行権を独占し、現銀との兌換を停止し、外国銀行保有の現銀は3銀行の紙幣をもって買い上げる幣制改革案を内報し、日本側の同意と協力を求める。有吉は即座に否定的見解を示す。
昭和１０年11月3日 法幣改革を断行。その日、銀国有令を発布し、現銀の流通禁止。
【 結 果 】
日本陸軍は、この法幣改革には、断固反対した。(注)国民党というものを知り尽くし、従来のやり口から考えると、信義上の疑義の懸念が充分あるからである。中国政府と一部財界が結託してやることは明らかであり、中国政府が宋一族の営利事業機関に成り下がり、中央銀行を手先として、紙幣を大量に放出し、不正に行えば、紙幣政策が破綻を来たし、国民生活に大きな影響を与える。徳をするのは、蒋介石・孔祥熙財務部長らや宋一族らの一部資本家と後ろで操る英米に他ならない。実際、その後、孔祥熙財務部長自身が不正なインサイダー取引を繰り返している。
法幣改革で、日本などの外銀が問題になるのは、手持ち銀である。手持ち銀を要求どおり引き渡せば、怪しい紙幣と公債を受け取ることになる。なお、法幣改革前後の各銀行の手持ち銀の比較。
(単位；千元)
※なお、邦銀６行は、横浜正金銀行（後の東京銀行）、台湾、三井、三菱、住友、朝鮮
◆英・財政顧問リース・ロスを東京に訪問、中国の法幣改革を必要性を説き、日本にも中国に対し、共同借款の意向を打診しているが、実際は、現銀を巧みに香港に輸送して、現銀８７％に当たる１兆４，６００万元を売りさばいている。発案者のリース・ロス自身が、中国の法幣改革など全く信用していなかった証拠である。
◆法幣改革を食い物にしたのは、リース･ロス率いるイギリスだけではなかった。孔祥熙財務部長の宋家一門は盛んに買いあさった先物取引で、新令発布により一挙に数千万元の利益を得たといわれる。勿論、蒋介石婦人の宋慶齢も多額の利益を得たことは想像に難くない。
※なお、孔祥熙の妻は「浙江財閥」を率いた宋家の三姉妹の長女の靄齢。次女の慶齢は孫文、三女美齢は
蒋介石。孔祥熙の前任の財務部長は、宋家長男の宋子文。
◆各外銀の手持ち銀は、治外法権を利用して輸出するにしても、５割の平衡税を掛けて利益が取れず、中国側の新貨幣と現銀の間には、相当の値の開きがあるから、プレミア付きの引渡しを交渉した所で、中国側に一蹴される。
◆現銀の交換条件は、現銀６割と公債４割で法貨１０割の条件になり、日本を含む外銀は完全に営業権を剥奪され、金融・為替の支配も国民党の息のかかった中国の国内銀行に移されることになる。
(注)なお、磯谷陸軍武官の反対表明の全文は以下の通り---------------------------------------------『出先軍部としては国民政府今次の幣制改革には断然反対である。これはイギリスに対する嫉妬とか、中国が日本を出し抜いたとかいう些細な問題ではなく、幣制改革が実に中国4億民衆の破滅を来するものに外ならないからである。
今次の改革の根本的な欠陥は中国側において事前に何ら必要な準備もなく、またそれが断行を決意するに足る信頼すべき人物を得なかった点にある。
もし、準備と人を得、日本を含む各国の諒解の上で行ったものであれば、帝国政府としても援助はやぶさかではないが、国民政府として最後の切り札を突発的に断行した無謀は、中国民衆の福祉のためにも黙視すべきではない。』
『経済的に統一体をなさざる中国に、強権によって中央集権的な幣制改革を断行しても、華北、長江流域及び西南等それぞれ全く事情を異にする経済は自滅の外にない。
さらに今次の改革は、一部財政家と財閥が結託し、全然国民の利益を無視して行った点に許すべからず過誤がある。従来、中国の国民経済と政府を中心とする経済とは厳然たる別個の事実があり、この両経済は、政権の推移とは別個の独自自然のコースを取ってきた。然るに、今次の改革により、国民自体の経済生活は直接政権と不可分」のものとなり、一蓮托生の運命に置かれるに至った。南京政府が破綻するときは、その負担は全部４億民衆に転嫁される。』
『事前の各種準備に欠き、また改革実行の人材なく、かつ各国の諒解なく行われた改革は、早晩おそらく数ヶ月を出でずして破綻するに相違ない。しかも国民政府の今次の処置は最後の切り札なのだから、その後はもはや収拾の途がない。帝国としては隣邦の民衆がみすみす破滅の淵に追い込まれるのを黙視できない。ゆえに帝国政府としては、すべからく今次の改革の反対の理由を明記し、明確な態度を内外に表明するとともに、改革案を中止せしめることが中国を救う唯一の途であると信ずる。』
『現銀の上海集中は華北を経済的に死滅させる外ならず、少なくとも国民政府の統制化にある華北の中国系諸銀行においてこれを保管するのが当然である。・・それを実行する能力無き場合は、我方は実力をもってかく実行してもよいと信じる。』
⇒これを、現代史では軍事的発言というが、どこからそう思うのだろう。
◆
bgcolor(skyblue):
昭和１０年８月下旬 紙幣法貨は、その後の銀喪失の恐れかから、不安を呼び、大幅な為替暴落。
昭和１０年９月６日 英・財政顧問リース・ロスを東京に訪問し、中国に対し、共同借款の意向を打診するとともに、中国の法幣改革を進言する旨報告。高橋蔵相は、時期尚早として断る。
昭和１０年９月21日〜24日日 英・財政顧問リース・ロスを中国に訪問、汪行政委員長、孔財政部長などと会談。
昭和１０年11月2日 汪兆銘の遭難事件で緊張が増し、現銀の兌換を求めるモノが殺到した。
昭和１０年11月2日 孔祥熙財政部長の使者が有吉大使を訪問。中国・中央・交通の3銀行が通貨発行権を独占し、現銀との兌換を停止し、外国銀行保有の現銀は3銀行の紙幣をもって買い上げる幣制改革案を内報し、日本側の同意と協力を求める。有吉は即座に否定的見解を示す。
昭和１０年11月3日 法幣改革を断行。その日、銀国有令を発布し、現銀の流通禁止。
【 結 果 】
日本陸軍は、この法幣改革には、断固反対した。(注)国民党というものを知り尽くし、従来のやり口から考えると、信義上の疑義の懸念が充分あるからである。中国政府と一部財界が結託してやることは明らかであり、中国政府が宋一族の営利事業機関に成り下がり、中央銀行を手先として、紙幣を大量に放出し、不正に行えば、紙幣政策が破綻を来たし、国民生活に大きな影響を与える。徳をするのは、蒋介石・孔祥熙財務部長らや宋一族らの一部資本家と後ろで操る英米に他ならない。実際、その後、孔祥熙財務部長自身が不正なインサイダー取引を繰り返している。
法幣改革で、日本などの外銀が問題になるのは、手持ち銀である。手持ち銀を要求どおり引き渡せば、怪しい紙幣と公債を受け取ることになる。なお、法幣改革前後の各銀行の手持ち銀の比較。
(単位；千元)
| 昭和８年末 | 昭和９年末 | 昭和１０年10月末 | |
| 中国国内銀行(８行) | ２７１，７８６ | ２８０、３２５ | ２９３、５２９ |
| 英国銀行(８行) | １５９，９４５ | １２，９７９ | １３，９５８ |
| 邦銀(６行) | ３８，３１３ | １６，６６８ | １１，７４６ |
| その他 銀行(13行) | ７７，４０２ | ２５、００７ | １５，１８０ |
◆英・財政顧問リース・ロスを東京に訪問、中国の法幣改革を必要性を説き、日本にも中国に対し、共同借款の意向を打診しているが、実際は、現銀を巧みに香港に輸送して、現銀８７％に当たる１兆４，６００万元を売りさばいている。発案者のリース・ロス自身が、中国の法幣改革など全く信用していなかった証拠である。
昭和10年12月15日 神戸新聞はこう伝えている---------------------------------------------某所入電によればリース・ロス氏は先般来平津地方に於て銀南送を画策、盛んに暗躍しつつあり既にその南送額も二、三百万元に達したと言われている、これに対し北支自治団当局は大いに憂慮し防止に努めつつあるが何分銀行が外国租界にありまた外国船舶を利用しているため取締りは極めて困難であるが、同氏今回の行動は北支経済界の大攪乱であるとし北支自治当局ならびに特殊地位を有する方面では頗る重視し慎重対策を考究している。
◆法幣改革を食い物にしたのは、リース･ロス率いるイギリスだけではなかった。孔祥熙財務部長の宋家一門は盛んに買いあさった先物取引で、新令発布により一挙に数千万元の利益を得たといわれる。勿論、蒋介石婦人の宋慶齢も多額の利益を得たことは想像に難くない。
※なお、孔祥熙の妻は「浙江財閥」を率いた宋家の三姉妹の長女の靄齢。次女の慶齢は孫文、三女美齢は
蒋介石。孔祥熙の前任の財務部長は、宋家長男の宋子文。
◆各外銀の手持ち銀は、治外法権を利用して輸出するにしても、５割の平衡税を掛けて利益が取れず、中国側の新貨幣と現銀の間には、相当の値の開きがあるから、プレミア付きの引渡しを交渉した所で、中国側に一蹴される。
◆現銀の交換条件は、現銀６割と公債４割で法貨１０割の条件になり、日本を含む外銀は完全に営業権を剥奪され、金融・為替の支配も国民党の息のかかった中国の国内銀行に移されることになる。
(注)なお、磯谷陸軍武官の反対表明の全文は以下の通り---------------------------------------------『出先軍部としては国民政府今次の幣制改革には断然反対である。これはイギリスに対する嫉妬とか、中国が日本を出し抜いたとかいう些細な問題ではなく、幣制改革が実に中国4億民衆の破滅を来するものに外ならないからである。
今次の改革の根本的な欠陥は中国側において事前に何ら必要な準備もなく、またそれが断行を決意するに足る信頼すべき人物を得なかった点にある。
もし、準備と人を得、日本を含む各国の諒解の上で行ったものであれば、帝国政府としても援助はやぶさかではないが、国民政府として最後の切り札を突発的に断行した無謀は、中国民衆の福祉のためにも黙視すべきではない。』
『経済的に統一体をなさざる中国に、強権によって中央集権的な幣制改革を断行しても、華北、長江流域及び西南等それぞれ全く事情を異にする経済は自滅の外にない。
さらに今次の改革は、一部財政家と財閥が結託し、全然国民の利益を無視して行った点に許すべからず過誤がある。従来、中国の国民経済と政府を中心とする経済とは厳然たる別個の事実があり、この両経済は、政権の推移とは別個の独自自然のコースを取ってきた。然るに、今次の改革により、国民自体の経済生活は直接政権と不可分」のものとなり、一蓮托生の運命に置かれるに至った。南京政府が破綻するときは、その負担は全部４億民衆に転嫁される。』
『事前の各種準備に欠き、また改革実行の人材なく、かつ各国の諒解なく行われた改革は、早晩おそらく数ヶ月を出でずして破綻するに相違ない。しかも国民政府の今次の処置は最後の切り札なのだから、その後はもはや収拾の途がない。帝国としては隣邦の民衆がみすみす破滅の淵に追い込まれるのを黙視できない。ゆえに帝国政府としては、すべからく今次の改革の反対の理由を明記し、明確な態度を内外に表明するとともに、改革案を中止せしめることが中国を救う唯一の途であると信ずる。』
『現銀の上海集中は華北を経済的に死滅させる外ならず、少なくとも国民政府の統制化にある華北の中国系諸銀行においてこれを保管するのが当然である。・・それを実行する能力無き場合は、我方は実力をもってかく実行してもよいと信じる。』
⇒これを、現代史では軍事的発言というが、どこからそう思うのだろう。
◆
bgcolor(skyblue):
2007年04月16日(月) 16:55:32 Modified by yuyu122222