創造論とインテリジェントデザインをめぐる米国を中心とする論争・情勢など

インテリジェントデザイン概説

ID用語CSIの計測例はどこにもない(2006)


インテリジェントデザインの本山たるDiscovery InstituteのCasey Luskinは、インテリジェントデザインの用語説明「Intelligent Design Jargon Explained! (2002)」で、Dembskiの情報保存則を紹介している:
Only within intelligent design theory is specified complexity, and a special case of specified complexity--irreducible complexity--found. Thus, at this point, intelligent design theory exclusively predicts that specified complex information will be found.

インテリジェントデザインの範囲内にあるのは指定された複雑さ(SC)であり、その指定された複雑さの特殊例として、還元不可能な複雑さ(IC)が見つかる。従って、この点で、インテリジェントデザイン理論は排他的に指定された複雑な情報が見つかると予言する。
...
In Dembski's recent book, No Free Lunch, he argues that one cannot generate novel CSI through purely natural processes--all CSI ultimately comes from ID. Natural processes can, however, shuffle CSI into a different form. Through what he calls "No Free Lunch" (NFL) theorems and a law of information, Dembski argues that ultimately, novel CSI cannot be generated through purely natural processes.

Dembskiの最近の本"No Free Lunch"において、Dembskiは新たなCSI(複雑で指定された情報)は自然の過程だけでは生成されず、すべてのCSIは究極的にはインテリジェントデザイナー(ID)に起因すると論じた。しかしながら、自然の過程はCSIを異なる形態にシャッフルできる。Dembskiが"No Free Lunch"定理および情報法則と呼ぶものを通じて、Dembskiは究極的には新しいCSIは自然の過程だけでは生成されないと論じた。

これは、Dembskiが1997年に「Intelligent Design as a Theory of Information(情報理論としてのインテリジェントデザイン)」という記事で、
  • Aが起きたら、必ずBが起きるなら、Bは新しい情報ではない。
  • 自然法則による必然とは「Aが起きたら、必ずBが起きる」というものである
  • よって、自然法則による必然からは、新しい情報は生み出されない
  • 従って、情報は"偶発性"(contingency)からしか生み出されない
と論じたものの再掲である。ここまでは間違いではなく、その後の偶発性のうち偶然はだめで、インテリジェントな原因ならCSIが創れるというところが論拠がない:
Contingency can assume only one of two forms. Either the contingency is a blind, purposeless contingency--which is chance; or it is a guided, purposeful contingency--which is intelligent causation. Since we already know that intelligent causation is capable of generating CSI (cf. section 4), let us next consider whether chance might also be capable of generating CSI. First notice that pure chance, entirely unsupplemented and left to its own devices, is incapable of generating CSI. Chance can generate complex unspecified information, and chance can generate non-complex specified information. What chance cannot generate is information that is jointly complex and specified.

偶発性には2つの形式の1つしか仮定できない。ひとつは、盲目の目的のない偶発性すなわち偶然。もうひとつは指導された目的のある偶発性、すなわちインテリジェントな原因である。既に、インテリジェントな原因がCSIを生産可能であることがわかっているので、"偶然"がCSIを生産できるか考えてみよう。何も補給されなずに、それ自身で勝手に働くように放置された純粋の偶然は、CSIを生産できない。"偶然"は複雑な指定されない情報と、複雑でない指定された情報を生産できる。偶然が生産できないのは、複雑かつ指定された情報である。

ここでわかることは、初めは数学的な論理を語るのだが、「それ自身で勝手に働くように放置された純粋の偶然は、CSIを生産できない」ことの根拠は示されることがないことだ。

さらに、このにも、Luskinの解説にもCSIの数値が出てこないことだ。

それどころか、主要なインテリジェントデザイン運動のサイトをさがしまわっても、CSIの数値の例がひとつも見つからない。

というより、CSI(複雑な指定された情報)を数値として定義があやしい。というのは、もともとCSIの定義として
Dembski asserts that specified complexity is present in a configuration when it can be described by a pattern that displays a large amount of independently specified information and is also complex, which he defines as having a low probability of occurrence.

Dembskiは指定された複雑さを、非常に多くの独立した指定された情報を示していて、かつ起きる確率が非常に小さい複雑さを持つパターンとして記述される構成の中にあるものと主張している。[ wiki:Specified Complexity ]

数値としてCSIの定義の登場するのは、複雑さの規準としての「起きる確率」である。生成されたCSIそのものを計測する定義は与えられていない。

これは、もともと情報量の定義がわりとむつかしい(たとえば、そのパターンを生成するために必要最小のプログラムサイズというコルモゴロフ複雑性など)。さらに、CSIの"Specified"が絡んでいるため、"意味がある(Specified)もの"だけカウントして、"無意味な"ものはカウント外にしないといけない。しかし、その識別方法も数値的には定められていない。

"意味のある情報(Specified Information)"の代表例としてインテリジェントデザインは当然のごとくDNAを考える。しかし、このDNAに含まれる"意味のある情報量"を定義は自明ではない。塩基の数だけならイモリはホモサピエンスの数十倍あったりする(Animal Genome Size Database参照)。これはタンパク質をコーディングしていない領域がやたら多いことによる。しかし、このジャンクDNAと呼ばれるノンコーディング領域がまったく機能していないかといえばそうでもなく[wiki:junk DNA]、完全除外というわけにもいかない。

また、"自然の過程で起きる確率"が小さいほど"情報量"が大きいという関係があるということをDembskiたちも言っていない。もともと、"自然の過程で起きる確率"は、前提次第でまったく違う数字を算出できてしまうので、基準にならない。
かの有名なバクテリアの鞭毛にしても、Matzke (2003)では漸進進化可能なルートが提示されているが、インテリジェントデザイン理論家Dr. Michael BeheはDarwin's Black Box[1996]で、そのようなルートはありそうにもないから、デザインだと主張している。漸進進化可能なルートの有無で、"自然の過程で起きる確率"はもはや比較する意味もないほど大きく違うだろう。

すなわち、同じ情報(この場合は鞭毛をつくるDNA)であっても、そこに至る進化経路が違えば、確率が異なる。つまりは、"自然の過程で起きる確率"は情報量の計測手段にならない。

結局のところ、DNAのCSIを計測する手段は今のところ存在しない。なので、インテリジェントデザインのサイトをさがしまわっても、CSIの数値化例は見当たらないのも当然。それでもDembskiは主張する「CSIは自然の過程では創れない」と。





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