スマブラのエロパロスレまとめ

オレは今、スタジアムにいる。

時間は午後8時半をちょっと過ぎたくらいか…。もう夜だ。
大きな大会がないこの時期は、スタジアムの施設のほとんどが午後9時に閉館になる。
この時間帯になるとファイターは全員速やかに帰るか、寮に戻るか…
だが、スタジアムには当直の制度がある。それも、ファイターによる交代の当直だ。
これはスタジアムオーナーであるマスターハンドが自ら立てた規則で、一般人に警備を任せるよりは、なにかと能力の高いファイターのほうが、見張りに向いているという考えから。
マスターに選ばれた十数名のファイターが交替で、一晩スタジアムに泊まって施設内を見張るのだ。
そして今晩はオレの番。責任を持って夜を迎えたスタジアムを見張る。

今日は昼ごろから雨風がひどく、それは夜になっても収まらなかった。
ラジオでも暴風雨の警報ばかり、それほど記録的な悪天候だった。冒険者としての経験から言っても、外を出歩くべきではない天候だと分かる。
時間が経つにつれてひどくなる雨風に、みんないつもより早く帰ったようだ。全員が施設を出たことを確認し、オレはスタジアムに一人きりになる。
早めに戸締りを確認してきた後はすることもなかった。オレは当直室に戻って、窓ガラスに叩きつけられる雨の音を聞きながら武器の具合を見て時間を潰した。

間もなく9時になる頃…。

「リンクさん…」

部屋の外から声が聞こえ、驚いて振り返る。
その声は聞きなれた声だったが、聞こえるはずもないと思っていた声だった…。

少し小さいがはっきりした女の子の声…

ナナだ。アイスクライマーのナナ。

ナナといえば、スマブラのファイターの中でも幼い女の子だ。
そして詳しい話は割愛するが、ナナはオレに好意を持っていると以前言ってきたことがある。
ナナに告白されたのだ…。
ナナはポポのパートナーだが、ポポと同じくらい、オレも好きだと…彼女はオレにそう言った。
…正直、オレは嬉しかった。今まで剣士としての鍛錬と精進のことしか考えなかったオレが、初めて人間的に、心を動かされた瞬間だった。
その詳細を知っている人もいるだろうが、とにかくオレは、ナナの事が……。
そんなナナの声がいきなり聞こえてきたのだから、さすがにちょっと驚いた。
部屋に設置された受付窓口からエントランスを覗くと、やはりナナがいた。普段の防寒着の上にさらに雨合羽を着て、こちらを見上げている。
オレは動揺はしなかった。今は当直として、尋ねてきた人に応える義務がある。相手がナナだから特別な感情を抱きたいが、特別な感情を持たずに「尋ねてきたファイターの一人に対応する」としてナナに答えた。
「ナナ、どうしたんだ?」
心を鎮めて、あまり深く思わずに平然とした態度で尋ねてみると、ナナはちょっと不安そうな顔をして
「…忘れ物しちゃったの…」
忘れ物か。スタジアムが閉まった後に、忘れ物を取りに来るファイターは時々いる。珍しいことではない。
その場合はスタジアムに入れて、忘れ物を取り戻したことを確認してから返すのが普通だ。
「忘れ物の場所は分かるのか?」
「うん…だいたいは…」
「どこだ?」
「ロッカールームだと思う…」
「一人で行けるか?」
「…うん。」
「そうか。じゃぁ鍵を貸すから、取ってきな。忘れ物を見つけてきたら、またここに来て鍵を返すんだ。」
「うん。」
「廊下は電気つけてないから、懐中電灯を貸すよ。廊下は濡れてるところもあるから、滑らないように気をつけろよ。」
「わかった。」
素気ない、なんとも無機質な会話だった。
ナナはオレからロッカールームの鍵と懐中電灯を受け取ると、一人でロッカールームへと向かった。

ナナの忘れ物って何だろうか。
詮索するのは失礼だが、ちょっと気になる。
一応、閉館後に来たメンバーに詳しく事情を聞く権利はある。義務ではないが、聞いて悪くはないはずだ。
そうだ、帰ってきてから何気なく「何を忘れたんだ?」と尋ねて、言い出しにくいもののようだったら追及しなければいい。

そんな事を頭の隅で考えながら武器いじりを続けていた時だった。
今度は窓の外から音がした。
ナナの声とは違い不快な衝突音だ。何かが窓にぶつかってきたらしい。
カーテンを開くと、外全体は暗い灰色で風景が全く見えない。強い雨に、視界が完全に遮られている。もう3メートル先もろくに見えないだろう。雨風は閉館前より強くなっていた。
さっきの音は何かというと、どうやら強風によって、表の倉庫前に積んであった空のアイテムコンテナが飛ばされて窓にぶつかってきたらしい。
窓が割れなくて良かったが、雨戸をきちんとしておこう。雨戸を閉めようと窓を開けたら、勢いよく雨が吹きつけてきた。
天気は夜が更けるにつれてひどくなる…今夜一晩、何か壊れたりしなければいいが…

もうすぐ10時になる。
…まだナナが戻らない…
ナナが行ってからもう一時間になるのに、なんで戻ってこないんだ?
忘れ物がなかなか見つからないのか、受付の窓口から廊下を覗き込んだが帰ってくる様子もない。一時間も戻らないとは、さすがに心配になる。
帰るときは鍵を返して一声かけてくれと言ったのだから、気付かない間に勝手に帰ったということはないだろう。
…なにをしているんだ…?
…心配だ。べつになにか良からぬことをしているのではないかと疑っているわけではない。だがこんなに帰りが遅いと、ちょっと気になる…
オレがさっきナナに忠告したように、ワックスをかけてある床は湿気でしっとりして滑りやすい。うっかり階段で転んだりしたら大変だ。
オレは予備の懐中電灯を持ち、ナナを探しに出かけた。
ナナが向かったであろうロッカールームまで、廊下の電気は消えたままだった。
転んだり、怪我したりしてないだろうな……
廊下の窓は相変わらず、雨が激しくぶつかる音を鳴らして、風で軋むような音を立てている。
もしかしてナナ、怖くて帰ってこれないんじゃないのか…? 途中で懐中電灯の電池が切れたとか。さすがに迷子…にはなってないだろうが。
当直室からロッカールームまでは寄り道しなければ一本道。その間にナナとすれ違うことはなかった。
ロッカールームの電気がついている。やはりナナは中にいるのか…
女子のロッカールームに入るのは不謹慎かもしれないが、ナナ以外誰かがいるわけじゃないし、当直の見回りとして入るのは問題ない。ちょっと失礼しよう。

「ナナ、いるのか?」
オレはロッカールームの戸をあけ、部屋の奥に向かって声をかけてみた。
「あっ、リンクさん…うん、私ここにいるよ。」
返事が返ってきて、ロッカールームの奥からナナが出てきた。
「ナナ、探し物、まだ見つからないのか?」
「えっ、あぁ、えっと…ううん、今見つかった…。」
「…そうか。」
なんだかナナの様子が変だ…。いきなり入って、ちょっと驚かせたか?
「…ナナ、どうかしたのか?」
「……ううん、なんでもない…」
「…?」
なにやら不安げな顔をしている。オレから目を逸らそうとしている様子も感じられる。どうかしたのか?

いや、いきなりロッカールームに入ったとはいえ、着替えていたわけでもないだろう、じゃぁ…他になにか気まずいことでも…?

懐中電灯の灯りを頼りに、ナナと並んで廊下を引き返す。
その間もナナは落ち着かない様子だった。一体どうしたんだ? 

ナナに対しあまり嫌なことは考えたくない。だが、気になってしまう。ナナの表情は何か疾しいことを隠しているようだ。
聞きだそうか、どうしようか…よし、聞いてみよう。ただ聞くくらいで、無暗にナナを傷つけることもないだろう。
オレは立ち止まり、ナナの肩に手を掛けた。
ナナはぴくっとしてオレに向く。
ナナの顔…うーん…何を考えているのか読み取りづらいな…。
「…ナナ…さっきから何か変だぞ? …どうしたんだ?」
「………大丈夫…」
ナナは曇った顔のままでその一言しか言わなかった。
…ナナを疑いたくはない。だがどうしても気になることがある。
「…ナナ、なぁ、いったいロッカールームに何を忘れたんだ?」
一体何を忘れて、それを探して一時間もかかったのか…本当に探し物をしていたのか?
今度は、ナナの様子は分かりやすかった。聞かれてはならないことを聞かれたような顔をしている。
……………
心苦しかった。
ナナはオレと目を合わせられない様子で、しばらく黙っていた。
何を隠しているのか知らないが、ここはちょっと、けじめをつけたほうがいいかもしれない。
「ナナ、何かオレに…隠してるのか?」
ナナはじっと黙りこくったままだ。
違うと言わないということは、何か隠しているんだろう。一体何を隠しているというんだ。
オレは今日の当直として、何かあったなら聞く権利はある、いや、義務といってもいいかもしれない。
だがそんなこと以上に、ナナが何かを隠して、こんな表情をしているなら当然気にもなるというものだ。
オレはナナにいろいろと問いかけてみた。
核心に迫ることからしょうもないことまで…
だが、どんな質問をしてみても、曖昧な返事をするか、黙っているだけかのどちらかだ。ただオレと目を合わせられないのが相変わらずだった。
どんな質問をしても無駄だった。こんな態度を取るなんて、普段の明るいナナらしくない。オレもとうとう根負けした。
「…分かった。何か、話づらいことなんだな? うん、じゃぁもう追及しない。一旦、当直室に戻ろう。」
ナナは俯いたまま頷いて、オレが手を引くのに続いた。
明るい当直室に帰ってきても、ナナの態度は相変わらずだった。
なんだか落ち込んでいるような、しまいこんでいるようなナナの様子を見るのはオレも心苦しい。
明日になったらなにか変わるだろうか。帰って一晩寝て気持ちを整理して、心新たに改めて、何か話してくれるかもしれない。
「ナナ、忘れ物、見つかったんだな。」
「……………うん。」
「そうか。じゃぁ今日はもう帰りな。だいぶ遅くなったからな。送ってやりたいけど、オレはここを離れられないし…」
「……………分かった。」
ナナはスタジアムの寮暮らしではなく、ちょっと離れたところからスタジアムに通ってくる。詳しいことは知らないが、ポポとどこかに下宿しているとか話を聞いたことがあるな…。
スタジアムの敷地内だったら多少はうろついても大丈夫だが、当直だからむやみに外に出るわけにはいかない。送ってやりたくてもそうはいかないだろう。
ナナは声も出さずに、来る時に着てきた雨合羽を着なおし、オレにペコリとお辞儀した。
「……おやすみなさい。」
「あぁ、おやすみ、気を付けて帰れよ。」

気をつけて…その言葉を口に出して、ふと、外の天候の事が気にかかった。
空のコンテナが吹き飛ぶほど風が強い、雨も激しくなってきたところを子供一人で帰して大丈夫だろうか。
いや、ダメに決まっている。危ないな…
人の前に立ち、人を守る剣士として、危険な天候の中を子供一人歩かせるなんてしていいことではない。
送ってやったほうがいいだろうか。まぁ、当直の仕事を怠って抜け出したら、マスターハンドから御叱責を受けるのは間逃れないかもしれない。だがナナを一人で帰すなんて可哀想なことができるものか。最悪でも始末書覚悟で…
「ナナ、ちょっと待て!」
オレはすぐ立ちあがって、部屋を出たナナを追った。そんなに遠くへは行っていないはずだ。この雨の中では尚更だ。

ナナは遠くへ行っていなかった。
まだスタジアムを出もせずに、エントランスにいる。
「ナナ? どうしたんだ?」
閉館時出入り口の戸の前に突っ立っていたナナはオレの呼びかけでこちらを振り返った。さっきと違い、普通に困ったような顔をしている。
「開かないです。扉…」
「開かない? オートロックはさっき外したんだけどな…。」
オレも部屋を出て、出入口の扉に手をかけた。
なるほど、開かない。
外から吹き付ける風圧が扉を押さえつけているせいだ。それでも力いっぱい戸を押してみたら、ようやく開いた。一気に雨水と風が吹きこんでくる。
まずい、思った以上に天候が悪化している。扉が簡単に開かなくなるほど風が強い、扉を開けた時に浴びた雨も普通の量じゃなかった。分かりやすく言えば、ゼニガメとマリオに挟み撃ちにされ、水鉄砲とポンプ放水を同時に浴びた状態になった。
ここまで天気が悪くなるとは思わなかった。おまけに夜で、見えるのは外套とそれに照らされた薄暗い道だけ。懐中電灯を持っていっても、安全だとは言えないだろう。
冒険者としての経験からいえば、これは【出歩き禁止】の天候だ。剣士としての鍛練を積んだオレでも、こんな中を出歩いたらいつ怪我をするか分からない。
オレはガラス戸をすぐに閉め、頭を抱えた。
どうするべきか。
もしここで、無理をしてナナを送るとしよう。
普段通りに武装して剣と盾を装備すれば、多少の障害から身を守るのはなんとかなるだろう。この風でなにか危険なものが飛んできても、盾で防ぐか、最悪なら斬りつけてでも回避できる。
だが、ナナまで気が回るか? なにしろ、これほどの悪天候の中で出歩いたことはない。冒険の途中に悪天候に見舞われることはあるが、こんな悪天候の中ではまず行動を避ける。冒険の基本は【天候が敵についたときは無理をしない】ことだ。
この雨風…いや、もはや嵐だ。この嵐の中でナナを送ろうとして、もし、ナナを守れなかったら? ナナが傷ついてしまったら…? それこそ始末書どころではない。いや、オレの立場のことなんてどうでもいい、ナナにもしものことがあったら…そう考えるだけで辛い。
視線を下に送る。悩むオレを、ナナはじっと見上げていた。ナナの不安げな顔を見て、オレは心を決めた。
「…ポポには連絡ついたか?」
「……うん。」
「なんて言ってた?」
「天気がひどくて帰れないなら仕方ないね、って。ポポも心配してたみたいだけど、連絡して安心したって。…あと、リンクさんによろしくって言ってたよ。」
「あぁ。分かってる。」
「ポポも言ってたよ、一晩世話してくれるのがリンクさんなら安心だって。」
オレは、ナナをこのスタジアムに泊めることにした。
帰すのが難しいなら、これが一番無難な決断だろう。このしっかりした建物内にいる限りは危険はない。いちおう保護者とはなりうるオレが傍についているし、帰ることが不可能なメンバーを宿泊させることは規則違反ではない。帰りを待っていたポポも納得してくれた。
「ナナ、悪いな。ちょっと狭いけど、今日はここで休んでくれ。」
「…うん。」

ナナと一晩過ごすことになってしまった。決して嫌じゃない。むしろ、ちょっと嬉しいな。いや、ナナは帰れなくて困っており、やむを得ず泊めているんだから不謹慎だが。
この事態について緊張はしていない。ナナと一晩、同じ部屋で過ごすのはこれが2度目になるからだ。(その一度目を敢て語ることはしないが)

時計は10時半を指している。もうナナを寝かせないとな。
「ナナ、もう入浴は済ましたのか?」
「……えっ?」
聞いてなかったみたいだ。上の空だ。
「入浴は、もう風呂には入ったのか?」
「…う、ううん、まだ…。」
「そうか。じゃぁ当直室の風呂場使うといい。大浴場は今、お湯張ってないし……。……心配するな、タオルとかは備え付けてあるからな。」
「……うん…」
ナナの様子は相変わらずおかしかった。
ロッカールームから帰る時から…いや…ここに来た時から、なんだかおかしかったような気がする…
やはり間違いない、オレに隠している。それも、いいことではなさそうだ。
…ロッカールームで何をしていたんだ…? なにか、言いづらいことなのか?
……………………
人の内心を探るのはあまりいいことではない。
だが、このままでは気分が悪く、ぐっすり眠れないような気がする。お互いに。

オレはいつもナナの傍にいるわけではないが、今のナナには明らかに違和感を感じる。いつものナナではない。
ナナは普段から明るい。ちょっと臆病なところもあるが、基本は元気な女の子だ。
それに、オレが言うのもなんだが、オレの傍にいる時、何かの偶然でオレとふたりきりになったときは、嬉しそうな様子を見せるものだった。
今は違う。表情が暗いし、なにか心苦しそうな様子だ。それに、ナナはオレに生返事しかしてくれない。目を合わせようともしてくれない。
間違いなく、オレに何か隠している。聞きだしてみよう。なるべく、ナナが傷つかないように…。そのほうが、すっきりするだろう。オレも、ナナも。

ナナはちょこんと正座したままだ。相変わらず俯き加減のまま…
「ナナ。ちょっといいか?」
オレは思い切ってナナに問いかけてみた。ナナは顔を上げる。
オレはナナの傍に寄ってみた。ナナはまた、オレから目をそらして下を向いてしまう。
「ナナ、さっきの話の続きがしたいんだ。」
ナナは、やっぱり…という顔をした。その顔には、一種の観念のようなものも伺える。
悪い予感がする。いや、ナナが何を隠しているのか知らないが、絶対、良からぬことなんてしていない。信じている。絶対だ。だからこそすっきりさせたい!
「ナナ、悪いがはっきり言う。さっきから様子が変だぞ? どうかしたのか?」
「…………………」
オレはナナの正面に座り、ナナの両肩に手を置いて真正面から向き合った。
「…何か、オレに隠してるんだろ? いや、あんまり聞きだすのは悪いと思うけど…あんまりナナの様子がおかしいから…」
「…………………」
「なぁ、聞きたいんだ、教えてくれ。…ナナだって、隠していると、気分良くないんじゃないか?」
「……………………」
「何か隠していることがあったって、どんなことだって、オレは怒ったりしないから。誰かに言ったりも、しない。約束するよ。だから…何かあるのか、教えてくれよ。」
ナナは黙ったままだ。
オレも何と説得すればいいか分からず、何にも言えなくなってしまった。ナナは相変わらず俯いたままだし…

ここは言葉で説得するべきではなさそうだ。うーん…心で説得すればいいのか。…って、そんな詩的な表現したって具体的にどうすればいいのか。
…そうだ、心で向き合うんだ。どうすればいいかなんて分からない。だけど、やってみよう。
「ナナ、顔を上げてくれ。」
「…………」
「なぁ、そのくらいはいいだろ?」
ナナはゆっくり顔をあげた。だがまだ目線が下だ。
「…ナナ。ちゃんとオレを見てくれ。」
「…………」
ナナは目線を上げ、ようやくオレと目を合わせる。
ナナの黒い瞳と目が合う。
ナナは何かプレッシャーに押されている。そのプレッシャーを払い、じっと向き合い、正直な心を話してもらうんだ。オレは心の中で深呼吸した。
「いいか、オレの目を、よく見て。」
「…………」
ナナはオレが言うとおり、今度は目を離さずにじっとオレの瞳を覗き込む。
「…………」
「…………」
オレはしばらく黙って、ナナの瞳をじっと見つめた。
威嚇ではない。だが、心配でもない。特別な感情は何も持っていなかった。オレはナナに、どんな表情をしていただろう。ナナは不思議そうに、不安そうに、じっとオレの目を見つめ返した。

オレはナナの目をまっすぐに見つめながら、もう一度尋ねた。
「ナナ、オレにはナナが今、何を思っているか分からない。だけど、話してくれるなら、オレはどんなことでも真面目に聞くつもりだ。」
心なしか…ナナの目がすこし潤む。
「…ナナ。何を隠しているのか、教えてくれないか。」
オレはしばらく、ナナの瞳をじっと見つめつづけた。
やはり、ナナが少しずつ涙ぐむ。なにか辛いことを、隠していたんだ。
「…ナナ。」
もう一度名前を読んだとき、とうとうナナが目から涙を零した。

「リンクさん、ごめんなさい。」
「話してくれるな?」
「…うん。」
ナナは涙を手で拭った。
「ごめんなさい。…実は、嘘なの…。」
「…何のことだ?」
「…実は、忘れ物をして来たんじゃないの…」
やはり…そうだと思った。…なら、なんでだろう。
「どうして嘘をついたりしたんだ?」
「………。」
ナナは泣きそうな顔になる。オレは手で、ナナの頬の涙を払ってやった。
「大丈夫だ。何も怒ったりはしない。素直に話してごらん。」
「…私…リンクさんと一緒にいたかったの。」
「…………」
え?
「? ??」
ナナの言っている意味が分からなかった。唐突に何を言い出すんだ…? 
「どういう意味なんだ? 忘れ物したって嘘ついたのと、オレと一緒にいたいって…」
「…私、リンクさんと一緒にいたくて…それで…リンクさんが今日当直だって聞いたの…それから、…私、知ってたんだ…。今日は天気がすごく悪くなること…。」
……なるほど、だいたい分かった。
ナナはオレと二人きりで過ごす機会が欲しかったんだ。
オレが当直をしているところに、このスタジアムにやってきて、そして、天気がひどくなって帰れなくなるのを待っていたんだ。そうすれば帰れないからオレのもとへ泊まるという口実ができる。
ナナはもとは登山者だから、気候の変化には敏感なんだろう。
だが…
「もし、それでもオレがナナを追い返したら?」
「ううん、リンクさんはそんなことしないよ。リンクさんなら、外が危なかったら私を外に出したりしないもん。」
「あぁ…なるほど。」
なんだか複雑な気分だ。
「ごめんね、リンクさん…でも、一緒にいたかったの。」
「なんでそこまでして…? ナナにはポポがいるだろ?」
「………」
ナナは顔を赤くした。
「…リンクさんは、私にとって大切な人だから。ポポと同じくらい。…だから、ポポと同じくらい一緒に…っていうわけにはいかないけど…でも…たまにはリンクさんの傍に、二人っきりでいたいの…」
「でも、それじゃぁポポはどうするんだ? 心配しているんだろ? こうしてる今だって…。」
「…最近はね、ポポ、リュカとかネスとか、他の男の子の寮に泊まりにいったりしてるの。だから、私ひとりになることも珍しくないんだ。」
そうなのか。アイスクライマーはいつも磁石のごとくピッタリくっついてる仲かと思ったのに。お互いに、次第にくっつきっ放しじゃなくても良い程に成長してきたってことなんだろう。
「…だから……」
ナナが涙ぐむ。
「ナナ、もういいんだ。気にするな。今夜は一緒にいよう。」

ナナはびしょぬれになった雨具と防寒着を脱いで玄関先にかけた。
防寒着の下に薄いTシャツと短パンを着て、涼しそうだ。だが、ちょっと寒いんじゃないか?
「ナナ、寒くないのか?」
そりゃぁ、普段の防寒着の下に着るにはちょうどいい服装だろう。だが、防寒着は水浸しで着れる状態じゃない。
「ちょっと…」
「ちょっと? ちょっと寒いのか?」
「ちょっと…じゃなくて…」
「寒いのか?」
「…うん…」
「けっこう寒いか?」
「けっこう寒い…」
「テラサムス?」
「…テラサムス。」
しょうもない冗談で笑いあえるほど、ナナがリラックスしてきた。
よかった、心に引っかかったものが取れると、いつものナナだ。
「しかし、まいったな…ナナのサイズにあう服はないな。」
当直用に予備の着るものくらいは準備されているのだが、子供サイズはない。
しかし、こんな薄い恰好させておくのも良くない。いくら彼女が氷系の能力に長け、寒さに強いとはいえ。
「寝間着みたいなものもないんだ。どうする、ナナ。」
「大きいのでもいい。」
「そうか、わかった。まずは風呂に入ってきな。」
「リンクさんはもう入ったの?」
「いや、まだだけど。ナナ、先に入っていいよ。」
「一緒に入らないの?」

ぐはっ

ちょ、ちょっと一緒入浴はコリゴリだ。いや、何をナナは唐突に言いだすんだと思った人もいるだろうが、以前にも一回あったんだ、こういうことが。ナナにせがまれて、一緒に入浴したことが……あるんだ。
あえていまその時の事を回想したり語ったりすることはしないが…
「ナ、ナナ、入っちゃってくれ。気にしないで、オレにも、やることがあるから。」
それは嘘だ。でもナナは素直に、一人で風呂場に向かった。
「バスタオルは籠の中のを使って、ゆっくりでいいからな。」
「はーい!」
浴場の扉ごしにくもった返事が聞こえた。
さて、ナナが入浴中はとくにやることもない。ナナが泊まることになる前までは風呂に入ってとっとと寝ようと思っていたが…まぁ、気長に待つとしよう。
そうだ、ナナの布団も敷いてやらなきゃ。布団を一つしか敷いていないと、「一緒の布団にはいる〜」とか言いかねない。
そんな事態になったらまずい。いや、オレの本能は喜んでいるのだが、あの時のように理性が破壊されては男が廃る。この間のことはいい思い出であると共にひそかなトラウマでもある。
さて、こっちの襖に予備の布団があったはず…

ドサドサドサ

襖を開いたら、何やらDVDが大量に溢れてきた。何のDVDだ?
【人妻シリーズver.3】【初めて脱ぎます】【学校で二人きり】【16歳の……】…
「こっ…これは…!!?」

俗に言う、その、エロDVD。

な、なんでこんな所に…
いや、いや、いや、オレじゃない! オレはこんなのこんなところにしまってないぞ! 違う、いや、こんなの見ない!
はっ…そうだ、ここは当直室、前の当直番がここに突っ込んだままにしてたんだな!?
前回の当直は誰だっけ…ルカリオだ。いや……ルカリオではないだろ……ルカリオは波導とかいう不思議な力を扱うために、オレ以上に精神的な鍛錬を積んでいると聞く。そういう面では、オレも尊敬している存在だ。
だからルカリオはありえないな。じゃぁ前々回は? あっ、スネークだ! あの野郎!! 性欲を持て余しやがって!!!

何故かパニくるオレ。い、いや、落ち着け、今は他のメンバーが入ってくる状態じゃない…
いや、違う、ナナがいるんだった! で、でも今風呂に入ったばっかりだし…
と、とにかくこれは教育上良くないから隠したほうがいいな、いや、そうしなければ!
どこに隠せばいいんだ!? こういうものの隠し方というのをオレは知らない。

一体どうすればいい? どこに隠しても見つかりそうな気がする……
ええい、チクショウ、オレが悪いんじゃないのに! なんでこんな思いをしなきゃならないんだ!

なんだか焦りと動揺で腹が立ってきたので、処分することにした。とはいえ、この天候では外に捨てに行くことはできないし、下手に投棄して風で吹き散らされてバラバラになって、当直のオレに責任を問われたら…
もう、剣士とかどうとかあるまえに、人として軽蔑されるだろう。オレも剣士である前に人間、人間的な感情を持ってして、そんな軽蔑をされるのは嫌だ。
ここで処分するしかない。

ナナに気づかれないように、それらの俗物を廊下に全て持ち出して山にする。
「ええい…消えろ!」
妖魔を跡形もなく消滅できる光の矢(これはトゥーンリンクから教わったものだ)を放ち、俗物を消去。 
物体に効くのかは不安だった。トゥーンリンクの話だと、ポストとか物に撃っても効かないという話だったが……よかった、DVDはちゃんと消滅した。悪の気があるものは消せるらしい。ホッとした。
「リンクさーん!」
ビクッと背中に衝撃が走った。ナナの声だ。いや、パ二くることなんてないんだ。疾しいことはしてないし、疾しい物を見てしまったがちゃんと始末した。
「ど、どうした、ナナ」
風呂場からの声だった。
「リンクさーん、バスタオルはあるけど、普通のタオルがないのー」
「あぁ、普通のタオルは、ええっと…」
俺は当直室に入って、今度こそ戸締りをし、部屋の中に戻る。ナナはまだ風呂場だろう。
「ちょっと待ってろ、出してやるから……」
俺が脱衣場に顔を出した時だった。


「あっ、リンクさん」
「えっ?」
ナナは脱衣場でタオルを探し回っていた。
風呂から上がった、無防備な状態で。
「――――――!!!」
「リンクさん、どこにあるの、タオル。」
ナナは平然としているが、オレはもう…何てリアクション取ったらいいか分からなかった。
そして、この感情をどう話していいかどうか分からない。


オレはてっきり、ナナは風呂場の中にいるのかと思っていた。
脱衣場まで入っても、ナナはいないかとてっきり思っていたのだが、ナナは脱衣場まできていたのだった。
しかも、タオルを探しに、無防備な、その『生まれたままの姿』で。
「――――――――――――――!!!!!!!!!」
その時、その瞬間のオレを分かりやすく表現するなら、あのソニックの瞬発力に勝てるとでもいうのだろうか……
ナナの裸体を目にするなり素早く向きを変えさながらファルコビジョンの如くその場を去る。
事故とは言え、ナナのハダカを見てしまった。
見てはいけないものを見てしまった。一番見てはいけないものだ。(前にも見たことあるけど)

「リンクさん、リンクさーん!」
ナナの呼び声が。
これが普通の少年向け漫画であり、ナナが普通のヒロインであれば「何、人の裸見てんのよこのスケベ剣士が」ってなるんだろうが、ナナについてはそういったデリカシー的な精神があまり育っておらず
「どうしたの? リンクさん」
ハダカを見られても全然平気な様子だ。
彼女の人生、ポポと一緒に居る時間が長かったからだろう。ポポと一緒に過ごし、一緒に飯を食べ、一緒に風呂に入り、一緒の布団で寝る。そんな生活をしてきたのに、男女のデリカシーというものが育つはずもなかったんだ。
だからナナはオレに裸を見せることには何の抵抗も覚えていない。
だが! ナナは平気でもオレはダメなんだ!
オレは剣士として人生を捧げていく覚悟をして生きてきた。オレは修行中の身なんだ。恋愛とか性欲とかに感けている場合ではないのだ。
「リンクさーん! どこいっちゃったの〜?」
オレはここにいるよ。そ、そんなに呼ぶな。
「ナナ、大丈夫だ。ちょっと驚いただけだ」
「? 何に驚いたの?」
この子ときたらこの調子だ。何って決まってるじゃないか、オレが男児として、目に捉えてはいけないモノだよ。
「ナ、ナ、ナナ、その、風呂からちょっと上がるときは、バスタオルくらい巻いて上がってきたほうが……」
ちょっとの間があった。オレは今、脱衣場から飛び出して来て、脱衣場に居るナナの様子を見ていないから分からないが、おそらく彼女は首をかしげているであろう。
「…? うん、分かった。…ねぇ、リンクさん。タオルどこにあるの〜?」
そうだった。
「ナナ、いいか、入っても」
「うん、いいよ」
よし、今度は確認して入るぞ…さっきのような早まった真似をすると寿命が縮みかねない…
いや、寿命が縮みかねないというのは比喩ではない。確かにオレの剣士としての『欲求を絶つ』心得を地に落とすことになる、という意味では剣士としての寿命もこれまで、ということになるだろうが……
もし、万が一、オレがナナの裸を見てしまったことが他のメンバーに知れたりしたら……

「キャーッ! リンク君、最低!」
「この変態剣士!」
「リンク…トライフォースを持つ者の自覚と言うものを、あなたは持つべきではありませんか?」
「ナナの風呂場見るって…」
「エロ剣士だwwww」
「ふざけんなこのロリコン野郎が!」

もしもそんな事件が知られたりしたら、オレは翌日、ウィスピーウッズの根元にでも埋められてしまう。
だからオレはもっと気をつけなければならない。常に剣士としての自覚を持ち、警戒心を緩めてはならないのだ。
「リンクさん! タオル!」
「…………」
ナナがまだいた。
裸で。しかもこっち向いて。

オレはまたファルコビジョンの如くとんぼ返りを披露するところだったが、ナナが、オレが振り返る前に止めた。
「ねぇ、リンクさん! どこにもないよぉ!」
オレは一糸纏わぬナナと向かいあうしかなかった。なるべく目線を下にしてはいけない…確かに胸はないが、そういう問題じゃないんだ。いや、胸はないっていうのは見て確認したわけではない。それは元から知っていたと言うか、その、つまり、なんだ。
「リンクさん、私の話、聞いてる?」
そうだった、タオルだったな。ええっと、そうか、ナナには届かない棚にあるんだ。取ってやらないと……
「ほら、ナナ。タオル。」
「ありがとう!」
ナナが満面の笑みで喜んだ。オレは苦笑いするしかない。もう、目に入っちゃったものはどうしようもない。
久しぶりにナナの裸体をこの目で見てしまった。割とふっくらとした、しかしけっして太ってはいない、まさにちょうどいい、幼い体型だ。だが、初めて目にしたときから、ちょっと背が伸びて、それから胸が膨らんだんじゃないだろうか。
……いやいや、そんなことを見て観察している場合ではない……
「ナ、ナナ、湯冷めするといけないから、もう戻ったほうが…」
「う、うん。」
ナナが風呂場までトコトコと戻っていく。

オレは苦悶した。
オレは修行中の身。剣士なんだ。それが、ょぅι゙ょのヌードを見て興奮したり意識したりしてはいけない。
それなのに、なのに…オレはまだまだ半人前以下だ。

畳の間に腰かけて考える人状態のオレの背後に、風呂から上がってきたナナがやってきた。
「リンクさん、あがったよ。」
「あぁ。」
オレは恐る恐る振り返る。これ以上心臓にショックを与えられたらオレは死んでしまうかもしれない。
大丈夫だった、裸でもバスタオルでもない、与えた寝間着を着てきた。若干サイズが大きいようだが…
「リンクさん、次、入るの?」
「あぁ」
やっと落ち着いた。助かったと知って安心したオレの心臓もようやくノーマルな鼓動を取り戻しつつある。
「……………」
安心して、ついついナナのことを観察してしまう。こうやって改めて見てみると、ナナの顔は可愛いな。温まって紅潮した頬がますます可愛らしい。
寝巻がどうみても大きかった。左肩がはだけているのを、ナナが一生懸命持ち上げようとしている。
オレがそんな野獣のような悪しき精神を胸奥に潜めているのを知らず、ナナは寝間着を正して
「あっ、リンクさん、布団しいててくれたんだ!」
と、大喜び。
「ナナ、先に眠ってていいよ」
そう言う前に、ナナは片方の布団にもう潜りこんでいた。
俺は布団に頭まで潜ったナナの様子を見つつ、ちょっと溜息をつき、風呂場へと足を運んだ。



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