スマブラのエロパロスレまとめ

・ルフレ♀と子供リンク(Dxの)がポッキーゲームを楽しむだけの話。
・キスあり。エロなし。
・ルフレ♀はNot人妻


 ルフレがスマッシュブラザーズに参加したばかりの頃から、子供リンクはずっと彼女に御執心の様子だった。
 子供リンクは恋愛や難しい男女の話などというものは分からない。それでも彼は、ルフレのことを考えるだけでむずむずするような不思議な感覚を覚え、出会ったばかりの頃から何度も彼女に話しかけては気を引こうとしていたのだ。
 もっとも、子供リンクにとってルフレは後輩にあたるのだが、子供リンクはそんなことは気にしていない。心身共にルフレのほうがずっと大人だということは子供リンクもよく分かっており、
 子供リンクはルフレのことを「ルフレの姉ちゃん」と呼んで、年下らしく、彼女に接しようとした。
 当のルフレもまた、自分によく懐いてくる子供リンクのことを気に入っている様子だった。無邪気でマスコットのような子供リンクにルフレも母性をくすぐられ、無性に彼を愛でてやりたくなってしまう。
 いつしか彼はルフレにとって、連日の戦いの疲れを吹き飛ばしてくれる清涼剤とも言える存在になっていった。

 ところがこの二人、ファイターとしての実力にはとても大きな差があった。戦績は、子供リンクは文字通り「ジュニアの部」をなかなか抜けられずにいる程度だったが、ルフレは早速上位戦績のグループまで食い込んでいる程だったのだ。
 当然、この二人が戦ったところで、勝敗は目に見えている。
 だが子供リンクは、ルフレの時間が許す限りは積極的に彼女との試合を申し出た。試合だろうと何だろうと、彼女といられる時間をつくりたいと思ったのだ。
 ルフレはファイターとして観客に人気があり、公開試合にも引っ張りだこで、なかなか子供リンクの相手をしてやることができない。連続する試合の中で、疲れを癒す時間がなかなかとれずにいることもあった。
 それでも彼女は、子供リンクの申し出にはいつも快く答えて対戦を行っていた。

 ルフレと子供リンクの試合が組まれるたび、子供リンクは目を輝かせながら
「僕、頑張って戦うからさ、もし僕がルフレの姉ちゃんに勝ったら、僕のお願いをひとつ聞いてよ!」
 と、ルフレに頼み込むのが習慣になっていた。
 もっとも、そのお願いがどんなものかとルフレが聞き返すと、彼は「うーん……まだよく考えてないけど」というばかりであり、具体的にルフレに何をさせたいというのを決めているわけではないようだったが。
 それでも、少しでもルフレと話の種を作ろうと、そんなことを言っているようだった。
 ルフレは、子供リンクがそれを糧に試合を頑張れるなら、と
「分かりました、いいですよ。その代わり、試合では手加減はしませんからね」
 と、彼の申し出に快諾し、彼との試合に臨む。
 そうして大抵は子供リンクが返り討ちにされて、子供リンクの頼みはなかなか通じることがない、というのがいつものことだった。


 だが、今日に限っては様子が違った。
 ルフレは試合開始直後から、子供リンクの気合の入れようがいつもと違うということに気づいていた。
 些細なミスも起こさないようにし、かつ物凄い勢いでルフレに攻撃を叩き込もうとしてくる。ルフレがサンダーを溜める間を一切与えないようにして、子供リンクは激しい攻撃と飛び道具を切れ目なく繰り出してくるのだ。
 そこには何か彼の執念のようなものもあるようだった。いつにない迫力と、子供リンクの本気の本気を前に、ルフレはついに子供リンクに敗れた。
 かなり接戦とはなったものの、ルフレはやはり子供リンクを相手に油断をしていたようで、試合中は終始彼に押されっぱなし。予想外の展開に観客は大賑わいだ。

「こ、これは不覚でしたね……」
 子供リンクに敗れたルフレは、自身の油断と慢心を悔いた。だが、そんな彼女のもとに、彼女のものよりも一回り二回り小さい手が差し伸べられる。
「ルフレの姉ちゃん、お疲れ様」
 子供リンクは、対戦相手に奢ることも蔑むこともなく、ただ、にこにこと笑っている。ルフレは彼に微笑み返し、手を取られて立ち上がると、そのまま子供リンクと握手を交わした。勝っても負けても、ファイターの礼儀だ。

 ルフレは自分の油断に対してもちろん悔しさは抱いていたが、それよりも、子供リンクがここまで頑張ったことの嬉しさのほうがずっと大きかったようだ。対戦場をはけた後、ルフレは子供リンクの頭を撫でてやった。
「リンク君、私を相手によく頑張りましたね」
「うん、頑張ったよ! えへへへ……」
 子供リンクも、憧れのルフレに褒めてもらえて満面の笑みだった。

「ルフレの姉ちゃん……」
 二人がお互いの控室に戻る前に、子供リンクはもう一度ルフレを呼び止めた。ルフレが振り返ると、子供リンクはルフレに上目づかいをし、彼らしからずもじもじとしている。
「どうしましたか、リンク君」
「あのさ、ルフレの姉ちゃん……約束、覚えてる?」
 そういう子供リンクは何かためらっているかのようで、とても照れ臭そうだ。
 
 ルフレは彼が言っている約束が何のことなのかはすぐに分かった。もしも試合に勝ったらお願いを一つ聞いてほしい、といういつもの約束だ。その約束は今試合でも例外なく交わされている。
 ルフレが思い返してみると、今日、いつも通りの約束をした時の子供リンクは、普段より覚悟を決めていた様子だった。どうやら子供リンクも具体的に聞いて欲しいお願いを決めているようだ。

 子供リンクはもうルフレの答えを待ちきれないという様子で、しきりに彼女を見上げている。そのほほえましい様子にルフレはくすくすと笑いながら彼の肩に手を置いた。
「あの約束ですね。はい、覚えていますよ」
「ほんと? じゃぁ姉ちゃん、僕のお願い、聞いてくれるの?」
「えぇ、もちろんです」
「ほんと? ほんとにほんと? あとでやっぱりダメって言わないよね?」
 ルフレが話を聞いてくれたことで、子供リンクはひどく興奮した様子で何度もルフレに確認した。
 彼がルフレに勝利を収めるのは今回が初めてだ。子供リンクは、お願いを本当に聞き入れてもらえるのかどうかとドキドキしていたらしい。

 子供リンクがあんまりしつこく尋ねてくるので、ルフレは彼を笑って、彼とおなじ視線にしゃがんだ。
「真っ当な戦術師に嘘偽りや卑怯な真似はありません。決められた約束も必ず果たしますよ」
「ほ、ほんと! やったぁっ!」
 子供リンクが飛び上がって喜ぶ。それはもう、試合に勝った時よりも落ち着きのない大喜びだ。

 子供リンクの興奮ぶりに、ルフレは思わず「どんなお願いなんですか?」と聞き返したくなった。しかし、子供リンクはルフレの答えに喜んで
「じゃぁ空いている時間はある? いつなら大丈夫?」
 さっそく約束を行使してもらおうと、ルフレの空き時間を確認してくる。
 ルフレはうーんと唸って、今日のスケジュールを思い返してみた。今日は特に多忙で、日中はどの時間をとっても20分以上休憩がない。残念ながら、子供リンクにかまってあげる時間はしばらくなさそうだった。
「私は午後も試合が一杯に入っているので、自由な時間は夕方過ぎになってしまいます。それでもよろしいですか?」
「うん、いいよ!」
「では、今日の試合プログラムが全て終了後に、スタジアムのロビーで待ち合わせというのはどうでしょう」
「待ち合わせ? うーん、ロビーはなぁ」
「……ダメですか?」
 スタジアムのロビーはファイターがよく用いる施設の一つで、他ファイターの試合観戦や戦友との雑談などのために多くのファイターが訪れる場所だ。待ち合わせには一番良い所なのだが、子供リンクは納得しないようすで、腕を組んで考え込む。

「……ねぇ姉ちゃん、集合場所は、姉ちゃんか僕の宿舎の部屋じゃだめ? 夜になってからでもいいからさ」
「えっ、宿舎ですか?」
 子供リンクは待ち合わせ場所について、唐突にこんなことを言い出した。
 宿舎というのは、スタジアムに滞在するファイターたちに不便ない生活を保障するための寮部屋のようなもの、いわば個室だ。
 ルフレにとってもプライベートな空間である。女性ファイターの友人ならともかく、異性を入れることなどまずない。
 普通、男性ファイターに「部屋におじゃましてもいいかな」などと言われれば、敬遠してしまうのが当然である。だが、相手は無邪気な子供リンク、ルフレはちょっと悩んだ後、頷いた。
「分かりました。では夜に、私の部屋に来てください。すこし散らかっていますが、よろしいですか?」
「あっ、いい? それじゃあ夜になったらね」
 ルフレが思った通り、子供リンクは、異性間のその行為がどれだけ重いことかなどとは全く考えていない様子だ。ルフレは密かに胸を撫で下ろし、それからはっと時計を見やって
「いけない、次の試合が……リンク君、ごめんなさい、そろそろ行かなければ」
 まだ話の途中であり、お願いが何なのかも聞き届けてはいなかったが……ルフレはやむを得ず、彼との話を切り上げることにした。
 子供リンクは笑って頷き
「うん、わかった。僕も試合が入ってるし、それじゃぁ夜になったら姉ちゃんの部屋にいくからね!」
 ルフレに手を振って、すぐに駆けて行ってしまった。

「……お願い、か……」
 ルフレも急に決まった待ち合わせでまだ気持ちは落ち着いていなかったが、それでもぼんやりはしていられず、次の試合会場に、少し早足で出かけて行った。




 ルフレは試合のハーフタイムになるたび控え室で休憩をとっていたが、その合間、ずっと子供リンクのことを考えていた。彼女も内心、いったい子供リンクに何をお願いされるのかとドキドキしているのだ。
 なにしろ、彼がここまで頑張って達成した約束だ。恥ずかしい願い事や、理不尽なことだとしても、彼がきっちり勝利を収めれば出来る限り引き受けよう、とルフレも決めていた。
 無邪気すぎる故のとんでもないことだったら、年上としてどう対応すればいいだろう。ここまでしておきながら、結局は子供らしいお願いで拍子抜けしたらどうしよう。
 何か買ってほしいというお願いだったら、ここまで溜めたファイトマネーを使う準備もしておいたほうがいいだろうか?
 一体どんなお願いを聞くことになるのかと色々なことを想像し、ルフレはつい、一人で悩んだ顔をしたり恥ずかしがったりを繰り返してしまった。


 そうしてルフレも悶々とした午後を過ごし、夜になってスタジアムも閉館。
 何時ものようにピーチが女性ファイターのお茶会に誘ってきたが、今日に限ってルフレは「ごめんなさい、今日は大事な約束が入っているんです。また今度、誘ってください」と断り、試合終了後はまっすぐ自分の部屋へと戻る。
 
 ルフレは部屋に戻るなり、急いで片づけをはじめた。子供リンクがいつくるか分からない以上、迎える準備くらいはしなければいけない。
 ルフレの部屋はだらしなく散らかっているわけではなかったが、やはり異性を迎える準備は何一つ出来ていない。対戦の日程表やファイターの資料などをきれいにファイリングして机の上も片づけ、掃除もいつもより念入りにし、言い訳程度のお茶菓子も準備する。
 まるで彼氏を迎える年頃の女の子のように、きびきびと隅から隅まで部屋を片付けた。

「ルフレの姉ちゃん、来たよー!」
 ちょうど片づけが終わった頃、ドアノックと共に、外から子供リンクの声が聞こえてきた。
「姉ちゃん、入ってもいい?」
「リンク君ですね、どうぞ」
「おじゃましまーす」
 ルフレが受け答えるなり、子供リンクは遠慮なくドアを開き、友達の家にあがりこむようにしてルフレの部屋へと入ってくる。
 ルフレは子供リンクの姿を、彼に失礼がない程度によく見まわした。服装はいつも通り、手にはお菓子の箱を持ち、もう期待を隠せずわくわくとした様子だ。

 子供リンクはソファに腰掛け、はじめて入る彼女の空間を落ち着きなくきょろきょろと見回した。
「わぁ、綺麗に片づけてるんだね、姉ちゃん」
「さっきまでは、ちょっと散らかっていたんですけどね」
「うーん、でもすごく綺麗だよ。ゼルダ姫のお部屋に呼ばれたこともあるけど、なんていうのかな、ルフレの姉ちゃんの部屋は……物が少ない?」
 語彙がないゆえにそんな言い回しになってしまったようだが、確かにルフレの部屋は整理され、シンプルに整っている。
 子供リンクが入ったゼルダの部屋には、トライフォースや神々の伝承にまつわるハイラル伝説由来のものがいろいろ飾られていた。子供リンクがはじめてみたそのゼルダの部屋を「女の子の部屋」と認識したのならば、確かにルフレの部屋は小ざっぱりとしている。

 ルフレは、子供リンクにお茶を一杯出してから腰をかける。子供リンクはルフレが腰掛けるなり、すぐに彼女に身を乗り出した。
「ルフレの姉ちゃん。今日、試合がいっぱいで大変だったんでしょう? 試合の結果はどうだった?」
「えっ、結果ですか? そうですね……勝率6割5分といったところでしょうか。いつも通り、やはり熟練の方にはなかなか勝てないです」
「ふーん。でもすごいや。ちょっとだけ控室で見てたよ、サムスさんに勝ってたじゃない」
「あっ、見ていらっしゃったんですね。はい、あの試合は、フィールドに味方されましたから……」
 次の話題は今日の戦績、実にファイターらしい会話である。

 子供リンクはただ純粋に彼女にあこがれて質問をし、彼女とたくさん話をしたいからいろいろな話題を振っているようだった。ルフレもまた子供リンクを急かすことなく彼との会話を楽しんでいる。
 普段、ルフレと子供リンクが会話をするときといえば、休憩時間が被ったり、昼食で席を合わせたときくらいのもので、これだけ時間を気にせず話をできることなど滅多にないことだったのだ。
 二人はしばし、肝心の話題のことは置いておいて、いつも以上に他愛のない話を弾ませた。

 それからしばらくして……
「そうだ。ルフレの姉ちゃん。お昼にいった約束のことなんだけど」
「あ! はい、そうでしたね」
 子供リンクはいろいろな話をならべた後で、思い出したように唐突に、その話をルフレに振った。
 ルフレも約束のことを忘れかけるほどに子供リンクの話を聞いていたので、急に約束のことを思い出し、胸の奥につっかえていたものを引き出されたような気持ちになって、慌てて姿勢を改める。
「……姉ちゃん、どうしたの? なんか、急に変な顔して」
「えっ? 私、変な顔しましたか? なんでもないです、大丈夫ですよ」
「そ〜う? へんな姉ちゃん! ハハハ!」
 ルフレは一瞬で、昼間に思い描いた事を思い出し、ひとりで勝手に心拍を高めてしまう。子供リンクはそんな彼女の様子を笑って、それから、持参してきたお菓子の箱を改めて取り出した。

「あの、そろそろ教えてください。お願いとはいったい何をすればいいんですか?」
「あ、そうだった。教えてなかったね……へへっ」
 子供リンクは嬉しそうにもったいぶって、壁にかかったカレンダーを指差した。
「ルフレの姉ちゃん、今日がなんの日か知ってる?」
「えっ? 今日……ですか?」
 ルフレも彼の指先を追ってカレンダーを見つめる。今日の日付は、11月11日だ。ゾロ目できりのよい日だが、ルフレは今日という日に、特別に感じていることは何もなかった。

「あれ、ルフレの姉ちゃん、知らない? 今日はねぇ、ポッキーの日っていうんだ。ほら、これ」
 子供リンクはルフレの前でお菓子の箱を開け、そこから何本か、スティック状のお菓子を取り出してルフレに見せつける。ルフレはそのお菓子をゆらゆらと目の前で見せられて、困惑した。
「ルフレの姉ちゃん。ポッキーの日って知らないの? それじゃぁ、ポッキーゲームって知ってる?」
「は、はぁ……」
「そっか、知らないんだ。それじゃ、教えてあげるよ」
 子供リンクはポッキーの片方の端を咥えて、ルフレにポッキーゲームのルールを説明し始めた。

【ポッキーゲーム】
・スティック状のお菓子、ポッキーを使用したパーティゲーム。
・二人でポッキーの両端を咥えて交互に食べ、先に口を離してしまうと負け。

「なるほど、そんなゲームが流行っているんですね」
「なぁんだ。ルフレの姉ちゃん、やっぱり知らなかったの?」
 普段あまり食べなれないお菓子をまじまじと見つめるルフレと、物を知らないと言わんばかりに彼女を笑う子供リンク。ルフレは子供リンクの瞳を見つめ返した。
「はい……それで、お願いというのは」
「だから、僕と一緒にやってくれない? ポッキーゲーム。いいでしょ?」
 子供リンクはそう言うと、急かすようにして、咥えているポッキーのもう片方の端をルフレに向けた。 

 なんだか不思議なゲームだ、とルフレは心の中で思っていたが、子供リンクからの誘いであり約束でもある。もちろん、断る理由もない。
「初めてなので、うまく出来るかわからないですが……そ、それじゃぁ、失礼します」
 ルフレは子供リンクが咥えるポッキーのもう一端を、そっと口に咥えてみた。
「ん……」
 ルフレが咥えたのがチョコレートの側だったので、ちょっと咥えただけでチョコレートが溶け出してくる。砂糖とカカオの甘苦い味がルフレの口の中に広がった。
(こ、これはどういう状態なんしょう?)
 ルフレにしてみれば、なんとも奇妙でならない状態だった。ポッキーを経由して互いの口が繋がり、うまく動けない。ルフレと子供リンクには身長差があるせいで、ルフレはちょっと屈まねばならず、顔が動かせないので窮屈さも感じた。

「準備できた? そんなに緊張しなくてもいいのに、僕もやるのははじめてだよ」
「あっ、そうなんですか?」
「うん。それじゃ、僕からいくよ」
「えっ?」
 子供リンクはルフレの心の準備が出来ていないうちに、ポッキーの先をぐっと口に含んで引き寄せた。
「うっ!」
 子供リンクが遠慮なく顔を近づけてくることに驚いて、ルフレの口元はポッキーを押さえきれず、すぐに口からポッキーを離してしまった。
「あっ、ええっと、これは……?」
「あーぁ、ルフレの姉ちゃんの負け」
「そ、そうなんですか?」
 口からポッキーがなくなって困惑するルフレを、子供リンクは笑って、残ったポッキーをもぐもぐと食べきった。
 よく分からないうちに負けてしまい、なんだか納得できない敗北感を味わうルフレ。子供リンクは、まるでスマッシュブラザーズの試合に勝利した時のように勝ち誇ってにこにこした。

「姉ちゃん、ルールは分かった? じゃ、もう一回」
 子供リンクは箱から新しいポッキーを一本抜き出して、また口に咥えてルフレを誘う。
「うーん……」
 ルールがいまいち把握しきれないルフレだったが、負けたと言われると、それはそれでなんだか悔しい。
 先ほどはつい先手をとられてしまったが、ルフレは子供リンクに教えられたルールをしっかり思い返し、子供リンクが咥えるポッキーのもう一端を咥え返した。
 また子供リンクの顔が近付いて、ルフレはちょっとだけ恥ずかしくなる。それでもルフレはゲームに集中しようと
「ええっと、口から離さないようにすればいいんですね」
「そう。それで、順番に端っこを少しずつ食べていくの。じゃぁ、次は姉ちゃんが先攻ね」
「分かりました、それじゃぁ今度は、私が……」
 食べ進めれば良い。しかし、どうすればいいのだろう? ルフレはこのゲームのコツや趣旨とまだよく分かっていなかった。

 ルフレはとりあえず、ポッキーの端を離さないようにして、慎重に、先っぽを少しだけ口に入れて噛みしめた。
 手を一切使わずポッキーをひきこむように食べ進むのはなかなか難しい。それだけでも落としてしまいそうになる。もちろん、自分の順番で取り落としてしまった時も負けだ。ルフレが気をつけてバランスを取ろうとすることで、ポッキーの先が揺れた。
「おっと……」
 子供リンクの口からもポッキーの先が離れそうになってしまったが、彼はしっかりとポッキーを咥えており、どうにかもちこたえた。

「……よし、これでいいですね」
 ルフレはスナック状のポッキーの端を口の中で味わいながら、口端で子供リンクに応える。子供リンクは、頷くことが出来ずに瞬きだけで返し
「ん、じゃぁ次は僕」
 後攻の子供リンクが、まだルフレが体勢を直しきっていないうちに、すぐさまポッキーを口に含もうとした。
「あっ!」
 ルフレは子供リンクがポッキーを食べる様子を注視していたが、子供リンクがまたぐぐっと顔を近づけてきて、思わず口元に力を入れてしまう。そのせいで、ポッキーはルフレの口元ですぐに折れてしまった。
「あはは、また姉ちゃんの負けー!」
 子供リンクはまた楽しそうにルフレをからかい、残った二本目のポッキーを味わって食べきる。ルフレの口には、折れてすっかり短くなってしまったポッキーの先が残された。

 ルフレは複雑な気持ちだった。
 手を使わずにアンバランスな細いものを咥えるのは、ルフレが思った以上に器用さが必要な技だった。
 それに、子供リンクとの顔がとても近くて、どうしても照れが出てしまうのだ。
 もしかしてこのゲームの神髄は、口で咥えると言うバランス感覚と、恥ずかしさを一切捨てる度胸が同時に要されるのか、とルフレはなにか余計なほどに深く考え込み
「これ、けっこう難しいですね……も、もう一回!」
「うん、いいよ! まだたくさんあるからね」
 子供リンクに、今度は自分から再三勝負を申し込む。子供リンクはすぐに新しいポッキーを取り出して、また口に咥えなおした。



「ん、うーん……」
 ルフレは、このゲームのコツがつかめずに五連敗を喫していた。子供リンクは器用で、ルフレが思い切りポッキーを食べてみても、慎重に引きこんでみても、なかなか口からポッキーを離さないのだ。
 今もまた、ポッキーの長さが半分以上まできているのに、子供リンクは全く負けそうになる気配がない。
 ルフレはいつの間にかこのゲームに夢中になっており、子供リンクとの顔がだいぶ近づいていることに気が付いていなかった。

 大人げないほど勝利に執着するわけではない。だが、手加減も何もなくただただ負けていくのは、やっぱりルフレは少し悔しくて、次こそは勝とう、と無駄に意気込んでいた。
 子供リンクは一生懸命に相手をしてくれるルフレを面白がって、余裕の態度を返している。ルフレはポッキーが揺れないか、引っ張れないかと舌と唇で注意深くポッキーを揺すり、子供リンクの口元が安定していることを確認すると
「えいっ!」
 勝負を畳み掛けるかのごとく、一気にポッキーに食いついた。

 チュッ!
「!?」
 ルフレは口の奥までポッキーが入ってきたのを感じると同時に、唇に今までにない柔らかい感触を覚えた。
 ルフレがぱっと目を開くと、子供リンクの顔が今まで以上に間近にある。子供リンクのくりっとした瞳が、ルフレの視界のすぐそばにあった。 
 いまの一回でルフレはポッキーをすっかり口に飲み込んでしまい、その唇はポッキーの先、子供リンクの唇にぴったりと触れ合ってしまっていたのだ。
 二人の間のポッキーが、ちょうど間でぱきんと割れる。二人の口を経由するものは何もない。ただ、互いの唇だけが、優しく触れ合ったままだ。

「わ、わわ……リンク君、ご、ごめんなさい!」
 ルフレはカーっと赤くなって、慌てて子供リンクから顔を離した。子供リンクはぽかんとしていたが、唇を舐めて
「うん、大丈夫だよ。……えへへ」
 口の中に残ったポッキーを食べながら、妙に嬉しそうに笑った。

 ルフレは顔を赤くし、思わず両手で頬を押さえた。
 いままでずっと照れくささを隠してはいたが、ゲームに夢中になるうちに、そのことをすっかり忘れていた。
 だが、互いの行為がキスになってしまうと同時に、ルフレの胸から恥ずかしさが一気にこみあげてきて、ルフレは顔を真っ赤っ赤にしながら
「あっ、あの、ええっと……ごめんなさい、大丈夫でした? あ、あぁ……」
 ひたすらに、うろたえたり謝ったりしてしまう。
 当たり前だ。異性とキスをしてしまうなんて、とんでもないこと。しかも自分からぶつかるようにして強引に子供リンクの唇を奪ってしまったことには、強い罪悪感も覚えていた。

 頬を赤くするルフレと対称に、子供リンクはいつもどおりの無邪気な笑顔で笑っている。
「僕はぜんぜん大丈夫だよ。それよりも……へへ、姉ちゃんとチューしちゃった」
 少し照れた様子で、怒るどころか嬉しそうだ。

 やはり子供リンクは無邪気で、キスをするという行為の重大性を知らないようだった。キスはただ、好きな人同士がすること、という程度の認識しかもっていないらしい。
 そもそも彼がルフレにポッキーゲームを勧めたのも、大人たちが親しい男女の間で流行っているからと真似事をしたかっただけだった。
 それでも、自分があこがれている女性と唇を合わせたことが、なんだか良く分からないけれど気持よくて、嬉しさがもう顔に隠し切れていないほどのようだが。

 キスをしたという事実をあっさり言葉にされてしまうと、ルフレはますます赤くなって、恥ずかしくて、慌てて話題を逸らそうとする。
「と、ところで、この場合はどうなるんですか? あの、勝敗は……」
「えっ? うーんと、どうだろう?」
 子供リンクはこうなることを大して想定していなかったのか、首をかしげて勝敗について考える。それから、にこっと笑って
「うーんと、引き分けかなぁ。それとも、僕は嬉しかったから僕の勝ちかも」
 いたずらっぽく笑いかける。

 ルフレは恥ずかしくて赤くなっていたが、子供リンクがあんまりに純粋な物言いをするので、少し頬の紅潮を抑えた。子供リンクの可愛らしい瞳が、疾しい心もなにも一切なく、ルフレを見つめ返してくる。
 ルフレは、子供リンクの柔らかい唇の感触を思い出した。チョコレートの甘い味を感じるような、なんとも言えない不思議な気持ちだった。
 興奮するというよりは、胸の奥が温かくなって、ルフレ自身も、どこか心地よさを感じていたのだ。
 胸を焦がすような恋愛や、異性間の不純な気持ちのある、そんな難しい大人のキスではない。ただただ可愛い少年と、唇を合わせただけ。不快感など微塵もなかった。
「……私も、嬉しかったですよ」
 ルフレは、思わずそう呟いてしまった。子供リンクはルフレの答えに微笑んで
「そう! それじゃ、どっちも勝ちだね」
 相変わらず、楽しそうに新しいポッキーを箱から取り出し、口にくわえて
「さ、もう一回!」
 ルフレを急かそうとする。

 ルフレは子供リンクが咥えるポッキーをじっと見つめて、子供リンクに優しく微笑み返し
「……はい、受けて立ちますよ」
 子供リンクのポッキーのもう片方を、再び口にした。



 ルフレと子供リンクは飽きることなく、しばしポッキーゲームを楽しんだ。
 子供リンクは変わらずに器用にゲームをこなしたが、ルフレのほうもだんだんコツをつかんできて、子供リンクの口から何度もポッキーを奪えるようになってきた。
 子供リンクは自分が負けた時は悔しがったが、それでも楽しそうで、すぐにまた次の勝負を始めようとする。ルフレも勝敗に関係なく、それに喜んで応えた。
 そうして盛り上がっているうちに、たまに白熱しすぎて、また、互いの唇が触れあってしまうこともあったが。その時の子供リンクは、自分が一人で勝った時以上に喜び、ルフレも恥ずかしそうにしながら、子供リンクと共に良い気分を味わうのだった。

 その後……
「あっ、もう終わりだ。ポッキー一本も残ってないや」
 最後の一ゲームを終えて、子供リンクが箱をひっくりかえして振ってみても、もう箱からポッキーは出てこない。全部をポッキーゲームに費やしてしまったようだ。
 二人で最後まで楽しんだゲームだったが、ポッキーがなくなってしまえば終了。子供リンクはちょっと残念そうな顔をするが、すぐにまた笑顔になって
「でも楽しかった。ありがと、ルフレの姉ちゃん」
「ふふ、お疲れさまでした」
 互いに笑い合う。子供リンクも満足感あふれる顔をしていたが、ルフレもまた、子供心に帰ったように遊んだ満足感と、何度か交わしたキスの余韻で頬を赤くしている。

 二人で夢中で顔を近づけたり、時には口づけをしてしまったり。本当はそれが不純なことなのかもしれない、と、ルフレは最初は、心の隅で思っていた。
 だが、ゲームが終わるころには、ルフレはそんなことは思わなくなっていた。

 ルフレは自分を慕ってくれる子供リンクのことが大好きだった。これまでは、年の差や互いの関係などのことをつい考えてしまい、先輩としてその気持ちを抑圧してしまっていたようだったが。
 そのような気持ちを一切忘れて、子供リンクを相手に恥ずかしいくらいに顔を寄せたりキスをしたりすることは、ルフレにとってもただ純粋に心地よかったのだ。

 子供リンクはゲームの途中、お菓子の箱の裏にいくつかの数字を書いていた。ゲームが終わった後でルフレがそれを覗いてみると、どうやら互いの戦績を記録しているようだった。
「えーっと、勝った回数は、僕が19回で、ルフレの姉ちゃんも19回、引き分けだね」
 二人とも勝ったパターンを含めて、勝利回数は互いに19回。ルフレも後半から子供リンクをからかい返すように巻き返したので、結果は偶然にも引き分けだ。

 子供リンクは、それでも十分満足そうだった。
 実際、彼にとって勝敗や点数などはあまりこだわる点ではない。ただルフレと本気で遊べたのが楽しかったのだ。
 
 ルフレはゲームの結果を見てちょっと考え込んだ。
 ルフレもポッキーゲームは十分に楽しんだが、それでも、思い返してみると、ずっと子供リンクにからかわれっぱなし。そこで、思いついたように微笑み
「うーん、これではキリがよくありませんね……リンク君」
「えっ?」
 ルフレは子供リンクの頬に手を触れ、素早く、そして優しく、彼と唇を触れさせた。
「んっ!?」
 子供リンクがびっくりして目を丸くする。ルフレは今までよりも少しだけ長く、子供リンクにキスを与えた後、そっと唇を離して
「ふふ……これで20対20、ですね」
 ここまでずっとからかわれ続けていたけれど、一番最後にしてやったり、と子供リンクに笑いかけた。

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